第3話 「私を守って」
「どうしましたデス太?……そんなに真剣に見られるとさすがに……」
顔を赤くしたリディアの肩を掴み、明確に告げる。
新たな敵の襲来を、同胞たる死神の存在を。
「……あと、どれぐらいで?」
「たぶん、すぐにも」
「…………怖いです。どうして、私は、こんな……」
そう言い終わるか、最後まで言えたのか。
呆けたようなリディアの緩みを切り裂くように下方から振るわれた斬撃に、こちらの大鎌を思い切りかち当てる。
ガキィィィィィイイイイイイン!
と、高い金属音があたりに響き渡る。
こめかみを刺されるかのようだ。
耐えて、正面の襲撃者を見据える。
そうして……200年ぶりに同胞と対峙した。
リディアを『視る』ことで彼女に迫る攻撃のすべてを予測し、それにこちらの得物をぶつけて彼女を守る。
それを何十何百と繰り返したところで、相手の動きも止まる。
「オイオイオイオイオィー!誰っかと思えば-----じゃん!!
オマエなにしてんの?」
そんな名前はしらない。
興味もない。
今、興味があるのはお前の倒し方だけだ。
「んーーーー?あっれ答えないんだ?まーどーでもいーけどさっ」
会話の合間を縫って振るわれた斬撃を弾く。
本当に、この金属音はキライだ。
さらに数十合、攻撃をしのぐ。
「わーったよ。話をしよう。OK?」
「…………。」
互いに睨み合う。
背後の気配。
リディアは最初は怯えていたようだが、だんだんといつもの冷静さを取り戻している。
「その後ろの……なんちゃら家の娘は生かしておくとまずい。
お前も視えてんだからわかるだろ?」
「…………断る」
「あーっそ……つーかアレか。またオマエ拗らせてんのか。アホくさ」
「…………。」
「てか、俺の担当地区にオマエがいたなんてなー。気配消すのは上手いのね。
他はクソ雑魚ナメクジだけど」
鎌を握りなおす。
そう、そうなのだ。
僕は今、かつての力のほとんどを同胞達に奪われている。
リディアへの攻撃なら『死法の魔眼』のおかげで先読みができる。
なんとかなる。
だが、ひとたびこちらへの攻撃に切り替わったら、5合と持たない。
リディアを逃がすのもダメだ。
人に死神は殺せない。
実力だとか魔力だとかの話ではなく、そういう古い約束が編み込まれている。
だから、彼女を識った彼には、ここで退場してもらう以外ない。
「……デス太」
「なに」
「私を守って」
「わかった」
瞬間、飛び込むように相手の懐へ入る。
本来のこの武器の間合いよりかなり近い。
「―――オイオイ、狭いだろっ……とぉお!」
鎌を回す、鎌を振る。
回転させるよう得物を振り回し、次々と引切りを繰り返す。
かつて……大昔の僕の、得意技だ。
ほとんどの長柄の武器はこの間合では扱えず、僕は扱える。
力や現能のほとんどは失ってしまったが、体に染み付いた動きを奪うことはできない。
だが、それでも相手は攻防に追いついてきた。
自力が違う、速さが違う。
特に速さは、僕が失ったものの中で最大のモノだ。
相手の表情が緩む。
だめか。
だめなのか。
圧倒的に有利な間合いに持ち込んでなお。
力が、後少し足りない。
「邪魔だよ、オマエ」
にたりと歪む彼の顔。もう僕の太刀筋はわかった。遅さもわかった。ここから終わりだ。
自信に満ちた顔がそう告げている。
あと……少しだったのに……。
―――ずるり。
なにかが引きずられるような気配がする。
突然、目の前の男の動きが、速さが数段落ちた。
目で『視る』。
存在濃度が落ちている。
なにかに力を削げ落とされている。
これは、何度も見たことがある。
これは、僕らにも効くのだ。
「―――ッツツ!!なんだ!?オイオイオイ、力がッ……」
そんなに慌てては、首がガラ空きだよ。
冷静さを失わなければ、彼の方がまだ強い。
頭を失くした後ではどうしようもないけど。
「……デス太!」
背中から衝撃。
戦いは終わった。
僕は同胞を殺した。
でも……不思議と何も感じなかった。
彼女を守れた。
それでいい。
ソレ以外のことは、どうでもいい。
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「リディア……ありがとう。
君の……というかレーベンホルムの左手は僕らにも効くんだね」
「あなた達は強大な自然霊の集合体です。
……効果ははるかに落ちますが、ほんの少しなら……と」
「助かったよ」
「はい、私も、助けて頂いてありがとうございます」
けど……ここからだな。
彼がここの地区を担当していたとすると、それが突然いなくなった……というのはまずい。
必ず他の同胞が、または同胞達がやってくるだろう。
一刻の猶予もない。
逃げなければ。
「……そうですか」
いっきに説明をする。
頭のいい彼女ならどうするべきかすぐに決断できるだろう。
「ユーミルは狙われることはないんですね」
「ない……ただ」
「逃亡の旅では保証はできない、と」
数秒悩んだ後、彼女は即座に行動にでた。
当主室を漁り、これはというモノをいつも持ち歩いている黒鞄に次々と放っていく。
次に急いで自室や図書室に走り、これまた鞄にぽいぽい……。
ずいぶんたくさん入るなぁ……そういえば魔法の鞄なんだっけ。
アレには僕でも触らせてくれないので、詳しいことは知らないけど。
最後に……と館の大広間で、リディアは冷たい床に手のひらを当てた。
ずるりずるり、とこの館から力が抜けていくのがわかる。
歴史を重ねた魔術師の家というのは、建物や、その土地自体に強大な魔力が宿る。
ましてや死霊術ともなると、そこに染み込んだモノは魔力だけではないだろう。
「…………。」
集中しているリディアに声をかけるのはまずいけど、これ、大丈夫なんだろうか。
……しばらくして、作業が終わったのか彼女はすっくと立ち上がった。
「終わったの?」
「……ええ、ユーミル向きのところは残して、後は」
「……体は……?」
「さすがにそのまま取り込んでは死んでしまうので、館を中に移しただけです。
……解析や咀嚼はこれからですね」
「ふうん」
「あと、今わかりましたがユーミルは屋敷にいませんね。
恐らく、またアリエルとミリエルちゃんのところでしょう」
「ネビニラル家かぁ」
「あとで、手紙といくつかの術式を送っておきましょう。
ユーミルはあの家に預けます」
「うーん」
直接会って……というわけにもいかないか。
本当に、早くここを離れないといけない。
この街から、早く。
広間の扉をくぐり、外に出る。
そのまま振り返らず彼女は庭を横切り、自身の生まれ育った館を後にした。
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天才魔法少女であるこの私、ユーミルちゃんが家に戻ると、なんと家は家じゃなくなっていた。
レーベンホルムの館ではなく、ただの建物になっていた。
「……?」
気になっていつもの友達を呼んでみる。
すぐに彼らは集まってきた。
彼らから説明を聞く。
「……おおお、マジか……」
いつかやるんじゃねーかなと思っていたら、ほんとに殺りやがったのかあの姉貴は。
しかもデス太まで連れて。
私の友達や、いくつかの術式は残っているみたいだけど、他は洗いざらい回収していきやがった。
すげーな。いや返せよ。
親父の部屋に行くと、親父は親父じゃなくなっていた。
……いやー、やるねぇ。
ここまでやらなくてもよくない?
でもリディ姉ならやるんだろう。
いちおう、手を合わせておく。
どうか安らかに……って。
「……うわ、回収されてる……」
根こそぎ。すっからかん。
祈る意味ない。
やっぱアイツ頭おかしいな。
私の部屋と、地下牢。それと拷問部屋は無事だった。
堆積した霊もそのまま。
こっちはリディ姉の趣味じゃないってか。
一番の友達の盾太郎と鎖丸が無事だったのは助かる。
これ持ってかれてたら死んでもアイツを追いかけるハメになってた。
「んー…………」
リディ姉は……苛烈だが私には優しい人だったな。
私が運良く姉貴の大切に含まれていただけだけど。
あの人は、いるかいらないかを冷酷にわける。
でも、私にとってはいい姉だった。
頭おかしいけどな。
まあうまくやれよ。
デス太は……ふわっとした親戚のお兄さんか。
魔術も、お話も、学びは常に彼からあった。
優しく、常にわたしたちのことだけを優先する。
淡い恋心も……なくはない。
でもリディ姉がぞっこんなので諦めた。
……私の王子様は他にもいるだろ……と。
だいたい、姉貴の敵にはなりたくない。
さよならデス太、初恋の人。
姉貴を大事にしろよ。
…………。
あとは、どうしようか。
たぶんネビニラル家にでも預けられる流れか。
あそことは代々仲いいし、たぶんそうだろう。
ミリエルやアリエルと暮らせるのは楽しみだ。
だから、これはむしろいいコトだ。
泣く理由なんて、どこにもない。
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※ここまでは小説の慣習となっている字下げ処理を行なってます。しかし短文メイン+空行が多い本作においてはむしろ可読性が落ちるのでは……とここから先は字下げOFFです。一文が3、4行メインの文体や縦読みなら必要だと思うのですが、今作の文体だと左端がガクガクになる弊害の方が大きいのかな……と。
賛否について読者さまからご意見頂きたいところでもあります。
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