第9話 「ジェレマイア絵画世界」
それから先も無茶苦茶だった。
地下ダンジョンの経験は冒険者にはぜひほしい。
リディアのいいお手本になればと思っていたのだが、これじゃ反面教師だ。
鍵も罠も自前の魔法で検知し解除し、シーフいらず。
トロールも岩トロールも鋼鉄トロールも、『熱杭』で1、2撃。
俗にモンスターハウスと呼ばれる大量召喚部屋では、ひしめく大群を暴風とカミナリで一掃。
なるほどね、このひと、仲間いらない。
「……リディア、ダンジョンのちゃんとした経験はこんど積もう」
「……ですね」
そうして難なく下層区の最奥、聖殿のごとき長い通路にでた。
ひたすらまっすぐに、豪華な装飾がつづいている。
……へえ、やっぱりね。
その通路のちょうど真ん中あたりには、派手な黄色の人影が。
間違いない……臆病者のエレーミアスだ。
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通路をふたりと僕が歩く。
カツカツとあたりに音をひびかせながら。
そうして20メートルほどすすんだ辺りで、黄衣が武装のかまえをとる。
「……君たち、この先は……って、あれれれ……?」
「やあ、エレーミアス」
僕が声をかけると彼はびくっ、と反応し急いで2、3歩後退した。
そんなにビビらなくても……今は君のほうが強いんだし。
「…えっ、えっえっ……-----!!なんで!なんでこんなトコロに!!」
「君こそソコでなにしてるんだい」
「……それは……ここを守って……うん?」
エレーミアスの視線がある一点で止まる。
彼の目が蒼く輝き、彼女を『視て』いるのがわかる。
「ねえ、-----。その子、ダメだろ。殺しておかないと」
「うーん、やっぱそうなるね」
「いや、あの、フザケてる場合じゃないよ。かなり強い死の運命がさ……」
「デス太」
「なに」
「殺されそうです、怖いです。
……私を守って」
「わかった」
殺気を膨らませ、ソレをエレーミアスに叩きつける。
即座に彼は戦いの構えをとり、こちらをにらむ。
「―――どういうことだい?いくら僕だってその子は見逃せないよ」
「ふーん……もちろん僕も君を見逃す気はないよ」
「……舐めやがってッツ……!」
瞬き、その間にエレーミアスは姿を消していた。
そうして予測どおりリディアへせまる死の気配に従って鎌をかち合わせる。
ギィィイイイイイイイイインンン!!
守るべき少女の背後にヤツは現れ、彼女の首を一撃で。
そんな攻撃はバレバレなんだけどね。
「チッ!」
「あのさ……」
また一瞬で黄衣は消える。
これはそう、僕がかつて所有しあの日奪われた現能……『縮地』である。
地脈を縮め、歩む。
そうすることで目に見える範囲ならどこでも一歩で移動できる。
「では、ジェレマイアさん、リディア。取り決めどおりに」
「はい」
「ビンゴ!」
紅の導師は僕が言い終わるやいなや、すぐさま遠くに現れたエレーミアスにむかって『魔法の矢』を放った。
『魔法の矢』は追尾性のある攻撃魔法で、対象にあたるまでどこまでも追いかける。
防ぐには、強い『防護』か、高い反射神経による防御や受け流ししかない。
僕ら死神にとっては、鎌でさばくのはかんたんだ。
それがふつうの『魔法の矢』であれば。
―――だが、
ジェレマイアが放ったモノは、速さも、サイズも。
とても矢なんて呼べるシロモノではなかった。
雷光を帯びた白い竜が、唸りをあげて噛みつこうとしている。
そうとしか表現できない。
ソレを、さらにもう一匹追加する。
「―――ちょ……まてよ!!こんな魔法ただの人間が……!?」
エレーミアスは『縮地』で急いでこちら側へ。
しかし雷電竜はすぐさま踵を返し彼を追う。
その合間になんとかリディアを仕留めようとこちらへせまるが、そのたびに僕が彼女を守る。
ジェレマイアは高笑いのままさらに『魔法の矢』を追加する。
さらに追加する。
……ここが、エレーミアスの限界だった。
僕は彼の焦りを突き、6度めのリディアへの防御で打って出た。
飛び込むように敵の懐へ入る。
そこから、彼に『一歩』のスキも与えぬよう高速での引き切りを繰り出す。
同時に、リディアが全力で左手を発動させる。
ずるりずるりと、何かが引きずられる気配。
「―――なっ、なんだコレは!?」
……その焦りと、弱りを刈り取るように。
独楽のように曲芸のように大鎌を繰り出す。
体に染み付いた、誰にも奪えない僕だけのモノ。
かつて仲間からも言われた。
「-----の鎌の扱いは病的だ」と。
そうして逃げ場を封じた彼の背後から、白い竜が殺到した。
4匹の竜のアギトに次々と噛みつかれ、そのたびにエレーミアスは苦悶の声を上げる。
人に死神は殺せない。
そういう強い、古い、決まりごとがある。
しかし、殺せはしないがダメージを与えることはできる。
特に、ここまで練り上げられた魔法ならそれが可能だ。
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合計8匹の竜に体を食い破られ、それでも彼は耐えていた。
僕に首を狩らせるスキも見せなかった。
……たいしたものだ。
昔はよく仲間内で臆病者と呼ばれていた彼だが、それだけの男ではなかったらしい。
できれば、もっと昔に知りたかったな。
すでにぐしゃぐしゃのクズ布、ぼろ雑巾と成り果てた彼は、ついにあきらめた。
手にした大鎌をぽん、と放る。
すべてをあきらめて、力も使い果たし。
すぐにでも彼の首を飛ばせる。
だが、僕はとっさに動けなかった。
彼が、かつての同胞がとても悲しい目をしていたからだ。
「キミたちはそうやってさ……ボクらを殺していくのかい?」
「それは……」
「たしかに僕はキミから力を奪った。だがそれは正しい罰としてだ」
「…………。」
「今のキミの、その少女を守るという行為は、正しいことなのかい?」
「…………それは、」
ここしばらくのリディアの行動を思い出す。
正当防衛で何人もの命を奪ってきた。
鞄泥棒は徹底的に痛めつけた。
……だが、しかし。
「ねえデス太」
「……なんだい、リディア」
「その人を殺さないと私はいつか殺されてしまいます」
「……うん、……そうだね」
「どちらが大事か、デス太が判断してください。
よりあなたにとって価値がないほうをこの場で切り捨ててください」
リディアはその長い黒髪をかき上げ、うなじをさらす。
そうして、すべてわかっているでしょう?
とでもいわんばかりの静かなほほ笑みを浮かべた。
「……わかった……よ」
一閃。
首を失った黄色い衣がばさりと崩れ落ちる。
と、同時に僕の体に僕本来の力が戻ってくるのがわかる。
現能も、速さも、昔の名前も。
そうして崩れた黄衣にリディアが左手をむける。
彼の残り滓を奪おうというのだ。
「あのさ、それは……」
「デス太」
にこりとほほ笑むリディア。
「コレをするだけ、私たちが生き残る確率があがります。
……それで、なにかお話が?」
「……いや、べつに」
ずるりと、彼の残滓は彼女の内に引きずり込まれた。
彼女は、正しくレーベンホルムの娘であった。
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