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「おお勇者コウタロウよ! 遠いところをよく来てくれた! 我が国は現在......」
以下、サリーの話とほぼ同じだから割愛。要点をまとめれば、この国には魔王に勝てそうな武力がないこと。武力を頼んでいた隣国が魔王に占領されたこと。勇者コウタロウよ救ってくれ。
もちろん、勇者コウタロウくんに否やはない。サリーと約束したばかりだし、どんな試練が課されるか、はっきり言われていないんだし。
「......お、オレでできるんなら......やります」
でも、物々しい鎧甲冑、怪しげローブを着た怖い人たち(しかも初対面)の前で宣言するのは怖かろう。コウタロウくんの声は小さく震えていた。頑張ったね。
でも、そんな勇者に試練が襲い掛かる。
「......信じられんな」
騎士団長ユーリの、その一言でコウタロウくんはびくりと震えた。
「見れば剣を持ったこともなさそうな小僧だ。こんなナリで本当に戦えるのか? 悪いことは言わない、怪我する前に何処かへ行って、生産者として出直して、この国に貢献した方が身のためだ」
そうだそうだ! と野次がどこかから飛んできた......訳はないけど、そう言いたそうな雰囲気が騎士団から噴き出した。
「お、おい騎士団長ユーリ! 」
「何がおかしい! 頼んだ者に適性がなければ、こいつも逃げ出すか無駄に死ぬかだろう! 王よ、お言葉ですが少年への同情と期待感とを一緒くたにするのは危険です、もう一度召喚の儀を取る決断を!」
「いいえ!」
次に声を上げたのは、神官たちを率いるサリーだ。
「そうやすやすと繰り返すものではないのです、召喚の儀というものは! それにコウタロウ様に対して無礼だと思わないのですか? この方こそ、この国をお救いくださる勇者様だというのに!」
「それが信じられないというのだ!」
おやおや。二人とも、これがただの試練であることを忘れちゃってるよ。ユディスから聞いた予定では、ユーリが少しイチャモンをつけて、「じゃあ証拠を見せりゃいいんだな?」と言われて勇者しか抜けない剣を引っこ抜かせるはずなんだけど。困ったな、ヒロインとは言えいちメイドたるユディスには覗き見ることがせいぜいで、自然に入室したり発言出来ない。ぼくがテレパシーで王様あたりに呼びかけるなんて、派手なことはしたくないし......
ぼくが迷っていると、にわかにどよめきが広がった。
なんだなんだ? ぼくと同様の野次馬根性に従ったユディスが身を乗り出した。
「......あの! オレのことで何か確かめたいことがある、って聞いて来たんですけど!」
サリーとユーリの睨み合ってる間にコウタロウくんが割り込んで来たのだった。
よくやった! 流石勇者だ!!
「あ、ああ......そうだったな」
「......そうでした。それに気づくとは、流石です勇者さま」
二人も当初の目的を思い出して毒気を抜かれたか、目を白黒させながら元の位置に戻った。
その後、王様や重臣たちの見守る前で、勇者はあっさり岩に刺さってた剣を引っこ抜いた。
その剣はこの国を救う者のために用意されたという伝説のある剣だった。これまでに何人も挑戦してきたが、剣を抜けた者は彼以前に一人もいない。これでこの勇者の正当性は証明された、彼は伝説の勇者だ。王様はそう言って祝賀会を開いた。
伝説の剣は本物か、そんな大事な剣が何故城の中庭にあったのか、これまでに抜けた者は本当にいなかったのか、そもそもそんな伝説はあったのか。疑問を呈する者はいない。
......まぁ、ぼくが呈する気も義理もないけど。
『ようこそ、君のために回る世界へ。多少の困難はあるけれど、答えはある。ヒントはヒロインたちが教えてくれる。この国は君を甘やかす国だ。歓迎するよ、コウタロウくん』
まだちょっと混乱しているかも知れないコウタロウくんに、ぼくは心の中で挨拶をした。