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ねがいごと  作者: 流星
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第十二話

 リリアは強烈な光と轟音によって、一瞬にして気絶した。


 それからどのくらい経ったのだろう。

 リリアはキラキラ光る日差しが眩しくて目を覚ました。


「お。姫君が目を覚ました。

 おはよう、お姫様。気分はどう?」


 リリアが目覚めたベッドの上に、銀髪の青年が腰をかけていた。

 ラルフやアスランより少し若く見える。

 銀髪の青年も、ラルフのように一瞬にして人を惹き付ける端正な顔立ちをしているが、雰囲気はラルフと正反対という感じだった。


 リリアが慌てて起き上がろうとすると、頭に激痛が走った。


「痛っ……」


「あー。急に起き上がらない方が良い。

 丸一日眠っていたからね」


 銀髪の青年が、ゆっくりとリリアをベッドに戻す。


「ここは……、どこ?」


「俺達が住んでいる世界」


「あなたは誰?」


「俺はハイド。

 ラルフの……、弟のようなものかもしれないな。

 それと、あそこにいるのがビンセント」


 リリアがハイドの指差す方を見ると、黒髪の男が窓際に立っていた。


 ラルフやハイドと同じく美しい顔立ちをしているが、黒髪に黒ずくめの服を着ているためか、どことなく冷たい雰囲気が漂い、人間が持つ悪魔のイメージに近かった。


 黒髪の男はリリアに全く無関心なようで、腕組みをしたまま窓の外を見ている。


「アイツ、怖そうに見えるけど、結構良い奴だから」


 ハイドがリリアに小声で耳打ちをすると、ビンセントは窓の外を見たまま、


「ハイド、余計な事を言うな」


と、静かに言った。


「ハイハイ。

 ああ、そうだ。リリアがそろそろ目を覚ます頃だと言って、ラルフが外でお茶の準備をしているんだったな」


 ハイドは腰をかけていたベッドから立ち上がると、


「リリア。起き上がれそうだったら、外に出てみないか?」


と、リリアに手を差し出した。


 リリアはハイドの手をとってベッドから降り、ハイドに付いて行くことにした。


「ビンセント。お前は行かないのか?」


 ハイドが窓際にいるビンセントに声を掛けた。


「ああ。俺は遠慮しておく」


「相変わらずだな。少しは日にあたった方がいいぜ」


 ビンセントのそっけない返事に、ハイドが溜め息を漏らしながら言ったが、それでもビンセントは窓の外を見続けた。


「リリア。行こう」


 ハイドはそれ以上は何も言わず、リリアを連れて部屋の外へ出た。



 屋敷はリリアの城より遥かに大きい。

 ひたすら続く長い廊下を、鼻唄混じりでスタスタ歩いていくハイドから離れないよう、リリアは必死で付いて行った。


「あの……。ビンセントは怒っているの?」


「いや。

 ビンセントはいつもあんな感じだから、気にしなくていい」


 ハイドがリリアを見つめ、にっこり笑った。


「……そう」


「大抵の悪魔は人間が嫌いでさ。

 特にビンセントは、全く人間を信用しないからな……」


「どうして?」


「悪魔は契約を守るけれど、人間は裏切る」


 一瞬ハイドの顔が曇ったように見えたが、パッと笑顔に戻り、


「でも俺は、リリアみたいな可愛い女の子は好きだよ」


と、リリアの頭を撫でた。



 庭に出ると、見たこともない景色が広がっていた。


 鮮やかな草花が辺り一面に広がり、珍しい虫や鳥が空を舞う。

 悪魔の住む世界が、こんなにも色鮮やかで美しいことは、人間は誰も想像していないだろう。

 草原の向こうには、鏡のように光を反射する水面が広がっていた。


「ラルフならあの辺にいるはず。行ってみよう」


 ハイドはリリアの手を取り、走り出した。


「わっ……!」


 初めて草原の上を走るリリアは、上手く走れずに何度も転びそうになったが、フワリと浮かんで風に包まれた。

 そのたびハイドはリリアの方を振り向き、少年のような顔で笑った。

 最後は斜面を滑り降り、ようやく水面近くに到着した。


「リリア、気分は悪くないか?」


 水面近くでお茶の準備をしていたラルフが、リリアの顔を覗きこんだ。


「うん。平気」


 リリアの笑顔を見て、ラルフが静かに笑った。


 ラルフは箱の中から肉や野菜を挟んだパンと、ティーセットを出した。

 リリアはパンを食べながら、キラキラ輝く水面を眺めた。


「この水面は、どこまで続いているの?」


「ああ……。リリアは湖を見たことがないのか。

 この湖はあまり大きくはないが……。

 リリアの国に雨を降らせた、あの水竜が住んでいる」


 ラルフが答えると、草原に寝転がっていたハイドが体を起こした。


「そうだ、リリア。水竜に乗ってみないか?」


「ハイド。リリアはこの世界に来たばかりだ。

 あまり無理はさせないでくれ」


 ラルフがハイドをたしなめたが、リリアは、


「乗ってみたい!」


と、目を輝かせた。


「行こうぜ。リリア」


 ハイドがリリアの手を引き、湖に向かって口笛を吹くと、穏やかだった水面が膨れ上がって、水竜が顔を出した。


「うわぁ……! 大きい!」


 空を飛ぶ竜はリリアの国で何度か見たが、こんなに近くで見るのは初めてだ。


「この子は火を吹いたりしない?」


「火を吹く竜もいるけれど、コイツは水竜だから吹かないよ」


 ハイドは水竜の背中を撫でながら答える。


「リリア、コイツに触ってみる?」


「噛みつかれないかな?」


「大丈夫だよ。ほら」


 水竜は首をもたげ、リリアの近くまで顔を持ってきた。


『フシュー』


 リリアは恐る恐る近づき、水竜の頭を撫でた。


 固くて少しザラザラしているが、半透明の鱗がキラキラ光って美しい。

 リリアに撫でられて嬉しいのか、水竜は目を閉じて、じっとしている。


「リリア、俺に掴まって」


 リリアは水竜の背中にまたがり、ハイドの腰に手を回した。


「しっかり掴まって。行くよ!」


 ハイドの声に、水竜がゆっくり浮かび上がった。

 リリアは振り落とされないよう目を閉じ、ぎゅっとハイドの背中にしがみついた。


「ハハ。それじゃぁ、空を飛んでいるのか分からないだろう」


「空なんて、初めて飛ぶから少し怖いかも……」


「じゃぁ、安全運転で行こう」


 水竜はある程度の高さまで飛び上がり、大きな翼を広げて、ゆっくりと滑空した。

 リリアはハイドにしがみつくのが精一杯で、折角の景色がよく見られなかった。


 もしここにアスランがいたら、きっと『危ないから止めろ』と、止められていただろう。


「アスラン……」


 リリアは、急にアスランの事を思い出した。


 自分で決めた事とはいえ、小さい頃からずっと側で守ってくれていたアスランと二度と会えなくなってしまった現実が、今さら寂しく思えた。


「リリア?」


 ハイドは水竜のスピードを緩めた。

 水竜は、ゆっくりと旋回し、ラルフのもとへと降りていった。


「リリア、疲れただろう。そろそろ屋敷へ戻ろう」


 ラルフはリリアの涙をそっと拭って、リリアを抱き上げた。

 ハイドも何も言わず、ラルフ達に付いて屋敷に向かった。


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