第七話
恵みの雨は国中に行き渡り、国民たちは長らく休んでいた仕事に戻り始めた。
市場に新鮮な野菜や果物が並び始めると、次第に人が集まり、少しずつ国中が活気づいてゆく。
砂ぼこりにまみれていた建物も雨が綺麗に洗い流し、白壁の町並みが数年ぶりに姿を現した。
そろそろ水竜が城に戻り、ラルフも役目を終える。
王はラルフとアスラン、リリアを王の間に呼んだ。
リリアが王の間に呼ばれるのは生まれて初めての事だ。
リリアは長年避けられていた父王を前にして、とても緊張していた。
王はラルフのもとへ歩み寄り、感謝の言葉を述べた。
「この国も長年の苦しみから解放され、ようやく未来に希望が持てるようになった。
ラルフ、国を救ってくれたことを本当に感謝している。
これで私も役目を終えた。
さぁ、約束のものを持って行ってくれ」
「約束?」
何も知らないリリアは、不思議そうに王とラルフの顔を見た。
ラルフはリリアの顔を少し見て静かに笑い、
「俺は『例えば』と言ったまで。
老いぼれた王の命など欲しくはない。
代わりにリリアを花嫁として連れていく」
と、言った。
「な……!」
王は驚き、アスランは素早くリリアを自分の後ろへ引き寄せて身構えた。
「今さら何を驚いている?
この国にとっても王にとっても、リリアは必要のない人間なのだろう?」
ラルフが笑いながら言う。
その表情は悪魔そのものだ。
「馬鹿な!」
「ラルフ、どういうこと? アスラン、教えて」
怒りをあらわにする王やアスランに困惑したリリアは、今にも泣きそうな顔をしている。
その顔を見たラルフは、また笑い、
「一週間だけ時間をやろう。
その間に話し合えば良い」
そう言って、部屋から姿を消した。