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白呪記  作者: 楽都
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009 絡み合う運命


 光の柱が建物を突き破り、更に王宮を囲っている金色の結界をも突き破って暗い夜空を果てしなく照らし出す。それを沢山の人が目撃していた。中央宮殿の自室にて母と体を休めていたフリージアは窓から見える光の柱に目が釘付けになった。


「すごい、東の離宮から光の柱が付き出てるっ!!」

「あら、ホントねぇ」

「お母様、お願い。私見に行きたい!この目で真実を見届けたいの」


 興奮しながら話す娘に対し、のほほんと受け答するこの母は、こう見えてもあのハシュバット王の妻だ。見た目に惑わされると痛い目を見る。

 赤い絨毯に、白を基調とした調度品が並ぶ中テーブルに乗せられたカップを飲み干すと、傍に居る侍女におかわりを頼んだ。


「でも見に行って如何するの?何かしたい事でもあるのかしら?

「したい事??そんな事・・・分かりません!!ですが・・・」


 人一倍好奇心が強いディッセント王国の姫君。野次馬根性であの場所がどうなっているのか、確かめたくてうずうずしている。あの白い猫はどうしたんだろう? 本当に覇者だったんだろうか・・・

 ただ、空まで光の柱が突き抜ける程の魔力だとすると、守護獣を任命する儀式くらいなんじゃないか? 高位の魔術師といえど、この王宮で第一上級魔法を使えるのは父だけだし。

 お父様は既にディルを守護獣に定めている。召喚だけでも魔力を半端無く使うのにもう一匹任命するなど有り得ない。では、もう一つの可能性が―――


「本当に見るだけなんです。絶対、お父様や覇者様の邪魔はしません!」  

「・・・どうかしらね」


 うーんと疑りながら母、マトリカリアは娘を凝視する。冷や汗を流しながら横長の椅子に座り、じっと采配を待っていると。


「メリナはどう思う?」

「わ、私ですか??」


 粗相が無い様に再び茶を入れる途中だったが、王妃にいきなり質問され自分のメイドの服に少し零してしまった。王妃と姫にはなんとか根性で当てる事無く済んだのでホッとしている。

 上半身は白を基調とした簡素な布地を使い、紺色のエプロンに似た前掛けを着て給仕している少女はフリージア専属の侍女だ。3歳年下だが教養と礼儀作法はしっかりしている真面目な女の子であり、ボブカットの栗毛の髪が印象的で色白、動揺すると赤面するのですぐに周りの物にバレるのだが。


「わ、私は姫様に危険な所へ行って欲しくないです」

「メリナ・・・」

「姫様が先ほど気絶したと知り、私の心臓が止まる思いでした」


 目に涙を溜めながら訴え悲しみに耐える姿を、父や母、家臣達の姿と重なった。ああ、私はこんなにも彼らから慕われて、心配させていたのかと戸惑いながら。


「ごめんなさ「でも姫様のしたい事を為されるのが私の、いえ、家臣一同の願いでもあります」


 震えながら、しかし瞳に力を込めて精一杯家臣として応援と励ましを送らせて頂きますという心遣いを示した。王妃様の御前で申し訳御座いませんと頭を何度も下げ謝罪して。

 フリージアは頭を下げるメリナを侍女を通して自分の妹の様に見ている。彼女にもその事を伝えはしたが一向に堅苦しい言葉が抜けた事は無かった。

 一度も“姫”という堅苦しい肩書きを、呪わなかったという事は無い。だがこんな自分を“姫”として、全部ひっくるめて認めてくれている父や母、家臣や民を背負い将来女王となる為に、学べる事は全部吸収しようと思う。いや、しなくてはならない。それは、全てこのディッセントの為に――


「お母様・・・・・」

「ま、良いでしょ。コレも女王になる為の将来の勉強の為と言えばお父様も納得する筈。そうね、護衛としてイールヴァとライウッドも連れて行きなさい」 


 侍女を味方に付け、一歩も引かぬフリージアに根負けした母は、溜息を吐きながら行動を促した。何だかんだ言って、自分の娘に甘いのは父だけでは無かったのである。母からの良い返事を受けたその途端、フリージアの顔が明るく笑顔になった。


「ありがとうっ、お母様!!」

「その場の状況をしっかりと見て来なさい。そして私にも教えてね」


 言葉の語尾に音符のマークが付く程に明るい口調で、片目を瞑ってウインクをする。詰まる所、母も娘と同じくこの手の話に興味津々なのだ。


「ハイッ!!」


 嬉しそうに返事をして母の頬にキスをする。軽く会釈をしてメリナと共に扉を閉めてから、部屋の外に居る二人の近衛騎士に父の居る東の離宮まで連れて行ってくれるように頼んだ。

 二人の騎士は最初顔を見合わせ苦い顔をしていたが、妃の命令と姫の懇願による姿勢に根負けして離宮を目指す事になる。


「なぁ、ライ」

「言いたい事は解るよイル・・・」


 姫の軽い身支度を待っている間、魔術で灯した明るい廊下で二人の騎士は哀愁漂う背中を曝していた。近衛騎士である銀髪のイールヴァは複雑気な顔で、隣に居る遠い眼をした金髪の幼馴染ライウッドを見やる。


「俺、エディス叔父さんに怒られるかな・・・いや、下手したら今度こそ陛下に殺されるかもしれん」 

「それなら僕もだよ。あっ、イルは覇者殿からもメッタ討ちにされるんじゃないか」

「っ、あの間抜けそうな猫が覇者かよ。イヤ、ああ見えて実は豪腕無欠なのか・・・」


 白い猫の尻尾が蛇となってムキムキの獅子に変身したり、顔が般若の様な勇ましい複合動物キマイラを想像する。この世界のキマイラは知能も良いし雑食で残忍。自らを捕えられた暁には咆哮を上げ甚振られながら内臓を食い破り、口からチロチロ出す舌の餌食に己はされてしまうのか?頭を抱えながらまだ見ぬ未来を憂う。


「しかも覇者殿を何気に脅してたし、デコピンしちゃったもんね」


 アハハと口に出し笑うお気楽な幼馴染の親友に、お前も人事じゃ無いんだぞと口に出す。姫とお后様からの願いでも姫を危険と思しき場所へ連れて行く等、世界の神々が許しても父親であるハシュバットや自らの叔父は許さない筈だ。

 どちらか一人でも死の淵まで追い詰められるのに、タッグで来られると二人の前では騎士である自分は無力な上に塵と化す。それに加え覇者殿からの報復を考えながら、死亡保険なるものは無いのかと本気で考えていた。


―――別棟に位置する宿舎室 2階にて―――


「なあアノ光の柱を見ろよ、第一上級魔法か?」

「おい、ダイイチ上級魔法って何なんだよ」 


 皆でああでもこうでもないと白熱している。国王陛下から催しはお開きとお達しが出たので、通常通り自分たちに割り当てられた宿舎室で寝泊まりする事となった。

 今夜は無礼講だし、待ちに待った覇者殿が降臨したお祝いで、街に繰り出しハメを外そうと張り切る者まで居たのだが城から出る事は叶わなくなる。魔族の襲来で皆が怯えて隠れる者もいる中、戦力としては最低に属するが、ここの料理人達は肝っ玉だけは大きかったので起きていた者はボードゲームをして楽しんでいた。


「ダーーーッッ、オマイラはそんな事も知らんで王宮で飯作ってんのかぁ? よーし、このオレ様が魔法の事を教えてやるぜっ!」


 緑の髪をした団子鼻が特徴の彼は鼻息荒く喋り出す。彼と対戦し、コマを進める内臓脂肪が気になりだした太っちょの料理長ゴードンはジョッキに入れた酒を飲み干しながら、喋り出す同僚に問い質した。


「ダリオ、テメエが何を偉そうに説教垂れるってんだ!!」

「ダリオは王宮の魔法騎士隊に志願したんだけど、二次審査で落っこちたんだよ。筆記は合格だったのに、落ちた理由が魔力が足んなかったんだって」


 魔法の知識だけは凄いんだよと飄々と喋る蜂蜜色の髪をした一番年下のカルティに、余計な事を言うんじゃねぇ!!と拳骨を一つ落とす。


「ホントの事じゃないかっ! 殴る事無いじゃん?!!ダリオはムッ・・・ムガムガッ」

「テ・メ・エ・は、余計な一言が多すぎんだよっ!ちったあ黙ってろ、このクソ餓鬼!!」


 頭を両手で擦るカルティの口元に手を抑えてやって、よく動く口を黙らせる。ダリオの講釈は長いんだよっ! とグッタリしながら最後に一つ文句を漏らすと、彼の団子鼻が大きく膨らみ、お得意の魔法講義が始まった。


「上級魔法は古代から引き継がれた詠唱や略式を必要とするんだ。

だがどうもそれを覆す有力な情報を耳にしちまってサ。実は呪文とか呪具云々はまあ置いといて、扱う者にもよると言われているらしいぞ」


 ハア、何だソレ!?と声が上がる。だったら自分達みたいな一市民にも扱えるんじゃねーの??と浮足立った。しかし、チッチと人差し指を立て周りに居る者の考えを打ち消す。


「普通の市民や騎士が使う魔法は小さな光を灯したり、つむじ風を起こしたりとするだけなんだよ。それは初級魔法な。あとは第三、第二、第一上級魔法と続くに従って高等になって行く。とにかく、規模と魔力の差も大分違うと思うぜ」

 

 アースホール・・・と呟くと手の平から小さな光が溢れだした。魔力を持たない料理人達は魔法に興奮する。


「オレみたいな魔力が少ない奴でも比較的コツを掴めば誰でも魔法は使える。だが王宮お抱えの高位の魔術師となると、きちんと勉強して且つ体内に魔力を保有してないと無理なんだけどな・・・あーー、確か第二上級魔法で海からの一定の量の水を空間転移して移動させる事も出来たと思うぜ」

「ええっ、海からかっ?!空間転移か・・・すっげー便利な魔法があるんだなぁ!!」


 興味心身のカルティはキラキラ瞳を輝かせて色々想像している。


「そうでもない。だって、水を作り出す魔法は出来ねえからな」

「??」


 一同キョトンとなる。ダリオの話す内容が今イチ解からなかったからだ。その話に素早く食い付いたのは、ライトブラウンの髪色をした平凡青年マットだった。


「ダリオ、何で魔力の高い高位の魔術師が水を作り出せないんだ? 可笑しいだろ。奴ら、国に保護結界張ったり炎を操るんだろ。何でも出来るんじゃないのか? それに、空間転移はどうなんだ、何の精霊が関わってる?」

「・・・オレの憶測でしかないんだ。これが合ってるとは思わないがな、もしかしたら水の精霊がこの世界に居ないか、又は精霊の力が弱まっているかだと思うぜ。少なくとも魔術師共が水を作り出した魔法を、この目で見た事が無いからどうとも言えんが。空間転移の魔法は・・・こればっかりは高位の魔術師じゃないと分からん」


大きい鼻をフンッと膨らませる、高慢ちきなダリオの以外な博識に皆ほーーっと関心の溜息が零れる。

ソファに腰掛けていたカルティは、膝を抱えて恐る恐る不安を口にする。


「そ、それってこの世界では水の魔法が使える人が居ないって事?」 

「ああ、首都ディッセントで最強の魔法騎士、現国王のハシュバット王でさえ光と風の上級魔法しか操れねえ・・・今は浮足立って皆忘れているだろうが今年も凶作だったろ?雨が殆ど降らない日が続いたし、降ったと思ったら連日続く大雨じゃねえか」


 もし水の精霊が居たら、高位の魔術師共がこぞって水の魔術を連発するだろう。しかし、誰も手を付けていないと見ると成果は見られなかったんじゃないか。覇者殿が降臨する迄はと付け足した。


「覇者殿が降臨したんだ!これからは水の精霊の活躍が拝めるかもな」


 皆から魔法馬鹿の称号を付けられたダリオが、ウキウキしながら光の柱に目を向ける。

 窓から見える光の柱に希望を見出す者や、不安を感じる者も、一目でいいから覇者に会ってみたいと思うようになった。

 










 

 

 マットは空に突き抜ける光の柱を窓から眺めて、あの時の事を考えていた。 


 ――そういえばあの白い猫、あいつ大丈夫かな


 白い猫がポンと頭に浮かんだ。間抜けで人懐っこい猫から目が離せない。

 皿に盛った刺身を、猫に差し出した時のあの瞳の輝きようといったら・・・また来たら魚をあげようと思い出し笑いをして、マットはカルティに誰の事を想ってるの? としつこく詮索されていた――











フリージアの専属侍女  メリナ

料理人 称号・魔法馬鹿 ダリオ

料理人 パティシエ   カルティ


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