無邪気な妖精さん。
「ちょ、おまっ!俺の部屋に勝手に…」
「それはお兄ちゃんの方が先でしょ!弁償!」
妹はお気に入りのポテチを食べられた事で興奮している。
今は何を言っても聞く耳を持たないだろう。
犯人が妖精だって言っても彼女には何も見えないんだし…。
これは…話がややこしくなってもマズイな…。
「分かったよ…トホホ」
拓也は観念してそのポテチ代を妹に弁償した。
本当は不本意だったけれど…更に部屋に勝手に入ったと言う濡れ衣の慰謝料を請求されなかっただけマシだと思う事にした。
「今度から勝手に部屋に入らないでね!」
妹はそう言い残すとさっさと自分の部屋に戻っていった。
彼女とは元々そんなに仲は良くなかったけど更に距離が遠くなったな…
そう感じる拓也だった。
カチャ
「おかえり!拓也おにーちゃん!」
拓也が自分の部屋に入ると早速騒ぎの元凶が純真無垢な顔で出迎えてくれた。
この笑顔で出迎えられると怒るに怒れない。
「お前なぁ…この部屋の物はまぁ好きにしていいけど
他の部屋の物は触るなよ…」
「ええっ!僕悪い事しちゃったの?ごめんなさい…」
さすが妖精、素直。めっちゃ素直。
その真っ直ぐな瞳は純粋で何もかも許してしまえそうなほどだった。
妹にもこんな時期があったのになぁ…。
拓也はほんの10年位前の彼女の姿を思い出していた。
きっともうその頃の純粋な妹は戻ってこない…。時間とは割りと残酷である。
「いや、うん…もうしないならそれでいいよ」
「許してくれる?ありがとう!おにーちゃん大好き!」
拓也に許された事で妖精は満面の笑みを浮かべた。
彼に好かれるのは悪い気はしなかった。
もう既に拓也は妖精に甘々になってしまっていた。
「そんなにあのポテチが気に入ったのなら明日同じなの買ってくるよ!」
「ええっ!うれしい!」
素直で幼い笑顔は無敵だ。
けれどここでしっかりと釘もさしておかないと。
大抵は何かを得る時はトレードオフがつきものなのだから。
「その代わり!この部屋から出ちゃダメだぞ!」
「うん!」
ずっと部屋に居ろって残酷な気もするけれどこれも余計なトラブルを避けるため。
だからこれからは出来るだけこの妖精と一緒にいてやろう。
話し相手になっていればきっと退屈さもそんなに感じないはず。
こっちとしても色々と楽しい話も聞けそうで面白そうだし。
こうして拓也と妖精の楽しい日々が続いていく。
家族はいきなり拓也があんまり部屋から出てこなくなってしまったので変に思われて…
と言う事もなく…なぜなら拓也は元々インドア派だったから。
ただ休日にもどこにも出かけないのは不思議だなと少し心配される程度だった。
家族の中での拓也の立ち位置って…(汗)。




