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第8話 幼馴染は熱がある?


「えー、みんな知っていると思うけど、明日からゴールデンウィークで学校は休みだから。くれぐれも羽目を外しすぎて後日呼び出し何て事にならないようになー」


 担任の清水先生がゴールデンという単語を出した瞬間から、教室はにわかに活気づいた。

 予め学校側で準備されていたであろう注意事項を気だるげに読み上げた先生がホームルームを終えると、一気にクラスメイトのボルテージが上がる。


「よっしゃ、長期休みキター!」

「私、久々に帰省するから楽しみー」

「俺、普通に練習あるんだよなあ……」

「なあお前ら、この後駅前のゲーセン行かね」


 今日一日、教室の話題はゴールデンウィークに関するあれこれでもちきりだった。

 当然、羽目を外す気満々の生徒も何人かはいるだろう。

 否応なく耳に入ってくる会話の中には、ヒッチハイクなどという単語まで聞こえた。

 

 部活に勤しむ人もいれば、遊びを満喫する人もいる。

 何をするかは各々違っても、放課後教室に残る生徒の顔は一様に晴れやかだった。

 それは朝陽も例外ではなく、ある約束を思い浮かべて心を躍らせていた。

 しかし、表には浮かれているところは決して出さない。

 あくまで学校が休みになってラッキー程度の顔を作って、荷物を纏めて席を立つ。


「あれっ、朝陽もう帰んの?」

「残っても意味無いからな。部活もやってないし、誰かと遊びの計画を立てる予定もない」

「その割にはゴールデンウィークが待ちきれないって顔してるけどな」

「……マジで?」

「いいや、冗談冗談。大丈夫、いつものぶっきらぼう顔だよ」

「後半は余計だこの野郎」


 隣の席から相変わらず憎らしいニヤニヤ顔で絡んで来る徹にデコピンをお見舞いすれば、親友は額を抑えながらニャハハと愉快そうに笑った。


 こういう時、長年の付き合いである親友は本当に鋭くて勘が良い。

 冗談とは言いつつも、本当に胸の内に秘めた浮かれ具合を見抜かれている気がしてしまう。


「美咲、そろそろ帰ろう」

「おっけー。ちょっと待ってて、今から帰る準備する」


 教室を横断して背後から近づき、控えめな声で帰宅を促すと美咲は二つ返事でテキパキと荷物を片付け始めた。

 数人の女子と楽しそうに話している最中だったので声を掛けるのが躊躇われたが、お互いに用事が無い時は一緒に帰ることになっているので仕方がない。

 

 ほんの一週間前、同じ様な状況で気を遣って先に帰ったら、後日美咲に怒られたのだ。

 怒られた、というよりは頬を膨らませて不平不満を言われた。

 理由を聞いても、「とにかくこれからは、お互い予定が無い時は一緒に帰ること!」と具体性の無い回答が返ってくるのみ。

 朝陽としては美咲と一緒に帰ろうが帰るまいがどちらでも良かったのだが、色々と面倒臭い自分ルールを持つ幼馴染にとってはどうやら妥協が出来ない点らしい。


 一連の美咲の説明には何の納得もいってないものの、朝陽は高校でも美咲と一緒に下校することにした。

 特に申し出を断る理由も無いし、何より毎朝起こして貰って一緒に登校しているのだ。

 一緒に帰ろうと言われれば、はいわかりましたとしか返しようがない。


「幼馴染って良いよね」

「分かる。めっちゃ尊い」

「見てて癒される。マヂ最高」


 さっきまで美咲と話していたクラスメイトの女子がこちらをチラチラと見て、何やら話し込んでいるので朝陽としては居心地が悪い。

 朝陽のコミュ力が無いとか、女子への免疫が無いとかそういう理由ではない。

 寧ろ朝陽はコミュ力はある方だし、女子への免疫も美咲を始めとして、優奈や千春などとある程度の親交があるので問題ない。


 単純に、自分の方を見て聞こえないボリュームで会話をされたら誰でもいい気はしないということだ。

 その視線が何だか徹のニヤニヤ顔に似た生暖かいものなので、朝陽にとっては下手な陰口よりも質が悪い。


 一刻も早く美咲が帰宅準備を済ませることを願っていると、思いが通じたのかパタパタと駆け寄ってくる足音が聞こえた。


「朝陽、お待たせ! 帰ろっか」


 今から片道十五分の帰り道を歩いて家に向かうだけのに、嬉しそうに声を弾ませて眩しい笑顔を咲かせる美咲に朝陽の心臓が少しだけ跳ね上がる。

 近頃は普通に過ごせていたのに、一緒に遊ぶ約束をしたあの日からまた再発し始めた胸の高鳴り。

 決まって美咲と居る時に早くなる心臓の鼓動の正体を朝陽はまだ掴みかねていた。


「お幸せにー」

「その言葉、そのままそっくりお前に返してやるよ」

「俺と優奈はいつでもどこでも幸せだ」

「聞いてねーよ……」


 教室を出る前に徹が例のニヤニヤ顔で見送ってくるのを、適当にあしらって下駄箱に向かう。

 どういう訳か、隣を歩く美咲はほんのりと顔を赤らめていた。


「何だ美咲、体調でも悪いのか?」

「は? はあー? そ、そんなことないし! 全然普通だし!」

「いやでも、顔赤いし……」

「こ、これは関係ない! だからそんなに近づくな!」

「ええっ……そこまで抵抗しなくても……」


 熱を測る要領でおでこに掌を当てようとしたのだが、美咲に激しく手を振り払われ、挙句の果てには距離を取られる始末。

 何なら昔はおでことおでこを合わせて熱を測っていたのにこの変わりようだ。

 予想外に幼馴染に全力で拒絶された朝陽は、肩をがっくりと落として廊下を歩いた。


 

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