第52話 初めての迷宮探索・出発
第52話 初めての迷宮探索・出発
「買い占めだと、本当なのか?」
イストは本当に意外な事を聞いたように声を上げた。
「ああ、オレもまあ横から見ているだけなんで正確な所は分からんがな…今でも精錬所に持ち込まれる素材の量は昔とかわらんらしい…なのにできあがる真銀のり量は明らかに今までより少ない。だいたい7割から8割だそうだ。
まあ素材の質が悪くなったと考えられなくもないんだが…」
「無理があるの」
イストの目の前に座っている壮年の陸妖精族は『だろ?』と返した。
真銀というのは生産量がすくない割りにその流通が把握しづらい金属だった。
真銀の精製も大半は町の中枢の精錬所で行われるが、錬金術師などは自分で素材から錬成する者も多い。
そう言う所には未加工の素材がそのまままわされる。
全体としてどの程度の真銀が作られているのか把握しづらいというのがある。
精錬所の生産量が二割減ったからと言って全体の生産量が同様に減っているとは一概には言えない。
ただ精錬所で生まれる真銀のインゴットが、最初のころは1割ほど、現在では二~三割減っているのは間違いない。
そのために誰かがミスリルの素材の横流しをしているとか、どこかの権力者が買占めをしているとかそういううわさが流れているのだ。
これにはイストも驚かざるを得ない。
「魔鋼程度ならまだしもミスリルの買占め…横流し…許されることではないぞ…これでは魔物の被害が徐々に多くなっていくことは避けられんぞ」
「おれに怒るなよイスト」
古い付き合いの陸妖精族に窘められてイストは腰を落ち着ける。
「すまんな、イノーバ」
イノーバと呼ばれた男は『いつものことさ』と手を振った。
「単細胞のイストと悪戯好きのトゥドラのあいては慣れているよ。お前は本当よく前侯爵殿の教育係など勤まったよな…
まああいつが大人しい性格だったら逆にけん引役にお前が着けられてのかもしれんが…」
「本当に失礼な奴だな…無礼者のイノーバも虹の翼の問題児の一人だったのを忘れたか? 行く先々でヘタレ貴族にケンカ売りおって」
「わははっ」
とイノーバは笑ってごまかす。
「ともかくそんなわけでな、今ミスリルの相場は大体二年前の倍以上になっとる」
真銀は『文明必需品〈なにそれ?〉』だ、無いと世界が回らない素材だ。
これを使っての金儲けは人倫に悖ると言われる。
まあだからこそ大もうけができるのだが…
「尻尾はつかめんのか?」
「今のところまったくわからんようだぞ」
「うーむ、こまったのー」
イストは腕を組んで唸った。
今は新型の魔導器や武器類の開発が続いてただでさえ真銀の不足傾向があった。
そこに持ってきて品不足…
ヒルテア侯爵領に真銀が入ってこなくなったのは間違いなくこの所為だろう。
「どうだイスト、昔取った杵柄で事件の解決をすると言うのは?」
「イノーバよ、無茶をいわんでくれ、そりゃ昔は暴れたものだが調査等は儂の仕事ではないぞ」
「わはは、そうだった。お前は暴れるのが専門だったな」
「のほほ」
笑い事ではないのである。
「おっ、来たぞ。おーっ、入れ入れ」
イノーバは扉をノックする音に気付いて大きく声を出した。
年齢的にはイストよりも上なのだが妖精族は老化の遅い種族だ。しかもあまりよぼよぼになったりしない。
イストが明らかに老境にあるにも関わらず、イノーバはまだまだ若く見える。
まあ、それでも年を取ったのかの…とイストは思う。
主に腹回りとか、恰幅が良くなっているのはやはり年のせいか…
そんなところにガチャリと扉を開けて入ってきたのは四人の男たちで、皆イストの知っているものだった。
「イスト様。お待ちしておりました」
先頭に立つ代表の男がそういうのをイストは結構間抜けな顔で聞いていた。
「お前たち、なぜここにおる。お前たちの到着はまだ先のはずではないのか?」
それはイストの部下だった。
イストが先に真銀集めに走り、後からサポートと運搬のためにやってくるはずのイストの部下。
というのもスミシアに来るための定期便がまだ少し先になるからであり、いや、そのはずであり、イストのような無茶は誰にでもできることではないからだ。
「はい、我々はマーシアに移動して定期便を待っていたんですが、急にティアマヌンテス子爵様がスミシアに向かわれるということで、臨時便が…
便乗を申し込んだところ許可がおりましたので」
なので結局イストよりも三日ほど早くスミシアについてしまったというわけだ。
イストはがっくりと手をつき黄昏た。
自分の苦労はいったい何だったのかと、結構来るものがある。
まして今回の旅でイストは長年愛用した愛馬ならぬ愛鳥を失っている。
もちろん未来など分かるはずもないのだ、誰もこんなことは予測できなかっただろう。
だがこの脱力感は結構すごい。
イストは自分の周りをヒューヒューと木枯らしが吹き抜け、ダンブル・ウィードが転がって行くような気がした。
あくまでも気がしただけだ。ダンプル・ウィードは乾燥地帯の草だから木枯らしとはあまり関係がない。
荒涼とした心象風景である。
◆・◆・◆
「というわけで、イノーバ様の協力で回れるところはすべて回ったんですが…」
「真銀の確保には至らなかったというわけか…」
自分が指図しなくても部下がきっちり仕事をする。上司として責任者としてこれほどうれしいこともないのだが、真銀の当てが外れたのは痛かった。
絶対量が不足しているために金を積めば手に入るという段階ではなくなっているのだ。
二倍、三倍出しても真銀がほしい人間が今この町にはひしめいている。
イストが友人、知人を当っても結果は変わらないだろう。
「さて、どうしたものかのう」
「自分でとるしかあるまい」
うんうん唸るイストにイノーバはそう提案した。
自分で獲った(間違いではない)真銀を自分で使う。誰に文句を言われるようなことでもない。
イストにしても一度は考えたことだ。
だがこの『鋼の迷宮』はちょっと特殊な迷宮で、ここで活動する冒険者は金属狩りに特化したものが多い。
普通の装備しか持たない冒険者がぽっと来て狩りをして儲かりますというような環境ではないのだ。
しかも真銀は採取量が少ない。
つまりドロップ率が引くいレアドロップというやつだ。
「冒険者を雇うというのはどうじゃろか」
やはりこの環境で一番うまく仕事ができるのは専門の冒険者だ。彼らを雇って真銀狩りをする方がよいような気がする。
だがそれもあっさり否定された。
「今は無理だろうな…真銀の相場が上がったせいで冒険者も血眼になっとる。やとわれて真銀を探すより、自分で真銀をとって売った方が効率がいいだろ」
尤もである。
つまり冒険者を雇うにはそれ以上の報酬を提示する必要があるということだ。
そのうえで真銀が手に入るかどうかはやってみなくては分からない。
少々リスキーすぎるだろう。
「となると…」
イストは自分の部下たちを見回した。
魔術師一人と戦士三人。
「魔術は冷気系か…まあ使えるの…あと騎士は武器をメイスか何かに…いやだめか…慣れない武器ではあまり役には立たんじゃろうな」
イストはチラリとイノーバに目を向けるが彼はゆっくりと首を振った。
「俺は無理だぞ」
そう言って自分の足元をさす。
若いころの怪我で障害があり、迷宮行などはやはり無理がある。
「おっ、そうじゃ、マリオン君がおった」
イストは急に思いついた。
「なんじゃ知り合いの冒険者か?」
「まあ、そうじゃよ、クラスはEじゃったか…」
「なんだ駆け出しじゃないか?」
「うむ、まあそうなんじゃがな…この若者クラインをもっとる」
イノーバはほうと納得した。
クラインを持っているということは運搬という仕事に限ればどんなベテランよりも役に立つ。
「おまけにこの少年Cクラスの冒険者に貸しを持っておってな、マリオン君が頼めばCクラスの冒険者を何人か投入できるだろう。
まあ貸しを使わせることになってしまうから、十分な補償はしてやらねばならんが…まあそこら辺は話し合いで…」
「悪党だな~」
「なにを抜かす。もちろんちゃんと保証はするぞ…それになこいつトゥドラの弟子でな気のいい男だ」
イストはにやりと笑った。
イノーバは驚いたように目を見開いた。
二人とも何か昔に戻ったような楽しい気分を感じていたのだ。
そしてマリオンが貸しのある冒険者というのはもちろん鋼の牙のことだ。
部下の不始末に対して必ず賠償をすると彼らのリーダーか約束をしている。
マリオンが頼めば鋼の迷宮に詳しい冒険者を何人か投入できるのは間違いない。
そしてここにいる部下の内魔術師を戦力に、戦士を雑用に配置すれば運搬係のマリオンを合わせて結構いい布陣が出来上がる。
「よし、さっそく今夜にでも話してみよう」
マリオンの知らないところでマリオンの初めての指名依頼が決まったりしたのだった。
◆・◆・◆
「と言うわけで仕事をたのめんかな?」
「わあっ、びっくりした」
本気でびっくりした。
宿屋に帰るなり指名依頼が、しかもギルドではなく依頼主から出てくるとは思わなかった。
指名依頼というのは冒険者を指名してクエストを出すことで、冒険者にとっては結構名誉なことだったりする。
とは言っても。
「僕の仕事は荷物運びですか」
「まあそうなる。なるのだが他にもちと頼みたいことがあってな、迷宮に挑むとしても現在戦力として数えられるのが儂と部下の魔術師だけ、戦士が三人いるが、皆剣が主武装でな、この迷宮では剣はあまり役に立たん、この三人はまあ雑用となるじゃろな、だからもう少し戦力がほしい。後二、三人…言いにくいんじゃがこの町では現在、普通に冒険者を雇うのが難しくてのお…」
マリオンは一瞬首をひねったがすぐにイストが言いたいことが分かった。
「つまり鋼の牙を動員したいってことですか?」
「そうじゃ、あの者たちはおぬしに借りがある。おぬしが依頼すれば協力してくれるじゃろう。人員を数名貸し出すだけだし、あのものたちにとってもそう悪い話ではない。いやとは言うまい」
確かに嫌とは言わないだろう。
とマリオンは思った。
あの時、クレメルを取り押さえた時の彼らの恐縮ぶりはなかなか大したものだった。
それもそのはずで作戦行動中の隊員がしでかした犯罪はパーテイーの責任だ。
そしてこの世界では当たり前のように『連座制』が採用されている。
パーティーのメンバーがいきなり非のない人間に切り付けるというのは盗賊認定されても仕方がない暴挙だ。
それが連座させられるとなれば、マリオンがお畏れながら、と訴え出れば、下手をするとその場にいた全員が連座で犯罪奴隷に落とされる可能性もあった。
こういったトラブルの場合、大概は金や労働で解決されるのが普通だが、中には『もみ消す』という選択肢を採用者もいる。
ギルバルトがその選択肢を取らずに平謝りしたが、この場合は真に正しい選択だった。
貴族のイストが相手では間違いなく戦団全体に類が及び、間違いなく全員奴隷落ち。主要メンバーは極囚ということもありえた。
いくら冒険者活動中の貴族が無礼講とはいっても犯罪行為にまでそれが適用されるわけではないのだ。
ギルバルトは賠償を行う証拠として戦団の会員証をマリオンに渡し、訪ねてくれれば必ず納得のいく賠償をするからとそう言ったのだ。
だから賠償として人を貸してほしいと言えば確かに貸してくれるだろう。だがそれがこの場合マリオンに対する賠償になるのか? というと…
「もちろんこれはおぬしの権利で、それを儂が使ってくれというのは筋違いじゃ。じゃからわしの方からそれに見合った報酬を出す。
運搬の仕事の依頼料として三〇〇万リヨン。
どうじゃ?」
「マジ?」
ぶったまげた。ものすごい金額である。
イストの提案は賠償を受ける権利をお金で買おうというのに等しいのではした金では話にならない。とはいえ、これはものすごい額と言っていいのではないだろうか。
今まで手に入れた諸々で稼いだ金をぶっちぎる勢いなのだ。おそらく賠償としても破格なのではあるまいか…よく知らんけど…
それに鋼の牙という冒険者をこき使える権利など持っていたところでこの町を旅立ってしまえばほとんど意味がない。まさか移動だけで何十日もかかる場所に呼び出すなど現実味がない。
本人のいない肩たたき券みたいな物だ。
そしてこうして居並んだ部下の人を見る限り彼らがクラインを持っていないことも確かなので、運搬役が必要というのも確かなのだろう。
つまり急造パーティーということだ。
侯爵様のような人がマジックアイテムのアイテムバックを持っていないのだろうかという気がするが、これは後回しにしよう。
もんだいなのはこの仕事を受けるが受けないかだ。
マリオンはそう考える。
(こういう仕事でアルビスを連れていくというのはちょっと違うよな…でも今ちょうどユーリアが工房の方に用事があるということだし、ユーリアとティファリーゼにアルのお守りを頼んで…僕はしばらく迷宮行。悪くないかな…いや、楽しいかも…)
「イストさん」
「なんじゃね」
「僕はもこういうことは不慣れで、ですのではっきりお聞きするんですか、依頼料と賠償の肩代わりとしてこの報酬額は妥当なんでしようか?」
イストは実とマリオンの目を見つめた。
「わしは妥当だと思う」
「分かりました。お引き受けします」
ちょっと金額がデカくてビビったが、イストがそれで妥当というのなら妥当なのだろうとマリオンは納得することにした。
後はもらった金の分、見合う働きをすればいい。
(まあ、大半は賠償の変わりなんだろうけどね…)
「それでは、日数などの詳しい条件を打ち合わせましょう」
それに仕事を受けたのは相手がイストだということも大きい。
多分見知らぬ人の依頼であればこの条件では怖くて受けられない。
仕事の条件としては一回の探索を四泊五日として、最大三回。インターバル二日。ただし探索で必要な量の真銀が確保できたらそこで終了という予定だ。
その間の宿泊はこの宿屋をルームチャージの形でイストが維持する。
そう言う形だ。
必要な水や食料のなどの資材の運搬もマリオンの仕事になる。このやり方だとドリーを借りて大急ぎで迷宮の奥の方に行けるので効率がいい。
その分ティファリーゼやアルビスを連れていくことは難しいが、ちょうどユーリアにも用事があるし、自分が留守の間に次の旅程のための必要な品物を買い込んでおいてもらえばいいだろう。
マリオンはそう考えた。
ユーリアの用事というのは身辺整理と旅の途中で身につけた『工作魔法』を工房のみんなに教えることだ。
もともとはマリオンの発案でできた魔法だが、マリオンの側にはそれを秘匿するつもりなどまったくない。
しかも旅の間ユーリアがひたすら実践し、少しずつ使いやすいように改良を加えてきた魔法だ。
マリオンの側はもうすでにユーリアオリジナルのような気分でいる。それをユーリアがみんなに教えたいと言った時にマリオンは『それはよいことだと思う』と答えておいた。
ユーリアはとりあえずそれを工房の仲間に伝えるつもりなのだ。
きっとこの後この魔法は広く世界に広がっていくことだろう。
ユーリアがいま動けないなら、ティファリーゼとアルビスをここに残してユーリアと一緒に次の準備をしてもらえばいいのだ。
『この後の予定だけど東に向かう予定は変更して。いったん北に向かいます。
いま新しいマジックアイテムを作りまくっているナンチャラ子爵には会いたいと思っているんだ。
ついでにアントニアさんの姉妹ってのに会ってアントニアさんが亡くなったことだけば伝えておこうと思う』
マリオンは今後の予定として二人にそう宣言した。
東の果てに行くはずがどういうわけが北の果てに着てしまった。
思えばずいぶん予定が変わったものである。
◆・◆・◆
翌々日マリオン達はスミシアの北にある迷宮の門から『鋼の迷宮』に出発した。
メンバーはまずマリオン。
ユーリアとティファリーゼ、アルビスは予定通り町に残っている。
そしてイストとイストの部下4人。
これも予定通り。
イストは両手持ちの大剣を装備し、全身を金属製の部分鎧で守っている。
部下のうち一人がいかにも魔術師という風情のローブに長い杖。あとの三人は鎧と片手剣と楯といういでたちだ。
それに加えて『鋼の牙』からリーダーのギルバルト。魔術師のヒルドー。重戦士のランガーの三人が参加している。
鋼の牙との折衝は簡単にまとまった。
マリオンがギルドにイストと共に訪ねて行ったとき、ギルバルトやギルドのトラブル解決の担当者は顔色を青くしていた。
無関係な人間に対する犯罪は冒険者や冒険者ギルドの威信にかかわるために明るみに出ると結構厳格に対応せざるを得ない。
冒険者やギルドそのものが信用を失うようなことがあってはならないのだ。
それくらいなら問題を起こした冒険者をスケープゴートにする方がいい。とギルドは考えている。
ただ冒険者にも役に立つもの、どうでもいいものがいて、Cクラスというのはなかなか簡単に切り捨てられるものではない。
なので少し多めの金を握らせて手打ちにするのが普通だ。示談ということだ。
まあそれ以前にCクラスが暴挙と呼べるような行動でトラブルとなるのはあまり前例がないのだが…
だが今回は冒険者同士のトラブルだ。
しかも相手はEクラスの駆け出しだ。
言い方は悪いが少しプレッシャーをかけて、そのあとで便宜を図ってやればけりがつくと誰もが思っていた。
冒険者同士なら〈なあなあ〉で落としどころを見つけるのは全く持って珍しいことではない。
ところがギルドにやってきたマリオンは後見人として『イスト・カーティカイネン子爵』を伴ってきた。
正真正銘の貴族で、そして伝説級の冒険者だった男だ。
貴族として行政府に顔が効き、元冒険者としてギルドに強い影響力を持つ。
この時点でトラブルの解決はイストの胸先三寸になったと言って過言ではない。
そのあとでマリオンが三王神教会から中権使の称号を貰っていることを聞いた。
中権使の身分、云々というのはこの際問題ではない。問題になるのはマリオンの後ろに教会勢力がいるということだ。
つまりマリオンに対してあまりいい加減な対応をするとクラナディア帝国行政府が、そして三王神教会が出てくるということだ。
ギルバルトやギルドの幹部が『こりゃーえらいことになった』『飛んでもなことになった』と青ざめたのも無理のない事だろう。
そこに提示されたのが『真銀探索の手伝い』だったのだから彼らにとって望外の幸運と言っていい出来事だった。
地獄に落ちる一歩手前で天から蜘蛛の糸が降りてきたようなものだ。
しかも条件はかなり良心的。
手伝い自体は無料奉仕なのだがそれではやはりやる気が出ないだろうということで真銀以外の素材は折版でという提案だった。
全部まとめてお金に換えてそれを山分けにしようということだ。
それ以外の条件はマリオンと一緒でお目当ての真銀が手に入ればその段階で依頼は終了。つまり自由の身である。
しかも参加人員は腕の立つものが三人ほどでいいということだ。
ギルバルトは一も二もなく条件を飲んだ。
マリオンの手を握ってありがとうと涙ぐんだぐらいだ。
そしてこの鋼の迷宮で十全に戦える人間を自分を含めて三人選抜してやってきた。
(まあ、根は善良な人なんだよな…小市民だし)
ギルバルトの感覚が何となくわかるマリオンは結構親近感を抱いたりしている。
そしてもう一人。
三王神協会から神法官が派遣されてきている。
町に行ったらとにかく教会に何らかのお布施をというのはマリオンの行動指針になっている。
もともとはトゥドラたちに受けた恩を返すという名目でやっていたことなのだが、これが続けてみるといろいろ実利がある。
もちろん感謝の気持ちがなくなったわけではない。
だが感謝の気持ちを形にして、それで実質的に良いことがあるのならそれはどちらにとっても良い事。と割り切っている。
ここら辺が大人の対応というモノだろう。
昨日のうちにスミシアの三王神教会を訪ね、この町で売り上げた金子の内半分を寄進した。
一般的には大金と言っていいものだが、教会レベルで考えればやはり言い方は悪いがはした金だ。
だがここでも『中権使』の称号は効果を発揮する。
それはマリオンが継続的に教会に助力してくれていることの証明なのだ。
そう言う背景があれば金額や物の価値よりも『行い』そのものに重きを置いてくれるのが組織というモノ。お得意様は大事にされるのだ。
しばらくの間マリオンは神殿の偉い人とお茶を飲みながら話をし、迷宮に挑むことを話すと…
「それならウチからも神法官を出しましょう」
という提案があった。
それが今マリオンの隣を歩いているルルスだ。二五歳のかなり逞しい感じの男性だった。
前衛戦士三人。魔術師二人。回復一人。マリオンを含めた運搬雑用四人。
狩猟団として、なかなかの構成だと言える。
「あっ」
「どうしたね」
マリオンの上げた声にイストが首をかしげる。
「いえ、なんでもないですよ、残してきた連中がちょっと心配で」
「おぬし本当に子煩悩じゃの」
「いやー」
頭をかくマリオンに場は穏やかな笑いに包まれる。
初顔合わせのメンバーでしかも一部はいわくつきのパーティーだ。
だがそう雰囲気は悪くない。
(まっ、みんな大人ということだな)
それぞれ多少は思う所はあるのかもしれないが、それをいちいち表に出しては仕事などできないしね…)
それに…とマリオンは思う。
(考えてみたらちゃんとした迷宮探索ってこれが初めてじゃないか!)
そう、マリオンが気が付いたのはその所だ。
初めに気が付いた場所が迷宮であったらしいことは分かっているがあの時はひたすら脱出だけを考えて他はすべて無視だった。
はっきり言って『危険生物がいっぱいいるところ』程度の認識しかなかった。
ドーラの町でも狩猟活動は結構やったが近くの森がほとんどで迷宮まではいかなかった。
あの町はそれほど迷宮から距離があるのだ。
(なんか…ワクワクする?)
ちょっと期待に胸が高鳴るマリオンだった。
ようこそ、お越しくださいました。
今回は少々長くなります。
感想などございましたら是非お寄せください。お待ちしています。
トヨム




