第五話
リリアは自分のベッドでうたた寝をしていた。
今までカラカラに乾いていた空気が、今はしっとりとした風を運んできて心地良い。
リリアは夢を見ていた。
死んだはずの母や兄が生きていて、父がこちらを見て笑っている。
そこにはアスランもいて、色とりどりの花が咲きほこる庭を皆でバルコニーから眺めている。
いつもは悪夢で目を覚ましていた。
兄の葬儀中に、怒りに満ちた表情の父に突き飛ばされ、目の前の物全てが真っ赤に染まっていき、やがて暗闇の広がる奈落から出てきた無数の手に足を引っ張られ、引きずり落とされていく夢。
なのにどうして今日は、こんなに優しい夢を見ているのだろう。
リリアが目を覚ました時、目の前にラルフがいた。
ラルフはリリアのベッドに腰をかけ、リリアの額に手を当てたまま、ずっとリリアを見つめていた。
リリアが慌てて体を起こそうとすると、ラルフは、
「じっとしていろ。もうすぐ終わるから」
と、静かに言った。
リリアは何が終わるのか、さっぱり分からなかったが、そのままラルフと話し始めた。
「ラルフ、あの竜はラルフのいる世界から来たの?」
「ああ」
「ラルフのいる世界に妖精はいる?」
「ああ」
相変わらずリリアの質問に対して、ラルフの答えは短かったが、リリアはまるで今見た夢の続きを見ているような、とても幸せな気持ちになった。
それから毎晩、ラルフはリリアのベッドに訪れた。
気が気でならないアスランは、ラルフが部屋から出てくるまでリリアの部屋の前で立っていた。
ラルフはリリアが眠りにつくまでリリアの額に手を当て、リリアの質問に答えた。
リリアは小さい頃から城の外へは出してもらえず、本ばかり読んで育ったので、ラルフのいる世界への興味が尽きなかった。
リリアは時折、自分の額の上に置かれたラルフの手が気になって、
「これは何かのおまじない?」
と、ラルフに聞いた。ラルフはその都度、
「ああ」
と、短く返事をするだけだったが、その眼差しは優しくて、リリアは安心して眠りにつくことが出来た。