春一番がやって来た。
それはそうと拓也とかわいい弟分との日々はあっと言う間に過ぎていき
気がつけば冬も終わりが近づいて来ていた。
クリスマスもお正月もバレンタインも何も起こらずにしれーっと時間は過ぎてしまった。
いつもならリア充爆発しろの一言もいいたくなるこの時期を拓也が文句一つなく過ごせたのは取りも直さずこのかわいい妖精との楽しい日々のおかげだった。
気の早い菜の花がまだ冬の間から黄色い花を咲かせている。
それは妖精との楽しい日々がもうすぐ終わる事を意味していた。
最初はすごく面倒に感じていた妖精との日々がもうすぐ終わる事を拓也は今ではとても寂しく感じていた。
(ずっとこの妖精と暮らしていけたらいいのに…)
その日はとても心地よい暖かさで拓也は自然に窓を開けていた。
それは無意識なものだったけど、それがさよならの合図になる事を彼はこの時点では気付いていなかった。
ブワッ!
拓也が窓を開けたままにしていると突然強い風が部屋に吹き込んで来た。
それは春一番だった。
春一番とは春の訪れを告げる強烈な風。
寒い冬を吹き飛ばし暖かい春を呼ぶ先駆けの風!
「うわっ!」
拓也はその強い風に窓を閉めようとしたけど何故だかそれは出来なかった。
抗えない力のようなものが窓を閉めさせなかったように拓也は感じた。
そうして春一番の強い風が拓也の部屋を吹き荒らした。
「大丈夫?」
拓也は妖精が気になって彼の方を振り返った。
その時、拓也はデジャブのような感覚を覚えていた。
気が付くと拓也の目の前に見慣れない美しい女性が立っていた。
部屋に入るまで全く気配を感じさせないこの現象は
まさに小春日和に妖精が現れたあの時と同じだった。
「もしかして春の精…さん?」
事前に妖精から聞いていた。
春には春の精が妖精を迎えに来るって。
ついにこの時が来たのだ
「今までこの子を大切に預かってくださり有り難うございます」
春の精は拓也に丁寧にお礼を言った。
拓也は春の精を見るのも勿論初めてだった。
春の精は流石春を呼ぶ精霊だけあって春の花のように美しくていい匂いがした。
拓也が春の精の美しさに見とれていると
既に春の精は春風の妖精を連れて出ていこうとしていた。
「ではこれで失礼します」
「えっ、ちょっ」
拓也は思わず引きとめようとしてしまった。
こうなる事は彼自身覚悟していた事だったのに。




