第10話 幼馴染と勝負
サッカーにバスケ、バッティングセンターに壁打ちテニス。
他にもバドミントンやバレーボール、卓球にビリヤードと沢山のスポーツが一つの施設で遊べる場所。
中にはロデオやトランポリン、ローラースケートなどマイナーなものまで体験できる某複合型アミューズメントパークで朝陽は美咲とガンゲームで対決していた。
「……何だこの状況」
「何ってゾンビに襲われてるんだよ。私達は生き残るために銃を撃ちまくるの」
「いや、それはそうなんだけど……」
銃を構えてスタートボタンを押すと、いきなり大量のゾンビが正面から襲ってくる。
世界観が全く持って分からないが、とにかくゾンビに噛まれたらゲームオーバーらしい。
標準を定めて弾丸を放てば、至近距離でヘッドショットを食らった老人ゾンビの何かが飛び散る。
緑色と青色を土の中で混ぜ合わせたような色をしている液体が、何のかは想像しない方が良さそうだ。
こういったゲームに割と慣れている朝陽ですら、ちょっと気持ち悪くなる程度にはビジュアルが中々にリアルでエゲツナイ。
もし普段、可愛らしいお店で可愛らしい食べ物を可愛らしく食べている女の子がこのゲームをプレイしたらあまりの気持ち悪さに目を瞑るだろう。
音もかなりリアルに作り込まれているので、耳も塞ぎたくなるかもしれない。
「ほら、朝陽! もっと撃ちまくって! そっち押されてるじゃん!」
「イエッサー美咲隊長。直ちに敵を殲滅します」
「誰が隊長だ! あっ、左七十度にモブ追加!」
「……やっぱ隊長だよ」
「何か言った?」
「いえ、何でもありません」
隣で肩を並べて玩具の銃を乱射している美咲に、つい数時間前のおしとやかで可愛らしい面影は微塵もない。
その道のプロじゃないかと思わせるほどの銃捌きに画面いっぱいのゾンビが次々に倒れていく。
見た目と雰囲気の違いに騙された、そんな気分だ。
服がオシャレだし、靴がヒールだったので油断していたが美咲は本来スポーツ大好きで動きたがり屋なのだ。
降りた駅で大体察しがついたが、まさか本当にスポーツをしに来るとは思わなかった。
わざわざヒールを預けて貸し靴を履いた美咲と様々なスポーツをして三時間とちょっと。
今は休憩と言うことで、無料で開放されているゲームコーナーで銃を撃っているが、暫くしたらまた何らかのスポーツをすることになるだろう。
「なあ、美咲。これって協力プレイだけど勝負に適用されるのか?」
「もちろん、スコアが高い方が勝ち。ちなみにさっきの太鼓も勝負に入ってるから」
「マジかよ、ゲーム部門負け確じゃねえか。ハンデ頂戴ハンデ」
「ダーメ。勝負は公平にやらないゃ意味ないでしょ」
「うっ……ごもっともで……」
正論中の正論を返された朝陽は四の五の言わず、目の前のゾンビを倒すことに集中する。
しかし、既に美咲とのスコアは二倍以上開いていてゲームが終わったころには三倍差までに広がっていた。
これで今日の通算戦績は五勝四敗。
内訳は朝陽がキックターゲット、フリースロー、ストラックアウト、ミニボウリング、ロデオで勝利。
美咲は卓球とバドミントン、そして太鼓とガンゲームで勝ちを納めた。
男女間の身体能力の差で朝陽が有利な事が多いのだが、美咲は頑なにハンデを拒んだ。
幼馴染と何かをするときはいつだって公平に。
男女だとか異性だとかは関係なく、幼馴染として戦う。
朝陽にとって、そして美咲に取ってそれが当たり前。
負けた時に言い訳は幾らでもするが、決まって性差は持ち出さない。
ただそれは、朝陽が美咲を女の子だと全く意識しないという訳では無かった。
寧ろ今日一日、美咲を異性として感じることが多かった。
オシャレしてるだとか、メイクしているとか外見の話では無く内面の話。
確実に美咲と力の差が広がっている。
総合戦績的にはいい勝負だが、ゲームを入れずに純粋なスポーツだけを見ればその差は歴然だ。
段々と本当の意味で公平な勝負になっていないのではないかと、朝陽は感じ始めていた。
対等に勝負できない、朝陽は陸上においてその辛さと寂しさを経験している。
「次はあれやろうよ」
「テニスか? 俺たちどっちも下手だから勝負にならないだろ」
「それはそれで楽しそうじゃない?」
「確かに。よっしゃ、華麗なサービスエース決めてやる」
「言葉だけ知っていて出来ない奴ね」
「うるさいな。サーブだけで勝負が決まっても文句言うなよ」
終始強気のサーブを打ち続けた朝陽が勝手に自滅し、テニス勝負は美咲の勝利に。
「本当にサーブだけで勝負が決まったね」
満面の憎たらしい笑顔で美咲に煽られ、何にも言い返せなくなった朝陽は不思議と口角を上げた。
美咲もきっと色々な事に気づいている。
もしかしたら朝陽よりも。
それでも単純に勝負を楽しんでいる。
「これで五勝五敗、イーブンだね」
「今頃だけど、何か罰ゲームとかあったりすんの?」
「そうね……勝った方が負けた方に何でも一つ命令できるっていうのはどう?」
「いいね。拒否権は無しだからな」
「もちろん。じゃないと面白くないじゃん」
自らリスキーな賭けを申し出てくる所は何も変わっていない。
勝負事になると熱くなる所や、負けず嫌いな所も幼馴染は幼馴染のままだ。
公平だとか、対等だとかの前に美咲と勝負するのはやっぱり楽しい。
美咲もまた、同じことを考えているのだろう。
「負けた時の言い訳考えておけよ?」
「それはこっちのセリフ」
お互いを煽り合いながら、朝陽と美咲は次の対決へと向かった。