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パラダイス・ネスト~異世界における楽園の作り方~  作者: トヨム
一章・気がつけば異世界
1/59

第01話 怪獣 (修正版)

思いつきと勢いで本当に素人が投稿を初めて半年が過ぎました。

見返してみると設定があまりにぐちゃぐちゃ。

考えなかったわけではなく、考えすぎて混乱している有様。

もう少しわかりやすく整えなければと少しずつの修正に踏み切りました。


語句や名前、設定の整理のみでストーリーには影響はありません。

お騒がせして申し訳ないです。

 第一話 怪獣


「あうっ、たすかった…」

 鈴木真理雄すずきまりおが目を覚ましたのは深い森のただ中で、しかもすり鉢状にえぐれた大地だった。

 下生えが生い茂るクレーターのようなくぼみに真理雄は天を仰いで横たわっていた。

つまり大の字である。


 助かったとは言ったものの、それが何のことなのか真理雄は理解してはいなかった。何となく口から出てしまったのだ。

 体を起こすとクレーターの大きさは多分二〇〇メートルトラックよりも大きく、それなりの深さがある。

 そのど真ん中に近いところに真理雄は横たわっていた。


 自分を見てみるとその恰好は結構ひどいものだった。

 まず服がボロボロになっている、ズボンは破け右膝から下がなく、靴もなくなっている。穴も開いていてベルトがなかったらスボンではなくただのぼろきれだろう。

 上も同様でシャツとコートは左の袖がなく、どちらもかなり穴が開いている。


「いったい何があったんだ…」


 助かったと言うからには下手をすると助からないような状況があったはずなのだがうまく思い出せない…真理雄は真剣に首をひねった。


 脇を見ると隣に卵の殻のようなモノがあり、そこから何かが抜け出したような跡がある。


「これってあれかな…この卵から出てきた何かに襲われて…ここまでさらわれてきたとか…」


 卵から出てきたばかりの『何か』はすぐに人を襲ったりはしないと思う。


 だが卵の大きさは一五〇cmはある、このクレーターも『巣』と言われればそんな気もするが、こんな巣に暮らす生き物って何? と思わずにいられない。


「もしそうならここから離れないと…」


 真理雄はそのまま立ち上がりふらつきながらクレーターの縁に向かって走り出した。


 クレーターを登れば何とかなると思っていたわけではないのだが、あまり深刻にもとらえていなかった。

 真理雄はその考えが甘かったことを登り切ってすぐに思い知った。


「ここ…なに?」


 そこはどう控えめに見ても密林の只中だった。

 唯一密林が薄くなっている方向は次第にごつごつした山肌が現れ、目線を上げると峻厳な山になっている。

 はるかに高く山頂は雪に覆われ…


「あれ、何だろ…何…か引っかかる」


 その一瞬の何かを思い出しそうになったがそれはあっという間に手から零れ落ちてしまった。


 どうにもならないもどかしさを感じながら反対の密林に目を転じる。完全なジャングル。どこまで続いているのかちょっと想像がつかない…


「どないせーちゅんじゃ…」


 つい突っ込んでしまった。


 手荷物もない、水もない、食料もない…その状況でできることがどれだけあるだろうか…しかも町なかではなく密林においてだ。

 いやありはしない(反語表現)

 ひ弱な日本人の身ではほぼ何もないと言って過言ではないだろう。

 とりあえず歩くことだけ、今はここから離れなくてはならないそう思った。


 片方だけ無い靴では非常に歩きづらかったが、草や木が生い茂り、何がいるかわからない地面を裸足のまま歩くのはやはり無理。いろいろ無理。片方だけでもあればましとそのまま歩いていく。

 下栄えが柔らかいおかげ思ったほどのちぐはぐ感はない。その上痛みなどをあまり感じなかったのがせめてもの救いだ。


 木が生い茂り、花は咲き、何かの果実がなってはいる。なってはいるのだが…

「うう、これって食べられるのかな…」

 ただ、それを活用できる知識が真理雄にはまったくなかった。


「こんなところで手に入る水なんて…」

 真理雄は近くにあったすぼまった葉の中に水がたまっているのを見つけたが、そこにはすでにたくさんのボウフラみたいな虫がわいていて、とてもではないが飲む気になれない物だった…飲んで無事でいられる気がしない…


「おーい、だれがいないかーおーい…」

 返事などまったくない。木々のざわめき、獣の吠えるこえ、すべてが『ここは人外魔境でッせ』と宣っていた。

「って………こ、このままではマジで死んでしまう…大体なんでこんなところにいるんだ?」


 歩き出して数時間。いろいろな問題があふれてくる気がする。いや問題点ばかりなんだが時間経過と共にそれが意識されてきたと言う事だ。

 真理雄は理性が勝ち過ぎる傾向があるが、それでもこんな時は愚痴もこぼしたくなってしまう。

 そんなとき


「! 何か聞こえたか?」


 ●-××・・・


 そんな時に遠くの方で何か声のようなモノと争うような音が聞こえている。


「ど、どうするか…」

 こんなジャングルの中、周りに木々と昆虫しかいない世界をさまよって数時間、やっと出会った何かの気配。ドカーンとか、パキーンとかそういう感じの音と、何かの吠えるようなこえ。


 イメージとしては重機のような物を使って動物を蹴散らしているような?


 すぐ駆け出していきたい衝動にかられながら真理雄はぎりぎりで踏みとどまった。漏れ聞こえる音が明らかにやばそうな物だったから…

 だとしたらこのまま飛びこむのはまずいような気がしたのだ。


 少し考えて、それでも真理雄は走り出すことを選んだ。ここで逃げたらなにも進展しない。少なくとも確認はしなくてはいけない…


 静かに近寄り、木の幹に隠れてそっと覗き見る…


『げっ』


 それは一言でいうとスペクタクルだった。


 グオォォーイ という声が上がり

 るおぉおぉん という泣き声が上がる。

『うわーい、重機どころじゃねーやこれ…怪獣だ、怪獣…』


 それは二匹の獣? の争う音だった。

 

 まず目に付くのは『鬼』だった。

 そう鬼としか言いようがない。これが西洋ならオーガとでもいうのかもしれないが真理雄の感覚では間違いなく鬼だった。

 身長はおそらく3mを越え。ひょろ長いのではなく横にがっしりしていてものすごい体積だ。

 この大きさは圧倒的なものがある。


 頭に尖った角は短く、口は大きく、むき出しの乱杭歯。

真っ黒な毛皮と赤銅色の皮膚。足は短く、長くて太い腕が四本。

 そう、大木のような腕が四本だ。

 ふつうの鬼のイメージからはかけ離れているがやはりそれは『鬼』としかいいようがない。


 そしてもう一頭は四本足の獣だった。最初まっとうな動物に見えてほっとした真理雄だったが見ている内に違和感にとりつかれた。

どう分類して良いのが見当が付かなかったからだ。


 わりと小ぶりの頭、長めの首、分厚い胸部、引き締まった腹部。体の構造は猫科の動物を極端にたくましくしたような感じだ。

 だが恐竜もかくやと言う太くて長い緒を持っていて、頭から尾の先まで四メートルはあるではないだろうか…

 後ろ足の爪は蹄のようで、前足に指は少し長め、物がつかめそうな構造をしている。

 たてがみを揺らめかせるその姿は純白でとても美しい。だがやはり尋常の生き物ではないだろう。


 その二頭の獣というか怪獣がはげしく争っている。

 真理雄はその光景から目を放すことができなくなって息をつめてその様子を見守った。


 四足獣の口の中に何かが見えたような気がした。

『なにあれ?』

 真理雄は目をこすった。

 その目にはキラキラとしてうっすらとしたもやのようなモノが見えている。

 

 白獣(仮)の口の中でそのもやが規則的な流れを作り、その流れが速くなって、そして一気に鬼に向けて吐き出された。

 ジャーーーーッ


「ブ、ブレス攻撃? ブレス? まじ?」


 それはコールドブレスとでもいうものだった。

 口から吐き出されたのは真っ白な霧だった、そしてその霧は勢いよく広がり触れるものを瞬時に凍結させ、細胞を破壊し、膨張した水分で草木を砕いていく。

 極低温の霧を吹きつける攻撃。コールドブレスとしか言いようがない。


 ごあぁぁぁっ!

 だがそれも鬼には効かなかった。鬼の躰の周りにもキラキラした靄のようなモノはあった。

 こちらは赤黒くて白い靄とは対照的な印象だったが、その靄は白い霧が近づくと鬼の吠える声に合わせて激しく渦を巻き、鬼の周りに高温のフィールドを創り出した。

ブレスはそれにぶつかり一進一退の攻防を繰り広げてそしてついに駆逐された。


「あれってエネルギーの霧?」


 一度その存在に気が付くと世界はとても神秘的だった。

 白い獣も、黒い鬼も体内にエネルギーの流れを持っていて、体からにじみ出る粒子が体を包み何らかのエネルギーフィールドを形成している。

 そんなもの見たことはなかったが、真理雄にはそうだと分かった。

 同時に真理雄のなかで何かがトクンと動き出した。


「これはダメだよねー…こいつら人間にどうこうできるようなもんじゃないよねー」

 真理雄の感覚ではそれは間違いなく怪獣と呼ぶべきものだった。

 ハッキリ言って軍隊ででもないと無理じゃないのかという気がする。

 だがここには軍隊などいないし、当然正義の味方もいない。

 おまけに彼らの争いが激しすぎで隠れているのが精いっぱいで思うように動けなくなってしまった。


 白獣の力は冷気を意味しているらしく、黒い鬼のそれは火と土を意味しているらしい。


 俊敏に飛び回り鬼にブレスを吹き付け。尾を叩き付ける白獣。

 攻撃は休むことなく嵐のように吹き荒れる。

 一見、白獣の方が優勢に見えるが実は全く逆であることが真理雄の眼には明らかだった。

 白い獣の攻撃は鬼のまとうエネルギーに阻まれてまったく届いていないのだ。

 持っているエネルギーの量に明確な差がある。


 そしてそれを証明するように鬼が唐突に動いた。

 それは比喩的な表現ではなく、本当に唐突に、何の予備動作もなくいきなり動いたのだ。

「早!」


 真理雄は見た。鬼を包むエネルギーが僅かに揺らいだと思ったら鬼がいきなり加速移動し、瞬時に停止したのを。

 大きな力が鬼を押し出し、逆向きの力が制動をかけた。

 背中で爆弾を爆発させて一気に加速、止まる時は前で爆発を作って制動。そんな無茶なやり方だ。

 もし人間だったら絶対死んでいる。

 力任せに戦っていたように見えた鬼は実のところこんな巧妙なエネルギーの使い方もできるのだ…ただ繊細とは絶対に言わないが…


 驚いて一瞬立ち止まる白獣に向けて鬼の剛腕が振るわれる。

 その拳にもエネルギーがベールのように絡み付いている。


 ドカン!

 という音と共に巨木の幹が爆散する。数十センチの太さのある木が粉砕され、次に燃え上がった。

 なんともすごい攻撃だ。


 白獣は急反転してそれを交わす。こちらも負けていないということだった。

 白獣の方は鬼のような瞬発力ではなく常時かなりの高速で動き回れるらしい。


 白獣はそのスピードを利用して右に左にとフェイントをかけて走り寄っては攻撃を加え、飛び退っては再び走りよる。パワーは鬼の方がずっと上。しかし白獣はスピードで対抗する。

 

『これ決着なんかつくのか?』

 こいつらはひょっとしてずっと昔からこうやって闘っていて、そして明日も明後日も戦い続けるのではないか…真理雄はそんな錯覚にとらわれた。

 

 そんな時に(スドン)という衝撃が響いた。


 白獣が吠え、鬼が雄たけびを上げる。

 真理雄の幻想は…錯覚は敗れた。


 白い獣は上から押しつぶされるようにして地面に縫い付けられていた。 


 半径一〇mにも及ぶおそらくは加重攻撃。

 真理雄は鬼のまとう赤黒いエネルギーのうち黒い部分が周辺の大地に広がり影響を及ぼしているのを見た。

 鬼の雄叫びに呼応して震える大地はその引力を強くしてそこに存在するもろもろを押しつぶそうと圧力をかける。

 白獣は突然何倍にもなった自重に耐えられず膝をついてしまったのだ。


 鬼はこの何倍にも増えた重力の中、それを全く意に介さず、白獣に走り寄りその首をひねりあげ、力を込めてひねりあげ…

 そして『ボキッ』というくぐもった音が響いた。


 白獣の四肢が力なく投げ出され、数度の痙攣の後動きをとめる。鬼の勝利が確定したのだ。


 それで事態が収束すればその隙に逃げることもできたのかもしれないが、この鬼、勝利に調子こいてますます加重を上げ、自分の胸をたたくドラミングと呼ばれる示威行動をして吠えたてる。

 勝利の雄叫びなのだろうが真理雄もその加重攻撃の効果範囲にいたからはっきり言ってたまったものじゃない。


『あ、やばい…つぶれる…』

 真理雄も突然何倍にもなった自分の重さに苦しんでいた。上から重さが掛かるのではなく自分自身が重くなる。

 内蔵も血液も下に集まりそのままつぶれそうだ。動ける状況ではない。


『あの鬼はなんで…』

 なんで平気なのかと言いたかったのだが、冷静に考えてみれば自分の攻撃を自分食らうようなおバカな野生動物はいないだろう。

 そしてその効果を無効にしているのは鬼がまとっている力場だと推測できる。


 真理雄はブラックアウトする視界の中に、二匹の獣の体を包む力を流れを思い浮かべた。

『僕もあんな力場が使えれば…』

 明確にそんなことを考えたわけではない。ただ言葉にならない思いがあっただけ、それは走馬灯の一種だったのかもしれない。

 死にそうになって脳がフル回転した結果、真理雄にのしかかっていた重さが不意になくなり、必死に体を支えていた反動で反対に転げてしまった。


 真理雄は自分の周りにエネルギーの粒子が舞っているのを見た。


「うっそ」

 それと同時に自分の体の中、ひょっとしたらもっと奥の所にもエネルギーが全身に広がり循環していることが感じられた。


 下腹部に動力炉のような暖かな塊があり、そこで精製されたエネルギーは背骨に沿って体をかけ上り胸の所から全身に送り出される。

 額に窓が開き自分が内側から外を見ているような不思議な感じがした。

それと同時に頭の奥深いところで自分の脳と何かがつながったようなパチリという音がびいて一気に意識がクリアになり、いろいろなことを思い出した。


 それはエネルギーを創り出す器官〈体〉であり、エネルギーを循環させる器官〈心臓〉であり、外界を認識し、それに干渉する新しい器官〈五感〉であり、そしてそれら処理、演算する器官〈脳〉だった。

 まるで新しい体が、物質的ではないもう一つの体が、丸ごと一つ付け加えられたかのような…


「だけど後回しだ…今はそれどころじゃない」

 真理雄は頭を振って意識を切り替え思いっきり後ろに飛びのいた。

 この力を使ったせいだろう鬼がこちらに気が付いてものすごい勢いで突っ込んできてその腕を振ったのが分かったからだ。


 一撃目で木が粉砕され、ついで二撃目が真理雄を襲う。

 真理雄はそれを腕で受けとめた。できると確信があったわけではなかったがほかにできることもなかったからとっさに腕でかばったのだ。

 腕を包むエネルギーの霧はその密度をまし、流れを早め、鬼の腕を見事に受け止めてくれた。


 グォ?

 鬼の顔に驚愕が浮かんだ。いやそう見えただけかもしれない。ただこの鬼は今のように振り下ろした腕を受け止められた経験は今までになかっただろう。

 鬼の振り下ろした腕は進むごとにドンドン抵抗を増す空間にしだいにその動きを遅くしついには固定され、押すも引くもできなくなっていた。


 真理雄がパンチ繰り出したのは反射的なものだった。

 腕を一本受け止めたとはいっても他に三本があり、しかもそちらは完全に自由。

 格闘経験のない真理雄がそれらの腕をかいくぐって攻撃を打ち込むチャンスなどまずありはしない。

 ここだと思った瞬間腕が動いていた。


 右手をエネルギーの流れが包み、それによって空間が歪む。


 ゴガアァァァア!

 悲鳴が上がり鬼は数歩後退した後その場に転倒した。

 普通ならあり得ないことだ。

 三mもある巨体に、しかも筋肉の塊のような巨体に、人間のパンチなど効くとは思えない。なのに真理雄のパンチは鬼を転倒させた。

「やった…」


 質量があると空間が歪むことは分かっている。

 逆に言うと空間の歪みが存在すれば、それはそこに質量が存在するものとして周囲に影響を与えるということだ。

 空間の歪みを自由に操れるのならそれは重力、慣性、質量の制御ができるということ。

 白獣の持つ力が冷気として作用するように、鬼の持つ力が炎として作用し、大地に干渉できるように、真理雄を取り巻く力は空間の歪みとして作用する。


 真理雄は本能で理解した、自分が使っているのは物理的に周囲に干渉できる『空間歪曲場』だと…。


 殴り飛ばされた後、稀有な経験に警戒心を刺激された鬼は真理雄から距離を取り、真理雄も当然のように鬼から距離をとった。


 こういう生き物と格闘を演じるには真理雄はあまりにも戦闘の素人だった。

 そして力を使えることがわかり、その内容がわかっても、それで使いこなせるわけでもない。


 だが鬼が距離をとったのは警戒したからばかりではなく、他にも攻撃手段があったからだった。

 鬼は周囲にある岩を四本の腕で拾い、次々投擲するという攻撃を選択したのだ。

 

 巨体と豪腕から繰り出される投石攻撃。

 

 たかが投石と舐めてはいけない。

 人類が初めて手にした飛び道具、それが投石だったのだ。

 原始時代から近代までこの手の質量兵器は連綿と受け継がれてきた。

 

 最新兵器として超音速で質量弾を撃ち込むという兵器の研究もされている。

 衝撃による破壊力が大きく、しかも一切の環境汚染のない兵器として高速質量弾は注目を浴びているのだ。

 

 そして鬼の投げる岩塊は真理雄の感覚ではバッティングセンターの野球の球に全然負けていない物だった。そして岩自体もとても大きい。

 工事現場で使われる大ハンマーが重量七㎏ほど。それを人間が力いっぱい振るうだけでコンクリートを砕けるのだ。

 重量数十㎏の岩塊が時速一五〇kmとか二〇〇㎞で飛んでくるというのはこれはもう投石機や破城槌すら凌駕する攻撃だ。

 勿論樹木の後ろに隠れてしのげるようなモノではない。


 真理雄の隠れた木を粉砕して岩が走り抜ける。

 砕けた樹木の破片がかなり早い速度で降りかかるが真理雄の全身を包む力場に弾かれて真理雄自身には届かなった。


 さらに救いだったのはこの鬼、チョットノーコンであった。

 多分一か所にしゃがんでうずくまっていると直撃弾はないのではないだろうか…

 勿論真理雄は試したりはしなかったがこれには確信がある。


 だから対処すべきは近くに飛んでくる岩だけでいい。たぶんかするだけでもかなりのダメージを受けるはずだから対処せざるを得ないとも言う。


 そして真理雄は避けるのではなく岩の正面に回り込んだ。

 そして手を伸ばし、岩を受け止めてしまった。

 飛んでくる岩は確かに驚異的な破壊力を持っているがそれでも鬼の直接攻撃に比べれば大したことはない。

 粉砕された樹木を見て真理雄はそう確信した。

 であるならば鬼の腕を受け止めるこの力場であれば…そう考えたのだ。


 高速で飛んでくる岩が真理雄の延ばした手に近づく。真理雄には自分のまとうエネルギー粒子が磁石の波紋のように広がっていくのを見た。

 高速で飛んでくる岩はその領域に入るとまるで高密度の空間の壁に邪魔されるように減速し、そして数センチ手前で静止した。

 やはり鬼の拳よりも簡単に止まったという感じがある。


 これをやったあと自分の体からエネルギーが抜けていくような感覚があったのだが、少しずつなのでまだ何とかなるだろう。

 そして今度は逆に岩を鬼に叩き返すイメージを思い浮かべる。岩の後ろを空間歪曲場で高重力で殴りつけるようなイメージ。文字通り打ち返したのだ。


 ドカーンという音が響き岩が砕け散ってしまった。

 最初の衝撃に岩が耐えられなかったのだ。


「うう、でも散弾が鬼に当たったからよしとする…」


 二発目は岩自体をエネルギーでくるみ、そしてエネルギーの流れでガイドをつける。ちょうど重力で出来た砲身のように。

 今度はバットで打つのではなくパチンコのやり方だ。


 ドンという音が響き急加速された岩が鬼を直撃した。

 今度は成功だった。

 この攻撃は鬼の腕の一本をへし折ってくれた。


 だが鬼もやられてばかりではなかった。負傷も無視して投石を続ける。

 さらに投げる岩の周りにエネルギーの流れが生まれる。

 そして打ち出された岩は今までよりもはるかに早いものだった。


「加速?」

 確かに鬼が使ったエネルギーの流れはその中を通るものを加速する性質のものらしい。

 岩はとんでもないスピードで空を飛び…そして……とんでもない方向に消えていった。


「・・・・・・・・・・」

 …グガ?


 今更ながら遠距離戦の不利を悟ったが鬼はその爆発的突進力で真理雄に近付き剛腕を振るう。右から二本、左から一本。つかみかかるように。

 真理雄はその腕をすべてエネルギー粒子をまとった自分の腕で迎え撃った。


 これは本当に奇蹟のような攻防だった。

 三本の、次々に繰り出させる腕を真理雄の腕が迎え打ち、弾いているのだ。

 絵面的には武道家同士が拳をぶつけ合うように見えている。


 右から来る拳を右足を上げて受け止め、左手から来る拳を掌底ではじく。

 そんな攻防が続いた。

 人間というのは慣れる生き物で、そんな攻防の最中でも進歩する。

 ぎりぎり間に合っていた迎撃は次第に余裕を持てるようになっていく。真理雄自身にはそれがどういうことなのか理解していなかったが実践の中で一歩一歩成長しているのだ。

 真理雄の動きは確実に早くなっていた。


「ブレード?」

 そんな時に今までと違ったエネルギーの流れをもった“手刀”が繰り出された。

 そのエネルギーの流れは間違いなく物を切り裂くためのもので、なんとか受け止めたものの鬼が指をワキワキと動かすと少しずつ真理雄のフィールドに切り込んでくる。それに合わせて自分の中からエネルギーが抜けていく感じを受ける真理雄。


「わわ、いつもより消費がはげしい」

 エネルギーは常に体内で精製され補給されているがこれはバカにならない減り方だった。

 

 せめぎ合う力と力。

 真理雄のエネルギーは確実に減っていく。一方で鬼の方はまだ余裕があるらしい。さすが怪獣である。

 真理雄も支えるのが精いっぱいで押し返すことも避けることもできなくなっている。

 だからこのまませめぎ合いをしていれば勝っていたのは鬼の方だったろう。

 だが鬼はそうはしなかった。 

 大きく息を吸い込む鬼の挙動。


(あれ? もしかしてブレス?)

 先ほど白獣が使ったブレスとイメージが重なる。

 真理雄は本能的に自分も大きく息を吸い込んだ。


 なにかを考えたわけではない。とっさに同じ動作を取っただけだ。


 鬼の口の中に生まれたエネルギーの流れ、それは間違いなくブレス攻撃だ。

 炎と大地の属性の高温の炎と振動の波を含んだブレス攻撃。鬼の口から赤黒い炎が噴出した。


 そしてその赤黒い炎を真理雄の口もとから噴き出した黄金の夕焼け色の炎が迎え撃った。

 真理雄は自分がブレスを吐いたことを驚愕と共に見つめたが、そのブレスは口から、あるいは喉の奥から出ているわけではなかった。

 前進からみなぎる力が口の前あたりに集ってそこで黄金の炎に変換されて勢いよく撃ち出されていく。

 そのブレスの性質は…良くわからなかった。


 真理雄の力を考えれば空間属性のブレスであるべきだと思うだが吐き出されたのは、ファイヤーブレスであることは間違いないとしてもそこに空間の属性が加わった様子はなかった。


 もっと純粋にエネルギー、エネルギーした炎。純粋な炎。


 ただ正面からブレスを撃ち合うことになった結果は互角。


『まだまだ!』

 真理雄は思い付きでブレスの前に加速の力場を重ねた。

 ドンと音が響いた。

コーン状に広がっていた炎が収束し、電柱のような太い柱になって鬼の炎の中に打ち込まれる。

 

『いける』

 収束した炎は完全に鬼のそれを凌駕していた。鬼の炎は真理雄の炎に押し負けて左右に押し分けられていく。

 鬼は真理雄を押さえこんで居た腕をはなし、前にかざして防御に回す。


 真理雄はさらに力場を絞り込み加速を上げる。

 炎はさらに収束し数センチの太さまで細まり、輝きをまし、ついにビームのように輝く一本の線となって鬼の掌を貫いた。

 そしてそのまま心臓を打ち抜く。


 ギュアァァァァァァンという音が響き

 ゴガアァアアアァ! と絶叫が上がる。


 倒れる鬼の口から立ち上る炎が、まるで消える寸前のろうそくの炎のように激しく燃え上がる。

 真理雄は鬼がゆっくりと地面に倒れ、そしてその躰から鬼を支えていたエネルギーがぬけだして世界に拡散し溶けていくのを見た。


 真理雄はそれと同時に地面にへたり込んで、後ろ手に両手をついた。

 心臓が早鐘を撃ち、激しく息を吸い込む、もう立ち上がる気力もなかったが何とか生き延びることができたのだ。


 戦い始めてからわずか二〇分。

 何時間にも感じるハードな時間だった。

初投降です。素人です。いつも楽しく皆さんの小説を読ませていただき、自分でも書いてみたいという衝動に駆られて投稿してしまいました。

素人の一番恐ろしい所と言うのは今までに『小説を最後まで書いたこともない』という所です。恐ろしいですね…

何とか少しずつでも書き進めていきたいと考えています。迷うことばかりではっきり言ってものすごく怖いですが…どうなるんでしょう…


それではよろしくお願いします。トヨム。

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