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ねがいごと  作者: 流星
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第十八話

 リリアとラルフが朝食の用意された部屋へ行くと、ハイドとビンセントが待っていた。


「遅いぞ。朝食が昼食になったじゃないか」


 いつもの調子に戻っていたハイドを見て安心したリリアは、クスッと笑った。


「リリア、今笑っただろう。何か隠しているな?」


「何も隠していないよ」


「怪しい……。俺はこう見えても鼻が利くんだぜ」


 ハイドは鼻をスンスンと鳴らした。


「本当に何もないって」



 リリアが笑うと、ハイドもリリアの様子に安心し、ニカッと笑った。


「リリア、今日は何をして遊ぼうか」


 ハイドが聞くと、リリアは人形たちが運んでくる料理を食べながらしばらく考えていたが、突然思い付いたように、


「あ、何か書くものないかな?」


と、言った。


「ん? 絵でも描くのか? 俺は絵はあまり得意じゃないな」


 ハイドがそう答えると、ラルフがペンをスッと出してきた。


「あ……、ありがとう」


 リリアは今朝のラルフとの会話を思い出し、ラルフの顔がまともに見られなかった。


「リリア、何でそこで顔が赤くなるんだ」


「なっていないよ」


「いや、なっている。耳まで赤くなっている」


「なっていないって」


「ハイド、いい加減にしろ」


 ラルフとビンセントが同時に同じ言葉を言ったので、リリアは思わず吹き出した。


 釣られてハイドも笑い、声には出さないが、ラルフとビンセントも笑っていた。

 小さい頃から一人で食事をとっていたリリアにとって、初めて『楽しい』と思える食事だった。


 食事を終えた後、リリアはペンを持って屋敷内を探索し始めた。


「リリア、結局そのペンで何をするんだ?」


 付いてきたハイドが不思議そうに聞いてきた。


「この屋敷にいる人形たちに名前を付けていくの」


「ああ……、前に言っていたな。

そんなことをして何が楽しいのか分からない」


「何にでも、名前を付けると愛着が湧くものよ」


「へぇ……」


 ハイドは、あまり興味無さそうに返事した。

 リリアは、そんなラルフの態度を気に留めず、人形を探し始めた。


「まずは……。毎朝髪を結ってくれる、この二人」


 リリアは一体の人形の口元に、ペンでホクロのような点を付け、手の甲に『ローズ』と書き入れた。


「よろしくね。ローズ」


 もう一体は、目の下に点を付けて、手の甲に『バイオレット』と書き、


「これで見分けが付いたわ。バイオレット」


と、人形に向かって微笑んだ。


 ハイドはソファーに寝転がって、つまらなそうに、


「リリア、この屋敷に人形が何体いると思っているんだ?

 今日一日では終わらないぜ」


と、アクビをしたが、リリアは、


「何日掛かってもいいの。一人で行ってくるね」


と、張り切って部屋を出た。


「仕方ないな……」


 ハイドは、渋々リリアの後を追った。


 屋敷には二種類の人形がいるようだ。

 一つはメイド用の黒いドレスを着た女性の形をした人形で、もう一つは黒髪に黒いスーツを着た男性型の人形。


 リリアは、いつも食事を運んでくる男性型の人形に

『エイゼン』という名前を付けた。


「何でエイゼンって名前にしたんだ?」


 ハイドが聞くとリリアは、


「私の教育係だった、怒りんぼうのエイゼン先生に少し似ているから。

 エイゼン先生は怒ってばかりで、一度も誉めてくれなかったな……」


と、懐かしそうに答えた。


「リリア、そのペン貸してみろ」


「え? どうするの?」


 リリアがペンを渡すと、


「いつも怒っていたのなら、眉を吊り上げた方がいいだろう」


と、ハイドが人形に眉を描き足したが、手元が狂ってちぐはぐな高さの眉になった。


「ハイド、右と左の高さが合っていないよ」


「おかしいな……。もう少し描き足そう」


 そんなことを繰り返しているうちに『エイゼン』は極太の眉になってしまった。


「酷い……」


「ハハ。こんな奴もいるだろう。

 なかなか面白いな。次の人形を探そう」


 次第にハイドも夢中になり、二人は日が暮れるまで人形に名前と特徴を付けていった。


「疲れたな……。リリア、そろそろ夕食の時間だ」


「うん。続きは明日にする」


 二人が揃って夕食が用意された部屋へ行くと『太眉のエイゼン』がワインを運んで来た。


「何だ、これは……」


 いつも冷静なビンセントが珍しく驚いた顔をした。


「違うの。これはハイドが描いたの」


「あ! リリア、汚いぞ! 俺のせいにして」


「フッ……」


 ラルフが小さく笑ったあと、指を鳴らすと『太眉のエイゼン』たちは、見分けがつく程度に顔が変わっていった。


「……何だ。最初からラルフに相談しておけば良かった」


 リリアの言葉に、ハイドは悔しそうな顔をしながらワインを口に運んだ。


「良かったね。エイゼン」


 リリアがエイゼンに向かって言うと、エイゼンは無表情のまま、空いた皿を下げた。


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