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文官ワイト氏と白き職場。

王族聖女様、魔族に採用通知を出す。

作者:漆黒の豆腐
王女の聖女様が最下級魔族に採用通知を出すお話。
そろそろ短編集にまとめた方がいいかしら?
「『貴方は、世界を担う勇者に選ばれました。聖剣の選定に従い、聖霊の加護を以て、精霊の導きと共に魔王を倒すという定めを受け入れるのなら、聖女として、この身この魂の全てを貴方に捧げまひょっ………う』!」

「上手い! 流石守護騎士!」

「お止めください! 守護騎士様! 勇者様!」

 大仰な身ぶり手振りで、まるで道化のようにおどけて見せるのは、エルフ族の世界樹の守護騎士だ。そして、それを囃し立てるのは、彼らを率いる聖剣に選ばれし勇者だ。

「それくらいにしておけ。守護騎士。聖女が恥ずかしがっているだろう?」

「お願いしますお二方………あれは、偶然噛んでしまっただけで………」

 そのエルフ族の守護騎士を諌めるのは、竜の手綱を握った、竜人族の姫武将だ。甲冑を身に纏い、風に流れる赤い髪を後ろで束ねている。
 そして、彼らの傍らで顔を赤くして俯いているのは、聖女様だ。王族でありながら聖霊に愛され、聖女として勇者と共に戦ってきた。

「いやいや、あれは本当に面白かったよ。絶対みんな心の中で『あっ、噛んだ』って思ったよ。勇者君も思ったでしょ?」

「いや、そのときはガチガチに緊張しててそれどころじゃなかった」

「あらら、それはもったいない」

 他愛無い会話をしているが、ここは魔王軍との最終決戦。おおよそ人類の総戦力を投入して、前線を押し出して魔王城の兵力を釣り上げ、手薄になる魔王城に最高戦力である勇者とその仲間が、急襲するという作戦だ。

「守護騎士、もう少し緊張感をもったらどうだ? 後一刻もしない内に、開戦なのだぞ」

「逆に言えばあと一刻近くあるんでしょ? 気楽に行こうよ。緊張してたって良いこと無いんだから」

「貴様はいつもそうやって………」

 基本的に楽天家な守護騎士と、自分にも他者にも厳しい姫武将とは、このように意見が合わないことが多い。しかし、不和な訳ではなく、長い旅路の末、お互いがお互いを認め合ってはいるのだ。

「聖女様なんてさっきから本読んでるんだよ? お堅い聖女様がそうしてるくらいなんだから、リラックスリラックス」

「これは歴代聖女の手記なのですが………魔王を倒すヒントが隠されていないかと、最後に確認しているのです」

「流石は俺達の頭脳担当! 頼りになるな」

「いや、勇者君勇者君? 頭脳担当って言うけど、この中で読み書きできないの君だけだよ?」

「仕方無いだろ! 俺なんて元々ド田舎の村出身だぞ!」

「勇者の存在は士気に関わるので、通達なしにお呼び立てしたのは本当に申し訳ありません………」

「あーあ。聖女様かわいそー」

「い、いや、別に嫌って訳じゃないからな!? ほら、勇者になったら褒美で王都で一生暮らしていけるだろ? 俺、帰ったら幼馴染にプロポーズして、一緒に王都で暮らすんだ………!」

「しかし、村に帰ると、幼馴染の腹にはもう一人の親友との子供が。勇者は、その高潔な精神で想いを封じ込め、親友と幼馴染を祝福するのだった………」

「魔王と戦う前に心が折れそうなのでやめろ下さい」

「守護騎士、流石にそれは勇者の士気的に控えろ。聖女、何か新しい発見はあったのか?」

 姫武将の問いに、聖女は首を横に振る。聖女の手記は何度も目を通しているので、今さら新しい発見がある訳も無かった。

「一応、言うとすれば………下級の死霊に擬態し、聖女の結界すら破壊するような力を隠す魔族もいるそうなので、あまり油断なさらぬように、くらいでしょうか」

「下級の死霊に擬態、ねえ。魔族ってそんな知恵回るの? あいつらって下級の死霊に擬態とかプライドの関係でできなさそうだけど」

「ですが、数代前の聖女が戦ったそうです。とても強力な力を持ちながら、卑屈なまでに生に執着している死霊だとか」

「生に終着する死霊とはこれ如何に………?」

「いや、冷静に考えろ守護騎士。死霊ってあれだろ。死にたくなさすぎて死んでるのに生きてる奴等だろ? 普通じゃね?」

「それもそっかー」

「まあ、所詮死霊だ。聖女の霊滓エナジーになるだけだろう。いつぞやの吸血鬼のように」

 勇者達は長い旅路の中で、様々な魔族と戦ってきた。東に夢魔に支配された街があればその夢魔を討伐し、住民を夢から覚まし、西に死霊の都となった古都があれば、その魂を聖なる魔法で救済して、まさに東奔西走の旅路だった。
 吸血鬼も、その旅路の中で倒した敵の一人で、堂々とヒト族の領土に屋敷を構え、近隣の街を眷属を使って支配し、ヒト族を血を搾る家畜として飼っていた悪辣の魔族だった。
 その力は強大。無数のコウモリや、霧に化ける能力を持ち、獣が如き身体能力を以てして、呪いや魔法に通じ、最大の特徴である不死じみた回復能力を持っていた。

 ──持っていた、のだが。

「窓から水の魔法で聖水の霧を送り込んで動けなくした上で聖女砲で外から一方的に砲撃したアレのようにかぁ」

「吸血鬼の城が湖にあった時点でこの攻略法を思い付いた勇者には少し失望したぞ。騎士道精神はどこに置いてきた」

「いや、所詮戦争っても魔族とヒト族の喧嘩だろ? 勝てばいいだろ勝てば。だって早く帰んないと守護騎士が言ったみたいになるし。つーか俺騎士じゃねえし」

「この戦争が終われば国で聖騎士の称号が与えられますが………」

「そしたら幼馴染を王都に呼ぶんだ………」

「親友の子を孕んだ幼馴染を?」

「そろそろ泣くぞ守護騎士!」

 そんな親しい者の茶番を繰り広げる四人だったが、畝るような邪悪な気配に、一斉に黙り込んだ。

「………姫武将?」

「ああ、そうだ。見えてきたぞ」

 見据える先は、魔王城。魔族四千年の歴史を積み重ねた、悪鬼の牙城。歴代の魔族が各々の種族の特性を重ねた改築を繰り返し、果てにはそれ自体が一種の魔物とまでなったそれは、支配者の城として、辺りを押し潰すようなプレッシャーを以てそこに佇んでいた。
 そして、その城は、その全ての砲門、魔法を勇者達の乗る竜に向け、分体であり兵でもある守護石像(ガーゴイル)を尖兵として放っていた。

「くっく………前哨戦には相応しい………! 竜人族の誇り高き姫武将であるこの私の武勇を、ここに打ち立てよう!」

「うーん? あの守護石像、エルフの盗作かなぁ? うん、気に食わない。全部ぶっ壊そうか」

「石像に封じられた魂はヒト族の………惨たらしい………今、神の身許に返して差し上げます………!」

「え、お前ら待てって。合図は? なんで戦闘体勢? 真っ正面から突っ込むとか無謀以外の何物でも──」

 冷静に異を唱えようとする勇者だったが、それに重ねるように、勇者達の乗る騎竜と、もう一人の竜が吼えた。

「突っ込むぞ! 振り落とされるなよ!」

「大丈夫勇者君! こうやってうっかり交戦した時点で合図みたいなもんだから!」

「てめえらふざけんなよぉおおおおおおお!」

 斯くして、人類と魔族。大陸の覇権を賭けた最終決戦の火蓋が切って落とされた。







 城で待ち構える魔王の配下。それを打ち倒し、魔王城を進む勇者達。
 その連携は固い。勇者と姫武将が切りこみ、守護騎士が魔法でその二人を補助し、変幻自在の剣技で相手を攪乱、それを後で聖女が癒し、支える盤石の布陣。

「よく来たな勇者よ。我こそは魔国四天幹部。ピンハネのデーモンロード!」

「同じく魔国四天幹部! ユトリのイービルキング!」

「同じく四天幹部、セクハラのインキュバスロード!」

「ふっふっふ、そして、魔国四天幹部が最強! 無断タイムカードのエンシェントドラゴノイド!」

 相対するは魔王の腹心である四天幹部。ちなみにそれぞれの名前の『ピンハネ』は魔族の言葉で奪う者を表し、『ユトリ』は怒りを煽る者や愚者、『セクハラ』は淫らな存在という意味で、無断タイムカードは歴史を変える者という意味になる。

「エセ竜人だ! 殺せ! それとインキュバスロードは武将とは言え姫として真っ先に殺さなければいけない気がする!」

「姫武将様! 加護魔法を最大で掛けます! どうかご武運を!」

「食らえ! 軟弱な男を世界から根絶するために歴代の姫武将が研鑽してきた奥義………! 棒金抹殺剣!」

 フルスイングの股間殴打。それはまるであらゆる世界の何かと尻に触れてくる不埒者を憎む女性の怒りを束ねたような、あらゆる男の恐怖する渾身の一撃。
 そのあまりの威力に、直撃を受けたインキュバスロードを直視できる存在は誰もおらず、エルフの守護騎士までもがなんとなく姫武将から距離を取っていた。

「続けて、子孫断絶突き──」

「やめろ姫武将! 魔族だって生きてるんだぞ! それ以上はあんまりだ!」

「下劣なりヒト族! 食らえ! オーヴァータイムカッティング!」

「聖霊よ! 勇者様をお守りください!」

「うおおおおおおおおおお!」

 閃光が弾けるような、刹那の激戦。勇者達は姫武将が最初の攻撃で相手を怯ませた勢いのまま、四天幹部のクビを切り落とさんと嵐のように攻め立てる。

 しかして四天幹部も甘くはない。

 最初に股間を砕かれたインキュバスロードも、持ち前の回復力で立ち直し、妙にぬめりを持つ肉の腕をいくつも召喚して、絡み付くような攻撃をしかけ──

 デーモンロードは魔力を使った戦法を好む守護騎士や、魔力がなければ大したことのできない聖女から魔力を嫌らしく奪う──

 イービルキングは受けたダメージを他者に押し付ける魔法や、全体の動きを鈍くする魔法を使ってチマチマと勇者達の足を引っ張り──

 エンシェントドラゴノイドは勇者達が獅子奮迅の戦いを繰り広げた過去を『無かったもの』として処理し、自分達の蓄積したダメージや成果が全て消え去ったことに苦虫を噛み潰したような表情をする勇者達を嘲笑う。

 しかし、勇者達は諦めなかった。
 肉の腕を操るインキュバスロードの腕をはたき落とし、反撃を仕掛ける。

 魔力を奪うデーモンロードには、魔力を使わないため、奪われても問題の無い勇者と姫武将が詰め寄り、その悪行を糾弾するように、激しい攻撃と、厳しい追撃を叩き込む。

 受けたダメージを擦り付けるイービルキングには、言い訳無用。擦り付けるには大きすぎるダメージを囲んで与え、動きを鈍くする隙すら与えない。

 しかし、その中でも過去を操るエンシェントドラゴノイドは、最後まで勇者達を苦しめた。倒したはずの四天幹部が蘇り、与えたダメージが無かったことになる中、ただ徒に勇者達の魔力と気力を奪っていく。
 だが、歴戦の勇者達は仲間との繋がりを駆使してそれを乗り越える。過去を消すことすら許さない一撃必殺。その攻撃にてエンシェントドラゴノイドを葬り、四天幹部が守護する魔王玉座へと繋がる扉に辿り着いた。

『………ついに来たか。ヒト族(サル)エルフ族(雑草)。そして、竜人族トカゲよ』

 扉の奥からは、地面より響くような、獣の唸りとも聞こえる声がする。
 その威圧感は、先程までの四天幹部がまるで児戯のように思えるほどだった。

『我に跪け。許しを請え。劣等種よ。さすれば汝らには、我ら魔族に隷属する人類種の支配者の地位を与えてやろう』

 その言葉は、誘惑。しかして、それに心を動かされる者は一人としていない。彼らが求めるのは勝利。人類全体の救済のみだ。

『………愚かな者共め。よかろう。魔国の王にして、史上最強の魔王、ガルベロス・ヘルハウンドが、貴様らに引導をくれてやろう………!』

 ゆっくりと、地響きのような音を立てて、扉が開く。玉座にて待つのは、魔王ガルベロス・ヘルハウンド。
 ゴブリン、スライムに並ぶ最下級魔族から成り上がった、獣の王。魔法を持たず、特殊な能力も、厄介な体質も持たず、ただ知性ありし獣としての力だけで魔王に至った執念の王が、そこにいた。

「………二つ、謁見する立場として、反論しておかなきゃな」

 勇者が一歩踏み込む。

「史上最強の魔王、と言うが、歴史上、勇者に負けなかった魔王はいないんだ」

 それに追従して、姫武将、守護騎士、聖女が玉座の間に足を踏み入れる。

「そして、引導をくれてやるのは、こっちだよ。獣の魔王(犬っころ)………!」

 ヒト族と魔族。二つの最強が、激突する。
 聖女の加護が三人の戦士に力を与え、守護騎士の魔法が魔王を巧みに攪乱する。魔王の強烈な一撃を姫武将が受け止め、その隙に勇者が聖剣の輝きを以て断罪の一撃を放つ。
 世界の救済。魔王の脅威の払拭。数々の戦いがあれど、この一戦のためだけに研がれてきた刃が、魔王の心の臓を穿とうと放たれた。

 しかして、相手は魔王。力そのものの具現。
 どこまでも傲慢に、不遜に。魔国に於いて並び立つ者の無いその力は、有象無象など歯牙にも掛けない。
 弱き者は徒党を組み、小さな声を重ねて叫ぶ。しかして支配者である魔王は、いとも単純にその抗議を踏み潰す。
 それこそ支配者の在り方であり、企業所有者(魔国の王)としての絶対の在り方だった。

 その力は、勇者達の巧みな連携すらも小細工と一蹴し、聖女の加護を以てしても届かない圧倒的な攻撃。守護騎士の魔法など気にもかけない究極の防御。竜人族の姫として、竜と遜色の無い守りを持つ姫武将を以てしても防ぐことの叶わぬ猛攻。それらが複合する、勇者を圧倒するほどの戦闘力が、瞬く間に勇者を追い詰めていった。

「くっ、なんて力だ………」

「ふははははは! 勇者よ! その程度か! 我はまだ実力の七割も出していないぞ!」

 勇者の膝が崩れる。聖女は慌てて治癒の魔法を施し、守護騎士と姫武将は勇者を守るために前に出る。しかし、すでに姫武将の鎧はボロボロになり、守護騎士の魔力の輝きも弱っている。傷も、少なくはない。

「聖剣の最後の封印を解いても七割だと言うのか………」

 治療を受けてもなお消しきれないダメージ。そして、底の見えない魔王の力に、勇者が呻く。

「諦めるな勇者よ! その命が尽きるまで、己が使命を全うする! それが竜人族の習わし!」

 それを叱咤する姫武将だが、竜人族の高い治癒力と耐久力を以てしても、無視できないほどのダメージが蓄積し、今この瞬間にも彼女が崩れてもおかしくはなかった。
 そんな姫武将を見て、エルフの守護騎士は、覚悟を決めたように笑った。

「くっ、ここは、仕方がないね。僕が囮になる。その隙に、勇者君は逃げてくれ」

 次に希望を繋ぐため、守護騎士は死地へと踏み込む。世界樹より切り出した宝剣の輝きは、その一瞬の守護騎士の命の瞬きのように、激しく煌めく。

 聖女様は、それを見ていることしかできない自分に歯噛みしました。
 聖女様の魔法は、ガルベロス・ヘルハウンドのような闇の要素の薄い魔族には効果がありません。だからこそ、他の三人に多くの加護を与えて、最高の治療を施してはいましたが、それだけしかできない自分が情けなくなりました。

 自分にもできること、それを必死に考えます。
 王族として、導くものとして、率いるものとして、ヒト族の、人類全ての明日のために涙を流す聖女様。

 その瞬間、空間が揺れました。
 それは、魔法に秀でた守護騎士さんと聖女様以外には感知できないほど小さな揺れでした。
 守護騎士さんはそんなものを気にしている余裕がありませんでしたが、聖女様は空間の揺れと同時に発生した、全聖霊が震え上がるほどの死と闇の気配を感じて、思わず息を呑みました。

 ドスン、と一歩。巨獣のような足音。

 ガシャガシャッ、と雑踏。乾いた足音。

 それらが波のように扉の外から近付いてきて──

 聖女様にだけ聞こえる、聖霊の声。それら全てが一斉に叫びました。

『──逃げて!!』

 闇が慟哭しました。
 一直線に、勇者様と姫武将さん、聖女様を弾き飛ばすように放たれた闇の一撃が、邪魔だと言わんばかりに守護騎士さんを吹き飛ばし、魔王様に直撃します。

「何者だ!」

 魔王様の叫びの先。勇者様達が逃げようとしていた高さ十メートル程の廊下の先に、巨大な影が現れます。
 聖女様は、それを見て、思わず膝をついてしまうほどの恐怖に教われました。

 それは、大量の死霊でした。槍を持つ骸骨や、動く腐った肉体、原型も留めぬ様々な死体を粘土のようにくっつけたような異形の化け物、そして、半ば白骨化した頭が三つある巨大な狼です。

「何者だ、だって?」

 低い、低い。怒っているようで、疲れたような悲しい声が響きます。

「貴様の下々の負担を考えない国家運営の被害者だ馬鹿野郎!」

 狼が駆け出します。唖然とする三人を軽々とを飛び越え、守護騎士さんを移動の風圧で吹き飛ばし、魔王様に一瞬で肉薄します。
 魔王様がそれを、姫武将さんすら捻り潰すほどのパワーで弾き飛ばしますが、それと同時に、聖霊すらも恐怖する濃縮された『死』がそれから飛び降りていました。

 暗い、冥い。どこまでも深い闇が広がります。
 聖剣の瞬き、宝剣の煌めき、聖霊の輝きをも呑み込むような無限の闇は、その『死』──ボロ布を纏う白骨死体の持つ封筒のようなものに収束し、暴力的な魔力の波動を伴って、魔王様に叩きつけられました。

「こんな糞みたいな国の国家公務員なんざ辞めてやらあっ!」

 白骨死体の絶叫が響き渡ります。聖剣の一撃でも怯むことの無かった魔王様が、その闇の一撃を受けて、かなり離れた玉座に叩き付けられます。
 その闇の魔法の威力を物語るかのようなその光景に、つい先ほど竜の上で呼んだ、歴代聖女の手記を思い出しました。

「下級の死霊に擬態し………聖女の結界すら破壊するような力を隠す魔族………」

 聖女様は無意識のように言葉を漏らします。

「死にたくない! 戦いたくない! 前線なんて死んでもごめんだ! だから『変異ミュータニング』を拒否り続けた! 何度勤め先にヒト族の軍隊が攻めてきて撃退して『霊滓エナジー』が溜まってもひたすら『変異ミュータニング』したくないと願い続けた! 見た目がワイトなら誰も気に止めないからだ!」

 悲哀すら感じられるほどの絶叫。まるで誇れない、生への渇望。

「卑屈なまでに生に執着する死霊………」

 しかし、それは死霊とは思えないほどのヒト族的な感情で、その白骨死体の背中は、歴戦の強者でもなんでもなく、ただただ人生に疲れてとぼとぼと帰路に着く、王城の文官のようにも見えました。

「ま、まさか………先々代魔王………つまり、千年もの時を生きていたと言うのか!?」

「ああ。仕事してたらあっと言う間だった。だがもう………その仕事も終わりだ。今月分の給料はくれてやるぜ………どうせ減給で100ゴールドくらいだしな」

 白骨死体は空間魔法を発動しようとします。練り込まれる魔力の膨大さからして、また遠くに飛んでいくつもりなのはわかります。

「ま、待ってください!」

 聖女様は咄嗟に叫びました。直感が、この白骨死体………普通ならこん棒を持った一般人でも殴り倒せる最下級死霊であるワイトが、この状況を打開する切り札になると告げていました。

「ヒト族の聖女様ですか………ご苦労様です。私一介のワイトはヒト族に危害を加えるつもりは無いので放っておいてください」

 そのワイトは、業務的に、それでいて怯えた様子さえ見せながら、転移を急ぎます。
 聖女様は必死に思考を巡らせました。今までのワイト氏の言動、そこからして、ワイト氏を引き留めるための手段を模索します。

 そして──

「貴方は今、魔王の手下をお辞めになられたのですね?」

「はい。ですので、ヒト族と敵対するつもりは………」

「私はヒト族最大の国家の王女! ですから、貴方の新たな雇用主になることができます! 週休二日! ボーナスも保証します! 給料も手取りで300ゴールドを約束いたします! どう、共に魔王と戦ってくださいませんか!?」

 もう無我夢中で雇用条件を提示していました。現実的で、嘘だとは思われないよう、咄嗟の条件でしたから、今年の新人文官の雇用条件と全く同じです。
 しかし、それでも効果は劇的でした。まるで、雷に打たれたかのように震えながら、ワイト氏が返答します。

「………社長とお呼びすれば宜しいでしょうか?」

「はい! では社長命令です! 魔王を倒しなさい!」

「わかりましたあああああああ!」

 ワイト氏の絶叫。そこから始まる、勇者達の逆転劇。これもまた、聖女の綴る手記として、永遠に語り継がれて行くのでした。
ワイト氏「ほー。あの時はそんなに切羽詰まっていたのですね」
王女様「ええ、もし貴方がいなかったらと思うと………」
ワイト氏「四天幹部も合体して合成魔獣ノンコンプライアンスになってましたから、いやはや社長が無事で良かった。そうだ社長。勇者様からお手紙を預かっていまして………」
王女様「勇者様から? もしや奥さまがご懐妊なされたとか………」


王女様「ワイト、今すぐ世界樹に送っていただけますか? 守護騎士様と姫武将様が結納されるそうです」
ワイト氏「おお、それは目出度い」

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