十二
「メインヒロインって言うのは勇者の恋人......ほら、ヒロインって 『勇者の恋人候補』だって言ったでしょう? 」
大広間の掃除をしながら、ユディスはぼくに囁いた。
一応周りには同僚のメイドさんたちがいるが、彼女達は日々の仕事に疲れているし、各々の仕事に集中しているから、ちょっとした会話ぐらいなら幻聴か何かだとスルーしてくれるから助かる。
「こちらではヒロインとして、いろんなタイプを取り揃えて起きますけど誰を恋人にするか、何を大事に思って世界を守るか、それを決定するのはやっぱり勇者さま本人しかいないんスよ」
「へーえ、じゃあコウタロウくんの意思もやっぱり尊重されるんだ」
「当然ッスよ、こんなことエトワール目指す座学の基本授業で習うことッス。『 世界は勇者に都合よく動く』って」
何故異世界からわざわざ人さらいをして、勇者として育成するのか。
いろいろあるけど根源には、異世界人である彼らが超絶的に運がいいからだ、という事があるのだろう。武人系とか職人系とかの分類ははっきり言って後付けだ。
たしか、この世界の歴史によると、異世界からの召喚理論を組み上げた者が初めて実践して見せたとき、召喚されたのは尖った舌、(ティンダロスの猟犬?)というような生き物だったらしい。
多大な被害を挙げつつ対抗しながら、対抗しうる知的生命体を探して召喚しまくって、理論は大量の実験データで洗練された。一番最初に召喚した生き物を討伐出来た頃には、うっすら異世界人は運がいいと確信する魔導師の一団ができてきた。後の召喚魔導師と呼ばれる専門家だ。
何故運がいいのか。世界の多くは『んな理由知るか、勇者を通してコントロール出来りゃ十分だ』と考えるが、一応専門家たる彼らの突飛な人が、ある仮説を挙げている。それが、『世界小説』説。
この世界は神と仮定される存在に創られて、彼の思惑で物事の大筋が決められている。まるで、作り話が作家の思惑で進んで行くように。もしもこの世界がどこかの作家の小説の世界なら。そして、勇者になる異世界人がこの小説の主人公なら。御都合主義も納得だ、むしろ勇者に対する御都合主義がこの世界の存在意義だ、『世界は勇者に都合よく動く』。 そして、この世界の人間ならばその御都合主義の『世界の流れ』に協力するべきだ、そうしないとこの世界が終わってしまう!
その説に賭け、この世界に都合よく介入できる人材、登場人物を育てる国に自国を作り替えたのがこの国の中興の祖、十二代国王であるとか。今の王様の五代前のお方らしい。
第十二代国王さまは賭けに勝った。発表当時は嘲笑の的だったその仮説は、流行錯家や雑誌編集者に意見を乞うて教育された登場人物たちが異世界人を勇者に仕立て上げた事で注目されるようになった。現在この仮説に異を唱える者はいない。真実を追求するには難しく、今ある答えでだいたい説明できる問題だからだ。
......と、言うことをユディスは説明してくれた。
「へー、よく知ってるねぇ」
「当然ッス! アタシは正真正銘のエトワールなんで!」
「うん、知ってるよユディスちゃん。ただ、ちょーっとだけ、ひとり言が大きすぎるんじゃないかな?」
「? ......!!!」
ヘマをしでかしたことにようやく気づいたユディスは、顔が青くなったり赤くなったり、大変な事になっている。
掃除をしながら歴史を語り出したユディスに、注意したのはぼくではない。
声をかけたのは、笑顔が素敵なメイドさんだった。