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パラダイス・ネスト~異世界における楽園の作り方~  作者: トヨム
一章・気がつけば異世界
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第03話 レッツ・バトル (修正)

 第03話 レッツ・バトル


「よし、大体まっすぐ来ているな…」

 真理雄は視界の中に広がったマップを見ながらそうつぶやいた。


 立体映像があるわけではなく、そう認識されているだけで実際は意識上にあるデーターでしかない。真理雄にしか見えないということだ。


 これの存在に気が付いたのは卵の周りを詳しく調べるためにうろうろしている時だった。


 サーチとでもいうのだろうか、もっと広範囲を把握したいと考えたときに真理雄の中から球形にエネルギーの波が放射され、周囲の情景が頭に浮かんだ。


 認識範囲が広がり、目に見える範囲だけではなく、半径1キロにも及ぶ範囲が脳裏に浮かび上がったのだ。

 地形やオブジェクト。そしてそこで活動している動物の反応まで、まるで早回しのように脳裏に浮かび、そして次々切り替わっていく。

 真理雄の中にある謎エネルギーを使ったレーダーであるとか、エコーロケーションであるとか、そういうものなのだろう、放射された波の通過するところにあるオブジェクトのデーターが圧縮されて認識される。


 そう、認識されるのだ。高密度で高速のデーターが、受け取った後はまるで箱庭ででもあるかのように脳裏に再現される。


 そのイメージをつないで俯瞰できないかと考えたときに目の前に広がったのがこのマップだった。


 平面状に簡素化されたが使用に問題はない。現在位置を確認しようとすると目の前に地図のような平面が表示され、そこにサーチした範囲の地形やオブジェクト、今まで通ってきたルートなどが表示される。


「何かコンピュータみたいだよねえ」


 マップを見て、真理雄はそう感想を持った。


 地図と言えばカーナビがまず思い浮かぶが、これはカーナビというよりコンピューターの地図画面に近いだろう。

 そう思ったのは色々機能が便利だからだ。

 マウスで操作するように、二点間の距離を測ったり、地図そのものを出したり消したりできる。


 それどころかこの能力、いろいろなガイド機能もあるらしい。


 たとえば時計であるとか、現在見えている『何か』に意識を向けるとその『何か』までの距離が表示されたり、見たいものの範囲を指定て拡大するなどと言ったこともできる。とても便利である。あるのだが…


「これって…人間の視覚じゃないよね…」


 思わず真理雄は突っ込んだ。


 おまけに見える範囲の中でエネルギーを持つもの、つまり生命体などは淡い光のモヤのように認識されている。

 障害物の向こうでもそこにエネルギーを持って動いているものがあることは分かるのだ。

 それが弱いものは本当にうっすらと、強い力を持つものははっきりとその光が見える。


 これはおそらく対象の内包するエネルギーが見えているのだと思われるが、この光は生命体の形に従うものらしいく、大体その生き物のと同じ形の光に見える。

 世界はうっすらと光に彩られ、なかなか美しい。


 そして何か一つに意識を集中すれば、その対象の詳しいデーターも手に入るようで、その部分ははっきりと認識できるようになる。

 障害物のあるなしに関係なく。


 今真理雄の斜め上、一〇〇メートル以上離れた位置を動いているのは腕の長い小さな猿だ。最初サル型の光でしかなかったものが、今はどんな姿なのかはっきり見える。いや、拡大表示されているわけではないので、すごく小さく見えるのにどんな形をしているのかどんな動きをしているのか詳細が把握できる。というべきか…


 つまり高性能のセンサーとそれを処理できるコンピューターのようなものがいま真理雄の中にはあるというわけだ。


 真理雄は『どこのサイボーグやねん』とつっこんでみた。

 そして本当に自分が人間のかどうか微妙に心配になったりした。


「ひょっ、ひょっとして知らないうちに悪の秘密結社につかまって改造とかされたのか…」

 それは荒唐無稽な妄想なのだがそれを否定できる根拠がなにもないから何となくあっちこっちがぞわぞわしたりする。


 マップは最初のクレーターを起点としてそこから1キロメートルほどの円を断続的に移動させた形で、その中に自分の通ってきたルートが表示されている。

 しばらく進むとサーチをかけて、目標点を決めてそこまで進みまたサーチをかける。その繰り返しで進んできたからだ。

 地図上で目標を決めると、視界の中に目標の方向、距離が表示されるために非常に便利である。

 結果、軌跡が多少ぶれたとしても全体として自分が真っ直ぐ進んでいることは確認できる。

 それを利用して真理雄は生い茂る木々の間をほぼ一直線に突き進んでいた。


 サーチで取得できるデーター。それをマップとして利用することを思いついたのはまさに天啓だった。

 それほどこのマップはありがたかった。


 なぜなら真理雄は結構な方向音痴だから…

 これはもう自信を持って言えるほど方向音痴だ。自慢にはならないが…


 方向音痴の人間が恐れるのは現在位置を失うことに他ならない。

 つまり道に迷うことの恐怖だ。

 だから方向音痴は移動に際して冒険をしない。道を戻る時もこっちに行けば元に戻れるかな? などという端折はしょり方はしない。

 遠回りになっても今まで歩いてきた道を戻ることを選ぶだろう。

 だからこのマップ機能は実にありがたかった。


 自分の中にいつの間にか存在していたいくつかの力。


 正体不明のエネルギーを生成するジェネレーター。

 そのエネルギーを利用する超知覚。

 それらを利用する演算処理能力コンピューター


 それはスーパーコンピューターと呼んで支障のないものだと真理雄は思う。


 真理雄の取得した情報を蓄積、保存する莫大な記憶領域。その情報を処理する演算機能。


 感覚としては自分の脳…というよりこの場合意識の下に高性能コンピューターを設置したようなものだ。


 それがどこにあるのかと聞かれれば『自分の中』としか答えようがなく、非物質的、エネルギー的、精神的、霊的なものとして組み込まれたコンピューター。

 そう言うものらしい。


 このシステムは本当に優れたもので、マップに関してはシステム手帳の中にあったスケール(透明なプラスチックでできたマス目と十数センチの物差しの付いたあれ)を確認した時に、システムの中にmm、cmという尺度が生まれた。


 一〇〇㎝=一m。一〇〇〇m=一kmという定義を与えるとそれに対応し、今真理雄はマップ上の距離とさらに自分から対象までの距離をだいぶ正確に把握できるようになっていた。


 これと同じ理屈で複合計算機から読み込んだ秒と分、『時間』の尺度もこのコンピューター上では有効になっている。


「しかし」

 と真理雄は思う。


「しかし、人間の中にこういうシステムを組み込んでしまうものっていったい何なんだ?」

 と。


 機械のように精密でありなから、人間のように直観的で感覚的な演算処理能力…それは多分地球ですら実用化されていなかった物のはずだ。


 それは確実に真理雄を不安にさせる。


 だが今はこの能力に頼らなければ生きていけないのも事実だった。

 現状では利用できるものは利用しないといけないのだ。


 ●○●○●


 視界の中にある幾つかの強い反応、つまり危険生物と思われるそれを、真理雄はできるだけ避けて進んでいたが、いつもそうできるわけではない。


 最初に出くわしたのはスライムだった。


 スライムといっても某人気RPGに出てくるような可愛いいものではなく、粘性のべたべたドロドロした巨大なアメーバというのが正しい。


 もともとスライムという単語はこういうゲル状、ゼリー状ものを指す英語で、汚れやぬめりまで含めたそういうものの総称なのだ。


 その意味で真理雄の目の前に現れた幅四m、高さ一mもあるこの奇怪な移動物体にふさわしい名前だろう。


 エネルギー反応が出ていたので進行方向に何かいるのは分かっていた。だが地面に広がって擬態していたために、なんだろうと近づくうちに相手の間合いに入ってしまった。


「げ!」

 思わず声が漏れた。


 地面と下生えの上をズルズルと這ってくるそれは、その範囲に飛び込んだ昆虫や小動物を取り込み溶解させながら真理雄の方にはい進んでくる。


 しかも左右に広がって避けづらくなりながら。


「と、とりあえず…」

 真理雄は石を飛ばし攻撃してみた。


 ズンという衝撃が走り、スライムが飛び散る。

 それでもスライムは全く気にすることなく、流れる水が岩をよけるように這い進んでくる。

 

「し、仕方ない…ブレスを使うか…」

 これはあまり使いたくなかった…あまりに人間離れしているようで気味が悪い。だが背に腹は替えられない。


 大きく息を吸い込み、真理雄はブレスを放った。


 できるのかという不安があったが、それはイメージ通りに発動した。


 口から放出された赤みがかった金色の炎の竜巻。大きく伸び広がるとれは見事にスライムを焼いていく。

 周囲に変な臭いが立ち込め、炎の中で、焼かれたするめのようにのたうち縮んで行くスライムそれが燃え尽きるまで大した時間は掛からなかった。


 スライムが消滅した後そこには鬼からも採れたエネルギーの結晶がゴロンと転がっていた。

 大きさは十五センチくらい。鬼のものとは色違いだがこれは多分力の性質の違いだ。

 それを回収して真理雄は顔を上げで絶句した。


 目の前の長さ一〇mほどの範囲が。きれいに焼き尽くされ、破壊されつくしてむき出しの地面がキラキラと光ってる。

「か…環境破壊だ…」


 むしろ放火というべきでは?


「これは…まずいな…」

 真理雄はその地面を見てぽつりとこぼした。


 環境破壊を後悔したわけではなく、もしこれが原因で森に火が付いたらどうなるだろう、とそういうことを考えたのだ。


 今回は火力が強すぎたせいか、木々も燃える前に炭化してしまい火がつくようなことはなかった。だが次もそういう幸運があるとは限らない。

 少し離れたところで火が出てしまうことはありうると思えた。

 下手をすると自分のつけた火で自分が丸焼けなどという笑えない状況もありうる。

 これは注意しなくてはいけない。


 次に出くわした巨大ムカデにはブレスなしでの対処を余儀なくされた。


 明らかに毒虫ですという外見で、これが得意という人間はあまりいないだろう、真理雄も実はGよりよほど苦手だったりする。できればブレスで焼却したかった。

 だがやらなくていいことはやらない方がいいいのだ。真理雄は近くにあった大きな石を叩き付けてこれを倒した。

 多分、大百足これこれからも結晶が取れるのだろうが、さすがに手を出す気にはなれなかった…


 こうして何度か戦闘を繰り返すうちにさらにいくつか無視できない問題点が確認できた。その最たるはエネルギーである。


 現在もっともエネルギーを食っているのが自分周りに展開したエネルギーフィールドである。

 これは周囲の空間に干渉し防御力場を構築していて、攻撃を受け止めたり、長距離ジャンプをしたりとかなり便利に使っている。

 ただそれだけなら回復と釣り合うようで、支障はないのだが。そこに怪獣との戦闘が加わるとそうもいかない。フルパワーで攻撃を受け止めたり、大岩を射出したりするとやはりエネルギーのプールを食いつぶすことになる。

 

 これに加えてブレスを吐くとそれはもうエネルギーの枯渇が目に見えて迫ってくるような状況だ。

 全開戦闘で一回二〇分、ブレスの連続使用は一分。このくらいでエネルギープールは三割を切ってしまう。


 太陽の光で活動する銀色巨人よりはずいぶんましなタイムスパンだが。怪獣を倒したら帰って休める彼と違って戦い続けないいけないとなるととても安心できるほどの長さではない。


 まあ真理雄が常に全開でペース配分が全く出来ていないというのが一番の問題なのだが、

『大丈夫かな』で力を抜いて死んでしまったら元も子もない。


 そしてそれが覿面に出てしまった戦闘がその日の夕方近くに発生した。


 ●○●○●


 それは大きな蜂だった。

 

 地球のスズメバチのような形で、色は青白く、大きさは優に一mを越え、鋭い牙と恐ろしい針で攻撃をしてくる。


 本家のように数百とか数千とかで攻められたらひとたまりもないところだったが、大きさが大きくなった分、数が減っているのか、その数は数十匹。それでも集団でというのはとても厄介なのだ。


 全身を包むエネルギーの流れで身を守りながら、そのエネルギーでおおわれた両手で攻撃を…と思うのだがこれがなかなか当たらない。


 攻撃を当てても空中を飛び回る昆虫怪獣にはあまり効果がなく、弾き飛して終わり。すぐに体勢を立て直してまた襲ってくるということの繰り返しだ。


 それでも胴や首などに攻撃を当てて何匹か始末したが数が減ったような気がしない。

(これが飽和攻撃というものか…)

 真理雄は生まれて初めて遭遇する飽和攻撃に圧倒されていった。


 しかもこの防御力場、面には強いが点には弱いという特徴があった。


 砂場を考えると分かりやすい。ハンマーで砂地をたたいても砂はこれを受け止める。剣で切り付けても受け止めるだろう。だが針で刺したら?

 エネルギーの構築する力場を縫って侵入しようとする凶悪で巨大な針を受け止めるために真理雄は渾身の力を振り絞らなくてはならなかった。

 ガンガン、エネルギーが減って行く。


 真理雄は速やかに撤退というより逃走に移った。賢明な判断だった。


 防御を最大にして全速で回れ右して走り抜ける。


 幸い、蜂たちが追いかけてきたのはわずかな間だった。おそらくなわばりのようなモノがあるのだろう。

 そのおかげで真理雄は何とか命拾いをしたのだ。

 だが…


(だめだ…対抗手段がない…突破できない…)


 つらい現実だった。


 ●○●○●


 真理雄は最初のクレーターまで後退を余儀なくされた。

 どういうわけかあの手の危険生物はこのクレーターには入ってこない。そもそもこの山の近くにはいないのかもしれないし、ひょっとして何かやばい『気』とか出ていたりするのかもしれない、そう思うとなんか怖いが…この場合は仕方がない。


「さてどうするかなあ…」

 真理雄は頭をひねった。


 方策として、あの蜂のいる場所を避けて別のルートを進むというのもあるのだがそれは根本的な解決にならない。

 この先にもきっとたくさんの危険生物が存在するのにきまっているのだ。

 これをすべて避けていてはいつまでたっても外に出られない。


「やっぱり飛び道具だよな…」


 前回の戦闘を顧みて、真理雄はそう結論を出した。

 ここで剣とかあればなどと考えるほど真理雄は形にこだわらない。


 戦闘の基本は相手が攻撃できない所から一方的に攻撃を当てることなのだ。


 卑怯とかロマンがないなどといってはいけない。現実とはそういうものだ。

 もしロマンが優先するなら世界の戦争はいまだに剣と槍で、きっと戦争で命を落とす人間も今よりもずっと少なかったに違ない。


「さて、僕の飛び道具というとまず『投石』次に『ブレス』だろうかね」


 ブレスは威力が高いが予備動作が大きく攻撃がばれやすい。つまり隙が大きいという欠点がある。しかもブレスに力を注ぐと防御がおざなりになる。しかも連続使用ができない。

 これも慣れればもっといける気がするのだが、ここで何日も練習しているというわけにはいかない。

 そして火事の危険性があって思うように使えない。


 投石は悪くない考えかただ。

 大きなものではなくても野球ボールくらいの石を加速して打ち出せば十分な威力を出してくれるに違いない。そう思えた。そして実際やってみたらなかなか侮れない威力だった。ただ…


「鬼の事いえない…」


 真理雄はがっくりを膝をついた。はっきり言って鬼のことをどうこう言えないほどノーコンだった…

 鬼との戦闘で鬼を直撃できたのに…と思ったが、考えてみれば一発だけ…あれこそ火事場のバカ力というものかもしれない。


 実のところ一〇m先の標的に当てるのすらかなり難しかった。ただ射程は十分といえるのでコントロールだけどうにかなれば役に立つかもしれない。


 それじゃあ、と力場で砲身を形成して打ち出す方法を使うと命中率、破壊力、射程距離ともに文句のないものになったが、重大な欠点が一つあった。

 力場のために、そういう力の流れを作るわけなのだが、その力場、一度形成すると向きを変えるのがとても難しのだ。

 これもおそらく慣れていないせいだと思うのだが、一度形作った力場フィールドを形を固定したまま自由の振り回すのはとても難しかった。

 下手をすると別な目標を狙うためには一度分解して最初から新しい流れを作る方が早いというレベル。連射性能ががたがたである。


 攻城戦とかででっかい石を打ち込むというのならともかくドッグファイトに使えるものではなかった。


「やれやれ、とりあえずは投石で行くしかないかな…数投げれば当たるだろう…」


 真理雄はとりあえず思考を放棄し、クレーターの底に転がって、大福からモデルガンを出していじり始めた。


「このモデルガンが本物だったら楽なんだけどな…」


 そんなことを言いながら…


 ガチンガチンと引き金を引いてみる。

 シリンダーが回る。薬莢は既に入っているが、所詮はおもちゃだ。弾が出るエアガンやガスガンではなく、雰囲気を楽しむモデルガンだ…なのだが…


「これ…使えないか?」


 ひらめいてしまった。


 最初思いついたのはこのモデルガンの中に銃弾ぐらいの石を込めてそれを力場で打ち出すというものだった。

 あえていえば自前BB弾。


 試しにやってみるとこれが良い具合に作用する。

 加速のために構築される力場が、空中ではなくモデルガンのバレルに寄り添うように構築され、銃の動きに合わせて位置と向きを変えてくれるのだ。つまりモデルガンが憑代として機能しているということだ。


 薬室に斥力を起こすような力場を作り、押し出された弾丸をバレルが加速する。

ここまでが第一段階の試行だった。


「いけるかも」と思った。

 だがこの場合、弾丸を用意できないことに後から気が付いた。


 ナイフで削るように石を削り、一発ずつ作って薬莢にはめていけばできないことはない。だがこれもどれだけ時間がかかるのかという問題になってしまう。


「どれもこれも一長一短、全部まとめられたらいいのに…」


 だがここで真理雄はさらに天啓を得た。


「エネルギーを圧縮して弾丸に使えばいいんじゃね?」

 と思いついたのだ。


 真理雄の力は空間属性の力場フィールドの制御。

 質量や引力、斥力として作用する力場の制御だ。

 そしてその力はエネルギーや質量体に干渉する力となる。ならばその力でエネルギーを封じで保持することもできるのではないか?


 それは単なる思い付きだったが、できるとなれば奇跡のようなひらめきといえる。


 シリンダーの中に込められた薬莢。その中にブレスで吐き出される炎を流し込みそのまま圧縮する。

 圧縮は物理的に薬莢によってなされるのではなく、そこに展開した力場によってなされるので薬莢が壊れるようなこともない。


 そして展開された力場は今までのようなもやもやしたものではなく透き通ったブロックのような明確な形を持っていた。


(こんなこともできるんだ…)


 引き金を引くと撃鉄が下りて撃針をたたく。

 動く撃針は薬莢のお尻にある雷管を作動させ、本来なら火薬を炸裂させるのだが、ここにあるのは押し固められたエネルギー。


 薬莢を憑代として構築されていたエネルギーを圧縮する力場はその一部、雷管の部分が動くことで解体され。圧縮されていたエネルギーは解放される。つまり爆発して内部の圧力を一気に上昇させる。


 膨れあがったエネルギーは、その内側に構築されていたもう一つの力場に行き場を塞がれ、わざとあけられた前方に、唯一の逃げ道に、つまり砲身の中に流れ込む。


 流れ込んだエネルギーはバレルに付加された『加速のための力場』によって導かれ、高速で前方に射出される。


 いくつもの力場フィールドを組み合わせて全体として一つの機能を持った力場フィールドを構築する。

 それは極めて高度な技術なのだが、何となくやってみたらできた。その異常さに真理雄は全く気が付いていない。


 ダンッ! ダンッ! ダンッ! という音と共に赤みがかった金色のエネルギーがビームのように打ち出される。

 その弾速がどの程度なのかは見た目では分からないが…まあ投石よりは早いだろう。


 そして目標にされた太さ三〇センチほどの木にはビームで焼き切られた穴が、きれいに開いていた。


「よし、成功だ!」

 真理雄は高揚していた。

『これなら生き残れるかもしれない』

 その思いが真理雄を高揚させる。


 少しずつ目標となる木から距離を取り、二〇m、三〇m、四〇mと射撃を続ける。

 数発撃つと銃を口に近づけ息を吹きかけるようにして弾を込める。つまりブレスを送り込む。

 そしてまた繰り返し射撃を行うのだ。


 銃の性能は高性能といっていいものだった。エネルギー弾は発射されるとともに少しずつほどけながら減衰し、その威力を弱めていくが、五〇mほどの距離ならば木を撃ち抜くことができる。


 そして物理的な質量を持っていないせいか放物線を描くことなく直進する性質かあり、さらにその射線は加速力場のせいでほぼ固定されている。

 つまり命中精度が高いのだ。


 練習を始めたばかりのころはそれなりに着弾がばらついたが、これは銃の性能ではなく真理雄の狙いの所為だった。


 射撃練習を繰り返すうちに弾がどこに当たるのか、狙った段階で把握できるようになり命中率が格段に上がった。

 これらも結局はデーターの蓄積から導き出された計算、つまり真理雄の中のコンピューターのおかげなのだろう。


 日暮れ近くまで練習を続け、精度を上げることと、ついでにどのぐらいの消耗があるのかを確認した。


「大丈夫だ…これなら十分に戦闘をつづけられる…僕はまだ戦える…」

 それが真理雄の結論だった。


 その日は鞄の中にあったチョコレート(一度溶けて固まったらしく白くなっていた)をかじり、水を十分に飲んで眠りについた。

 この段階でおなかを壊さなかったから水は大丈夫なのだろう。


 ●○●○●


 翌日は再戦の日である。

 相手はもちろん数十匹の巨大蜂。


 昨日蜂に出くわしたあたりまで移動して周囲に対してサーチをかける。

 離れたところに昨日の蜂がいるのが透視えた。


 マップ上で位置を確認すると一番近いもので現在地から三〇〇mほど離れたところをゆっくりと移動している。


「…そうか、分かれて哨戒をしていて、一匹が獲物を見つけるとそこに集まってくるというやり方なのか…これはラッキーかも」

 うまくやれば各個撃破できる可能性が高いからだ。


 真理雄はゆっくりと静かに移動を始める。

 そして蜂に接近し、三〇mほどに近づくと大福から銃を取り出した。


 本当はここに来る前に取り出していてしかるべきなのだろうが、そこら辺は素人の悲しさ、そこまで気は回っていない。

(今後の課題だな…)

 その事実に気づいて頭の片隅に注意を書き込む。


 そして息をひそめ、蜂の接近を待って、それに狙いをつけて


 タンッ!…


 ビームは蜂の胸部を打ち抜いた。


 樹木より防御力が高いのか貫通とはいかなかったが、見事に胸部に穴をあけ、蜂は胸の中を焼かれて地面に落ちた。

 真理雄は急いで駆け寄りもう一発、今度は頭に向けて発砲。止めを刺してその蜂の死体を大福に格納した。

 これも何かの役に立つかも? と考えたからだ。それにまず見た目でだめだったムカデと違って抵抗がない。


「よし、どんどん行こう…」

 真理雄は銃を構えると近くにいる蜂を銃撃し、そして次の蜂に移動してまた銃撃するそうしてかなりの数の蜂を各個撃破していく。

 それは前日の苦戦が夢だったかのような攻勢だった。


 だが蜂も仲間たちと何らかの方法で連絡は取っているらしく、しばらくすると残りの蜂たちが大騒ぎを始めていた。

 こうなるとのんびりしている暇はない。

 真理雄は速やかに接近し、有効射程に敵を捕らえてから銃撃をかける。

 幸いだったのはこのあたりには蜂以外の危険生物が存在しなかったことだろう。

 たぶんみんな蜂に食われてしまったのだ。


 それはなん匹目の蜂と戦った時のことだったろうか、三〇メートルほどの距離で銃撃を加えたのだが、その蜂の硬いからに攻撃をはじかれてしまった。

 やはり蜂の防御力はかなり高いらしい。この銃でも万全ではないのだ。


「こいつ硬ーい」

 真理雄に気が付いた蜂は姿勢を変え高速で真理雄向かって突っ込んでくる。

 空中でちょこちょこと位置を変える蜂に対して真理雄の銃撃は思うように当たらなかった。


 着弾地点がわかるからといってそれだけで攻撃が当たるわけではない。

 まったく慣れていない真理雄には着弾予想地点と、目標が重なった時にタイミングよく引き金を引くことは難しい。

 左右に動く目標に銃を当てるのはとても難しいのだ。


 だったら予測射撃をという話なのだが蜂の動きはトリッキーで素人が予測できるようなモノではない。


 そして射線がずれることで装甲に対して角度が付くためになんとか当たったビームもやはり弾かれてしまう。

 

 真理雄は突進してくる蜂を横に飛んで躱した。


 体が大きい所為か蜂の動きは対応できるレベルに収まっている。

 飛びすぎる敵に対して真理雄は振り向きざま銃撃を加えるが…やはり急に機動を変えた蜂に狙いを外されてしまう。

 これで弾倉は空になってしまった。


「大丈夫だ行ける…落ち着け…落ち着け…」

 真理雄は自分に言い聞かせた。


 弾倉は空になっているが、蜂の攻撃はかわせている。

(この間に弾込めして…)


 何事も焦るとうまくいかない。

 こんな超能力のような力を得ても、それを使うのはやはり自分。経験不足はどうしようもなく真理雄の足を引っ張るのだ。


 それでもパニックになったりはせずに冷静に対処しているのだから大したものだといえるだろう。


「とにかく躱すこと優先…その間に弾込め…」


 真理雄は優先順位を決めてその通りに実行した。


 スビードが何とかついていけるレベルなので回避に専念すると攻撃を受けることは少ない。掠ったにせよ、その程度なら防御力場がはじいてくれる。

 そうしてくるくると踊るように攻撃をかわしながら銃に口づけするようなポーズで弾込めをする。


 既に他の蜂たちもここに向かってきている。それが来る前に何とかしないといけないのだが、不思議と焦りはなかった。


 戦闘モードとでもいうのだろうか、真理雄のなかで何かが立ち上がる。


「これが火事場の馬鹿力かー」


 真理雄の身体能力は軒並み上昇してきていた。


 まず動きが軽快になっている気がする。

 最初これは身にまとう力場の影響かと思った。


 それは確かに間違いではなかった。

 空間の歪みに干渉し質量やその方向性を操れるなら、動きたい方向に補助がつくようなものだし、かけたい方向にかかる力を調節できる。


 そんな理屈がわかるような状況ではなかったが。自分の動きに補正がかかっているのは感じられた。

 体が支えられているような感じがあって、どんな足場でも姿勢が崩れないのだ。しかもぐらつく石の上でも平気で歩ける。

 ならば動きが軽快になるのも当然だろう。


 だがそれだけでは説明のつかない部分も確かにある。

 蜂の攻撃を避け、躱し、飛び回っているうちに、周囲にある落ち行く枝や葉の動きが若干遅くなっていることに気が付いたのだ。

 落下するのが明らかに遅くなっている。


 二割か三割、そのくらいかもしれない…だが確かに周りがゆっくりに見える。つまり真理雄が加速しているということだ。

 三割でも早く動けて早く情報を処理できる。それは戦闘において圧倒的なアドバンテージだった。


「これは…気功みたいなもんだろうな」

 身体能力の強化現象が起こり、そして今真理雄の中では未知のエネルギーが生成されそれが全身を循環している。

 真理雄が気功を連想するのも無理もない。


 そしてそこに認識力の強化が加わる。


 逃げ回っているときに気が付いたのだが、敵を認識するのに相手の方を向く必要はないということが実感として理解できた。

 視界の外でも相手がどう動いていて、どこに何があるのか把握できる。今の真理雄の認識力、知覚力を考えれば当然のことなのだが、やはり人間の悲しさ、今までの感覚から抜け出せずにいたのだ。 

 それが今確かに腑に落ちた。


 六発が装填できた時には蜂の数は3匹まで増えていた。だが、何とかなるという確信がある。

 開眼とでもいうのだろうか、この時確かに何かのスイッチが入ったのだ。


 正面から突っ込んでくる蜂を横にずれて躱し、そのまま横に腕を伸ばして銃撃。

 ダダン! と二発の銃撃。

 どれほど強固な装甲でもこの至近距離では耐えられない。この距離なら打ち出されたエネルギーは全く減衰していないのだ。


 そして体に穴をうがたれた蜂は地面に落ちる。やたら固くで頑丈な蜂だったがやはり内臓までダメージが通れば耐えられない。


 さらに横から来る蜂と後ろから来る蜂に対して左手を弧を描くようにふる。

 左手から伸びたエネルギーの波が薄いベールのように蜂の前に広がる。それは重力の乱れを創り出し蜂を翻弄した。


 化け物のような蜂といえども、羽ばたいて空を飛んでいることに変わりはない。

 重力が下に向けてかかることが前提になって飛んでいるのだ。


 それが右にずれたり左にずれたり無重力になったりすればまともに飛ぶことはできないだろう。


 それはわずかながら加速している真理雄にとって十分な隙となった。

 地面の上に落ちた蜂たちの頭を狙って一発。二発。

 蜂の頭が吹き飛び地面に落ちる。


 この状態でも死ぬまでに時間がかかり、しばらくの間尻を振り回し細く鋭い針を出し入れするその姿はやはり恐ろしいものだったが、それはもはや悪あがきにもならない。断末魔でしかないのだ。


 戦闘はここで終わりとなった。

 近くまで来ていた残りの蜂たちはそのままその場を離れ飛び去って行った。

 今更ながら真理雄が自分たちの餌ではなく脅威であると気が付いたのだろう。


「逃げてくれたかー」

 真理雄はそっと胸をなでおろした。


 ここまで実に二十三匹の蜂を撃ち落すことになった。

 

 そのあとも探査サーチを繰り返し、蜂が完全に索敵範囲から出たのを確認してから落ちた死体を回収する。


 この戦闘は真理雄に明らかに自信を与えていた。

「きっと何とかなるよな…」

 まあ控えめではあったがきっと自信になった。


 真理雄の快進撃は今始まったのだ。



何とか三話目ができました…

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