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パラダイス・ネスト~異世界における楽園の作り方~  作者: トヨム
一章・気がつけば異世界
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第12話 魔銃改良とクエスト終了(修正)

修正しました。

 第12話 魔銃改良とクエスト終了 


 マリオンが持つ『魔銃』その可能性。


 妖精族の使う魔法が話を聞く限り自分の魔法と同じようなものだとしても、見たことのないものはやっぱり参考にはならないわけだ。


 だって調べようがないし…


 現状ではマリオンは人間の使う魔法…区別するために『術式魔法』と呼称することにしたが…それを参考にする以外にない。


 魔力というのは属性を持ち、そして同時に『唯あるだけ』のカだとマリオンは考えた。


 そこに使用者の意思が打ち込まれることで『力』としての性質を持つ。つまりマリオンの場合、魔力を使って何となく、こんなことがしたいよーと思うとその意思を受けて魔力が力場を展開してくれる。


 だが人間にはこの意思を反映させるということができない。

 だから代わりに意思ではなく『プログラム』を撃ちこむ。

 これが『術式』と呼ばれるものだろうとマリオンは推測する。


 マリオンは一人、自分の手の中に魔法①を呼び出した。

 先日成功した爆縮を起こす魔法だ…名前くらい付けてやればいいのに…


 空中に魔力のラインでできた紋様が浮かび上がる。

 同時に力場も発生する。


 術式によって魔法を発生させているのではなく、特定の効果を持った力場を構築することで術式が発生する。

 いや、力場を構成する魔力の流れを洗練した結果、術式のようになったと言うべきだろう。


 平面な、いかにも魔法陣と言うドーナツ状の円盤や球形の紋様、そういったものが組み合わさって一つの『魔法』を作る。


 今までのやっていた自分の意思が反映されるという曖昧なやり方よりもずっと効率が良く、しかも展開が楽だったりする。


 初めて魔法の生成に成功してからこの工程を繰り返し練習してきた。

 その過程でここまではっきりした魔法陣を形成するに到ったわけだ。

 魔力の流れによって形成される紋様と力場の複合体だ。


 この世界では実用的な力があると言うことはそのまま生存確立の上昇に繋がり、同時に生活の豊かさに直結するようだ。

 魔法の上達はそのまま『力』となる。


 だがこの魔法が①は効果の問題で実用性がないのも事実である。

 ウサギの肉を得るには矢で射貫くべきであって、爆弾で吹っ飛ばしてはだめなのだ。


 どうしたものかと頭を抱え、うーんうーんと本当に唸ってみたりした。意外と楽しそうである。

 そして…


「あれ? そう言えば…銃があるんじゃね?」


 マリオンは唐突にそのことに思い至った。

 今まで自分を助けてくれていた銃…


 この銃を改良し、威力と使い勝手をあげれば狩猟の効率はけた外れに上がるのでは? そう気が付いたのだ。


 やはり戦闘の基本は関節攻撃とびどうぐなのだから…

 マリオンは翌日からの早朝作業はこの銃の改良に当てた。


 大福から銃を取り出す。


 もとはモデルガンだが実際に敵を攻撃しこれを撃破できる以上、すでにモデルガンとは言えないだろう。

 まあそれでもおもちゃであるという意識がこの銃を忘れさせたりするのだが…またこうして銃を起動させてみるとその銃を依り代として展開する魔力力場は洗練と言う言葉からは程遠いモノだった。


「これはすっごい力技だね…」


 薬室の魔力、つまりエネルギーを閉じ込める力場。

 撃鉄の魔力をおし出す力場。

 バレルに展開されたエネルギーを加速する力場…


 どれも無理やり作っている武骨というよりお粗末な力場の集合体。


「まあ仕方がないよね…手本も何もなしに行き当たりばったりで作ったもんだし…初めてとしては本当に上出来だった…」


 あの状況で戦闘に耐えるだけのものを曲がりなりにも作り得たのだそのことは褒められてもおかしくない。

 マリオンは取りあえず自分をほめることにした。


 そして今やるべきことは…


 マリオンはゆっくりと銃を構え。離れた木に狙いをつける。銃口からほとばしるエネルギーが木の幹を打ち貫くイメージ。


 かちん。と引き金を引く。

 シリンダーが周り、撃鉄が持ち上がりそして落ちる。

 ダブルアクションというやつだ。


 かちん。かちん。と。


 何度かそれを繰り返すうちにぼんやりとしていた力場がだんだんはっきりとして来て、それに伴って魔力の流れが整ってくる。


 エネルギーを注入していないからビームが出るわけではないが、それでも砲身の中にある空気が加速されて打ち出されるようになる。


 文字通りの空砲がしゅばっと打ち出されていく。


「これ、面白い…これなら薬莢の内部で圧縮したものなら圧縮空気とかでも打ち出せるんじゃないか?」


 おそらく可能だろう。


 だが同時に足りないものがあることも事実だった。

 例えばエネルギーを圧縮する『形』

 現在は力場で無理矢理やっている。


 依り代となる部分がないのでとても負担がかかる作業だ。


 モデルガンなので空薬莢はついているが、元がプラスチックのおもちゃ。それに内部が空洞で、エネルギーを圧縮するのに向いているとは言い難い。


 次にバレルの穴が大きする。

 力場が安定しない。


 この場合魔力粒子の飛ぶ方向をマリオンの作った力場で力業で固定すると言うことになり。着弾地点がどうしてもばらける。


 力場の展開には依り代、つまり元の形に添った実体があった方がやりやすい。


「さてね…いっそのこと薬室を埋めてしまえるといいんだよな…だけどそんな素材なんて…」


 マリオンは考える。

 

 高圧のエネルギーを押し込める薬莢の素材。

 今までは力場だけで賄ってきたが、それでは効率が悪い。

 丈夫で…自分の魔力との親和性の高いもの…


「あ、あるぞ…ある、ある…卵の殻…」


 クレーターの中心にあった卵の殻。マリオンの血と魔力を与えることで粘土のように加工できるあれ…

 超高空からの隕石落下の衝撃、熱に耐え、マリオンを守った(だろう)と思しきあの素材。


「あれで薬莢を作れば…」


 あの殻を再度硬化させる方法は何となくわかる。

 高温と高圧。

 ひょっとして上質な素材になるのではないだろうか。


 マリオンはさっそく殻の一部を取り出し。その殻で自分の手を傷つけて血を注ぐ、血とともに魔力も一緒に注がれていく。

 そしてできた粘土を薬室、つまりシリンダーの穴に詰めていく。


 工具も何もないが、意外と何とかなる。


 魔力というのは意思に反応して力場を発生させるモノだという話はしたが、力場というのは固定すると実体のある『型』として使い勝手が良い。

 これは実験済みだ。


 六個の薬室はすべて埋まった。薬莢を詰めると言うよりは薬室を埋めてしまったようなモノだ。そこに明確なイメージで力場を造り形を整える。

 中心に細い穴を開け、その奥に丸い空間を作る。ここがエネルギー弾を閉じ込める場所になる。

 雷管はもとの薬莢と同じように動く形に…なかなか細かい作業だった。


 型ができたらあとは圧力と加熱。


 そしてマリオンはそのシリンダーに…正確にはシリンダーに詰め込まれた粘土に炎のブレスを吹きかけて…


「! にゃー! もえたー。溶けたー。まってまってまってー」


 シリンダーの方が燃えた。

 後の祭りである。


 マリオンはがっくりと手を着いた。

 シリンダーが何でてきているのかは知らなかった。

 真鍮かステンレスか…とにかく金属製の何かだったので加熱したくらいでどうにかなるとは思わなかったのだ。

 そして安心してブレスを吐いたらきれいに燃えてしまった…残ったのはむしろ薬莢だけ?


「なーぜーだーーー」


 なぜだもへったくれもないのだが気持ちは分かる。


「ううっ、シリンダー…シリンダー…」


 これで実質一つ、有効な攻撃手段が失われたかと思うと無意味な繰り言の一つも言いたくなる。だが…


「そうそうこんな形で…って、あれ?」


 目の前にシリンダーの形をした力場が浮いていた。

 シリンダーを求めるマリオンの意思に反応して魔力がシリンダーの型を力場で構築してしまったのだ。しかも形状データーは霊子情報処理能力りょうしコンピューターの中に保管されていて、寸分の狂いもない。

 精巧な3次元立体画像。


「………………なんだ…こんなことができるんなら、シリンダーごと作ればいいんじゃん」


 いきなり発生した問題は、あっという間に解決したのだった。


 ◆・◆・◆


 そのあとマリオンは即座に粘土を作ってシリンダーを作り直した。


 構えた両手の中に三十cmほどの大きさの球体があり、そのほの暗い殻の中で朱金の炎が渦を巻いている。内部はかかなりの高温高圧の空間で、その中心でシリンダーにかたどられた粘土が、ギシギシと音を立てながら圧縮硬化させられている。


 マリオンは一時間以上をかけてこの方法を見つけ、実践し、シリンダーを形成することに何とか成功した。


「よし、やり方は分かった…何となく…そう、あとは…」


 銃に必要なのはシリンダーだけではない。強度かたりないというならばバレルもそうだろう、強力なエネルギーを使うことを考えると撃鉄や撃針も作り直した方が良いかもしれない。


 目の前で簡単に燃え尽きるのを見ているせいで、マリオンはすっかりモデルガンの素材強度が信用できなくなっていた。


 それにこうしてできることが一つずつ増えてくるとなぜかテンションが高くなる。

 ならば直接銃の本体を構成するバレルと撃鉄、これくらいは作り直すべきだろう。


 どういう訳か出来上がったシリンダーは色が真っ黒になってしまうのだが…

「この際贅沢は言うまい」


 形状はモデルガンを分解して、そのパーツを解析してその形を記憶してそれをもとに作ればいい。


 撃鉄、撃針はそのまま同じに作ればいいし…銃弾を発射するわけではないのでバレルはエネルギーが通る細い穴を開ければいい。シリンダーの薬室に開けられた穴と連結するように…こういうまねができるのはやはり日本製のおもちゃということなのかもしれない。

 弾が出ない玩具なのに精度がメチャ高い。


「よーし、行けるね…」


 構想はドンドン固まってくる。

 今までよりも数段良いものができそうな気がしてきた。


 朝日が差し込み祝福の光を投げかけている。

 実にすがすがしい…


 ? 朝日?


「やべっ。時間が…」


 マリオンは大急ぎでキャンプに向けてかけだした。

 日が昇るころにはもうみんなが起き始める。


 銃の完成はもう少し先になりそうだった。


 ◆・◆・◆


 早朝の秘密作業はそんな感じだったが、クエストの方はこれからの時間が本番だった。


 この期間中は驚くほど濃密な時間が流れていった。


 このクエストで覚えることは非常に多く、最初の三日はまるで独楽鼠だったがそれが過ぎると狩られるビックホーンの数が減り、その分皮のなめし作業が多くなる。


 動物の皮は、柔軟性に富み非常に丈夫なものなのだが、そこはやはり生物から引きはがしたもの。なま物であるし、脂肪も付いているため腐敗しやすく、また乾燥によって柔軟性を失ったりもする。


 この欠点を樹液や薬品を使って取り除くことが『鞣し』と言われる工程だ。これがないと皮革というのは品物の素材としてあまり役に立たない。


 この鞣しで一番古くからあって、一番採用しやすいのがタンニン鞣しと言うやつだろう。


 俗にしぶ鞣しと呼ばれる方法だが、植物の渋〈タンニン〉と動物のタンパク質〈主にコラーゲン繊維〉を結合させ防腐性や柔軟性を持たせる方法で、現代でも自分でこれをやっている人もいるくらいポピュラーなものだ。


 驚いたことに古代エジプトで作られた物が現在も残っていたりするらしい。


 工業製品としてはクロム鞣しという方法が広く使われている。金属鞣しとも呼ばれる物で化学物質で皮革を加工する方法だ。


 そしてこの世界で使われるのはこの二つを併用し、そこに魔力を加えたような方法で、魔石を細密に砕いて、それこそ乳鉢ですりつぶすようにして、それを水に溶き『魔力飽和水』という水を作り、そこに植物や金属を溶かしこんで鞣し剤に使うという方法で、この時混ぜる成分で防御力優先のなめしになったり、美しさ優先のなめしになったり、着心地優先のなめしになったりと別れてくる。


 現在このクエストで行っている鞣しは魔物の毛皮の美しさと防御力の高さを両立させる万能タイプの鞣しで、すべての基本となるものだった。


 『どんだけ便利なんだ魔力』と言いたい。


 他にも昆虫系の魔物が倒されることもあり、その処理と加工の方法も学んだ。


 これもやり方は同じで、魔力飽和水に特定の植物成分や場合によっては金属成分を混ぜ込んだりして殻を強化する。

 鎧の補強に使われる硬質プレートはこうして作られるのだそうだ。


「だけどここらでとれる昆虫の殻はあまり強固じゃないからいいものはできないんだぜ」


 とは指導員のお言葉だ。


 ◆・◆・◆


 そんな忙しい日々が八日も過ぎ終盤戦に入ってくると状況が変化してきた。


 まず獲物の数が本格的に減った。


 まあ当然だろう…初日からすごい勢いで周辺の魔物を狩りまくっていたのだから減らない方がどうかしている。きっとこのキャンプの周辺の森は魔物率がものすごく下がっているはずだ。


 そうすると狩猟の対象範囲が広がり、より森の奥の方まで進むことになり運搬により時間がかかるようになる。つまり獲物の量がさらに減る。


 さらに見習い達も朝から晩まで同じ仕事を延々と繰り返すわけで、さすがにこの頃になると仕事の手際が良くなってきて作業時間が減ってくる。

 当然見習い達の手も開くようになる。


 そんなときマリオンのところにも先輩冒険者と一緒に狩りに出てみないかと言う話が持ちかけられた。


 これは仕事をまじめにやって十分身に付けたと判断された『見習い』にあたえられる特典のような物で、つまりマリオンはまじめに下積みをやれるやつで、しかも最低限の仕事は覚えたと判断されたわけだ。


(だけど一週間かそこら研修してとりあえず一人前って…)


 現代企業の促成栽培を見るようでちょっと悲しいマリオンだった。

 基本だけは教えたから細かいところは自分で覚えてね…と…


 だがそれでもこれは評価である。

 そして引き合わされたパーティーは、かつて魔法を見せてくれた女冒険者のいるパーティーだった。


 ◆・◆・◆


「よろしくな…俺はこのパーティーのリーダー、トルムだ」


 背中に大きな剣を背負った男が気さくに声をかけてくる。

 夜の酒盛りでよく新人の面倒を見てくれていた男だった。


 装備は胸や両手両足腰回りに金属性の部分鎧をまうスタイルで、剣は柄まで入れると身の丈ほどもある幅広の金属剣で、かなり重たそうに見えた。両手で使うにしても大変そうに見えるその剣をトルムは背中に担いでいた。その迫力はすごいものがある。


「わたしはフィアーネね、よろしく」

 それが魔法使いの女性の名前だった。体にぴったりしたズボンと軽装の鎧で、杖の他に片手剣を持っている。


 ほかにも四人、獣人も交じったパーティーのメンバーがいて、そこにマリオンともう一人が加わる形で八人で一パーティーということになる。


「おめでとう。良かったね…上達組に入れて」


 上達組というのはここにきて狩猟組に参加が許された新人のことだろう。


「ありがとうございます。えっと…魔法使いの方?」


 マリオンがそう考えたのは彼女が杖のようなモノを持っていたからだ。

 細くて長い金属製の柄を持っていて、先に十字型のヘッドが付いていて、じつに何かを殴り倒すのに向いてそうな…

 って…それはメイスのような気がする。


「ああ、ごめん…私はリネット。魔法使いじゃなくて神法官ね」


 神法官という単語は初耳だった。


(どうしよう…聞いたことない単語だけど…)


 周りは完全にスルーだ。つまりかなり誰でも知っている言葉である可能性が高い。こういうものを聞くのはチョツト勇気がいる。


 だが情報は必要だ。

 ここでマリオンの『設定』が役に立つ。今まで帝国とろくに接触のなかった、まあ、いいかたは悪いが田舎もの…


「なるほど、じゃあ仕方ないわね…神法官というのはの浄化魔法とか回復魔法を使う人のことよ…三王神教会というところに所属していてね…ギルドの所属じゃないんだけど…私たち若い者は冒険に参加するのが推奨されてて…修行の一環としてここにいるの」


 つまり聖職者と言うことだろうとマリオンは理解した。

 おそらくギルドとは良好な関係にあって協力しているのだろうと…


 リネットたち神法官は教会に所属したままギルドのクエストなどに参加できる決まりになっている。

 彼等自身が冒険者をやる訳ではなく冒険者のパーティーの参加するという形になる。

 仲間としてパーティーに参加しているものもいるし、その都度報酬を決めて雇われるものもいる。

 リネットは見習いを脱したばかりでれっきとしたパーティーメンバーだった。


 彼女はいたずらっぽい顔でスカートのスリットを大きく開いて太股を見せる。そこには薄い赤の入れ墨が画かれていた。

 こうして見せる以上これが回復魔法に関係があるのだろう。


 リネットはマリオンの不思議なモノを見るしかめ面と、もう一人の少年のエッチいものをみる視線に落胆の表情を浮かべた。

 すごーいとか言ってほしかったのだ。


「あー、これも知らないんだ?」

「すみません…」

「ううん気にしないで…」

 そう言いながらリネットはエッチい見習い冒険者を持っていた杖にも使えるメイスで殴りながら話を続けた。

 ごつごつと音がしている。


「これは回復魔法の…魔導器コンダクターみたいなものかな…回復魔法だけはこうやって体に術式を刻印すると使えるようになるのよ…もちろん教会の秘伝で、詳しいことは内緒よ」


 ごつごつ、がいつの間にかがつがつになっている。

 どうもこの人、話に意識を取られて手の動きがぞんざいになって来ているらしい。

 見習い少年はいつの間にか頭から血を流していた。


「あらいけない…こうやって使うのよ」


 さすがにまずいと思ったのか、リネットは棍棒で殴られてうめいている少年にたいして両手を伸ばし、意識を集中させて『ヒールケア』と唱えた。


 彼女の体の魔法陣のがうっすらと輝き、手のひらに光がともる。


 それと同時に彼の頭に開いていた傷がみるみるふさがっていった。


「すごいでしょう?」

 マリオンはかくかくと首を振った。


 少年の傷はすぐにふさがり、わずかな跡を残すのみになった。

 治り方として霊符に近いかもしれない。単に回復が促進されるだけでなく傷も塞がるような感じがある。


「おお、すごい、これが回復魔法? 本当に治るんだ。初めて見た!」


 少年はふさがった傷をぺたぺたと触って『すげえすげえ』と喜んでいる。


 その姿にマリオンは苦笑した。

 リネット自身も肩をすくめている。

 その姿は無邪気といって支障が無いものだが、マリオンはそれよりもより気になることがあった。

 リネットの話の中に聞き捨てならないフレーズが…


「教会の人の他に回復魔法を使える人っていないんですか?」

 彼女の話の中にあった『秘伝』が気になったのだ。


「うーん、基本的にそうかな…妖精族の魔法の中に回復ができるのがあると言うけど…このあたりは妖精族はいないから見たことは無いのよね?

 でも、どこでもほとんど同じはずよ、回復魔法や霊符は私たち聖職者の秘法で教会に足を運べばだれでも病気であれ、怪我であれ、治療してもらえるわ」

「なるほどですね」


 この情報は彼女の口調ほど軽いモノではないように思える。


 この世界の医療は、薬屋を見る限り、薬を使った体質改善、つまり漢方に近い物でそこに魔力を加えた形で機能している。

 だが魔法薬に極端な大けがを治す様な力はなかった。


 それに今思い出して見ても町に医者に相当する施設はなかったように思う。

 となると…


『つまりこの世界の医療は…ひょっとして教会ってのに独占されている?』


 だとしたら、もしそうだとしたなら教会は『帝国』『ギルド』に匹敵する巨大勢力と言えるのではないか?


「それで…」

 詳しい話を聞きたいと思ったマリオンだったがそれは果たせなかった。


「ほらほら戦闘が始まったよ」


 リネットがマリオンたちの注意を前方に向けさせる。

 はぐらかす意思があったわけではない、前方で魔物の集団との戦闘が始まったのだ。そして見習いたるマリオンたちはそれをしっかりと学ばなくてはならない立場にある。


(まあ、仕方がないか…)

 

 マリオンはそちらに向き直る。

 マリオンの目の前で獣人の男性が剣を抜き放ち、かなりの速度で駆けていく。

 さらにリーダーのトルムも巨大な剣を両手で構え走っていく。


「すごいな…あのデカい剣を軽々と…」


 それは人間が魔物に決して無力ではないというその証明だった。


 トルムは身の丈ほどもある剣を見事に振り回し、魔物と切り結んでいる。

 獣人の男性はすばらしい早さて魔物を翻弄し確実にダメージを蓄積していく。

 フィアーネは魔法を打ち出し魔物を貫いていく。


 かつて鬼と戦ったときの自分の姿を客観的に覚えているわけではないけれど、彼等ならやはり同じようにあの鬼を倒せるのではないか…そう思わせる光景だった。


 少なくともマリオンはそう思ったのだ。


 実力が伯仲した戦闘だと双方の受ける攻撃が派手になるために実力以上に強く見えたりすることがある。


「大丈夫大丈夫…何事も練習だよ。君たちだって鍛えていけばあのくらいできるようになるよ…」

 リネットは目を見張る二人の新人に対して呑気にそう声をかけた。


「なるんだ?」

 マリオンはリネットの言葉に激しく衝撃を受けた。


「最初のころは難しいけどね…魔物相手に戦っているうちにちゃんとできるようになるよ、一流ならあのくらいは当たり前だよ」


 少年は目を輝かせ、マリオンは考え込んだ。


(中世のヨーロッパで使われていた板金鎧プレートメイルは重さが二〇キロほどもあったという事だし、それに加えて数㎏から十数㎏の武器を振り回して戦っていたのだから…それを考えれば人間にはあのくらいの力はあるのか…)


 納得できないこともない。


 マリオンの目の前で繰り広げられる戦いは終始人間優勢だった。


「すごい…」


 それは安心と不安、期待と失望を同時にマリオンの胸にもたらした。


 今までの旅の中でマリオンを支えてくれていたアドバンテージ。自分が特別な存在であるという感覚。それが無くなってしまったような喪失感がある。

 だがそれは同時に、自分が異常だ、奇異だと背筋を這い上がる怖気おぞけのような不安の解消でもあった。


『僕の他にもちゃんと魔物と戦える人はいるんだ…』


 マリオンは立ち尽くしていたと思う。それに気がついたからかどうか、戦いの渦の中から一頭の大角大鹿が抜け出してマリオンの方にかけて来た。


「危ないぞーっ!」

「リネット、頼むーっ!」


 その後ろからトルム達が追いかけで来る。だがいくら優れた戦士だとは言え、足の速さで四足獣に勝てるわけもない。

 無いだろう多分…


 魔物とトルム達のその距離は確実に開いていく。


 そして元々戦場となっていた場所と、マリオンの立っていた場所とはそれほど離れていない。


 マリオンの知覚の中でリネットがメイスを構えた。

 だが位置的に魔物、マリオン、リネットはほぼ一直線に並んでいる。

 リネットがマリオンの前に回り込むより魔物がマリオンに到達する方が早いだろう。


 リネットがメイスを構えて前に出て、マリオンのかたに手をかけて押しのけようとする。まあ、回り込むよりその方が確実にマリオンをかばえるわけだがこの場合は失敗だった。

 すでに魔物はマリオンに到達している。

 そしてマリオンを押しのけようとしたその手は、思いもよらない揺るがぬ感触に押しとどめられてしまった。


 それはマリオンが剣を抜こうと構えたためだったろう。


 腰を落とし、大きな剣を抜き放ち。マリオンはそれを横にふり抜いた。

 革を切り裂くざりざりとした感触と、肉を切るズズズと言う感触が確かに伝わってくる。


 剣の切れ味は良いのか悪いのか、強靱な革を切り裂く程度には鋭く、しかし肉や骨を切る感触をしっかりと伝えるほどにはなまくらだったと言うことだろう。


 だがこの場合それが幸いした。

 抵抗があると言う事はそこに摩擦があると言う事だ。

 ふり抜かれた剣はそのまま魔物の身体を横に押しこみ、摩擦によって地面に引き倒した。もちろん突進してくる魔物を躱すために身体を開くことも忘れない。

 これがなければ正面から衝突していただろう。


 それはマリオンの膂力がそれを実行するにたるほどあり、魔物の突進を躱せるだけの反応速度があるということだ。


 マリオン自身の意識がどうであれ、彼の優位性は何一つ損なわれてはいないのだ。

 周りの人間が強かった――ように見えた――と言う事実は、マリオンが弱いという事実とイコールではない。


 クビを切り裂かれ魔物はしばし地面の上でじたばたしてから完全にその動きを停止させた。


 ひゅーっ と、追いついたトルムは楽しそうに口笛を吹いた。

 実に楽しそうだ。


 リネットはマリオンを押した自分の左手を見て固まっていた。まるで岩のような揺るがない感覚だったからだ。


 この後マリオンは記念だからといってトルム達からこの大角大鹿の魔石をもらった。

 それは鬼や白獣とは比べるべくもない一㎝ほどの玉だった。


(あれ? なんか小さくね?)


 もちろん小さいのである。





 ●○●○● ●○●○● ●○●○● 

 おまけ・設定資料『回復魔法①』


 今回魔法が登場しました『治療ヒール回復ケア』 といっていました。

 まだどういった魔法があるのか分かっていませんが、体に直接術式を入れ墨の形で入れることと、それだけで使えることからおそらく『回復属性』とか『神聖属性』とかがある訳ではなく『根源魔力』つまり生命力をそのまま動力とするのではないでしょうか?


 またどんな入れ墨なんでしよう、素肌に術式、何かエッチです。

またお会いできてうれしいです。トヨムです。


未熟なせいでしょうか、何度も書いたり消したりを繰り返していると、書いたことと書かなかったことがごっちゃになり、過去話の確認に時間がとられます。

どこかにつじつまが合わないところがあるのではないかと不安になったりもします。


それでもがんばりますのでよろしくお願いします。

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