第十四話
リリアとハイドが屋敷に戻ると、既に夕食の準備が整っていた。
リリアとラルフ、ハイドとビンセントの四人でテーブルを囲んだが、リリアは父王とアスランの三人で食事をとった時のような居心地の悪さを感じた。
常にビンセントからの憎しみに似た強いプレッシャーを感じずにはいられなかったからだ。
「ラルフ、夜会の準備は進んでいるか?」
ハイドはリリアとビンセントの間の空気を全く気にする様子もなく会話を始めた。
「ああ。あらかた終わった」
「俺は今日、リリアの夜会用のドレスを作りに行ったぜ」
ハイドは同意を求めるようにリリアの顔を見た。
リリアがハイドを見て小さくうなずいた時、今まで黙っていたビンセントが口を開いた。
「悪魔の夜会に人間連れていくつもりか?」
「ああ。今度の夜会でリリアを紹介するつもりだ」
ラルフが答えると、ビンセントは一旦ナイフとフォークを皿の上に置き、
「止めておけ。人間など見せ物にしかならない。
それにラルフは今回ホスト役で、招待客をもてなさなければならない立場だろう」
と、強く反対した。
ハイドが手に持ったワイングラスを揺らしながら、
「大丈夫だって。俺が付いている」
と、軽く笑うと、
「いつも酒で潰れている奴など、信用できるか」
と、ビンセントが言い返した。
リリアが、だんだん険悪なムードになっていく空気に耐えきれず、
「私、ここで留守番をしているから大丈夫だよ」
と、笑顔を作りながら言ったが、
「いや。リリアを一人きりで留守番させるわけにはいかない」
と、今度はラルフが反対した。
「そんなに心配なのなら、リリアとビンセントの二人で留守番をすればいいじゃないか。
どうせビンセントはいつものように夜会など遠慮するんだろう?」
ハイドが意地悪そうに言ってワインを飲み干した。
「……」
黙り込んでしまったビンセントを見て、リリアもビンセントと二人きりで留守番することを想像すると不安になった。
「はい、決まりー。
リリアは俺と一緒に参加するから。
リリアのドレス姿、楽しみだなー」
ハイドは鼻唄混じりに席を立った。