第六話
リリアは毎朝マイカに髪を結ってもらう。
マイカはアスランと同い年で、昔から城に仕えている者の娘だ。
マイカもアスランと同様、小さい頃からリリアと一緒に育ち、リリアとは姉妹のように仲が良かった。
しかし、リリアとアスランの婚約が決まってから、マイカはリリアとアスランに少し距離を置くようになっていた。
マイカはいつの間にかリリアのことを『お嬢様』と呼び、アスランのことも『アスラン様』と呼ぶようになっていた。
今朝もリリアはマイカに髪を結ってもらっていた。
「お嬢様、額の傷が薄くなっていますよ?」
マイカに言われ、リリアは目の前の鏡をのぞきこんだ。
額に傷を負って以来、リリアはなるべく自分の顔を見ないようにしてきた。
確かにあんなに大きく目立っていた傷跡が、今は小さく薄くなっている。
「ねぇ、マイカ。マイカは好きな人がいる?」
「突然どうしたのですか? お嬢様」
「マイカ、本当はアスランのことが好きでしょう?」
マイカは一瞬、リリアの髪をとかす手を止め、鏡越しにリリアの顔を見たが、静かに笑って、
「もちろんアスラン様のことは好きですよ。
でも、お嬢様のことも大好きです」
と、いつものようにリリアの髪を結い始めた。
「お嬢様はアスラン様と結婚し、この国を守っていかなくてはなりません。
アスラン様は、小さい頃からお嬢様のことを一番に思ってきました。
これからもずっと、お嬢様のことを大切にしてくれますよ」
マイカは再び鏡越しにリリアを見つめ、
「はい、出来ました。
お嬢様の幸せは私の幸せなのですから……。
幸せになってくれなくては困りますよ」
と、笑顔で言った。
でも何故かその笑顔は、リリアの目には悲しげに映った。