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記憶の扉

「生きていた頃の記憶?…‥‥‥‥‥??」


自分が吐いた言葉の続きに、そんなの覚えてるって言うつもりなのに。そんなのわかるっていうつもりなのに。忘れるはず無いって言うつもりなのに…。吐いた後のその先の言葉が出ない。

何かを思い出そうとしても、名秦の事以外、ザッと頭に何かがよぎるだけで、それが何だか分からないまま、その記憶の残像は消える。持っているはずの記憶が、知っているはずのことが、大切なはずのことが、全て思い出せなくなっていた。


九津見の記憶の扉の門番は、九津見が思い出したいと願う記憶を元々無いかのように、思い出させない。だが、記憶の扉の右上の方に空いた、極小の穴には門番は気づかなかったよう。その穴は九津見に名秦のことだけを教える。その穴のお陰で、九津見は名秦の事だけは覚えていた。


ぇ…?私は…全部忘れて…?違うっ違う!なんで…?どうして…?お母さんは…?お父さんは……?………………あれ?そんな人……私には居た……っけ…?あっ!あの…女の子…えっとぇっと………、…?思い…出せない


「…ぇ?……どうして……?……覚えてないっ……覚えてないッ‼」


「ぁっ…わかんない…‼わかんないょ…‼」


九津見の双眸から涙が溢れ出す。忘れてしまったの?覚えていないの?どうして?あれ?意味がわからないよっ…。と自分の今までの思い出が思い出せなくなってしまって、涙が壊れた蛇口のように溢れ出す。九津見の体は、思い出したい事が思い出せないという不安心で怯えており、小刻みに小さく震えていた。その震えを止めるように、九津見は自分の両腕をぎゅっと組んで、両脚を体の方に引き付け俯いた。嗚咽が激しい。九津見の消えた記憶は、九津見の心に大きな穴を空け、ポッカリと空いた穴は、黒く大きな影でひしめいていた。


思い出せない。でも、必ず何かあった。そう心に引っかかる。涙が止まらない。


口元に右手を当て、左手を心臓の辺りに動かす。暗くなった双眸から涙は止まることなく溢れ出し、えぅっ…嗚咽を吐かせる。


「私っ、思い出…………記憶が無いっ……。響…助けてっ……怖い。怖いの…。」


精一杯出せる声で言った。自分の恐怖を、自分の不安を、しっかりと、目の前の自分が覚えている人物に話した。記憶のあるたった一人を頼るように、願うように。


「」


そんな九津見の姿を見て、名秦は自分が何かを伝えてあげなきゃ、涙を止めてあげないと、何か何か…と使命感を感じる。忙しく頭の中を動かして、パッと言えることが思いついた。でもこれでは九津見の涙を止めてあげられるか分からない…。でも自分なんかには、それしか言ってあげられない。だから、自分の精一杯を、しっかりと伝える。


「僕の事は?」


名秦は、嗚咽を吐きながら涙する久津見に、はっきりとした口調で、落ち着いた表情で言う。


「…?…覚えてる…ぇぅ…わか‥る…。」


涙は止まらず、嗚咽は激しい。呼吸は少し、過呼吸気味になりながら、自分の記憶にあるという事を言葉にして、しっかりと伝えた。


「なら九津見、これから久津見の記憶は段々と戻ってくる。生きていた頃の記憶なんてすぐに戻ってくると思う。だって、九津見は僕の事を覚えているじゃないか。それは、僕に関連していって、段々と全てが戻ってくる可能性があるってことだと思うんだ。たとえ、もしも?記憶が戻って来なくたって、僕が居る。九津見の記憶にある僕が。九津見を覚えている僕が居るから。だから大丈夫、だから、泣かないで。」


九津見が自身の記憶を思い出せるかなんて分からない。それはこれからわかることであり、今断言できるようなことでは無い。だけど、涙している彼女に伝えられるのは、これくらいしか名秦にはなかった。


「それに僕は、九津見が自分の思い出を見つけられるように…記憶を取り戻せるように、死力を尽くして助ける。」


「……っ…」


更に溢れ出す涙と、少なくなる嗚咽。名秦の言葉は九津見の恐怖心を和らげ、頼るものを見つけさせた。涙は失望と恐怖の涙から、安心の涙へと変わり、彼女の心を温める。知っている人が居るという安心感と、そのたった一人の記憶の中に居る人が、死力を尽くして自分を助けてくれるという喜びに、無防備な声を出して泣く。両手で涙を拭きながら、脚を更に体に引き寄せて。


「それにさ?九津見の事は沢山見てきた。長い間、本当に、本当にちっちゃい頃から。言ってしまえば、兄弟のように長く。だから、九津見が今、忘れてしまっていることを、沢山沢山話してあげられる。大丈夫。大丈夫。たとえ、僕が知らない九津見の事を、九津見が忘れてしまっていても、久津見との思い出は、周りの誰かが覚えている。皆、九津見の事は絶対に忘れていない。だからさ、記憶を一緒に探そう九津見。」


「あぃがと…ぅ!」


と泣き声を抑え込み、笑顔で感謝の言葉を言う。脚は緩めて少し伸ばし、先程までずっと涙を拭っていた手も首の前辺りに浮かせた。


「お前泣きすぎなんだよっ」


とその答えに笑いながら答える名秦。九津見の頭の方に手を伸ばす。小さい頃九津見が泣きじゃくった時にはいつもそうしてきた。そうすると九津見は泣くのを止められるって知っていたから。そして、伸ばした右手が九津見の頭に到達する。そして優しく撫でる。「いひひっ」と歯を見せて笑う九津見。……あれ?触れられた…?

新キャラ名字考え中。名前は決まりました!金髪ではないです

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