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最終章 暖かな陽射し

「ねえ!これどこに置けば良い?」

吾未は、小さなダンボールを持って、階段の下をウロウロしていた。俺は下に降り、それを持ってやった。

吾未と母さんは、俺と天子姉さんが暮らしていた家に引っ越して来た。もちろん、衣麻莉さんも一緒に住む予定だ。

「ぅわ重っ!なんだよ、これ。」

俺は階段の二段目にそれを置いた。

「私のコレクションたち!」

吾未がイタズラっぽく笑ってから、言った。

「引越しの荷物はこの間全部運んだろ?」

俺は呆れてしまった。吾未は、小さい頃から石をコレクションしている。俺も見せてもらった事がある。エメラルドグリーンの透き通った石なんかがあって、一つ一つ見ると「おぉ!」と思うけど、それがごちゃごちゃと箱の中に入っていると、吾未には悪いが…ただの石だ。

「二人とも、着替えたの?」

リビングから、母さんの呼ぶ声がした。

「「今着替えるとこ!」」

二人でそう言ってから、俺達はハモったことが可笑しくて笑った。

たくさんの出来事があったおかげで(せいで)、あの冬休みは終わってしまった。俺はまだ十六年しか生きてないけど、こんなにたくさんの事を経験できて、ある意味幸運なのかもしれない。不幸な事は、これから起こる幸せで塗り潰していけば良い。俺はそう思う。

三学期も春休みもあっという間に過ぎ去り、俺達は二年生になった。新学期、吾未と空音は、俺達と同じ高校に無事編入した。空音はそれまで、おじさんの妹の家に泊めてもらっていて、学校にも行っていたらしい。虹音も退院した。そして、俺達は何故かみんな同じクラスになってしまった。偶然なのか…?同じ名前が二組四人に、同じ顔が一組だと、先生達も大変だ。ご苦労様です…。

そして今日は、新学期始まって最初の土曜日。俺達は、みんなで天子姉さんの結婚式に行く事になっていた。


教会の中には、身内の人たちがたくさん来ていた。横長の木の椅子に吾未と座っていると、後ろから虹音と空音がやって来て、俺達の後ろに座った。

「ギリギリだな。」

振り返って、俺は二人を交互に見ながら言った。吾未は目を真ん丸くしている。あまりに二人が似ているので、驚いているのだろう。

「香美が呼び出したんじゃないか。」

制服を着た虹音が、俺を非難するように見た。空音も、ネクタイはしないで、制服を着ていた。俺と吾未もそうしている。

「そういえばさ、なぜか俺達みんな同じクラスだよな今年。」

空音が吾未を見ながら言った。吾未は、まだ人見知りが治っていないのか、少し顔が赤くなった。

「あれ、吾未って妹じゃなかったっけ。」

虹音が言った。

「二卵性双生児なんだよ。俺が父さんに似てて、吾未は母さんに似てるんだ。」

俺は吾未の肩を、励ますように軽く叩きながら言った。吾未は、決心したように二人を見て微笑んだ。

「二人は、そっくりだね。虹音と空音…だっけ。」

「そう。よろしくね。」

虹音が言った。


俺達は外に出た。結婚式は、一通り終わった。別の場所で行われる披露宴までは、まだ時間がある。

「素敵だったね!僕、感動したよ。」

虹音が、はしゃぎながら言った。虹音の隣にいる吾未が、嬉しそうに笑っている。

「虹音、いい加減僕っていうのやめろよ。一応女なんだから。」

空音が、呆れたように笑いながら言った。

「なんだよ、一応って!」

虹音がバシっと空音の背中を叩いた。俺達は、それが面白くて笑った。

と、駐車場の近くがざわめいた。何事かと、俺達はそっちを見た。

「え?!」「父さん?!」

俺に続いて、吾未が叫んだ。白のTシャツに、ジーパン姿の父さんが、確かにそこにいる。

その人は、駐車場から俺達の方に歩み寄ってきた。俺達の近くにいた母さんと姉さん、衣麻莉さんも、驚きで固まっていた。

「吾未、香美…心。」

父さんは、俺達三人の名前を、ゆっくりと呼んだ。吾未の体が、震えている。しかし、俺はもう何も怖くなかった。虹音の言った言葉が、頭の中に刻まれている。

「父さん。」

俺は父さんに近づいて、言った。父さんは、昔と変わらずハンサムで、優しそうな目をしていた。

「三人とも、本当にすまなかった。俺は、酷い事をしたんだ。お前達が怖がるのも、無理はない。でも、俺は…」

父さんは、寂しそうな顔をした。俺は、母さんと吾未を見て、それから父さんを見た。

「分ってるよ。本当は、俺達の事を大切に思ってくれてるんだろ。」父さんは、俺を見て、そして抱きしめてくれた。頭をクシャクシャと撫でてから、「ありがとう」と言った。吾未は、しばらく見ていたが、やがて泣きながら、父さんに飛びついた。吾未の頭も、クシャっとなった。

「心…。」

何時の間にか、母さんが俺達の所に来ていた。目には、涙が溢れている。

「本当に、すまなかった。いろいろ、迷惑をかけて…。もう、お前達に会わない方がいいと思って、しばらく遠くに暮らしていたけど、でも、やっぱり俺には、心が必要なんだ。」

父さんは俺達を放して、母さんに近寄った。母さんは、少しの間を空けて、静かに言った。

「私にも、あなたが必要よ。これからもずっと。」

姉さんが、衣麻莉さんと顔を見合わせて、笑っていた。俺達も、やったー!と叫びながら、笑った。何時の間にか集まっていた人たちも、喜び合っていた。その中から、父さんの両親…おじいちゃんとおばあちゃんが出て来てた。お父さんの父親だけあって、とても格好の良く、おばあちゃんは美人で、俺達の自慢だ。

「蝶乃。おまえは大勢の人たちに迷惑をかけた。その時間は、もう取り戻せないものだ。」

おじいちゃんが、威厳ある低い声で言った。

「はい。」

父さんは、しっかりとおじいちゃんの目を見た。

「だから、これからはおまえが責任を持って、心さんや香美、吾未を幸せにしなさい。分ったな。」

「はい!」

父さんは嬉しそうに、はっきりと返事をした。おじいちゃんは、優しく微笑むと、おばあちゃんと一緒に、ゆっくりと駐車場に向かっていった。


「そういえばさ、香美もなんか言ってたよなぁ。びょ・う・い・ん・で♪」

披露宴が行われるホテルに向かう車の中で、突然空音が発言した。

「え、何を?」

空音の隣の吾未が、好奇心で目をキラキラさせながら言った。空音が、俺と、俺の隣に座っている虹音を見て、意味ありげにニヤリと笑った。

「あ!」

…今の今まで忘れてた。

俺は慌てふためいた。虹音も、ようやく思い出したらしい。が、きょとんとしている。

「たしか…「もっと虹音の側にいたい」とか、「俺、虹音がいないとだ――」

「だあーっ!!まてまてまてまて!」

俺の顔は、たちまち熱くなった。

「なんだよ?」

空音が意地悪く笑う。

「あぁ〜。」

吾未も同様に笑った。

「あぁ〜とか言うな!おいっ虹音、フォローしろよ。」

俺は虹音を見た。

「ん〜?」

虹音は悪戯っぽく笑うと、窓を開けた。風がボーボーと入ってくる。春の匂いがする。

「…ったく。」

俺は、コソコソと何か言っては、ヒッヒッヒッと笑う薄気味悪い二人を無視し、虹音の横顔を見た。通り過ぎていくサクラ並み樹と虹音が合さって、美しい景色となっていた。俺も、窓の外を見る。風に舞う花びらたちが、どこまでも青く澄み渡る空に舞いあがり、暖かな日差しが、それらを照らしていた。

これも大分前に書きました。初めて完結させた小説です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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