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第28話 「アルハザードの死因検証」

青白い炎が舐めるように小枝に灯り、すぐさま真っ赤な炎に変わる。

焚き火の組み方が上手くなったおかげで、ほんのちょっとの『鬼火』でも着火ができるようになったのだ。


「リディアさんは魔法使い……なんですよね」

「ええ、正確には魔術師に属しますが」


「すごい……すごいですね!」

「奇跡の使い手のほうがよっぽど希少でしょう?」


リディアがそう言うと、レーテはぱっと顔を伏せた。

栗毛色の髮に隠れ、表情が見えなくなる。


「マルス、話したの?」

「……うん」


「お恥ずかしい話です、その……」「素晴らしいことじゃないですか」


リディアがレーテの話しを切る。

彼女は自分からやるぶんには気にしないんだよね。


「自分の意思で、力で、事態を改変した。世界に抗った。私はそういう人は評価します」

「そ、そうですか」

「ところでその奇跡の力、一度見せては頂けませんか」


ずい、とリディアは服の左袖を掴むと、ぐいっと二の腕までまくった。

マルス少年がさっ、と顔を赤らめそっぽをむく。

……へえ、男の子らしいね。


「この腕の傷、表面は処置したのですが内部の痛みはわずかにあります」

「……ええと、ではこちらに」


レーテはリディアの腕に優しく手を当て、静かに祈る。

そうして……すぐさま奇跡は発現した。


「……なるほど。これが奇跡ですか」

「痛みはとれましたか?」

「ええ、とても素晴らしい」


リディアは初めて見るその現象に興味しんしんだ。

だが僕は、正直驚いていた。


――今のは、『大治癒グレーターヒール』並みの純度があった。

ソレに至りうる資格を持つ真摯な祈りだった。


大陸でも、ソレをひとりで起こせる治癒師ヒーラーは両手で足りる。

まったく、この旅は規格外の人物ばかりに出会うなぁ……。


「そういえば、こんなにのんびり旅していても大丈夫でしょうか?

 そろそろ寝ずの移動なども挟んでは?」


レーテは野営のたびにこの提案をしてくる。

マダムの店からの追っ手が怖いのだろう。


「もし追いつかれれば、私だけでなくリディアさんも危ないです。マダムはとっても……とっても恐ろしい方ですから」

「大丈夫ですよ」

「……でも、」

「――大丈夫です」


ほほ笑む我がお姫様。

そう、今のところ、すべての追っ手は処理できている。

現在進行系で、僕らの後方では一方的な戦いが終わりをむかえていた。


------------


ここはリディア達より離れること500メートル地点。

街道のただなかである。

そして、弱者をいたぶる屠殺とさつ場でもある。



どさり、ぼとぼとぼとっ。

輪切りにされた胴体から、中身がつぎつぎこぼれ落ちた。


「ヒィィィアアアアアア!!」


追っ手の男は、理解不能の恐怖と、次は自分の番かもしれないという理解可能な恐怖。そのふたつによってまさしく発狂した。


真実狂った瞳で、左右をせわしなく見渡す。

血、血、臓物、それから血。

そんなものしか目に入らない。

なぜなら、彼以外の8人はすべて順番にこうなったからだ。

いや、コトの始まりに脱兎のごとく逃げ出したのっぽの男がいたが、そんな事実は彼の頭からは消え去っている。


彼の頭にはとにかく、突然ひとりずつ死んでいったという事実だけ。

まずひとりの首が飛び、ついでふたりが縦に裂け、それにならってもうふたり。

視えないなにかに、殺されていった。


――ここで、術者の悪意が働いた。


今まで姿を隠していた4匹の凶手たちがふっ、と姿を現したのだ。

月明かりに照らされた白磁のような操り人形……すなわち人骨。


4匹の手には血まみれの曲刀が握られている。

男は事態を理解してしまい、最後の救いである狂気すら奪われた。


彼は迫る4つの刃を冷静に認識し、そうしてバラバラに解体された。


------------



「それでなっ、姉ちゃんったらさぁ……どしたの、リディア?」

「なにがです」

「そんな、腕を真っ直ぐ伸ばしてさ。まさか姉ちゃんの奇跡が効いてなかった!?」

「……肩がちょっと凝っててですね、大したことではないです」


リディアは街道の暗闇へ、より正確には後方の戦場……いや屠殺場とさつばへむけ左手を発動させている。

エディスから譲り受けたシルシは範囲に特化していたので、この距離からでも死霊を操り、回収できる。


そう、この旅はきちんと護衛に守られている。

しかも彼らは遮蔽しゃへい術により常人には見ることすらできない。


エディスから譲り受けたその術式は、とてもとても練度レベルの高いモノだった。


そうして今、最後のひとりが殺された。

全部で8人、呆気ないものだ。


「……リディア、なんでひとり逃したの?」

「私には実戦が足りない。それをエディスとの戦いで痛感しました」

「うん」

「それが理由ですけど」

「……うん?」


よくわからない。

実戦が足りないからひとり逃した……ああ。


「リディア、それはちょっと」

「この状態でどこまでやれるのか、試してみたいのです。『未熟』なんてもの、レーベンホルムの娘には許されません」


そうして、次の追っ手も、次の追っ手も。

彼女はひとりで平らげていった。


追っ手はそのたびに数を倍々に増やしていったが、なんら問題にならなかった。


それは当然。

始末するたびこちらの護衛も倍々に増えていく一方なのだから。


下僕の数は今や50、ついでにいえばすべて不可視。

旅はすこぶる順調である。



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