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「ここが......あの世か......? 」
そして勇者が喚ばれたのだった。彼は召喚されたて勇者が言う言葉トップ10に入っていそうな事を呟きながらグルリと辺りを見回した。
「やった、成功だ......」
「来てくれた......!」
「これで助かる......!」
「でも、こんな奴が勇者......?」
「シッ、言うな言うな......偽物ならすぐ分かる......!」
ザワザワと魔導師や神官が呟く。彼の招来を喜ぶ者、勇者の適性を疑う者、いろいろ。その声は小声であるとは言え、勇者の耳にしっかりはっきり入っていなくてはならない。誰が味方か誰が敵か。勇者の深層意識に覚えさせてキャラクターを世界に定義しなくてはいけない。
ザワザワしている召喚師の中、一人が持っていた鈴を振った。
シャァァァァン、一振りの音色を魔法使いが増幅して伸ばす。それを聞いた召喚師達は、はっとした顔になり口を閉ざす。
静かになった室のなか、鈴を持った神官が口を開いた。
「まずは御礼申し上げます。貴方は勇者さまとして我が国の召喚に応じていらっしゃってくれました(ここで勇者はハァ!? と素っ頓狂な声を挙げた)。我が国は魔王に脅かされているのです。どうか勇者さまのお力をお借り......いえ!」
ここで神官はずい、と身を乗り出してきた。言い忘れてたけれど神官は女性だ。ゆったりとしたローブの中に、隠されていた豊かなおっぱいの影が服の上に浮き上がる。まだ年若い勇者は、おっぱいから目が離せない。神官はその視線を黙殺して、更に勇者の手を取り胸に寄せる。彼女にとっては、ただ手を取って祈ってるだけなんだろうけど、大きなおっぱいが当たってる。羨ましい。
(運は......普通にいいのかな?)
いや、でもあれは神官のテクニックかもしれない。判断はまだ早い。
勇者がブツブツなにかを言ってる(きっとおっぱいの事だと思う)のも黙殺して(ちょっと面倒くさいからね)、女神官は感極まったような潤んだ目で、勇者に迫る。
「勇者さま! どうか、どうかそのお力を奮い、我が国をお救い下さいませ!」
神官や魔導師、集団の三分の一がいつのまにか平伏してお願いします、助けて下さい、お救い下さい勇者さま......の大合唱。ちょっとやり過ぎじゃないかな。残った三分の二が若干引いている。
ここで勇者は首を縦に振ったーー
いや、違う。
突然やってきた非日常、彼の日常にとって今までないような、降ってわいたような幸運。あとおっぱい。
いろんな事が起こって情報処理に頭がパンクしたんだ。
「おっぱい......!」
勇者はかすれ声で呟きながら、前のめりに倒れ込んだ。
慌てて神官近くにいた魔導師(おじさん)が近寄った。
「......気絶するなんて、最近珍しい勇者だな」
勇者の息を確認した魔導師(おじさん)が、本当に不思議そうに言った。