信じるしかないかなぁ…
「どう言う事なのかなー…?」
「僕ね、今日あんまり暖かかったから春だと勘違いしちゃって
外に出ちゃったんだ。でもまだ冬だったんだよね…
それで季節の扉が閉まっちゃって戻れなくなっちゃった」
その子の話によると季節の妖精にはそれぞれその季節でしか活動出来なくてそれ以外の季節に現れる事は禁じられているらしい。
季節外れの気候になると間違ってその扉が開く事もあってつい外に出て来てしまったけどその気候の内に戻らないと帰れなくなってしまうのだそうだ…。
(子供の癖に凝った設定考えるなぁ…)
と、拓也は思ったものの口には出さずに信じるふりをしながら今後の事を考える事にした。
まずは家族にこの事を伝えないといけないと思ったのでその子を連れてリビングへ。
「よし、じゃあ取り敢えずオニーサンの家族を紹介するよ!
ついておいで!」
「うん!ありがとう♪」
リビングではちょうど家族が集まっていた。
出来れば父親か母親か一人一人個別に会いたかったけれど…。
家族全員の前で知らない子供をいきなり披露するとどんな混乱が…。
しかしその心配は杞憂だった。
何故ならば…。
「おっ!拓也、この時間にこの部屋に来るなんて珍しいな」
「御飯はまだだよ。あ、また何かお菓子があると思ってきたんでしょ?」
「おにーちゃん、ちょっとそこで黙って立ってるの
ちょっとウザいんだけど…!」
みんな拓也の側にいる子供に気付いていないようだったからだ。
家族みんな拓也が一人で突っ立てるものと認識していた。
つまりこれはこの子が彼以外に見えていない事を意味していた。
(マジでか…)
言葉を失う拓也…。
家族の反応を見てこのまま説明を始めるとやばいと感じた彼はそのまま何も言わずに自分の部屋に引き返す事にした。
「あいつ、何しに来たんだろうな?」
「お菓子なかったから部屋に戻ったんじゃない?」
「ま、どーでもいいし…」
リビングに入ってすぐに部屋に引き返した拓也に対して家族の反応は散々だった。
まさに家族の拓也に対するスタンスがよく分かるエピソードである。
「お前、本当に妖精なのかよ…」
「あ、信じてなかったんだ!ひどい!」
部屋に戻った拓也は軽く絶望していた。
誰にも話せない秘密をひとつ抱えてしまったからだ。
「うーん、これからどうしたらいいかなぁ?」
「このまま外に出たら…冬の風に当たったら僕死んじゃう…」
妖精の話を聞いて言わんとする事はよく分かった。
つまり春までここに居させて欲しいって訳だな。
物分かりはいい方だと拓也は自負していた。
「分かった分かった!春までここに居たいんだろ?」
「いいの?やった!」




