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パラダイス・ネスト~異世界における楽園の作り方~  作者: トヨム
一章・気がつけば異世界
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第08話 クエスト参加と武器選び(修正)

加筆修正しました。

 第08話 クエスト参加と武器選び


「大江戸伯爵領ってどこだか分かりますか?」


 マリオンは翌日ギルドに出向いてそう尋ねてみた。

 尋ねると同時に『ぷっ』と笑われてしまった。


「いや、すいません、あなたの言葉に妙なナマリがあって…微妙にイントネーションが違うもので…」

 ギルドの職員は申し訳なさそうにそう教えてくれた。

 同じ日本語であるらしいとはいいながらやはり微妙な差異はあるらしい。


「ここがその『オオエド』伯爵の領地ですね」

 そう言ってギルドの職員が指示したのは世界地図だった。

 壁に貼られた大きなものだ。


「なんで同じ国の別の場所に世界地図?」


 その段階でかなりいやな予感を覚えるマリオンだったが、その予感は当たってしまった。いや予想を超えていたといっていい。


 まず地図がいい加減である。

 大航海時代の世界地図のような感じだ。

 そもそも地図にドラゴンとか、でっかい鯨みたいなモノとか書くなと言いたい。


 地図に描かれているのはこのオルトス大陸を中心とした地図で、大陸の外は一部しか書かれていない。なぜならわからないから。

 しかも『迷宮』は調査が進んでいないらしく、無理もないが白地図状態。

 そのほかの場所にしてもどこ〈どのあたり〉に大きな町があって、山がここら辺を締めていて、大きな川がありますよ。程度のことしか書かれていない。


 つまり世界地図というくせにオルトス大陸地図だ。


 その大陸の中央部から東の方に広がっているのがクラナディア帝国だった。大陸中央部を占める大きな国。

 しかも現在位置はクラナディア帝国の西のはずれ。オオエド伯爵領は東のはずれだ。


「何千キロあるんだこれ…」


 比較対象がないからまったくわからない。


 オルトス大陸は小さめの西オルトス大陸と大きめの東オルトス大陸が真ん中でつながったような構造の大陸で、クラナディア帝国はその連結部から東オルトス大陸の真ん中辺までを領土とする国だった。


 そして現在地は西の果て、目的地は東の果て、


「それで…ここから大江戸伯爵領に行くのにどのくらいかかります?」

「そうですね普通に旅をして…早くて一年…日にちがかかれば二、三年という所でしょうか?」

「げっ!」

 めまいがした。


 この世界にも道はある。ここからオオエド領までちゃんと街道が続いている。

 だがその街道を通る者はあまりいない。


 ここは思っていたよりもずっと交通機関が未熟な世界だった。


 日本の江戸時代でも人間は生まれた場所から死ぬまで動かないのが普通だった。一生に一度の遠出はお伊勢参りという生活だ。

 ここでもそう大差はないらしい。


 一般人は生まれた場所から死ぬまで動かない。お伊勢参りのような習慣もないので『隣の町がお祭りだ』と出かけていくことがあるぐらいだろう。

 商人であれば流通の問題で、隣の領地との貿易ていど、よほど大商人であれば帝国の中央部まで活動範囲が広がるくらい。

 冒険者でも活動範囲はある程度決まって来るので一定範囲しか動かないのが普通だし、良い狩場があればそこに腰を落ち着けてしまう。


 ここから東の果てまで旅をするような人間はほぼいないのだ。


「そうですねえ、クラナディア帝国や隣国でも主要なラインには公共の空行船などが通ってますけど限定てきですし…ものすごくお金がかかりますよ」


 空行船というのは驚いたことに空飛ぶ船のことだった。説明だけではどんなものなのかよくわからなかったが、かなりの積載りょをう誇るもので、現在クラナディア帝国内で五隻、定期便として運航しているらしい。

 ちなみに定期便と言っても一日に一本とかではなく六〇日に一本とか、一八〇日に一本とかそういうレベルだ。


 これをうまく乗り継いで進めれば半年から一年くらいでつける可能性がある。


「でなかったら街道を進むキャラバンを捕まえて同行させてもらうとか…」


 別の案が提示されたが、こちらもかなり運任せ、ちょうどいいキャラバンがなかったら結局は歩きだ。


「となると自分で…獣車を用意して旅をする方がましか…」

「そうだね、それができるんならその方がいいと思う…まあどのくらいでつくかはわからんけど…」


 とんでもない話である。


 ただこの方法はお金と実力が要求される旅だ。

 ベテランの冒険者が長距離を移動する際にこういうことをやるらしい。


「ほとんど『名作劇場』の世界じゃないか…」


 マリオンの頭の中に主人公が何か月も苦労して旅路を進み最後にハッピーエンドになるような物語が展開した。

 苦難に満ちた旅ではあるがハッピーエンドが決まっているだけ羨ましい展開だ。


 これによってマリオンの方針が決した。

 さすがに何年も悠長に構え、しかも行動の自由が束縛されるキャラバンの旅は選択できない。

 空行船も現在はお金があるから乗れなくはないだろうが、その航路と航路を移動するのは結局歩き、しかもうまく定期便を捕まえられるか疑問である。

 であれば自分で獣車を手に入れて荷物を積んで旅をした方がいいかもしれない…ただ…


「どれをとってもハードル高けー」


 まあ、そうだよね。


 ◆・◆・◆


「さて、となるといろいろ準備をしなくちゃいけないのだが…この状況では地道にやるしかないな…」


 獣車や獣車くるまを引く使役獣は商品として普通に流通しているそうなので、ぜいたくを言わなければすぐに手に入るだろうということだった。


「だけど今、馬を買ってもな…」


 マリオンには乗馬の経験はないし、馬車を操った経験もない…これは痛い…何とか覚えるしかないのだが…


「自分で練習するしかないのか?」


 それは無謀。


「それだったら荷物運搬の仕事とかがいいでしょう。あれだったら移動に獣車を使いますから、機会があれば教えてもらえますよ」

「なっ…なるほど…そういうのもあるんですね…」


 この世界ではどんなことも金を払って教えてもらう人を雇うのでない限り仕事をしながら覚えるのが普通だ。

 ただこれだって一日二日でできる様なものではない…マリオンの感覚で何か月かかかるのか…と考えると気が重くなる。


「それに今、そのクエストはないですね…」

「・・・・・・・・」

 だったら言わないでほしい…いや、そうでもないか…情報があるのはいいことだ。

「まず、周辺で狩りでもしてみるか?」


 脈絡のないことのように聞こえるが、何か方策が見つかるまで地道に暮らすという選択肢は悪くはない…それにこの先、狩りをしながらの生活は日常になっていくと予測される。こちらの経験もあった方がいいに決まっている。


 マリオンはギルドの掲示板というか掲示のための壁にいっぱいに張られたクエストを確認することにした。

 ひょっとしたらなにか良い情報が手に入る可能性もある。


 だがすぐに自分が字を読めないことを思い出して愕然とした。


「うん、だめだ、全然わからん」

 マリオンは胸を張った。

 胸を張って言うようなことではない。


「考えてみれば、語学はてんでなんだよな…」

 はい、英語も話せません。

 もしここで言葉が通じなかったときはそれだけで詰んでいたのはほぼ間違いない。


 どうも日本語を話しているらしいので、文字も日本の物を使ってくれればいいのに…と思わなくもないが…

「まあ古文とか…わからんし」

 日本の文字でもそんなのが出てきたらお手上げではある。


「あのー、代読しますか?」


 声を聴いて振り向くとそこにマリオンの前に立っていたのは小さい女の子だった。


 小柄でちょっとやせ気味の、年齢は一〇才ぐらいに見える女の子だ。

 ちょっとくすんだ金髪と整った目鼻立ちの子で、かなりきれいといっていいだろう。

 首から何か札をかけているが当然読めない。


(うわっ、お人形さんみたいにきれいな子だな…)


 可愛いもの好きのマリオンの琴線に触れるものがあった。

 別に変態ではない。可愛いものは人間でも、動物でも、果ては魔物でもマリオンは大好きなのだ。

 …それは十分変態かもしれない。


「ええっと…君は?」

「はい、案内がかりです」


 その女の子は名札を見せて堂々とそう答えた。

 やっぱり読めない。


 正確に言うとその女の子達の仕事はギルドにおいて字の読めない冒険者にクエストを紹介したり、何かの読まなくてはならない書類を代読することだ。


 言い方は悪いがギルドがあまり裕福でない未成年の少女に割り振っている仕事のひとつで社会福祉的な意味合いがある。


 ほかにも女の子には女の子用の、男の子には主に力仕事の簡易な仕事をふって賃金を出しているらしい。


 ここにいる子は字が読める子たちなので割りと高給取りだ。所詮子供のお使い程度の金額ではあるのだが…


 カウンターには四人の子供がいて、この業務を担当しているらしい。彼女たちは今日の担当なのだという。

 人員は八人で、ほぼ一日おきに仕事があるということだった。


 本来であれば冒険者が自分で字を覚えるべきなのだが、生活に追われているという理由で字を覚えるのを後回しにする冒険者は結構いるらしい。


 しかし字が読めなければ依頼の内容も確認できないし、討伐対象の確認も出来ない。


 ギルドは依頼内容が極端に不当で違法でなければ仲介をするだけなので、下手をするととんでもない重労働の割に報酬の少ないハズレを引いてしまうこともある。

 昔はそれゆえのトラブルも多かったそうで、それを回避するためと、町の子供たちの救済のために設けられた仕事だった。


 この案内カウンターがあるために逆に冒険者が字を覚えないと言う弊害が出てしまったのだが、まあ世の中それほど甘くない。


 ここで紹介しているのは初心者向けの簡単な低額クエストばかり。

 字が読めるようにならない限り生活が潤うような良い仕事は受けられないことになっている。


「書面の代読は一枚五リヨンです。相談は時間制で一回の相談時間はこの砂時計の砂が落ちるまで、こちらは一回六〇リヨンです」

「ええっとじゃあ相談で…」

「はい、ありがとうございます」


 相談というのは彼女たちが持っているクエストの中から依頼人のニーズに合わせて『こんなクエストはいかがでしよう』とやる仕事だ。

 砂時計は二〇分計。三回で1時間ということだった。


「どんな仕事をお探しですか?」

「そうだね…狩りの仕事で、初心者向けのものがあったらほしいんだ…本当に冒険者になったばかりで右も左もわからなくて…」

「でしたらこのクエストはどうでしょう?」


 そう言いながら彼女は依頼の書かれた紙をマリオンのほうに向けて内容を読み上げていく。


(そうか!)

 その内容を聞いてマリオンはひらめいた。


「ちょっと待ってくれ、頼みがある」

「は、はい、何でしょう? ここで出来るのは案内だけですよ…」


「うん、それでいいんだ。それでいいんだけど、今字を覚えている最中でね…もし良かったらチラシを読み上げるとき単語を一つずつ指さしてくれないか? 時間がかかるのは承知の上だから」


 つまりその分はお金を払いますよということだ。


 これはチラシの中の『防具』という単語が読めたことから思いついたことだった。


 昨日買い物をする過程で見たいくつかの単語、それが理解できるようになっていた。

 マリオンの中にあるコンピューターの様なもの…その情報処理能力のおかけであるらしい。

 単語を記憶してくれたのだ。


(これもいい加減便利だよな…)


 マップを作ったり、解析データ―を保存したり組み立てたり、このシステムの活躍は枚挙にいとまがない。

 マリオンはコンピューターと呼んだが、現在の地球にある技術でこれを実現するのは不可能だろう。


 まず意識と完全に連動していて、まるで自分の思考と同じように使いうる情報処理システムであること。

 霊感インスピレーションを実現するコンピューターであると言ってもいい。


 何かを改めて入力する必要もなく、必要なプログラムを構築することもなく、細かい操作も必要ない。

 言ってみればマリオンの頭脳がコンピューターのに近い能力を持ったような感じだ。


 しかも実体がなくマリオンの中にあるのにどこにあるのかはわからない。

 脳の中にプログラムが追加されたという可能性もあるがマリオンはこれを違うと感じていた。全身を流れる魔力の流れと重なるようにその存在が感じられるからだ。


 しかも情報処理がとても速い。

 まるでひらめきででもあるかのように打てば響くのだ。


(そういえば地球で量子コンピューターというのがあったよな…)


 ふつうのコンピューターが『〇〇(ゼロゼロ)』『〇一(ゼロイチ)』の二つの信号を切り替えて計算しているのに対して量子コンピューターというのは『〇〇』『〇一』『一〇』『一一』と言った複数の信号を切り替えることなく『同時』に計算するコンピューターであると言われている。


 マリオンは専門家でないので詳しいことは知らない。だが計算速度が飛躍的に上がり、しかもその計算が『直感的』なものになるという話は聞いたことがあった。

 同じとは言わないが近い物ではないだろうか…


(それういえば『霊子』を『りょうし』と読む場合もあったよな…)


「そうだ僕の中のこれ…霊子りょうし情報処理能力コンピュータと呼ぼう」


 カラフルな集中線の背景が輝き、ファンファーレがなった――ような気がする。


「あの?」


「ああ、失礼…なんでもないです」


「それじゃ続けますね…」


 女の子はそのまま手元にある書面を一つ一つ指さしながら読み上げていく。


 その結果わかったのはこの国の言葉が日本語と同じで五〇音に相当する音字と漢字に相当する意味字の組み合わせでできているということだ。

 つまり平仮名と漢字だ。

 カタカナに相当する字はないらしい。


 そしてありがたいことに文法も日本語とそう変わりがない。


 喋るとおりに表記すれば問題ないようだった。


(これは助かるな…音字のコレクションにはあまり時間はかからないだろう…問題は意味字か…これがどのくらいあるのか…)


 日本にいたときに漢字五万字、熟語五〇万語を治めた辞典の話を聞いたことがある。

 ここの意味字が同じくらいあって、熟語もあるとしたら…


(めまいがするな…)


 だが今優先すべきは日常使う文字だ。

 マリオンは意識を切り替えて読み上げられる文字に集中した。


 そのまま二枚め、三枚めと読み進み、そのまま結局砂時計三回分、一時間近くその作業をつづけさせ、ほとんどの求人票を読んでもらってしまった。


「済まない、ちょっと手間をかけ過ぎたね…」


「いえ、お仕事ですから大丈夫です。料金は三回分で一八〇リヨンです。


 マリオンは一〇〇リヨン硬貨を四枚渡した。


「こんなにいりませんよ…二枚で足ります」

 女の子がくすくす笑いながらマリオンを見ている。


(ありゃりゃ、計算ができないやつだと思分れたか…)


「いや、余分は手間を懸けさせたお礼だ、授業料という所かな…二二〇は取っておいてくれ」

「! いいんですか? ありがとうございます」


 少女は喜色満面でお礼を言った。

ここの料金はギルドの収入だ。彼女たちは仕事の後ギルドから日当を貰う。だが謝礼として受け取ったチップは個人の収入として認められている。

 これは彼女のポケットマネーだ。


 大喜びで手を振る少女に軽く手を振りマリオンは最初に見せられた依頼標をカウンターに持ち込んだ。


「こちらは初心者向けのクエストで、冒険者になって一年以内の人しか受けられないのですが大丈夫ですか? ってマリオン君でしたね」

「ああ、はい、その節はお世話になりまして」

 

 カウンターで受付をしていたのは昨日ボロボロで尋ねたときにいた職員の一人だ。


「完璧に初心者ね…このクエストの内容は分かりますか?」

「クエスト表にかかれている範囲なら…」

「そうなんだ…じゃあ簡単に説明しますね…

 対象は『大角大鹿ビックホーン』という魔獣です。草食ですが、この時期大繁殖して森の恵みを食いつくし、周辺の農作物まで大量に被害を出します。

 ですので事前に狩りだして数を減らそうというのがこのクエストです。

 戦闘自体は経験豊富な冒険者が行います。マリオン君のような新人は獲物の解体と雑用という危険のない仕事です。それにハンターとして必要なあれやこれやの技術を一通り体験できます。そういう意味で新人応援クエストと言われているものですね…」

「おおっ、そんなものが…」


 受付嬢の話を聞きながらマリオンはほっとしていた。

 なんといっても初めての仕事だ。いきなりハードなモノよりソフトなものから入りたい。と思うのは当然だろう。

 その意味で新人研修のようなクエストがあるというのは実にありがたいことだ。


「こちらをどうぞ」

「えっとこれは?」

「最低限必要な物をリストアップしたものです。ここに書いてあるものをそろえれば大体問題ないはずですよ…これは冒険者の持ち物の基本ですね」


 マリオンは差し出された紙を受け取った。

 そうしてもう一度案内役の女の子の所に戻るのだった。


 その後ろで受付嬢がわっるい笑みを浮かべていたのだが、マリオンが気が付くことはついになかった。


 ◆・◆・◆


「さて、まず最初は…剣だな…」


 マリオンは目の前にある武器屋の看板を見上げて握りこぶしをつくり気合を入れた。

 何故なのかはわからないが、剣というアイテムには何かロマンがある――ような気がする。


(うんドキドキするな…)


 マリオンは他にも槍という武器にもロマンを感じていた。


(槍を巧みに操り敵をなぎ倒す…かっこいいよね…)

(盾と剣をかまえ、敵と渡り合う…かっこいいよね…)


 現代日本人の感覚なのでしょうがないだろう。

 それにイメージだし…


 マリオンは気合を入れて武器屋の門をくぐった。


「いらっしゃいませお客様、今日はどのような武器をお探しですか?」


 店構えはかなり大きく、店内には所せましと何種類もの剣、斧、メイスなどが並べられている。

 店員も数人いて、マリオンの所にも年配の男性がすぐによってきて即座に声をかけてきた。なかなか見事な対応だ。きっと大店おおだなに違いない。


「すみません、ギルドのクエストで剣を用意するように言われて剣を探しにきたのですが…」

「ほう、ということは武器をお求めになるのは初めてでいらっしゃる? そう言うことでしたらお力になれると存じます。

 剣ということですが特に何かこだわりがおありですか?」


 店員が振り向き指さしたところにはいろいろな剣が並んでいた。


 マリオンはプルプルと首を振った。

 こだわりって言ったって何もわからない…


「特に使いたい武器というのがないのであれば最初はオーソドックスに片手剣をお勧めします。この装備であれば片手に盾、片手に武器を装備できますし、先行きメイスやハンマーを合わせれば剣のききにくい魔物にも対応できます。

 かなり幅の広い魔物に対応できるスタイルだと存じます。

 お聞きしたところによると『大角大鹿ビックホーン集団討伐クエスト』に参加されるということですので、楯も後回し、片手剣を一本用意すれば十分に対応できると存じます…」

「なっ、成程…」


 マリオンは改めて店内を見回す。

 剣は大小、各種あるようだが大まかな分類としては片手剣。両手大剣。短剣の三種類ほどになるようだ。

 ほかには斧が長柄のバトルアックス。手斧。

 メイスというのはハンマーとはまた違う、棒の先に組み合わせた金属板を取り付けた、殴られると非常にいたそうな武器である。これはほとんどが同じようなサイズだ。


「つまりここは近接武器というカテゴリーの専門店ということか…」

 マリオンがぽつりと漏らす

「はい、当店で扱っておりますのは接近戦用の武器ばかりでございまして…弓矢や盾などは取扱いがございません」


(つまり武器類も取扱店が細かく分かれるということなんだな…)

 やはりゲームのようなわけにはいかんか…とマリオンは溜息をつく。


「それで、片手剣だとどんなものがおすすめですか?」


 マリオンの質問に店員はゆっくりと頷いて。


「失礼ですがお客様…後予算はいかほどでございましょうか?」


 と聞いてきた。


 マリオンはチラリと周囲の剣につけられた値段を確認する。

 十把一絡げで置かれた剣が二〇〇〇リヨンぐらい。かなり安い。ここら辺は金属製ではなく何かの殻を剣に加工したようなものだ。


 金属製の武器もあるがこちらは高い。一本一〇万リヨンからだ。


「き…金属製は高いんですね…」

「ええ、包丁のようなわけにはいきませんのでこれらはすべて魔鋼ダマスカス製の剣でございます」

「はあ、…魔鋼ダマスカス…ですか…」


「ご存知かもしれませんが金属というのは丈夫なようでいて実は脆いものです。たとえば包丁などと同じように鉄や鋼で剣を作れば安く上がりますが、これはあまり実用的ではありません…魔物の皮というのは硬いもので、鋼の剣では切れたにしても一度使うたびに剣をメンテナンスに出さなくてはなりません。

 この魔鋼ダマスカスは魔力によって強化された鋼で、とても丈夫でとてもよく切れます…ただお値段が…」

「かなり高くなると…」


 店員の言っていることはマリオンにも納得のいくものだった。


 確かに鉄というのは柔らかい金属で、そのまま刃物にしてもなまくらにしかならない。そこで炭素を混ぜて硬くするわけだ。

 この炭素を混ぜた鉄を鋼と呼ぶのだが、鋼は硬ければ硬いほどよく切れるようになる。

 なら一杯炭素を入れれば? と思うかもしれないが炭素を入れて硬くした鉄は今度は脆くなる。つまり欠けたり折れたりしやすくなるのだ。

 おまけに炭素が混じると錆びやすくなるという特徴もある。


 ここに来るまでに出会った魔物たちを思い出す。


(うん、やっぱり普通の剣ではすぐに壊れそうだ…)


 折れたりはしないまでも刃がつぶれればその都度砥直し、魔物を一匹着るたびに砥直しというのでは実用性を欠くだろう。


 そこで登場したのが魔力で変質した金属。有名なところで『魔鋼ダマスカス』『真銀ミスリル』『太陽王金ソルニューム』などがある。これは極めて強靭でメンテナンスフリーとまではいかないが魔物との戦いて使い続けてもすぐに使えなくなったりすることない。

 特に太陽王金ソルニュームは永久金属の別名もあり、かけたり折れたりはしないのだと店員は教えてくれた。

 ただこれは加工が難しく素材の希少性もありお値段がけた外れに高くなる。


 そこで登場するのが『甲殻剣』と呼ばれる武器だ。

 魔物の殻や甲羅を加工して作った剣で、どのくらい強いのかと言えば逆説的になるのだが最低でも魔物と同じくらい。つまり『鋼の剣で攻撃されても剣を退けられるくらい』には強い。


 これは魔獣の殻を切りだし、それに加工を加える。

 たとえば…


「それはガダーという魔獣の殻を切りだし、十分に薬液に浸した後プレスして素材を整えてから丁寧に磨き上げたものです。重量バランスを整えるために剣の小尻から刀身内部に鉄の芯が入っていて大変使いやすいものになっています」


 という感じになる。


 まあマリオンとしては説明されても『ああそうですかー』としか言いようがないのだが、甲殻剣は加工によってより強靭になっているために同じ殻を持つ魔物相手になら十分に役に立つものになる。

 そして値段が安いために対魔物用の武器としてはコスパがとても良いのだ。


 マリオンは目の前にある剣をしげしげと眺めた。

 刃渡りは七〇cmほど、刀身から鍔柄まで一体として作られた甲殻剣で小尻の所から金属製の芯が入っている。

 流れるようなラインを持った両刃の直刀だが、厚みがあるのは芯が隠れている都合だろう。幅も広く太いところで一〇センチほどの幅があった。


 マリオンはそれを持ってひゅんひゅんと振ってみる。

 確かに軽いような気がする。

 芯が入っていなかったらふわふわかもしれない。


 周囲を見回すとこのタイプの剣は芯が入っているかさもなくばかなり大きな作りになっているかで、おそらくこういう形で重量を稼いでいるのだ。

 だが板を振りまわしたことがあればわかるのだが、幅広で薄いものというのは結構取り回しがしづらい。

 少し角度がつくだけですぐにコースがずれてしまうし、横に振るのはほぼ無理だ。

 であればこの剣は確かにいい剣なのだろう。


(さてどうしよう…この剣は…六二〇〇〇リヨンか…甲殻剣としてはかなり上等なものだな…もう少し安いものを…)


 そこまで考えてマリオンは『いや』と考え直した。

 剣の種類としてはこの甲殻剣一択だろう。

 だがその内部ではかなり選択の幅があるらしい。そして自分が見て回ったところでその善し悪しが変わるはずもない。

 ならばたまたま手に取って、いいものだと感じたこの剣を買うべきではないだろうか…


 そう思った。


「・・・・・・わかった、この剣を貰おう」


「ありがとうございます。お使いいただければ決して高くはなかったと納得いただけることございましょう」


 なかなか自信がありそうだった。それとも定型句なのだろうか。


 当然鞘はついていたが、剣帯は別なのでそれを購入。

 さらにナイフを買った。

 ここらへんも標準装備である。


 ◆・◆・◆


 店員は大変愛想の良い男でそのあとも少し話に付き合ってくれた。

 話してくれたのは主に剣に関する薀蓄だ。


 この世界においては、剣に限らず武器、防具の素材というのは三種類ある。


 まず魔物由来の素材。

 甲殻剣などはこの仲間だ。

 魔物の角や骨、鱗や牙などで、一番身近で一番種類があるのがこの素材だという。

 お手軽素材だと思いきや魔物によって値段が格段に変わってくるもので、最高峰の魔獣素材の剣はとてつもない値段になるそうだ。

 たとえば竜の牙とかである。


 そういわれてマリオンは血の気が引くような思いをした。

 だって竜の牙も鱗も羽も骨も大福の中にかなりの量しまわれているから…


 次が自然素材を使った武器だ。これは地中から出土する石や宝石のようなモノを素材とする武器だ。


「ええ? 石ですか?」


(石を削って武器にするって…石器時代じゃあるまいし…)

 などと不穏当なことを考えたのだが、どうやらマリオンのイメージとはずいぶん違うらしい。

 これも魔力が関係しているということだが金属製の武器に匹敵する素材もあるらしい。

 地面からもたらされることから個別の名前とは別に『大地の○○』と総称される武器防具で、ひたすら磨いて作ることから『磨剣』の別名もある。

 貴重なものだそうだ。


 最後が魔性ませい金属と呼ばれるものだが、魔鋼は闇流しの別名のある鉛色の金属で全体に黒っぽくマーブル模様がある金属だそうだ。


 真銀ミスリルは緑がかった淡い光を放つ銀色の金属。


 太陽王金ソルニュームは基本が金色でいろいろなバリエーションとしてレモンイエローの物や山吹色のものなどがあるらしい。

 性能は陽王金ソルニュームがダントツでたかく、ずっと離れて真銀ミスリルが続き、魔鋼ダマスカスがそれに半歩譲る性能らしい。


 しばらくそんなよもやま話に花を咲かせてからマリオンは武器屋を後にした。


『しかし、竜の鱗だの牙だのは気軽に売ることはできないな…これはしばらくは死蔵しておくしかないか…どうしても金に困るまではほったらかし…これしかないな…』

 マリオンは小声で独白した。


 換金性のあるアイテムというのも価値が高ければそれでいいというものでもないのだなとマリオンは理解した。

 価値が高すぎるとかえって処分に困る。

 そのうち何かに使ってしまおうと内心考えるマリオンだった。






●○●○● ●○●○● ●○●○● ●○●○● 

おまけ・設定 『冒険者ギルド』


 住所不定の浮き草稼業の人から税金をとるために考えられた組織。クラナディア帝国発祥。

 周辺各国が真似したためにいたるところにある。

 一応範囲は国ごと。

 クラナディア帝国は広いのでエリアで分かれているが、共通のルールが作られていて多くのギルドが協賛している。


 ポイント制を採用し、ギルドで仕事をクリアしたり、ギルドに魔物素材や魔石を売るたびにポイントが入るようになっていて、ポイントを使えば楽に更新ができるようになっている。逆に言うとポイントを使わないとえらく苦労することになる。


『働け愚民ども~』である。


 結果として魔物素材をはじめとするあれやこれやはギルドに集中することになり、ほぼ独占企業状態。

 同じ管轄内ならどこでも自由に仕事ができて、よその管轄で仕事をすると関税を取られる。

 どこで一番多く仕事をするかで管轄を変える方がよいようだ。

 管轄変えはギルドにその旨を申請する必要がある。

 他国のギルドでも協賛していれば同じ規格が適用されるので人の出入りは盛んである。


わたくしの小説におつきあいいただきましてありがとうございます。

前回の投稿より五日で新しい話をお届けできました。

ページビューというのでしょうか、読んでくださっている人が本当にいるのだと言うことを目の当たりにして、驚いたり、感動したり、どきどきしたり、楽しい思いをさせていだいております。


もしよろしければ感想などもお寄せいただければ幸いです…きっと目を回すことでしょう。

これからもよろしくお願いいたします。



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