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第四章 亀裂

近所が賑やかになってきた今日この頃。俺の家は静かだった。

虹音と過ごしたクリスマス二日間は、あっという間だった。イヴの日は、二人でコンビニで買ったチョコレートケーキを食べ、俺のお気に入りの曲ばかり入ったCDを、暗くした俺の部屋で聴いて過ごした。虹音もこの日は静かにしていた。

「クリスマスに風邪だなんて、ついてないね。」

虹音は、満面の笑みを浮かべながら、残念そうな声でそう言った。

「人の不幸を笑うなんて、お前ろくな人間になんねーな、将来。」

俺はささやかな復讐をしたが、虹音は同じ笑顔で「そーだね」と言った。

コノヤロ〜…

しかし次の日には風邪も治り、二人で家の中でトランプをしたり、例の商店街で買い物をしたりした(一応お正月の飾りつけはしてあった)。

夕食を食べていると、雪が降ってきた。

「うおー!雪だ!」

虹音は窓を開け放した。俺は、あまりの寒さに掛け布団をベッドから引きずり降ろして、マントみたいに身体に巻きつけた。

「さっきからやけに寒いと思ったら…。おい、閉めとけよ。」

コーヒーの入ったマグカップの温かさをありがたく思いながら、原因不明で壊れたストーブを恨んだ。

あれから降ったり止んだりとあいまいな雪は、大晦日の今日、とうとう足首の高さにまで積もった。雲の隙間から顔を覗かせた太陽が、キラキラと雪を輝かせる。雪がその光を反射するので、眩しくてまともに外を見ることができない。


夜、俺は特にする事も無く、ベッドの上で大の字になっていた。

「香美って、年賀状書かないんだね。」

いつのまにか側に立って、俺を覗き込んでいた虹音が言った。黒のタンクトップの上に、襟の広く開いた無地の白いセーターを着て、色褪せたジーパンを履いている。本当にこいつの体は細い。もし巨人がこいつの体を軽く握ったら、ペショって潰れてしまうんじゃないだろうか…

「送る相手がいないんでね。そーゆーお前は?書かないのか。」

よっこいしょと起き上がって、壁にもたれた。素早く俺の横に、虹音が同じように座る。

「…なんでお前はいつも俺の横に来るんだよ。」

俺は眠たくて、思わずぶっきらぼうに言ってしまった。しかし虹音は気にしていない様子だ。

「香美の隣にいるのがスキだから。」

さらっと、特に恥かしがりもせずに虹音が言った。…聞いてるこっちが恥かしくなる。

どうしてそういうコトが言えるんだよ、お前は…。

「香美さ、一回学校で事件に巻き込まれたことあるよね。」

何分かの沈黙があった後、虹音は思いついたように言った。

「ああ、そんな事もあったかな。」

虹音の突然の思い出話が、俺の記憶の中から十月のあの日を引っ張り出した。

「それがどーかしたか?」

「あの時さ、香美が本井と佐々木を説得したじゃない?」

虹音の目が、あの雨の日と同じように、どこか遠くを眺めていた。

「あぁ、そお…だったかな。それが?」

俺はそんな虹音の横顔を眺めた。あの雨の日と同じように…

「香美ってさ、あんな奇麗事言ってたけど、本当はそんな風に思ってないんじゃない?」

虹音が俺を見た。

「…え?」

俺も虹音を見た。

俺達は長い間お互いを見合ったままの姿勢で、動かなかった。正確に言うと、俺は『動けなかった』。

「どういうことだよ。」

聞き間違い…だよな?

俺はそう質問するように言った。

「僕、香美が本当に正義感だけで動いたのかなって、ずっと思ってたんだ。でも、違うよね。香美さ、本当は佐々木のことが好きだったんじゃないの?佐々木は俺が守る!みたいな?アハハッ、かっこい――」

「やめろっ!!」

俺は喉が痛くなってしまうほどの大声で叫んだ。俺の声の後に、キーンという音が部屋を支配した。やめろ…やめろ…

「お前、どうしたんだよ。どうして急にそんなこと言うんだよ!」俺は、気がつくとベッドから立ち上がって、虹音を見下ろしていた。声が震えている。しかし、今は必死で抑える。虹音はそんな俺を、あの大きな黒い瞳の目で見つめていた。

「別にイミはないよ。ずっと思ってたことを言っただけ。バカだね、香美。」

感情のこもっていない声で、虹音はそう言った。

何なんだ?どうしてこういう事になってるんだ?!分からないよ!

俺は、虹音を部屋に残し表に飛び出した。そして、人を掻き分けてあの場所に向かった。途中、除夜の鐘が鳴り響いた。

最悪の年明けだ。

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