第三話
次の日も雨は降り続いた。
これも魔術のせいなのか、枯れ果てていた木々や花々もぐんぐん成長し、土色だった世界が緑や花の色で鮮やかに彩られていった。
リリアは本でしか見たことのなかった美しい景色や、初めて聞く雨の音、風の音、小鳥やカエルたちの鳴き声全てが新鮮で、部屋の中でじっとしていられなかった。
ラルフは水竜が国中を駆けめぐり戻ってくるまで数日はかかるので、バルコニーで外の様子を見ながら、アスランとお茶を飲んでいた。
アスランは、王の命を奪おうとしているラルフの事が好きにはなれなかったが、ラルフに聞いておきたいことが沢山あった。
「アスラン! ラルフ!」
二人の元にリリアが駆け寄ってきた。
「リリア、部屋から出てはいけないと何度も言っているだろう」
アスランが軽くたしなめる。
「大丈夫。今度は見つからないように、こっそり出てきたから」
「そういう問題ではないだろう。さあ、部屋へ戻ろう」
アスランは立ち上がり、リリアを抱きかかえた。
「どうして病気でもないのに外に出てはいけないの?
アスランの意地悪!」
リリアは膨れっ面でアスランに向かって文句を言った後、
「ラルフ、今度私の部屋に遊びに来て」
と、昨日と同じように手を降った。
翌朝、リリアは自分の部屋から窓の外を見ていた。
空は明るく晴れ渡っているのに、優しい雨が木々を濡らし続け、キラキラと輝いて見える。
本で見て、ずっと憧れていた世界が目の前に広がっている。
そこに黄金の髪をなびかせたラルフが通ると、リリアは本当に本の中に入り込んでしまったような気分になった。
「ラルフ!」
リリアは急いで窓を開け、ラルフに手を降った。
ラルフの隣にいたアスランは、笑顔で手を振るリリアを見て、少しムッとしていた。
ラルフはリリアの方を見上げたかと思うと、パッと消え、いつの間にか、驚いているリリアの背後に立っていた。
振り向いたリリアは、
「ラルフって空も飛べるの?」
と、目を輝かせた。
ラルフは小さく笑って、リリアのベッドに腰をおろした。
「ラルフの住んでいる世界も雨は降る?」
「ああ」
「ラルフの住んでいる世界も虫や鳥は飛んでいる?」
「ああ」
リリアの質問は尽きそうになかったが、ラルフは不思議と面倒に思わなかった。
「ラルフが……」
ラルフは、目を輝かせながら質問を続けるリリアの顔を見ていると、ふと、リリアの額の傷が気になた。
ラルフがリリアの額にそっと触れようとした瞬間、リリアはさっと傷を隠して身構えた。
リリアは俯いたまま黙り込み、完全に表情がこわばっている。
そこへアスランが来て、
「リリア。俺はまだラルフに話があるから」
と、ラルフを部屋の外へ連れ出した。