原因はわかっていた
少女を彼女に変えたのは、名秦が少女を久津見だと確信した心の動きを表す為です。ご了承下さい。
「え?」
どうして見えるの?と隣の少女が名秦に質問した。
見える理由…?そんなの僕の方が知りたい。九津見が自殺をしてまで伝えたかったコトが分からず、愛していた人も失って、自分が生き続ける事に意味を見いだせなくなって。ずっともう一度会いたいと願っていた。九津見の命日は日曜日だった。だから僕は毎週日曜日に九津見の墓の前に立って自分の願望を毎週欠かさずに言いに行った。ずっと………ずっ…と、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと!会わせて欲しいと神様に祈り続けた!……でも、そんな事をしたって、想い続けたって、神様はそんな想いを叶えてはくれなかった。叶わないと分かっていてもやめられなくて、自分を止められなかった。今までの行動が実を結び死者を呼び出す事が出来たとする。でも、霊感も無く、どこにでも居るような僕のような人間じゃ例え叶っても見えないはずなんだ。
死者である彼女と話している、というこの状況は、まずあり得ない…あり得ないはずで…でも、九津見と話しているという妄想にすがってしまう僕が居て…。
それでも九津見の足元には水紋が出来ていた。それは名秦と九津見を交わせる。それを見つめながら名秦の思考は動いていた。
九津見のたった8文字の質問に答えられず、自分に苛立ちが走る。答えがわからない、理由が分からない。考え、考え、思考をそれにつぎ込む。
あっ、と声を漏らす九津見。名秦の肩に手を触れようと伸ばす。でも自分が霊体だと分かっている彼女は手を引き、胸の辺りに手を置く。そんな九津見の行動に気づかない名秦は考え続ける。
九津見は息を吸い、はっきりと自分の思いを伝える。
「違うの、会いたかったの…‼だからね、今、すごく嬉しいの」
名秦は彼女のその言葉に少し驚いた。いや、本当に驚いた。そして同時に気づいた。僕も嬉しい。会えたこと、話せたこと、今こんな風にまた出会えた事。もうそれだけで心がいっぱいで…涙が溢れ出しそうになるという事に。
彼女は名秦に思い当たることがないという事を察し、自分の思いを伝えた。彼女のその言葉は、川の波のように揺れていて、名秦は理由を知るように少女の方を向いた。見てから気づいた。彼女の若葉色の双眸は水々しくなって今にも涙がこぼれ出しそうだった。あぁ、こんなに…愛おしい…。そんな事を思う。
彼女は必死に言う。
「理由なんて…わかんない、よね…?私だって今、どうしてこの場にいて、この!目の前の水には触れられて……響と会い、話せているのか…わかんないもん」
九津見のその言葉が名秦の何かを変えるようだった。先程までの苛立ちは彼女の言葉にかき消され、そうかも知れないというかんがえに塗り替えられた。淡く顔が和らぐ。今までの心を縛り付けていた願望が叶ったんだから、もう、それでいいじゃあないか。
そんな簡単な答えを出す。現実逃避をしている、目を背けているなんて誰かに言われてしまう。きっとそれは自分であろう。だけど、今、僕は幸せだ。
「理由なんて、いらないのかもな」
と歯を見せて赤く染まった目元を曲げ、笑った。
今、嬉しいから。今、会えたから。今、話せているんだから。それでいい…。
涙ぐんだ瞳を氷の彫刻のような美しい腕で擦る彼女を見て、ちらりと名秦の脳裏に何かが浮かんだ。…?待て、違う………何か見落とした…?そうじゃない。さっき僕は、理由を見つけた。なんだ?なんだった。前の閉まった学ランのつめ入りの辺りをぎゅっと右手で掴み、頭をフル回転させて考える。何か心に残る。見落としがあるとわかった。でもその浮かんだものを思い出せなくて……。
答えを求めるように川の方向を見る隣の彼女の方を見た。先程まで花に水をあげていた少女が九津見だという事はもう既に確信していた。名秦は彼女の首になにか惹かれ、注目する。セーラー服の襟の隙間からちらりと銀色の細いチェーンが見えた。
「九津見」
彼女は彼女の茶色い髪を耳に掛けながら「ん?」と声を漏らし、こちらを向いた。潤んだ若葉色の双眸を押し上げるように頬が上がっていて、口元は嬉しそうに三日月型になっていた。
この状況の原因となっているかもしれないものを伝える。彼女はいったいどんな反応をするのだろうか。そんな事を気にしながら、名秦は質問をする。
「首元で光ってるものは何?」
第一部にヒントがあります
もうちょっとしたら新キャラ登場させるつもりてです!どんな子にするかまだ決まっていません困