人魚姫の心壊
たゆたう中で上から差し込む光が視界がぼやけて徐々に薄れていく。
冷たい、と感じる筈の温度が今はもう心地よく感じてしまう程に、身体が冷えきってしまっているのかもしれない。
気泡がぷかりぷかりと浮いては消える。
宝石みたいなのに、その美しさは一瞬で溶けていく。
泡と消える、という表現はやはり正しくて、童話にもある儚き悲恋の象徴の様な気がした。
「ーーーーー、ーー…」
呟いた言葉は波に飲まれた。
底へ底へと沈む度に意識は浮いて何処かへ連れ去られてしまいそうになる。
ゆらぁり、ふわり。
瞼を閉じれば、遂には深海の暗さに染まった。
このまま寝てしまおうか、永遠に。
そうしたらきっと気持ち良いのだろうな。
微かに何かが聞こえる。
それは沈み掛けた意識を浮上させるのには充分だった。
揺り起こすは、波の音でもましてや綺麗な歌声でもない。
人間の声だ。こちらに声を掛けている。
水中で聞こえ辛い中必死に耳を傾けると、その声はクリアな物へと変わっていった。
「ねぇ、あんたプールで何やってんの?」
〜此処からも厨二病の反論〜
ザバァ。
プールから一人の金髪の少女が現れた。
何故か制服のまま入っていたらしく、水浸しだ。
「ふっ…深海に眠りし我輩を喚び起こすとは、良い度胸であるな、貴様!」
「えっ、何言ってんのこの子」
「ふはは、恐れのあまり我輩の言葉すら理解出来ぬか!!」
「いや、もうプール閉める時間だからそこの鮒を引き揚げて来いってセンコーからのお達しが」
「鮒は淡水魚で海の魚ではないぞ!せめてジュゴンと呼ばんか!」
「何でこの子そんな詳しいの、博識のアホの子とか救えないわ。
大体ジュゴンとかどっから出てきたのよ」
「知らんのか!?ジュゴンやマナティは人魚姫のモデルとなったのだぞ!我輩を呼ぶのであれば当然ジュゴンかマナティであろう!!」
「いや、だから何で人魚にこだわってんの」
「ちなみに、本来人魚姫のモデルとなったのはジュゴンであって、マナティは違うぞ。似ているから混同されがちであるがな!」
「えっなになに、会話のキャッチボールやめたの?いつやめたの?」
「だからこそ我輩を呼ぶ際には人魚姫、またはジュゴンとでも呼ぶが良い!!」
「やべぇ…変なの引き揚げちゃったよ…リリース出来るかな…」
*
「へっ、くし!」
翌日、朝礼で紹介された新生徒会長は例のジュゴンだった。
壇上で見る限り昨日の様な訳の分からない言動はなく、粛々と就任の挨拶を述べている。
周りの生徒からは瀟洒な雰囲気と整った見た目に、既に人魚姫と呼び名まで囁かれている。
しかしあたしは人魚姫とだけは呼んでやらない、絶対にだ。
何故人魚姫なのかは色々と意見の分かれるところだが、一番の原因は所々湿った髪と手元のタオルかな。
またプール無断使用しやがったアイツ!
ちなみに、あたしは去年と同じく副生徒会長に任命された。
あたしは貝になりたい。
完.
蓋を開けたらただのギャグ(ry…すみませんただの悪ふざけです。