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第4話 幼馴染に逃げられる


「あー、天ケ瀬! いいところに来たね、今丁度あんたの話をしてたの」


 美咲の席に近づけば、話かけるよりも先に明るく大きな声で名前を呼ばれた。

 

 朝陽の名前を呼んだ、誰よりも明るく元気な女の子の名前は真壁優奈(まかべゆうな)

 徹と同じく、小中と一緒の学校に通っている言わば腐れ縁だ。

 そしてちょっとした有名人でもある。

 あくまで通っていた中学校内だけの話だが。


 そしてもう一人の有名人が、会話を遮って朝陽の前にぐいっと出た。

 

「優奈ー、今日も相変わらず可愛いなおい」

「きゃっ、そんなこと言われたら徹のこと好きになっちゃう」

「今は好きじゃないの?」

「もちろん大好き!」

「俺も大好きだよ」


 一目を憚らず堂々とイチャつくバカップルにクラスの視線が集まり、一気に騒がしくなる。 


 朝陽は呆れたっぷりにため息ををついた。

 きっと、同じ中学だった同級生は皆同じ反応をしているだろう。

 その証拠に、さっきまで優奈と喋っていた委員長が朝陽と同じように大きなため息をついた。


「お二人は高校でも愛情を隠す気ないようですね……呆れを通り越して尊敬します」

「委員長とは気が合うな、俺もそう思う」

「天ケ瀬さん? まだ私はこのクラスの委員長ではありませんよ?」

「あっ、そうか。委員長は委員長ってイメージが強すぎてつい。でもまだってことは、どうせ高校でも委員長やるでしょ?」

「まあ立候補者するつもりではありますが……。それとこれとは別です。ちゃんと名前で呼んで欲しいです」

「そう? じゃあ、これからは橘で」


 三年間同じクラスで委員長を務めていた黒髪ロングの女の子、(たちばな)千春(ちはる)の苗字を呼べば、その大人びた顔立ちがやんわりと綻びた。

 朝陽としては委員長呼びに慣れ切っていたので固定したかったが、周りの生徒が思わず息を呑むような美しい千春の笑みを見てしまえば今更やっぱ委員長でとは言えない。

 普段あまり表情を変えることが無い千春の貴重な笑顔を拝みつつ、朝陽は目当ての人を探す。


「……あれっ、美咲は?」


 視線を彷徨わせると、教室からいつも間にか美咲の姿が消えている。

 ついさっきまで確実に自分の席に座って、中学から大の仲良しである優奈と千春と談笑していたはずだ。


「あれっ、やっぱ美咲逃げちゃたか」

「逃げたって誰から」

「そりゃあんたからに決まってるでしょ」

 

 徹とイチャつき終わったのか、先程までの満面の笑みが嘘のように真顔戻った優奈は何か知っているようだが全ては教えてくれなかった。

 

「もー、ほんと天ケ瀬は鈍感! まあ美咲も美咲なんだけどさー……」


 代わりに要領を得ない鈍感のレッテルを貼られ、そのまま優奈は教室を出て行ってしまう。

 

 意味が分からず呆然としていると、ニヤニヤと憎たらしい笑みを浮かべた徹と目が合った。


「……邪魔するならついてくるなよ」

「まさかの俺のせい!? いやいや寧ろ逆よ? 俺は二人の邪魔にならないようイチャイチャしていたのであって……」

「言い訳無用」


 徹が本当に邪魔をするつもりが無かったとしても、事実邪魔になっているので制裁としてチョップを入れておく。

 徹と優奈のイチャイチャを呆れて見ているうちに、美咲がどこかへ行ってしまったのは違いないのだ。


「委員長、じゃなかった。橘は何か知ってたりする?」

「おそらく真壁さんは姫宮さんを探しに行ったのだと思いますよ」

「まあそれは分かるんだけど……。そういやさっき、俺の話をしてたってのは何?」

「それは……天ケ瀬さんが鈍いって話です」

「橘までそれかよ」


 結局、覚えのない鈍感のレッテルを貼られていることしか分からなかった朝陽は美咲と優奈を追いかけることはせず、自分の席に戻ることにする。


 やっぱり美咲は登校時のことで怒っている可能性が高い。

 話し掛けようとして避けられるなんてよっぽどだ。


 こういう時は自分が追いかけても逆効果だと朝陽は知っていた。

 謝るタイミングが来るまで待つ。

 それが美咲との長い付き合いの中で学んだ対処法だ。


「まあまあ、謝るチャンスはいくらでもあるからさ。今は大人しく教室で俺と話そうぜ」

「何でお前が知ってる感じなんだよ」


 べしっ、と再び頭部にチョップを入れれば徹は愉快そうに白い歯を見せて笑った。




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