第九話
アスランとマイカは、幼い頃からリリアの事だけを考えて生きてきた。
小さい頃はリリアとリリアの兄も含め、よく四人で遊んでいた。
リリアの兄が亡くなると、リリアはアスランとマイカにべったりになった。
アスランが勉強をしている時は、リリアはアスランの隣に座って本を読んだり絵を描いて、アスランの勉強が終わるのを待った。
リリアはいつも途中で飽きて眠ってしまうので、その度アスランは、
「仕方がないな」
と、小さく笑って勉強を中断し、リリアを抱き上げて、リリアの部屋のベッドまで連れて行った。
マイカが掃除をしている時は、リリアが見よう見まねでマイカを手伝った。
「お嬢様、危ないから手伝いなどしなくて良いですよ」
いくらマイカが言っても、リリアは、
「一緒にやりたい」
と、箒やハタキを使う。
結局最後はリリアが何かを壊して、マイカの仕事が増えてしまうのだが、マイカはそんなリリアが愛しかった。
アスランとマイカが二人でいる時は、大抵リリアの話になる。
マイカは、そのひとときが楽しかった。
しかし、リリアの事を笑顔で話すアスランを見ていると、何故か胸が締め付けられた。
たとえ幼い頃から仲が良かったとしても、相手は次期王になる者で、自分はそれに仕える者だ。
身分が違うことぐらい充分心得ている。
アスランの口から、
「将来リリアと結婚をし、リリアと共にこの国を守っていく」
という言葉を改めて聞いた時、思わずマイカの目から涙がこぼれた。
「どうした?」
「何でもありません……」
二人はそれ以上何も言わなかった。
何かを口にしても何も変わらないことぐらい、お互い分かっていたからだ。