十
できるメイドの朝は早い。
「ふぁあああ、寝たぁあああ......」
ユディスが寝床から起き出すのは、まだまだ暗い夜明け前。身支度を済ませてぼくを起こす。
「我が君、起きていらっしゃいます?」
実は結構前から起きていたけど、ユディスを心配させないようにぼくは起きたばかりというていでぼくも欠伸して見せた。
「ふぁあああ、今起きたところだよ......おはよう、ユディス」
「おはようございます、我が君。 ちょっと発声練習しますんで、変に思わないでくださいね」
ユディスのお願いに、ぼくは鷹揚に頷いた。
「うん、好きに叫ぶと良いよ」
「ええ、じゃあちょっと失礼......」
ユディスは大きく息を吸い込んだ。
「『さっすが勇者さまッス!』『知らなかったッス!』『凄いッス!』『センスいい!』『そうだったんスか!』......『さっすが勇者さまッス!』『知らなかった!』『凄い!』『センスいい!』『そうだったんスか!』......」
勇者への賛辞でさしすせそ。5セットを終えると、ユディスは大きなため息をついた。
「......大好き、とか愛してるとかは練習しなくていいの?」
「それはメインヒロイン以外には許されてないんスよ。暫定メインヒロインが嫉妬深くて......そんなの練習するだけで殺されちゃうッス」
「へーえ、そんなら今日はぼく、ユディスに付いていこうかな。ユディスが殺されちゃ困るし」
「勇者さまの監視はいいんスか?」
「監視っていうか......まぁ、今日のコウタロウくんはいいや」
最近のコウタロウくんは、ジョリーとユーリの騎士団コンビに挟まれている。ユーリは仮面が割れたように、冷たい態度が嘘のようにべったりくっつき甘えて来るようになっていた。あれが噂に聞くツンデレか。
つまり連日見るには甘すぎな雰囲気だ。ぼくはすっかり胸焼けを起こしてしまう。
「コウタロウくんには、誰か......そうだね、ロットにでも見ててもらうことにするよ。今日はユディスと一緒にいたい」
ね、いいでしょう? 甘えたような口調でぼくは聞く。身体があったらユディスの首にでも手を回して顔を覗き込んでいるところだ。ユディスはため息をついて頷いた。
「まぁ、我が君のお心のままに、ッス」
やったぁ。