不意打ち
少女が自殺をして霊体になった後、初めての対面をしてから名秦 響が九津見 楓に対して第一に気になった事は、ここにいる理由…ではなく今、目の前にいる人物が本当に自分が知っている九津見 楓本人なのか、という事であった。
二人は互いに泣きあった後、手を伸ばせば触れられる位の間を開け、揃って脚の先を川の水に浸し、小さな小石が沢山集まったゴツゴツとした場所に腰を下ろした。彼女の白くて細い足が入った瞬間に水紋が出来た。名秦と久津見の両足から始まる4つの水紋が二人を交わらせる。水紋があるという事は隣の少女の実体があるという事を示すのか。これまた妄想で作り上げられた水紋なのだろうか。と情報が名秦の頭の中で乱舞し、名秦の焦げ茶色の髪の隙間から汗が流れる。川の水の冷たさは、夏の暑い日にはとても気持ちよくて、考える事をサポートしてくれるようだった。
長い茶髪を風になびかせて、泣いて赤くなった目を手でこする。『九津見』と書かれた名札が付いた、半袖セーラー服を彼女はまとっていた。青色のアクリルガッシュが、血が飛び散ったように点々と左の袖に付いているのを見て自分の知っている九津見のセーラー服だと確信した。それは生きていた頃、友達が通りがけに付けてしまったという汚れの跡だったからだ。
二人共、久々の対顔に、なかなか話し出す事ができない。隣に座ったは良いものの、話し掛ける事が出来なかった。……僕は今…九津見の隣に座ってるのか…?いや、でも……………。いや、やっぱり、…隣に居るのはどう見たって…九津見。……でも…。と名秦の頭の中は自分への会話で手一杯。自分が今どんな状況なのか把握するのに時間を要した。
そんな情報が大量に行き交っている忙しい脳を、凛とした優しい声が違う事に目を向けさせる。
「学ランなんだね。」
隣に座る少女が、腫れが治まりつつある瞳を名秦に向けてそう言った。名秦は今、ズボンを水に足を浸ける為に膝上まで上げ、上のジャケットを前を開けて着ている。袖はまくらず伸ばしたまま、厚いジャケットを着ていた。
九津見の言葉を聞き、中学はブレザーだったもんな、と理解する。
なんて言うべきか少し迷った後、最終的に辿り着いたのは
「似合ってるだろ?」
というカッコつけのような、冗談のような言葉だった。名秦は言葉を発すると同時に前の開いたジャケットをそれぞれ掴み、襟を前に引っ張って音を立て、姿勢を正しながら、自慢気な顔を少女に向けた。
「ふふっうん似合ってる」
と砕けた優しい笑顔を見せ言う。柔らかい風が九津見の髪を撫で流れ行く。そんな言葉と今なお好きな人の愛おしい笑顔は、名秦の顔を赤く染め上げ心を締めた。バッと、顔を隠すように反対方向に顔だけ向かせて、急かすように学ランの前のボタンを閉めながら
「まぁな」
と言う。顔赤くなってないよな?大丈夫だよなっ…恥ずかし!!!とさっき冗談交じりの自慢した事を後悔し、自分の顔に赤みが無い事を願い、前ボタンを閉めていく。
「ねぇひびき」
愛おしい声が自分の名前を呼び、赤みを増す頬。ばっばれてる…のか…?赤くなってないよな⁉指摘されたら心がもたない…!ちょっと待って…!!!止める!止める!!いや、日本語違う!赤み引け!引け!と命令するように心の中で自分に言う。そして前ボタンを閉め終わった手で口を隠し、肘を脚につけ自分の目の前を見る姿勢に変えた。
そんな名秦の心の動きに気づかない俯いている少女は、数秒経ったあと、決断するように息を吐いて名秦の双眸を見て言う。
「…私の事どうして見える、の…?」
純粋で天然ピュア九津見と、沢山の事を考えている名秦。名秦の焦っている感じが好きです(笑)
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