第14話 三王神教会(修正)
修正しました。
第14話 三王神教会
『ありえねー』
マリオンは状況報告を受けて激しく衝撃を受けた。
状況は予想通り、マリオン自身がかかわった『引ったくり通り魔事件』の捜査に巻き込まれたというものだった。
幸いにもその被害者を助けたのがマリオンだったことから、そして教会の人たちがマリオンをさがしていてくれたことからあっさり無実は証明され、マリオンは自由の身となった。
ここで放免されてめでたしめでたし…と楽観的な予想をしていたのだが、なかなかうまくはいかないモノで、その予想は見事に裏切られてしまった。
マリオンの装備が無くなっていたのだ。
「面目ございません…」
衛士隊の隊長、エルバネスと名乗った男は申し訳なさそうに頭を下げた。もちろん相手はトゥドラであってマリオンではない。
どうもこの隊長、平民であるマリオンに頭を下げるということには耐えられないモノがあるらしい。
それはトゥドラの機嫌をさらに悪化させるものではあったのがだ、これも長年育んだ性。どうしよもないようだった。
エルバネスがトゥドラに報告した話によると、マリオンを捕まえここまで引っ張ってきた衛士(平)のひとりで、キールという男だった。
このキールがマリオンの装備品を身に着けて外出してしまったというのだ。
ソフトな表現である。
これはマリオンにしてみれば『いったい何を考えているのか?』と言いたくなる話だ。なんといっても自分の荷物が勝手に持ち出されたのだから…
エルバネスの言い訳によるとマリオンから装備品を取り上げたのは『証拠品』としてということだった。
ならばなぜ『証拠品』が持ち出されるのか?
謎である。
一緒にいた同僚の衛士、ピジョンの『よいものだったので使ってみたくなった。どうせ犯人のものなので構わないだろうと思った』という証言があったので理由は明白なのだが、これはもう『ついかっとなってやってしまった。今は反省している』という証言よりなおたちが悪い。完全に確信犯である。
マリオンが頭を抱えたくなるのも仕方がないことだろう。
太守のノルトム男爵はひとしきりマリオンの行為を褒め称え、そのあとで実に楽しそうに仕事に復帰していった。色々異常事態が発生しているのだがまったく気に留めていない。
本当に大物である。
だが残された3人の隊長達はそういうわけにもいかなかった。
三王神教会と衛士隊のあいだにはもともと奇妙な対抗意識がある。
町の治安は衛士隊の領分なのだが、教会の騎士たちがもめ事を治めるために介入することは別に悪いことではない。
ただそれでも縄張りを荒らされたと感じる者はいるらしく、そういうものが積もり積もって衛士隊には教会の神官や騎士たちを嫌っている者がいるのだ。
教会の側も元々は全く気にしていなかったのだが、あまりに事あるごとにつっかかられると面白くない。
彼らにしてみれば意味もなく駄犬に吠え掛かられるようなものだ。不愉快に感じていた者も少なくない。
そこに持ってきてこの騒ぎだ。
両者の関係がうまくいっているのであれば穏便に済ませるということもできたのだろうが、今回その可能性を閉ざしたのは衛士隊の方だった。
神法官たちのミスを大喜びで、さんざんあげつらっておいて、自分たちのミスだけ『わらって許して』で済ますことなど許されるはずもない。
結局エルバネスは自分で自分の首を絞めてしまったわけだ。
こうなると徹底的に責任を追及して、けじめをつけるということはどうしても避けられない。感情の問題ではなく、メンツや立場の問題としてだ。
そのために連絡を受けた三王神教会から神殿騎士の偉い人とか、神法官の偉い人とかがやって来て細かい折衝が始まった。
彼らはマリオンに丁寧にあいさつをしてくれた。
それが衛士隊の手前というものを考えての建前なのか、それとも本心なのかはわからないが、衛士達に比べて心証が良くなるのは当然だろう。
しかも彼らはマリオンに結構いいつくりの衣類一式とサンダルを渡してくれた。高そうな品物ばかりだ。
いつの間に見えないと思っていたのだが、タニアが神殿に状況説明に走ってくれていたらしい。
たとえゲンキンと言われようと、泥棒と助けに来てくれたボランティアを比べてどちらが自分にとってありがたいかなど考える必要もないことだ。マリオンの教会の人たちに対する好感度は順調に上がって行った。
では逆に衛士隊に対する好感度が下がっていくかというと、そうでもない。
一部のバカの所為で割を食った人たちにマリオンは同情さえもしていた。理性的な反応といえる。もちろん一部のバカに気を使ったりはしない。
「トゥドラ殿、恩人殿をいつまでもこんなところに立たせておくわけにはいかん、神殿の方で休んでいただいたらどうだ?」
「そうですね…マリオン殿、今日の宿もお決まりではないだでしょう、ぜひうちにお泊り下さい。ささやかですが宴を催したい。
妻の快気祝いもかねて…実はあなたが見つかるまではと待っていたのですよ」
「はあ、ありがとうございます…ですが」
気遣いはありがたいが、やはり荷物が気になる。
持ち出された荷物の中には小物入れもあり、その中には今日もらったばかりの…この場合は報酬というのか…それが入っている。
感傷ではあるのだがこの世界で『初めて稼いだ真っ当なお金』の意味は大きいとマリオンは感じている。
できれば戻ってきてほしい。
他にも日用品などないと不便なものがちらほら…それを訴えるマリオンだったが…
「持ち物に関しましては、必ず取り戻します。今しばらくお待ちください」
エルバネスにそう頭を下げられて、これ以上は何も言えなくなってしまった。
どうにもプライドの高そうな彼だったが、どんどん教会から偉い人が集まるに至り、いつまでもマリオンを無視するわけにはいかなくなったらしい。
先ほど同僚からも文句を言われていたようだから、彼の立場は崖っ淵なのだろう。
「マリオン殿、しばらくはご辛抱ください。身の回りの品はこちらで不自由の無いよう手配いたしますから…」
神殿から来た偉い人がそう言ってくれる。
「それに…」
と、そう言ってちらりと衛士達の方を見る教会の人たち。
マリオンはなるほど納得した。
どうやら自分の荷物がすでに二つの組織の駆け引きの焦点になっているらしいことに気が付いたのだ。
教会の人たちはそこを皮切りに衛士隊の責任を追及するつもりなのだ。そこでマリオンが余計なことを言うときっと事態が混乱するだけだろう。
マリオンはそう考えて『よろしくお願いします』と頭を下げるにとどめた。
『なんか面倒臭い立場になってしまったよな…』
つい溜息が漏れてしまう。
◆・◆・◆
「此処が…教会ですか…」
「教会ではなく神殿ですね…教会というのは三王神教会の略称ですので、建物や場所を指すときは神殿と呼ばれます」
「な…なるほど…」
つまり教会と言えば組織名。神殿と言ったら実際にある建物のことだ。
以前チラリと見たときも立派な建物だと思ったが近くによるとその建物はすごい立派な建物だった。
地球で似たような建物を探すとキリスト教の大聖堂というのが近いかもしれない。
大きな尖塔を三つ備えた、ヨーロッパにあるような荘厳なやつだ。
「神様か…ほんとにどこにいるのかねー」
その荘厳さに当たられたのか、ついぽろっと言葉が漏れ出てしまう。
そのマリオンの言葉は深い意味があるものでなかった。
まあ状況が状況なので会えたら文句のひとつも言いたいなーというような趣旨の言ってみればただの愚痴だ。
だが聖職者と呼ばれるような職種の人の前でそういうことを言うと真面目な回答が返ってくるものだ。つまり面倒なことになる…ついうっかりしていた。
案の定。
「神はここにおりますよ」
とトゥドラは語り出した。
「神は常にここにあり世界を満たし、私たちに恩恵を与えてくれます。神はこの世界に私たちの生きる力として、そして意思として満ちているのです。その力は様々な姿を取り私たちを助けてくれます。
その神の力が最もよく表れているのが太陽、月、大地なのです」
というのが三王神教会の教えであるらしい。最初若干引きつった笑顔で聞いていたマリオンだったが、あれ? と思った。その話はなぜか『霊子』や『魔力』というものと被るところがある。
『世界にあまねく満ちる霊子、そして霊子が姿を変えて作用する魔力』
妙に似ていると感じたのだ。
ただ宗教的な話であることも確かだった。
この世界は多神教で、その最上に位置しているのが前述の三者、太陽と月(星)と大地だ。
この世界では神は人間の姿を持っていない。太陽は太陽として存在するのだから太陽そのものを信仰すればいいと考えられたらしい。
大地も月も同様だ。それそのものを表す『シンボル』は存在するが、擬人化された『神』は存在しない。
太陽は明るい空を知ろし食し、月と星は夜の空を知ろし食す。さらに大地を加えれば世界のすべでがフォロー手出来るという寸法だ。
この下に『鍛冶の神』や『商売の神』というような概念を神格化した存在があるが別にこれも教会と対立したりはしない。なぜならこの世界そのものが神であり、翻ってこの世界のすべてが神であるから…
三王神はその顕現の最たるものと考えられているが、その表れ方はいろいろあってよいということらしい。じつにおおらかな考え方だ。
日本という国で、八百万の神という概念に接して育ったマリオンには馴染やすい感覚だ。
「ここの宗教は多神教でありながら一神教としての性質を持っていて…微妙に魔法の有り様…のようなモノが混じっているわけか…悪くないな」
と思う。
それはこの世界にマッチしたもののように思えた。
◆・◆・◆
「それではこちらをお使いください」
神殿の中で休むのかと思ったマリオンだったが神殿は見学だけで、そのまま内部を通りぬけ、裏手に出てきてしまった。
そこは神殿で働く人達の居住区で、若いものから偉い人までみんなこのあたりに住んでいる。『奥殿』と言うらしい。
社員寮みたいなものがあり、独身者用とか、妻帯者用とかあってなかなか良い設備が整っていた。
身分が高くなると集合住宅ではなく独立した『家屋』になり、その中にはこじんまりとしながらも立派な『お屋敷』といっていいものもある、教会幹部の住居で、その内の一つがマリオンが案内されたトゥドラの家だった。
「この後、ささやかですが宴を催します。もちろん主役はマリオン殿です。準備ができるまでおくつろぎください」
「はッ、恐縮です」
別にかっこうをつけたわけではない他に言いようがないだけだ。
トゥドラと交代でタニアと、あと一人、獣人族のスィトナという少女が出て来て、マリオンの案内を引き継いだ。
ここまで来るともう腹が据わるというか、他にどうしようもないのでなすがままである。
そしてマリオンがまず案内されたのは…
「うおおっお風呂だ…お風呂がある…」
そうお風呂だった。
大浴場といえるような広さではないが数人が楽に入れるほどの大きさで、風呂桶は大理石で床は天然石を敷き詰め、多分コンクリートで目地を埋めている。
街の状況を考えると、温泉だとは思えないが、お湯は湯船の端の石塔からタパタハと湧き出ていて、常にいい湯加減に保たれていた。
「くっ、ここに来てからすでに一月近く…まともなお風呂があるなんて…」
マリオンは感動に打ち震えた。
日本人としてお風呂がないという状況はとてもつらいものだったのだ。
マリオンは矢も楯もたまらずに服を脱衣所の籠に脱ぎ捨てるとそのまま風呂の中に入って行った。
出来ればここですぐに飛び込みたいところなのだかここは余所のお風呂だ。しかも自分は一〇日以上まともに体を洗っていない。
そのことに思い至って桶を使い、丁寧にかけ湯をして入念に体をこすってみるがさすがに泥汚れとかがある。
「これでお湯に入るのはだめだなー」
マリオンがきょろきょろと見回すと浴室の端に四角い固形石鹸が見えた。石鹸は大きな塊から切り出したような武骨なものだったが使用には全く問題はない。
「普通の石鹸だな…」
体を洗うタオルのようなモノはなかったので、手で石鹸を泡立てて体をこする。
大福は石鹸が嫌いなのか、洗おうとするとマリオンの体の表面をスススッと逃げる。これが面白くて遊んでいたら、体から離れて一定の距離を置いてマリオンをうかがう様になった。なかなかかわいい。
「まあいいや、この隙に全身くまなく洗ってしまおう」
「お手伝いますね」
直後に後ろからいきなり声をかけられた。
「ああ、ありがとって、うわっ」
「た、タニアさん…それとスィトナさんだっけ…なにしてんの?」
そこにいたのは風呂場までマリオンを案内してくれた二人の美少女だった。
マリオンを風呂場に案内した後、外に退いていたから案内だけだと思っていたが、どうやらそれはマリオンの思い込みだったらしい。
彼女たちはタイミングを見計らっていたのだ。
二人とも見事にすっぽんぽんで何も隠していない。
これはいろいろまずいことになる。
主に下半身的な意味で…
「あーっといけません、急用を思い出しました」
太鼓持ちよろしく自分のオデコをぱちんと叩いて風呂から出て行こうとするマリオン。
日本ならギャグとして成り立つ対応だかここでは意味がなかった、普通にスルーされて捕まってしまう。
「だーめ」
ぴとっ という擬音が聞こえた…気がした。
裸の女の子が前と後ろから張り付いている。脱出はあっさりと阻止されたのだ。
「うみゃー!」
変な悲鳴が響いた。
さすがにここはお風呂場。床は石とコンクリート〈のような何か〉。突き飛ばして逃げるという選択肢は採れなかった。
もしこんなところで転んで頭でも打ったら『事件』である。
しかも相手はすっぽんぽんの女の子だ、どこを押していいのかもわからない。
それに加えて少し離れたところに大福がいる。今あまり大福から距離をとると、たぶん追いかけてきて大騒ぎになる。
「わひゃ?」
身をよじって何とか躱そうとするのが精いっぱい。だがそれはまずかった。
裸で、石鹸まみれで、密着した状態で、体をゆするとどうなるか? すり合わせが進んで接触面積が広がってしまうのだ。
感触がまずい。本当にいろいろまずい。
「旦那様にお世話をするように仰せつかりましたので…」
二人は声をそろえてこたえると手でマリオンの体を洗い始める。色々動かないように固まるしかないマリオンだった。
「うわー、硬い、でもしなやか…すごい…全然筋肉質に見えなかったのに…」
混乱するマリオンを尻目にぴったりとくっついた二人は腕だの腹だのを指でつついて筋肉の感触を確かめている。
男にとって女性の柔らかな肢体が蠱惑的であるように、女性にとってしなやかに鍛えられた男性の体は魅力的なのだ。
まあ好みの幅あるにせよ……どうやらマリオンの体は二人の好みから外れてはいなかったらしい。
「うわっ、本当だ…おいしそう…」
「なにがじゃー」
本当においしそうって何が?
マリオンは結局なすすべなく二人の女の子に洗われてしまった。
マリオンがほんとうによくいろいろなものに耐え、そして勝利したことはここに記しておく。
◆・◆・◆
ピカピカに磨かれて風呂から出ると、ゆったりとしたローブのような上等な服が用意されていて、それに着替えて今度は食堂に行くことになる。
祝宴の支度ができたと呼ばれたのだ。
「マリオン殿、本当にありがとう、おかげでまだ生きていられます」
開口一番そう感謝を告げたのは先日助けた女性だった。
改めてフィネと名乗ったその女性の他にはトゥドラと他にトゥドラの奥さんという女性が二人テーブルについていた。
他には給仕の人間がいるだけで、客はこれだけ。あくまでも内々のお祝いということなんだろう。
『奥さんが三人? つまり一夫多妻制ということか?』
「いやお恥ずかしい、この二人とは冒険者時代の仲間でね…あのころから割りない仲だったのだが…」
トゥドラは頭をかきながらそんなことを言ってくれる。どう聞いてものろけである。
「トゥ、トゥドラさんも冒険者だったんですか?」
マリオンは自分の顔がちょっと引き攣るのを感じた。
「ええ、冒険者をやっていました。もっとも所属は教会でしたがね」
あのころは楽しかったねーと二人の奥さんは微笑んでいる。
二人はフィネにも気を使っているようで4人の夫婦仲はなかなか良いようだ。
話に聞くと二人はトゥドラが冒険者として活動していたときの仲間で、フィネはその当時から親交のあった貴族の姫君であったらしい。
当時大活躍していたパーティーの中核メンバーだったトゥドラはまず二人と婚姻を結び、その後その貴族に乞われてフィネを嫁にもらった。
ハーレムで勝ち組である。
一夫多妻制というと、まるで我が世の春のように思う男がいるが、これは大間違い。
人間という種族は原始的にはハーレム。つまり一夫多妻制から始まっていると考えられるが、これは男と女の生存戦略の違いからくる必然だ。
男が自分の子孫を残そうと考えた場合、効率的な方法はできるだけたくさんの女性に、できるだけ多くの子供を産んでもらうこと、それが最良となる。
数うちゃあたるで運のいいものが生き残ればいいという考え方だ。
逆に女の場合は自分で子供を産まなくてはならない。産める数にも限りがある。となると求められるのは質である。
できるだけ優秀な男の遺伝子で子供を産む。それが子孫の生存確率を上げる方法だ。遺伝の考え方を知っていたわけでもないだろうに生き物は本能でそれを選択する。
この二つの戦略は見ての通り全く矛盾しない。それどころかがっちりと組み合ってしまう。
つまり優秀な遺伝子を持ち、甲斐性のある男の所に女性が群がるという形が成り立ってしまうのだ。
だが逆に見るとどうだろうか、男一〇人、女一〇人のグループで一人の男に女が群がった場合…そう、残りの9人は完全にあぶれてしまうということになる。
一夫多妻制は優秀な男しか子孫を残せない男にとって過酷な世界なのだ。
かつての地球もそうで、様々な革命の中、女を『貴重な資源』とみなして男で『公平に分配』するという制度が作られた。男尊女卑の思想が強い時代のことだ。これが現在の一夫一婦制の始まりだ。
平和になり、生存確率が上がり、男も女も安全に子孫を残せるようになった現在の地球ではこのやり方も間違いではないだろう。
だが魔物と隣り合わせに暮し、人間の死亡率が高い水準で推移するこの世界においては、一夫一婦制は害悪になりかねない。
人類の衰退が加速するからだ。
だから甲斐性のある男性が複数の女性との間に子供を作るというのはこの世界では当たり前になる。
「この人も若いころは訪ねる村々で、種付けを頼まれて…私たちは結構やきもきしたんですよ…」
「そうそう、そうだったね…いくら女性に望まれれば応えるのが男の義務とはいえ、トゥドラも若いころは手あたり次第だったし…」
「いやあ、お恥ずかしい…」
恥ずかしいのはこっちだよ――とマリオンは思う。
「冒険者などやっていると、訪ねた村で『うちの村の娘に種付けを』と頼まれることもありましてね…やはり村というのは人の出入りがあまりないですからね…たまによその男が来るとちょっとしたお祭り騒ぎでしてね…」
「そ、そうなんですか…」
ここら辺は優秀な冒険者の特権ということらしいが、そんなことを頭をかきながら夫婦でにこやかに話されても返事に困るのである。
ただこの話でこの国の性風俗がおおらかで、ともすれば女性が優位にいることは理解できた。ヨーロッパ風の世界だが、こういう風俗は昔の日本に近いかもしない。
――ひょっとして、お風呂場で…我慢とかしなくてもいかったのかな?
つい勿体ない事をしたと思ってしまうマリオンもやはり男なのだった。
◆・◆・◆
「それで結局、装備品は戻らなかったのですか?」
「少なくとも今現在戻っていませんね…」
食事が進むと話は衛士隊との折衝の中間報告になった。
あの後話し合いを続けて一通りの方向性は出たらしい。
「まず、マリオン殿の荷物を盗んだキールですが、この処分は衛士隊の方に任せることになりました」
これは三王神教会の方の温情ということになるらしい。
本来であれば教会関係者に対する犯罪は神殿騎士の領分なのだが、衛士が神殿騎士団で処刑などされると両者の軋轢が大きくなる。それを避けるためということらしい。
「その代りにマリオン殿の装備品はすべて衛士隊が弁償すると決まりました。
弁償といっても用意するのはわたしたち教会の方ですから安心してください」
衛士隊はお金だけを出して、現物を用意するのはトゥドラたちということだ。
ほかにも迷惑料として一〇万リヨン、これは細々《こまごま》、なくなったものに対する賠償という形で衛士隊から支払われた。
ただし出所は衛士隊の予算ではなく隊長エルバネスのポケットマネーからだそうで、彼に対する罰金という意味合いがあるのだろうとトゥドラは苦笑していた。
かのエルバネス氏は結構困ったちゃんとしてみんなに認識されているらしい。
そのうえで、盗まれた『物』が戻った時には、それも返してよこすということになっている。
破格の対応という気がするが、これは相手がマリオンだから――ではなく教会だからということだろう。こういった世界の司法組織がただの平民であるマリオンにそこまでしてくれるとはとても思えない。
その証拠に引ったくりの捜査権も神殿騎士に委譲されたということだった。
これは衛士隊が完全に負けを認めたと言っていいことなのだろう。ただ…
「ただこれだけ時間が過ぎていますからね…犯人の発見は難しいのではないかと考えていますよ」
トゥドラはそうこぼした。
「そうですね…もうこの町には居ないと考えるのが普通でしょうね…」
マリオンも同意見だ。もしあの時と同じ姿で今もこの町にいたらそれはただのバカだろう。
「装備の新調と事件の顛末がはっきりするまでしばらくかかるでしょう…その間はここを自分の家だと思ってくつろいでください」
そうすすめてくれるトゥドラの言葉に、マリオンはふーむ考える。
(鎧の新調に三、四日という所かな…そのくらいで事件も落ち着くだろうし…そのくらいだったら人助けのご褒美と考えて、お世話になってもいいかな…)
と。
所詮小市民のマリオンの感覚などこんなものだ。ラッキーとは思ってもそれを利用してずっとのんびりなんて豪胆なことは考えられないのだ。
奥様方も口々に滞在を進めてくれたのも背中を押した。
「分かりました、そこまで勧めていただけるのなら少しお世話になります」
マリオンのその言葉に彼らは微笑んでくれた。
そのことでほっとしてしまうのも、やっぱり小市民の性なんだろう。
●○●○● ●○●○● ●○●○●
おまけ・設定資料『三王神教会② 組織』
教会組織はまず上から。
『神殿司長会』
『大神殿司』
『神殿司』
と、あるという話はしましたがその下三つ『神法官』『徳道士』『騎士』の三部門があります。
各部門は、
『神法官長』一名
『高神法官』三名
『神法官』いっぱい。
『修法官』見習いとなり、徒弟制度を採用していて修法官は上位の人間の預かる徒弟と言うことになります。
タニアは高神法官であるトゥドラの徒弟の修法官となります。
これと同じ方式で
『徳道士長』『高徳道士』『徳道士』『修道士(見習い)』となり、スィトナは徳道士であるフィネの徒弟です。
ただ騎士は戦闘集団であるため少し組織構成が違い。
『○○神殿騎士団長』『一位正騎士』『二位正騎士』『三位正騎士』『従騎士』の五階級があり、その下に『見習い騎士』があります。
見習い騎士は正騎士の従卒を務めます。
従騎士は半人前なので従卒はつきません。
またお会いできました。トヨムです。
今回はちょっとエッチい話になります。エッチくなりすぎてペケにならないようにずいぶん削ったつもりです…どうでしょう…
次回の更新も日曜日を予定しています。
感想、ご意見、ございましたらお寄せください。お願いします。




