第1章1話 ある日の夕方
はじめて書いてみました。楽しんでいただけると幸いです。
「う~~~~ん!」
ある日の夕暮れ時、教会の扉の前で、ノアは大きく伸びをした。
ちょっとした丘の上に建っているこの教会からは、オレンジ色に染まった町が良く見える。
あちらこちらの煙突から煙が出始め、夕飯の時刻が近いことを告げていた。
今日も、よく働いたなぁ。
ノアは、今朝から教会の掃除をしていた。小さな町にある教会なので、都会にあるものと比べると小規模だが、それでも隅から隅まできれいに掃き、拭き掃除をするとなかなかの労働になる。
ノアはここに来てから13年間、2日に1回はこの掃除をこなしているため、慣れてはいるが、
それでも疲れることに変わりはない。
しばらく、きれいな街並みと小さく見える人の動きを眺めていると、
「ノア、遊ぼうよ。」
そう言って、先月6才になったばかりの弟のリントンが声をかけて来た。
弟と言っても、リントンは血も繋がっていない他人だ。しかし、ノアとリントンには共通点がある。
二人とも、赤ん坊の時に、教会の前に置いて行かれたのだった。
ここには、そんなノアの兄弟たちがあと、9人いて、今はそれぞれ
教会の外の庭で、思い思いに遊んでいる。
だんだんと落ちてくる日の傾き加減を見ながら、
「そうね、あともう少しだけね。暗くなる前には中に入るからね。」
「わーい!」
そう言って、リントンはノアの手を引っ張って、庭へと駆け出す。
ノアは、その手を握り返し、この温かい家族に感謝していた。
その時、
「ノア、ごめん。ちょっと悪いのだけれど、今すぐシスターアンジェラの所に行ってくれないかしら。
何か緊急の用らしいのよ。」
とシスターリリィが呼びに来た。
シスターリリィは、この教会を切り盛りしている3人のシスターのうちの一人で、
ノアと一番年が近く、ノアにとってはお姉さんみたいな存在だった。
ノアは、この教会で生きてきたため、将来の夢はシスターになることを決めていた。
この教会の長であるシスターアンジェラは、なかなかノアにシスターの見習い修行を認めてくれなかったため、シスターリリィには、色々と相談に乗ってもらっていた。
この時間、シスターリリィはみんなの食事の準備をしている時のはずで、
そんな手を放してまで呼びに来るとはただ事ではない。
「リントン、ちょっとごめんね。またあとで、遊ぼう!」
そう言って、柔らかな手を放す。
リントンは不満そうに頬を膨らませる。
「ごめんね、食事のあとでチェスでもしよう?」
リントンは、最近チェスにはまっていた。まだまだコマの動き方も怪しいし、何より気の向くままに動かしているだけで、戦略みたいなものは何もないのだが、相手のコマをとるというのが面白いらしい。
「わかった。約束だかんね。」
そういって、小指を突き出して、無理やりノアの小指と絡める。
「うん。またあとで。」
そういって、シスターリリィの横を通り、教会の中へ入った。
この時間なら、まだシスターアンジェラは、執務室ね。
ノアは、走らないように、しかしなるべく急いで通路を歩く。
でも、緊急の用って何かしら?
これから雪だるま式(?)にお話が展開していく予定です。しばし、お付き合い頂けると幸いです。