第45話 正式加入
第45話 正式加入
「結構とれたな…」
「うん」
「そうですね」
マリオン達はそこかしこに散らばる切裂角兎を処理しながらそんな会話をしていた。
まず血抜きである。
血抜きというのは本当は心臓が動いている内にやるもので、そうでないとうまくいかないのだが、戦闘中にそこまで気を遣うのは無理という物だ。
だが大量の血が体内に残った場合、肉を焼くとその血が斑点として出てしまって見た目があまりよろしくない。
そこで小型の動物などに対して冒険者がやるのが遠心力による血抜きだ。
脚を持ってぐるんぐるん振る舞わすと残っている血も抜けやすい。
この方法を進めてマリオンが考えた『絞り出し』方法だった。
脚を持って吊し、上から順に圧力をかけていく。
肉を潰さない程度に慎重に…
もちろん最初の数匹は失敗した。
ドチャッって感じ…
ポイントは圧力のかかっている部分の圧力を均等にすること。
そして圧力にムラを作ることなく下に移動させること。
そして下方向にかかる重力を増加させること。
そしてちょっといやだが鼻から串をさい、血抜き穴を作ること。
この四つでかなり上手に血抜きができる。
勿論大型動物に対しても有効だろう。
肉の売値が違ってくるのでギルドでの買い取り値段も多少違ってくる。
何より自分で食べるときのお肉の見た目がおいしそうになる。
まあ、ここら辺は地球産人類の感覚で、他はちょっと違った見解があるらしい。
そして血抜きの終わった切裂角兎はユーリアが皮をはぎ、ティファリーゼが内臓を処理する。
これで販売体制が整う。
食べなければお肉の切り分けは必要ない。
内臓に関しては栄養があっておいしいと人気はあるのだがこれは腐敗が早く。猟師さんしか食べられない料理といった扱いで魔狩人の特権のようなものではある。
もっともクラインの保存効果が期待できるマリオン達は血抜きしただけのものも持っていて、いくらかはモツも含めて売るつもりである。
さてその利益だが…
「ユーリア…この分け前って半々で良い?」
そんな作業をしながらマリオンはそう切り出した。
切裂角兎をしとめるのは今となってはユーリアの方が多くなっている。
もちろんマリオンが何もしていない訳ではない。
あまりユーリアが危険にならないように銃撃でほどほどに魔物の数を減らしているし、戦闘中のフォローもしている。
それでもここまで役に立ってもらったらやはり分け前は出すべきだと思ったのだ。
その話を聞いてユーリアはビックリして首を振った。
「それはもらえない…私死んじゃう…」
意味が分からない。
ただしマリオンには。
ユーリアはこの旅でマリオンに実にいろいろな物を譲ってもらっている。
貫頭鎧衣に始まり、胸鎧。極めつけが大地の結晶のかけら。
これだけでも普通の陸妖精族が一生かけて稼ぐ様な物…いや、大地の結晶の指輪などよほどの幸運が無くては何をかけても手に入らない物だろう。
どうやって恩返ししようが真剣に悩んでいるところなのだ。
その上分け前まで?
何の冗談?
ユーリアは真剣にそう思う。
そこに持ってきて今度は『激震のメイス』が加わったわけだ。
考えても見て欲しい。わかい娘さんが『あげる』といわれて世界中の富を目の前に積み上げられたら…
一体、何を対価として差し出せばいいのか…
ユーリアは本当は体が縮み上がるような気分を味わっていた。
はっきり言って涙目になっている。
マリオンが人の良い青年であることは今までの旅で分かっている。
だがこれはお人好しで説明の付くレベルの話ではなく…
考えてみて欲しい。もし貴方が目の前に七〇兆円を、ドン! とつまれ、『あげるから好きに使って、気にしないで…見返りなんか必要ないから…』なんて言われたら…
怖すぎる。
マリオンの方としては大した意味もなく、手持ちのアイテムを分けてあげた程度の感覚なのだが…
マリオンにしてみても基本的に小市民で、同じ目に会えばおろおろするに決まっているのだが、感覚のずれというのは恐ろしいもので、自分がたいして価値が無いと思っている物だとどうしても扱いがぞんざいになる。
ユーリアは本気でめまいを感じていた。
◆・◆・◆
それを見かねたのがティファリーゼだった。
彼女は元々そつのない娘で、しかも今回は端から見ている人間だ。ユーリアの懊悩とその原因をほぼ正確に見抜いていた。
「旦那様、分け前のことですが、もうすぐスミシアにつきますし、これまでの旅の成果をどう処分するか一度整理して、決めておくべきだと思います」
「成果か…それもそうだね…」
(ユーリアも結構遠慮がちな子だし、きっちり決めておく方が良いかもしれない)
マリオンは逆方向に納得した。
(これは渡りに船だよね…居候とは言え随分役に立ってくれているから多少なりとも報いてあげないと…)
きっとユーリアがこの心の声を聞いたら卒倒したか、泣きながら走って逃げたかどちらかだと思う。
だがティファリーゼは先刻承知であった。
「じゃあ最初は、ユーリアさんの使ってる防具とスターメイスでしたっけ…この取り扱いを決めましょう」
ティファリーゼの言葉にマリオンは首をかしげた。
「えっ? なんで? あれはユーリアに…」
あげた物と続けようとしてとうのユーリアにさえぎられた。
「だめ…それは…だめ…」
「そうですよ、旦那様…あんな高価な物を人にただあげるなんて…どうしてもと言うんなら…どうですかユーリアさん。体で払うって言うのは?」
ティファリーゼはユーリアに水を向けた。
アホの子炸裂! とマリオンは思ったが、確かにこの場合はマリオンが簡単に考えすぎているのだ。
「ん…分かった。もうそれで良い」
そう言うとユーリアはいきなり立ち上がって服を脱ぎだした。
その表情は少し張り詰めた物があってマリオンをどきりとさせた。
「わーっストップストップ、身持ちが固いは何処に行ったの」
「でもここまでされたら私に払えるのは体と命くらい…他にやりようが…」
「そうですよ旦那様、若い女の子に次から次へとあんな高価な物を送って…あれじゃどんなに身持ちの堅い娘だって、あきらめて股を開きます」
「うん…好きにして下さい…」
服を脱ぎ捨てた(といって貫頭鎧衣の下は下着)ユーリアは、脱いだ服を脇に置くとそう言って手を付いて頭を下げた。
ティファリーゼはとなりですました顔でお茶を飲んでいる。
「えっと…じゃあ、しばらくはユーリアさんは旦那様のおもちゃと言うことで…旦那様が飽きたらポイということで…」
「それで良いです」
いや良くないだろう。
当然だが白旗を揚げたのはマリオンの方だった。
「分かった。わかった。僕が悪かった。あやまる!」
ティファリーゼの方から微妙にとげとげしい意思を感じる。
いわれてみれば自分が考えなしだったかとマリオンは反省した。
確かに妙齢のご婦人に首が回らなくなるほどの高価な品物を押し付ければ行き着く先はそこしかないだろう。
結晶装甲を纏っていると凛々しい戦士という印象のあるユーリアだったが装甲を外し、簡素な下着姿になると彼女はとても可憐な美少女だ。
その少女に決意に満ちた顔で『好きにして下さい』などと言われたらたまら無い物がある。
白旗をあげる以外に何ができるだろうか…
◆・◆・◆
仕切り直しである。
「ごめんなさい、考えなしでした」
ユーリアがもう一度身支度をしてからマリオンは改めて頭を下げた。
「いえ、こちらこそ…」
どうとでも取れる台詞だがユーリアの一言にはいろいろな思いが詰まっていた。
いろいろ言葉のたりない子だから、誤解されがちだが、彼女は誠実で真摯な娘さんだ。
その前提で聞けば一言から感じられる物はいろいろある。
気持ちが通じたのを感じてかユーリアの表情がなにげに柔らかいような気がする。
さて、とティファリーゼが話を切り出す。
「今までの経緯から考えて、指輪はユーリアさんの物で良いと思います。旦那様からの贈り物と言うことで…」
ティファリーゼの目配せに答えてマリオンは頷いた。
「後は貫頭鎧衣とブラジャーと、スターメイス…これは旦那様の所有と考えて…
対価って払えます? 旦那様のことですから時間がかかっても良いと思いのますけど…」
ふんふんふんふんとマリオンは首を振って肯定した。
分割払いOKである。
「とても無理…一〇〇〇年かかっても無理…」
「ですよねえ」
(えー? そんなに?)
マリオンは激しく衝撃を受けた。まだ判断が甘かったようだ。
ティファリーゼは知っている。ユーリアがこれらの物をどれほど気に入っているか…
(ユーリアさんの性格ですから返せと言われれば返すでしょうけど身を切られるほど辛いでしょうね…
だったらいっそ…)
「だったらユーリアさんいっそのことウチのパーティーに正式加入しませんか?」
「!」
ユーリアが驚いたように目を見開いた。
マリオンも驚いた。
「えっ? だってユーリアは鍛冶士の見習い…」
「やる」
マリオンの言葉は途中で遮られた。
「大丈夫ですよ旦那様。聞いたところによると陸妖精族の人って若い内は冒険者として暮らす人も多いそうです。
専属装具士みたいな感じで仲間の防具なんかの手入れをしながら修行するんですって…」
これはティファリーゼがユーリアと仲良くなってから聞いた話だ。
この頃からユーリアはマリオンに引かれるものがあったのだろう。
「正式なメンバーと言うことなら旦那様が報酬を出すのは当然ですし、ほら今回手に入れたあれやこれやも報酬の先渡しとして渡してもおかしくない訳ですし…
スヴェンの村で正式に加入したと言うことにして…
その分働くというところです」
「報酬の先渡しと言うよりは契約金みたいな物か…」
良いかもしれない…
マリオンがイメージしたのはプロ野球の契約だった。
まず契約金としてお金を渡し、年俸は別に渡すというやり方だ。
「本当にいいのか? ユーリアは金属加工の…彫金なんかの勉強をしていたんだろ?」
「うん…でも良い。新しい工作魔法は今までとは全く違うやり方…今までの彫刻刀でやるやり方とは随分違う…もっと研究したい」
それに…とユーリアは口に出さずに続けた。
ユーリアは今回の旅で自分の未熟さを思い知らされることが多かった。
シムーンとの戦闘ではマリオンやティファリーゼが…小さいアルビスまで諦めずに立ち上がったのにユーリア一人が座り込んで泣いていた。
それはユーリアに『負けた』という思いをもたらした。
人として負けたと…
だから強くなりたいと思ったのだ。
単に戦闘能力だけではなく、いろいろな意味で…
そこに加えて工作魔法の可能性という物もユーリアを魅了する。
もっと先に行けるかもしれない…向上心のある人間にとってこれほど魅力的な誘惑もそうはない。
そういう内心の複雑なあれやこれやを口にするのは苦手だった。
だからユーリアは真剣な目でマリオンを見た。
見つめた。
その目はマリオンに何かを思い起こさせる。
(あー、前にもこんなことはあったような気がするな…)
「ユーリア最後に一つ…修行させてくれている師匠というのは大丈夫?」
「大丈夫。マリオンさんには二度も命を救われた。これを返さない方が恥ずべきこと…分かってくれる」
それでもマリオンは悩む。人の一生の問題だ。まして相手はわかい娘さん…はっきり言って戸惑いの方が大きい。
だがそこでティファリーゼの援護が入る。
「それに旦那様、やはりウチは人手不足が過ぎます…アル君を連れて旅を続けるならどうしたってもう少し人手が必要です…
ユーリアさんと一緒に旅をして本当にそう思いました。
奴隷を買うという方法もあります。
ですが奴隷では…確かに裏切られはしないでしょうけど…積極的に働いてくれる者が手に入るか疑問です…」
確かにそれもある。マリオンは自分が『竜を下せし者』であると言うことをおおっぴらにする気はない。
秘密などいずれはばれていく物だが、わざわざ喧伝する必要はないのだ。
そうなると奴隷というのは確かに一つの選択肢だ。
彼等は魔法によって主人を裏切れない様になっている。秘密の保持という観点からとても役に立つ。
だが冒険者としてモチベーションを持って仕事をしてくれるかというとそれは保証の限りではない。
ティファリーゼは自分と引き比べて『マリオンに対して忠誠を誓い、献身的に動いてくれるか?』という点を危惧する。
マリオンのもとでなら、ちゃんとした良識のある奴隷なら、忠勤に励むことが一番いいのだと理解してくれるだろうとも思うのだが、残念ながらそういう人間はあまり奴隷に墜ちたりはしない。
ティファリーゼは自分の主人に仕える人間が、イヤイヤ仕事をしているという状況を容認する気はまったくなかった。
一方マリオンのほうはティファリーゼが奴隷身分なのはすっかり忘れているのだが、同様に新しい奴隷と良好な関係が築けるかという点は気になる。
もしこれがうまくいかないと魔法を使って強制的に働かせると言うことになるのだろうがそれはなかなかに気分がよろしくない。容認しがたい。
「あーそうだよね…うん、ティファには感謝している」
いろいろな意味でティファリーゼは得難い仲間である。
「旦那様…もったいない…お言葉です…」
ティファリーゼの目は感動でちょっとうるうるした。
その点でもユーリアが加わってくれるのはありがたいことだろう。
すでに気心は知れているし、まじめで誠実な娘さんだ。
マリオンの秘密を積極的に漏らすこともないだろうし、おまけにやる気に満ちている。
もちろん彼女なりの目的があってのことだろうが、それはあって良いものだ。
彼女もマリオンにとって得難い仲間なのだ。
「うーん…じゃあ、お願いしようかな…ユーリアがいてくれると助かるし…
その装備はそうだな…ウチのパーティーに入ってもらうための支度金変わりと言うことで…
報酬は確約はできないかな…まあ…やってみての稼次第と言うことで…
こういう分け前ってどうすんだろ? ティファ何か知ってる?」
「いえ、残念ながら…でもギルドで聞けば一般的なやり方は教えてくれると思いますよ」
「それもそうか…じゃあそれは後で話し合おう」
「当分ただ働きで良いです…この分、働きます」
そう言ってユーリアはメイス他を抱きしめた。
ちょっとちくちくした。
「まあかけだしパーティーだし当面はみんなの衣食住を過不足無く確保するべく頑張ろう」
「おーっ!」
「おー…」
「? おっ?」
ティファリーゼ、ユーリア、アルビスの順です。
何はともあれこうしてマリオンのパーテイーが発足した。
『どっちにしても、僕一人が保護者だよな…』
まあそこら辺は年長者の責務と言うことで諦めてほしい。
◆・◆・◆
ごちゃごちゃ話しているウチに結構時間が経ってしまったのでこの日はこのままキャンプになった。
これではなかなか先に進まないのも頷ける。
少し早いが、いや早いからこそ、ゆっくり風呂に入ろうと決めたマリオンは早速準備に入っていた。
ブレスでお湯を沸かす。これは他の者に手が出せる作業ではないので完全にマリオンの独壇場だ。
獣車の中からその光景を見ながらティファリーゼはユーリアにそーっと手を伸ばし、そのオッパイを揉み拉いた。
「ひゃっ」
「あっ、たってません…」
「なにするの? いきなり胸を揉むなんて」
「ごめんなさい。乳首が立っているかと思って」
「なっ」
ユーリアは絶句した。
まったくもってよく分からない行動パターンだ。
「なんで?」
ユーリアの質問にティファリーゼは顎に指をやり、爆弾を投下した。
「ユーリアさんって発情してますよね?」
ティファリーゼの台詞を聞いてユーリアの顔がみるみる赤くなる。
もとが色白なのでごまかしようがない。
「さっき服を脱いだときとか…結構本気でしたよね…それも仕方ないとかじゃなくて…結構…すごく期待してた…
本当はあのまま犯されたかった?」
「なっ…」
すでに顔の赤さは耳から首筋にまで及んでいる。
「なぜかって? 私は獣人ですからね…鼻がいいんです。今だってユーリアさんの体から発情期の雌の臭いがしますよ。
私も経験はないんでよく分からないんですけど、あの状態でお尻を向けてくねくねしたらそのままお情けをちょうだいできたんじゃないでしょうか?」
ユーリアの頭の中にその光景が思い浮かんだ。
さっきは下着は着ていたがイメージは全裸で…隠す物も何もない姿で…女の子の秘密を見せつけて…そのまま…そのまま…そのまま…
ユーリアはくらくらしてそのまま突っ伏した。
湯気が出そうだ。
「いやこれはまじめな話なんですよ?」
ティファリーゼは真顔でそういった。
「旦那様だって立派な殿方です。以前にお話ししましたが旦那様の御子を身ごもっている女性もいらっしゃいます。
それが旅に出てから数ヶ月。、旦那様には女っ気なしです」
「ティファちゃんが居るのでは?」
「私ではまだ無理ですね…私に欲情するような男はどうしようも無い変態です」
そう言ってティファリーゼは自分の完全幼児体型の体を撫でた。
「それに生理も来てませんし…私はやはり女ではなく女の子です…それでも旦那様には落ち着いたらちゃんと手を出して下さると約束いただきましたから…もう焦ったりはしないんですけど、旦那様にもちゃんとした『女』が必要だと思うんですよね…」
「町に行けば娼婦も居るんでしょうけど、従僕といたしましては、私としましては、納得のいくいい女を抱いて欲しい訳ですよ」
「それで私?」
「はい。ユーリアさんなら合格です…どうせこのまま一緒に旅を続ける仲間ですし…ユーリアさんが旦那様の女になるならかえってうれしいかなって…」
「ヤキモチとかは?」
「は? 何言ってるんですか、旦那様がちゃんとした女性を『女』として確保すると言うことはそれだけ旦那様が優れているという証明じゃないですか」
このティファリーゼの言葉は完全に本気だ。
ユーリアは激しく種族ギャップのような物を感じた。
人族や獣人族が一夫多妻制上等の種族だと言うことは理解はしていた。だが、ここまで感覚が違うとは思っていなかったのだ。
ユーリア達、妖精族は一夫一婦制で彼等は番の相手に対し強い執着をもつ傾向がある。
それはつまり独占欲で、現れかたとしてはヤキモチとして現れることが多い。
つまり独占欲が強いのだ。
その反動でもあるのだが、決まった相手のいる男は自然と恋愛対象から外れる傾向がある。
ユーリアがマリオンに対して踏み込めずにいるのはそれが一番の理由だった。
だがそれはとりもなおさず自分がマリオンに引かれていることの証明で、さっきの『体で払う』という行為は自分自身に対する欺瞞といえる。
もらった物の代償なのだから『しかたがない』と自分をごまかす行為だ。
「もし良かったら本気で考えて下さいね…旦那様は一夫一婦制にはなりませんけど優良物件です。
陸妖精族の皆さんも別に必ずそうという訳でもないんでしょ?」
「確かにその通りだけど…」
男一人女一人でカップルを作る者が多いとはいえ、変則的な夫婦が居ない訳ではない。
こういった世界だ。陸妖精族といえども男女比は女性の方に偏る傾向がある。
一夫多妻制を受け入れたからといって非難されるような物ではないのだ。
これは詰まるところユーリアの、若い娘さんの『理想』の問題でもある。
ティファリーゼはユーリアがそれに結構強いあこがれを持っていることを理解していた。
そして、できればマリオンと夫婦としてむつまじく暮らしていくことを妄想していることも理解している。
だがこの二つは両立しない。
もちろんマリオンがそれを望むのなら邪魔はしないつもりで居るがマリオンほどの男に女がよってこないなど無いと信じているし、マリオンの性格ではドーラの町に残してきたタニアと子供を見捨てることも絶対にない。
ユーリアがマリオンとの関係を望むのなら『一夫多妻』は受け入れざるをえない。
だが人間と言うのはこういうところから自ずと目をそらしてしまったりする。
夢を見るだけで何もせずに終わってしまう人間は実に多いのだ。
だからティファリーゼがやったのは『貴方はどちらかを諦めないと行けないんですよ』と選択を突きつけた上で、ユーリアがマリオンの女になるようにちょっと環境を整える行為だ。
膝を抱えて考え込んでしまったユーリアをティファリーゼは頷きながら見ていた。
(プレゼントをもらって嬉しくない女なんていませんし…ましてそれがこの世に二つと無い物…
ユーリアさん…何かきっかけがあれば絶対墜ちますよね…)
すでにティファリーゼの中ではユーリアがマリオンの女になることが決定しているらしい。
…ティファリーゼ…恐ろしい子…
である。
45話をお届けします。
感想などございましたら是非お寄せ下さい。
それでは今日もありがとうございました。
トヨム




