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パラダイス・ネスト~異世界における楽園の作り方~  作者: トヨム
二章・気がつけば迷走
39/59

第39話(迷走編) 戦闘! リンドブルム

次回投稿は少しお時間をいただいて6月7日の日曜日となります。

 第39話(迷走編) 戦闘! リンドブルム


「ひっ」


 ユーリアの喉が引き攣った声を漏らす。


「ふえーん」


 それと同時に雰囲気に当てられたのかアルビスが泣き声を上げた。


 子供が泣くのは助けを求めるからだ。

 だがこの場合は魔物の興味を引くだけだった。


 魔獣が翼を広げて飛び立つのが見えた。


『あっ、おんなじだ』


 デジャビュではないが、それはいつか見た光景だった。逃げなくてはならないのは分かっていたが身体は反応しなかった。

 こういう状況で反応できるほど、ユーリアは戦闘経験が豊富ではない。

 まだ一七歳の少女なのだ。


 せめてこの子(アルビス)だけでも…そう思うがどうして良いか分からない。

 まるで夢の中にいるように体が動かない。

 だがその時。


「ふせろ!」


 マリオンの力強い声が響き、その声にはたかれ、身体が反応した。

 アルビスを抱え込むようにして地面にかがみ込む。

 視界の隅を朱金の光がかすめ、魔物の羽音が自分から離れていくのが分かった。


 それと同時に背中から何かやわらかいものがのしかかってきて全身を包み込む感覚。


『あっ、あったかい…』

 まるで優しい何かに守られているような…


「ひや-!」


 気がしたのは一瞬で次の瞬間にはユーリアとアルビスはふわりと浮きあがり。勢いよく後ろ、つまり木々の間に向かって転がっていった。

 ゴロゴロゴロゴロと思いっきり…


 とにかく二人は危機を脱したのだ。


 ◆・◆・◆


「リンドブルム?」


 マリオンは凄まじい早さで急降下して一羽のドリーの命を奪ったその魔物を見てそうつぶやいた。


 『翼を持つドラゴン』という意味の名で、空飛ぶドラゴンの総称として使われることもある名前だが、その伝承はいろいろある。

 後ろ足がないドラゴンであると言うのが有名で、ヨーロッパにおいて紋章によく使われるのだが、今マリオンの前にいる魔物の特徴もリンドブルムの名でよばれるドラゴンのそれの一つだった。


 すなわち、鰐のような頭に先端が尖った長い尻尾。前足が猛禽で胴体と後ろ足がライオン。大きなコウモリの翼で凄まじい速さで空を飛ぶ。

 雷を起こし、雷光として空を駆ける。


 マリオンの読んだ文献のひとつにそう記されていた。


 マリオンか反射的に駆け出したのは間の悪いことにアルビスとユーリアが草原に出てきてしまったのを見たからだ。


 もしここにいるのがドリー達だけであったならば、マリオンも無理はしなかったかもしれない。

 マリオンはなんでもかんでも守れると思えるほどおめでたくはないし、守るべき存在もの、なすべきことに優先順位をつけられるくらいには大人なのだ。

 ドリーたちは確かに旅の仲間ではあったが、家畜を助けるためにできる無理にはおのずと限界がある。

 なんと言われようとこれを理解しない人間には何も守れないとマリオンは思っている。


 だがアルビスを守るためなら最大限の無理をする。

 ユーリアの優先順位はその次だ。


 だがこのときは結局生き残りすべてを庇って戦いを挑む形になってしまった。


 リンドブルムは二、三度ドリーを咥えて地面に叩き付けてとどめを刺した。

 二メートルもあるドリーがまるで狼に咥えられた兎のように見える。リンドブルムの大きさもなかなか大したものだ。

 なのにこいつは動きが速い。


 生き残ったドリーは既に逃げていて、近くにいるのはアルビス達。

 リンドブルムは素早くそちらに向けて動き出した。


 だがマリオンの方も負けてはない。

 打ち出されるように駆け出し、二人の下に駆け付けると伏せろと叫んだ。


 ユーリアの躰がアルビスを抱き込むように丸まる。


(ナーイス!)


 もう距離はかなり近くなっている。

 魔物との距離も…


 マリオンはリンドブルムの進路上に魔銃を数発撃ち込んだ。威嚇射撃である。

 朱金の光が走り、リンドブルムが一度大きく跳び退る。

 マリオンには十分な時間だった。


 マリオンは触手フィールドアームを伸ばし、ボールのように広げ、やんわりと二人を包む。

 透明なポールの中に二人が浮かんでいるような状態だ。

 そしてその力場フィールドを…


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ…


 と森の方に向かって転がした。


 ひゃーとか悲鳴が聞こえたがこの際かまっていられない。

 ついでにアルビスの笑い声も聞こえていた。


 泣いたカラスがもう笑ったというが子供は切り替えが早い。


 この力場フィールドのボールは木々の間に入り込みそこで止まった。

 すぐに力場フィールドが崩れて二人が解放される。


「ぶっ!」


 唯一の失敗はユーリアがさかさまになってしまったことか?

 木に寄り掛かるように、でんぐり返しの途中で逆さまに止まってしまった。

 目が回ったのか大開脚である。


「み、見なかったことにしよう…」

 マリオンはグリンと前を向いた。


 それよりも今はリンドブルムであるのでこの判断は正しい。黙っていればわからない。そう分からない。


「さて仕切り直しだ。食らえ」


 リンドブルムは一度飛び退ったあと、かなりの速度で飛び回りながらマリオンを威嚇していた。


 すでにドリーの一羽はこと切れている。生き残りの一羽は森に駆け込んだ。

 石獣たちは身を低くして身を守っている。


 マリオンはそれらを確認しながらリンドブルムに銃を向け引き金を引いた。


 一発、二発、当然のように外れた。

 動いているものに攻撃を命中させるのはなかなかな難しいのだ。


「だけどこれは計算の内」


 射撃から着弾までの時間予測、リンドブルムの移動速度、それらを霊子りょうし情報処理能力コンピュータで計算し、何となくこんなかなと狙いをつける(それって計算してるの?)

 銃から打ち出された魔力のビームが到達するまでにどのくらいリンドブルムが移動するのかそのあたりをつけたのだ。


「今度こそ」


 予測射撃と呼ばれる技術である。


 ダン! という音とシュパッという空気を切る音が重なる。

 その弾速――ビームだけど――はかなり早く、いくら早く飛び回る魔物相手でも当然にあたると思われた。


「あれ?」


 だがその射線をさけるようにリンドブルムは進行方向をかえてしまう。

 まっすぐ飛んでいたのがいきなり別方向に動いたのだ。


「嘘!」


 マリオンの方もすでに戦闘モード。認識力の強化に伴い取得情報の増加と処理速度の上昇は時間の引き伸ばしのような感覚をマリオンに与える。


 急速に方向をかえ大きな口を開けて突っ込んでくるリンドブルムを横っ飛びで躱す。


 げぇぇぇぇぇっ。

 げぇぇぇぇぇぇっ。


 悔しかったのだろうか、あまり麗しいとはいいがたい声で抗議をするようにわめくリンドブルム。

 そしてその早さゆえにわずかの間にかなり距離が離れてしまう。


 そして再びの突撃。


「今度はこれだ」


 マリオンは圧縮空気弾コンプレッション・シェルをリンドブルムの進路上に広く撃ち出した。

 この魔法はそれほど強力ではないが連射がしやすい。


 直進してきたリンドブルムはマリオンの思惑通り、圧縮空気弾に突っ込み、その爆発に巻き込まれ、したたかに衝撃の洗礼を受けた。


 げげーっ! げげーっ!


 この鳴き声も問題があるような気がするが、ずれた鳴き声とは違ってリンドブルムの動きは素早い。


 圧縮空気弾に懲りたのか、リンドブルムが距離をとったためにマリオンの攻撃はなおさら当たらなくなってしまった。


 この魔物は驚いたことにマリオンの銃撃をことごとく躱して見せたのだ。


「まるで瞬間移動じゃないか…」


 その動きを見て思わず愚痴がこぼれた。


 ◆・◆・◆


 ユーリアは抱えていたアルビスをティファリーゼに引き渡した。


「これで動ける…」


 逆さまのまま木にはまってしまって、しかもアルビスを抱えていたための動けずにいたのだ。


「危うくお嫁に行けなくなるところ…」


 逆さまで大開脚など人に見せられたものではない。

 だが目撃者がティファリーゼ一人ならノーカンである。

 ユーリアは思った。


 マリオンが魔力知覚でしっかり見ていたことととか、マリオンがしっかりと見てしまったモノは霊子りょうし情報処理能力コンピュータに記憶されてしまうことなどは内緒である。

 本人が知らないのだからそれでいいのである。


 それにユーリアに関して『目の保養』関係は今更とも言える。


 体勢を立て直すとユーリアはすぐにマリオンから渡された剣を取出し、森の端まで駆け戻った。

 ティファリーゼには箱車の中に隠れているように言い置くことも忘れない。


 そして木々の合間から見たモノはマリオンとリンドブルムの戦闘の光景だった。


「すごい…」


 マリオンが魔術師であると誤解しているユーリアだったが、ここまで腕が立つとは思っていなかった。

 マリオンの腰が低いのでてっきりあまり実力者ではない駆け出しの魔術師だと勝手に思い込んでいたのだ。


 だがこの戦い振りは未熟者どころではない。熟練者を通り越して一流かもしれない。そんな感想をユーリアに抱かせるものだった。

 魔術師というのは希少な存在である事をユーリアは知っている。

 そして彼らの魔法が戦闘特化であることも…


 魔術師はユーリア達妖精族のように生活の中で器用に魔法を使うことはしない。できない。

 だが術式として積み上げてきた技術は戦闘にこそ威力をはっきりする。


 こと、戦闘に関しては元々魔法の使える妖精族よりも魔術師の方が上手なのだ。


 だが魔術師であればだれでもというわけではない。

 その実力はピンからキリまで、少なくともこの魔獣と一対一で渡り合えるような魔術師はそうはいないはずだった。


 両者の戦いは一進一退、千日手の様相を呈していた。


 ユーリアの眼にはマリオンが手に持った魔導器コンダクターで光の線を打ち出してリンドブルムを攻撃しているように見えた。

 威力は分からなかったが本当に速い攻撃だった。


 だがリンドブルムはこの攻撃をことごとく躱している。

 攻撃がなされた瞬間に少し離れた場所にぱっと移ってしまうのだ。


 リンドブルムも完全に距離を置いた遠距離戦に徹している。

 翼の下あたりに魔力の球、光る球体が生まれ、それがかなりの速度で打ち出されてくる。

 帯電している所からおそらく『雷』属性の魔法。曲がりながらマリオンを目指して飛んでくるところから『風』の属性も持っているのではないだろうか?

 おそらくとんでもない威力があるのだろうとユーリアには思えた。


 だがマリオンはこの攻撃を迎撃している。


 マリオンの周りには数個の蒼い球体が浮かんでいて、光る雷球が飛来すると、それに向けて打ち出される。

 それは雷球の進路上で爆発を起こし、雷球を破壊してしまうのだ。


 お互いの攻撃をお互いがすべて無効化するという高度な戦闘が続いていた。


 あっけにとられ、しばらくその光景を見つめていたユーリアだったがはっと正気に戻る。


『あんな強力な魔法…どんどん使って魔力が持つはずがない』


 人類種族と魔物では保有する魔力量が違う。

 人類種族は貯めていた魔力を使い切ればしばらくは休んで魔力の回復を待たないといけない。


 平たく言うと魔物に比べて人類種族、人族、獣人族、妖精族は魔力の回復が遅い。中でも人族は特に遅く、魔力を使い切れば薬で回復しない限り、ゆっくりと休養をとる必要がある。


 いかにマリオンがすぐれた魔術師で、優れた魔導器コンダクターを持っているとしても正面からの打ち合いでは勝てるはずがない。


 それはユーリアにとっての常識だった。


 一瞬『このまま隠れていれば魔物は行ってしまうのでは?』という考えが頭をよぎった。

 それはマリオンの負けを想像したからだ。


 マリオンが負ければ魔物はドリーとマリオンと、場合によっては石獣を一頭、仕留めて此処を飛び去るだろう。

 そうすれば自分は巻き込まれ出ずに済む。

 自分とティファリーゼとアルビスと石獣は助かる。

 そうなれば山を脱出することも不可能ではないだろう。


 それは別に非道でもないし、薄情なことでもない。

 聖人君子ではないのだ、ふっとそんな考えが頭をよぎることは誰にでもある。


 どんな人間だって『こいつ殴り殺したい』とか『このお金貰っちゃえば…』などという考えが頭をよぎることは当然にあるのだ。

 だが、それは非難されるべきことではない。


 なぜなら人間には理性と良心があるから…


 どんな邪念がよぎっても人間は理性と良心でそれを踏み越えていく。

 それは普通のことで、そして素晴らしいことだ。


 ユーリアも本当に一瞬で邪念を振り切り、マリオンを、仲間を助けるために駆け出した。


 ◆・◆・◆


「ダメだー。決め手がないー」


 一方マリオンはいい加減辟易していた。


「まったく攻撃が当たらない…」


 問題は瞬間移動のように見える高速移動。

 空間転移の類でないことは分かっている。

 だがA地点からB地点までをほとんど物理法則を無視したような早さで移動してこちらの攻撃を躱してくれやがる。

 しかもビームが撃たれてから到達するまでのわずかな間でだ。


(確かにレーザーではないから光速と言うにはほど遠い弾速だけど…)


 だがそれでも高圧縮したエネルギーの塊を爆発させ、その超高圧を一方向に射出するという構造の弾速は拳銃などでは実現できないスピードを持っている。

 音速ははるかに超えているはずだった。


 それがシュパシュパと躱される。

 あきれてものが言えない。


「もっと近づいてくれればいいのに…」

 そうすればさすがに躱せまい…マリオンはそう思う。


 だが最初に圧縮空気弾コンプレッション・シェルに突っ込んで痛い目を見たせいか、リンドブルムは距離を取って魔法で攻撃をしてくる。


 翼の下あたりに魔力球が生まれ、それがホーミングしながらマリオンに向かってくるのだ。

 まるで戦闘ヘリがミサイルを発射しているようだ。

 まさか試しに受けてみるわけにも行かないので圧縮空気弾コンプレッション・シェルをぶつけて迎撃したが、おそらく『雷』属性の魔力球を『風』属性の魔力で撃ち出している物だと思われる。


 つまり巨大な電気の塊が自動追尾しながら飛んでくるのだ。危ないことこの上ない。


 これに対してマリオンは自分の周囲に圧縮空気弾を複数浮かべ、魔力弾の進路上に叩き込むと言う方法で対処している。

 直接当てるのではなく、進路上にばらまくのがポイントだ。


 だがこれでお互いに決め手を欠き、手詰まりになってしまったのだ。


「だけどまあ…接近戦よりはマシだけどな…」


 マリオンはそう思う。

 接近戦であの瞬間移動を使われ、しかも肉弾戦を挑まれると攻撃を躱すのが先ず無理という気がする。

 自分の防御力場が強力なのは分かっているがあの口を押さえきれるか自身がない、不意を突かれたら対処できないような気がする。


 その所為かリンドブルムにはずいぶん余裕があるように見える。まるでネコが鼠をいたぶるような雰囲気だ。


「魔力は…大丈夫だな…」


 マリオンは自分の中で『魔力炉』が順調に稼働しているのを感じていた。

 自分の中にある光の球のような存在もので、魔力を生成するユニット。

 どういう理屈かはわからないが『霊子いのちの力』がわき出し『根源魔力』が精製される力の泉


 精製された『力』が全身に隈なく送られ循環する。


 魔法はこの根源魔力の一部を属性魔力に変換して行使される。そうして消費される量は供給される量よりもずっと少ない。

 つまり魔力切れの心配はないということだ。


 そして体力も気力も充実している。


 生み出される『根源魔力』は全身を駆け巡り、マリオンの躰を、循環し、満たし、気力として、体力として充実させ活性化させる。

 この程度では疲労も感じないし、集中力の衰えもない。


 これならばしばらくは戦闘を継続しても何の問題もないだろう。


 つまりユーリアの心配は的外れだったのだ。


 だが状況が硬直しているのもまた事実だ。


 マリオンがもう何度目になるかわからない銃撃を加えた。

 リンドブルムは当然のように瞬間移動で大きく躱す。

 リンドブルムは銃撃がきわどい時は小さく躱すくせに、余裕がある時はおそらくマリオンをバカにする意味も込めて大きく躱すのだ。


 そしてこの時、低空にいるリンドブルムに向かってユーリアが走り込んだ。


「あっ、ばか!」


 マリオンは思わず口走ってしまったがこの場合は仕方がないと思う。


 ユーリアの防御力では到底リンドブルムの攻撃を受けられるとは思えなかったのだ。


 そして偶然だろう。リンドブルムの動いた方向はまさにユーリアのいる方向だった。


 もし攻撃を受けなくても接触だけで大惨事だ。マリオンの頭を一瞬いやな想像がよぎる。

 だが結果はマリオンの想像したものとは違った。


 走っていたユーリアはリンドブルムが動き出そうとした瞬間ふわりと浮きあがり、少し前に吸い込まれるように動いたと思ったら、勢いよく横に飛ばされたのだ。


 逆にリンドブルムの瞬間移動は不発。


 少し横にずれた後、地面に落ちてズルズルと滑った。


 マリオンは周囲にあった圧縮空気弾を威嚇のためにそのリンドブルムに撃ち込んでユーリアのもとに走る。


 げげーっ!


 何かふざけているような鳴き声だがこれがまともに入った二度目の攻撃だ。

 あまり効果は期待できないが怯ませるくらいはできるだろう。


「大丈夫か!」

「あっ…あ…い…だいじょ…」


「あまり大丈夫そうじゃないな…」


 ユーリアの状態はそれほど酷くは見えなかった。


 地精結晶装甲と新しい装備のおかけで大きな怪我をしなくて済んだようだ。

 勢いよく地面を滑ったので普通の人なら傷だらけだっただろう。


 だが耳を押さえ、頭をふっている姿からノーダメージとは行かなかったようだ。


「ごめん…耳鳴りが…」


(耳鳴り?)


 耳鳴りという言葉とあのとき吸い込まれるように動いたユーリアの姿がフラッシュバックした。


(ひょっとして…)


「ユーリア、しっかりして、大事なことなんだ…今どんなだったか話してくれ」


 ユーリアは自分に背を向けてたち、リンドブルムに正対するマリオンの背中を見開げた。

 なぜかドクンと心臓が跳ねる。


「耳鳴りがして…皮膚がびりびりして…目が熱くて息が全部出て行ってしまって…」

「…やっぱりか」

 マリオンはほくそ笑んだ。

「…あいつ真空チューブで移動してやがったのか…」


 リンドブルムは飛んでいたのではなかった。おそらく風の魔法の一種。自分の位置から移動したい場所まで空気のトンネルを作る。自分の側から出口までの空気を排除した真空のトンネルだ。


(どおりであいつの周りでしか魔力が動かないはずだ)


 いきなり自分の脇に低気圧の空間が出現し、リンドブルムはそこに()()()()()()

 掃除機で間違って大きなごみを吸い込んだとこのことを考えればいい。

 空気の抵抗もないからいくらでもスピードが出る。空気がないのだから音速を突破しても衝撃波も出ないだろう。


 これがリンドブルムの瞬間移動の正体だった。


 ユーリアがたまたま真空チューブに触れたためにあやまって吸い込んでしまい。中途半端に移動させてしまったことでチューブが壊れリンドブルムは移動に失敗したということだ。

 だが中途半端で良かった。もし完全に吸い込まれていたらユーリアはとんでもないところまで超高速で運ばれていたかもしれない。


 本当にいろいろ運のいい娘だ。


「ありがとうユーリア、おかげで何とかなりそうだ…」


(いくら魔法っつったっていきなりそんな魔法を構築して移動なんてできるはずがない…魔法の準備はいつでもできていると考えるべきだ)


 その証拠にきわどい攻撃は体一つ分くらいの移動で躱している。

 瞬時に展開出来るのはこれが限界なのだ。


 逆に言えばある程度、長距離を移動するときは事前に魔法の準備が必要になる。


(リンドブルムの周辺で起きる魔力の動き、それだけである程度移動方向は特定できるはず)


 おまけに魔力の都合か何か知らないが移動距離はだいたい決まっているように見えた。

 であれば…


 マリオンはリンドブルムが移動しながらこちらを注意深く見ているのを確認してから銃を構えて一発ビームを打ち込んだ。


 リンドブルムの魔力が斜め後ろに偏るのが見える。そして瞬間移動。


 げーっ。げーっ。


 これは多分マリオンをバカにしているのだ。


 だがマリオンの銃撃は確認のためだ。

 

 マリオンはリロードを済ませるとにやりと笑ってもう一度狙いをつけ引き金を引いた。

 魔力が偏りもう一度瞬間移動。ビームはむなしく空を切る。だが…


「あまーい」


 マリオンはリンドブルムの移動よりも早く、リンドブルムが移動する方向に銃を向ける。

 正確な位置が分かるわけではないが大体の場所が分かれば狙いはつけられる。あとは銃口の向きを微調整するだけ。


 リンドブルムが瞬間移動を終えるとほぼ同時にもう一度銃撃。


 そして今度は魔力の偏る方向に、リンドブルム一匹分だけ銃口をずらしてまた引き金を引いた。


 狙い通りだった。

 瞬間移動を終えた直後に襲撃を受けたリンドブルムはあわててもう一度、体一つ分の移動を行う。

 だがそこにもすでに予測射撃が…


 それでもリンドブルムは躱して見せた。だが完全にではない。

 ビームはリンドブルムの羽根に大きく穴をあけたのだ。


 げげーっ!


 こいつひょっとしてわかってやってるんじゃないのか?


 だがこれで状況は好転した。


「では次はこれだ…さんざんうっとうしい思いをさせてもらったからお返ししよう」


 マリオンの目の前で魔力が形作られる。

 魔力術式力場体マナグラム・フィールド。マリオンの魔法陣。


 蒼い半透明のブロックを組み合わせたような構造体。

 小さい球体と頭に天使の輪のようなリング、幾何学図形を組み合わせた三枚の羽根。そして針のような尻尾。

 その中に金色の繊細な文様が見て取れる。


 中央にある球体は爆縮砲の本体。周囲に展開したのはリンドブルムがさんざんマリオンに打ち込んでくれたホーミングの術式。


 戦闘中何か打開策をと考えて攻撃を解析し続けた成果だった。


 霊子りょうし情報処理能力コンピュータが記憶した術式の中からホーミング機能を抽出して魔力弾に組み込んでみたのだ。


「いけっ!」


 シュパッ という音を立ててホーミング式爆縮砲は打ち出された。

 ゆっくりと弧を描きながらリンドブルムを追尾する。


 変な話なのだがこれは魔力弾が目標を追いかけているのではなく、目標が魔力弾を引っ張っている構造になっている。

 因果の関連付けとでもいうのだろうか。

 マリオンが攻撃目標としてリンドブルムを指向した時に、そして魔力弾が生成されたときに両者の間に追うもの、追われる物の因果関係が成立した。

 それは見えない『運命の赤い糸』のように両者を結び付け、魔力弾はその糸を手繰るようにリンドブルムに向かっていく。


 自分が引っ張っている糸の上を進んでくる魔力弾だ。躱すのは難しい。


「動きがぬるぬるしててミサイルっていうより魚雷みたいだ…」


 もちろんマリオンの勝手なイメージだが、ミサイルというのはもっときびきびしているようなイメージがあった。


「よし、この魔法は重力魚雷グラビティー・トルピードと名付けよう」


 ・・・・・・まあいい・・・


 ホーミング式爆縮砲改め重力魚雷グラビティー・トルピードはリンドブルムの至近距離まで来ると起爆した。

 一瞬発生した高重力は周辺の空間、大気を一瞬大きく吸い込み押しつぶす。そしてこめられた魔力が役目を終えると通常の物理法則にしたがって重力場が崩壊。圧縮したものが元に戻る力で爆発に転じる。

 この時一部のものが押し潰され、プラズマとなったものも撒き散らされる。


 げぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ


 尻尾の先端を引き千切られ、更に吹き飛ばされリンドブルムは今度こそ本気の悲鳴をあげた。

 そこに一発、二発と追撃の重力魚雷グラビティー・トルピード襲い掛かる。


 だが重力魚雷グラビティー・トルピードのホーミングも万能ではない。

 本来の飛翔速度以上で逃げられると追いつけないし、爆発する前に攻撃すれば迎撃もできる。

 火事場の馬鹿力というがリンドブルムは至近ながら雷撃の魔法を撒き散らし迎撃に成功した。

 代償として翼を大きく引き裂かれたが三発の重力魚雷を凌いで見せた。

 だがこれで決まりだろう。


「さあ、とどめだ」

 マリオンはそうつぶやいた。


 よたよたしているがリンドブルムはまだ空を飛んでいる。だが、もう先ほどまでのような飛行能力は持ち合わせていない。

 重力魚雷グラビティー・トルピードの有効射程はおそらく明確に認識できる範囲。そして魔銃もある。

 後は畳みかければ仕留めることが…


「!」


 その瞬間マリオンは攻撃を放棄し、すぐ後ろでアヒル座りをしているユーリアをひっつかんで抱え上げた。

 そして一直線に走り出す。

 思いっきりひっつかんだので右手がお尻の肉をわしづかみにすることになってしまったがかまっていられない。


 ティファリーゼたちの居場所を確認し、問題ないと判断。後は逃げるだけ。


 力場フィールドを駆使して自分の体と、そしてユーリアをまるで弾丸のように加速してその場を離れる。


 その直後空が真っ赤に染まった。


 リンドブルムを包み込む灼熱の赤。


 飛んで火に入る夏の虫、まあ自分で入ったわけではないのだが、リンドブルムは本当に虫が燃え尽きるようにメロリと燃えて、燃え尽きて、ポテリと地面に落っこちた。


「嘘……こんなに接近されるまで気が付かないなんて…」


 くるおぉぉぉぉぉぉん!


 山のがけの上にそれはいた。

 地竜シムーン。アルダマ山脈の主、古竜エイシェントドラゴンシムーンが勝利の雄たけびをあげた。


 ってキミ何もしてないよね?

行き当たりばったりで進んできた所為で設定の混乱や用語の混乱が酷いことに…

申し訳ありませんが1話からの修正作業に入らなくてはならなくなりました。今読み返すと本当に酷いんです。

ストーリーが変わることはありません。ですが設定の整理と用語の整理、ぶれの修正などをする事にいたしました。

本当に未熟者で申し訳ありません。

修正作業中は更新のペースが落ちることになると思います。そのつど次回予告を出させていただきます。

それでは、これからもよろしくお願いいたします。

トヨム

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