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1-5 僕らのグループに飛び込んできた物好き

・本作品は拙作「ゆるねばっ!2」の本編になります。

・本作品にはいわゆる「同性愛」っぽい要素が極々微量(なのでタグには含めてません)が含まれます。

・オリジナルの用語が含まれますが、以後この前書きにて簡単な説明を加えていきます。「この言葉を説明してほしい」という場合は感想欄・メッセージにてご連絡ください。

「あ、ちょ、ちょっとっ!?」


 僕らが怒られるのはいいけれども、進学コースのユズホさんに対する教師の心象が悪くなるのは避けてあげたいし、二人に巻き込まれて防御する手段が無いままケガとかするのは僕としても許容できない。あの二人は周りに気なんて遣って自重とか一切する気無いし。

 走りながら斜め後ろから聞こえてくる抗議の声も途中から途切れて、代わりというわけでは無いけれど、遠くから「お前ら何やっとるんだっ!!」という教師の怒声が聞こえてきて、僕の判断は間違ってなかったかなってホッと胸を撫で下ろした。

走ったのは数分くらいだろうか。薄暗い校舎裏から斜陽が差し込んで瞼を焼く。微かに聞こえてた部活動の声も今は殆ど聞こえなくなってて、代わりに下校してる部活生の談笑が静かに響いてる。


「あの……」

「何?」

「手、離してもらってもいいかな?」


 言われて自分の手を見ると、僕の手はしっかりとユズホさんの手を握ったままだ。


「あ、ご、ゴメン」

「いえ……大丈夫だから」


 すぐに彼女から手を離して謝る。確かについさっき初めて会った、自分で言うのも何だけれど恋敵(?)と手を繋ぐなんて有り得ないよね。そこは配慮が足りなかった、って反省。

申し訳ないって頭を掻く僕を他所にユズホさんは前を歩き始めた。


「びっくりしたでしょ?」

「うん。まさか小鳥くんが、その、そういう趣味だとは思ってもみなかった」

「一応言っておくと、僕とスバルは変な関係じゃ無くてただの幼馴染だから」

「……そうなの?」

「なんで間が空いた?」


 そして何故残念そうな顔をする。


「いや、そんな他意はないよ? ただまあ、お似合いなカップルだとはちょっと思っちゃったけど……」

「カップルじゃないんで」


 そこは声を大にして主張しておきたい。でないとあらぬ誤解が広まってしまう。もう遅いかもしれないけれど。


「でも、小鳥くんは紫藤くんの事を大好きみたいだけど? 受け入れてあげないの?」

「僕も男だから。そりゃスバルの見た目は女の子だし、ちっさい頃からずっと一緒だから友達としては信頼もしてるし好きではあるけど、恋人はどう考えても無理」

「ま、それもそっかぁ」

「アイツもいい加減諦めればいいのにな。だから僕は四之宮さんを応援するよ。むしろスバルを無理矢理でもいいから引っ張ってってください。じゃないと僕の貞操が危うい」


 最近特にアイツの手つきと目つきが危ない。


「それ小鳥くんが聞いたら泣いちゃうんじゃない?」

「アイツがこれくらいで泣く位ならとっくに僕の事を諦めてるって」

「確かになぁ……小鳥くん、紫藤くんの事しか見えてない感じだもん。紫藤くんが普通の男の子だっていうのは分かってても……やっぱりちょっと嫉妬しちゃうな」


 そう言うユズホさんの方から鼻をすする音が聞こえた。それを僕は黙ったまま、言葉に詰まった。

彼女は、僕が憎くないのだろうか。女の子らしい、自分の感覚よりずっと小さい背中を見ながら思う。

言ってみれば僕という存在は、幸というよりは不幸だと言う方が正しいと思うけれどユズホさんからすれば恋敵であって、文字通り敵だ。世の中悲しいことに痴情のもつれの結果相手を殺してしまうなんて事件は跡を絶たないし、愛する人を奪われた人が奪った人を殺害するなんてことも現実でもフィクションの世界でもありふれてる。

もちろんユズホさんが短絡的にそういう人だとは思わないけれど、でも決して僕に良い感情は抱いてないはずだ。少なくとも僕は、それを表に出すかどうかは別として好きになれなんてしない。

つまり、僕は恐れているのだ。今、僕に向かって背を向けている彼女がいつ僕に刃を向けてくるのだろうかと。

それは言葉の刃かもしれないし物理的な刃かもしれない。もしかしたらどちらでも無く、ただ黙って感情を視線に乗せてぶつけてくるかもしれない。いずれにしてもそれは、人の悪意というものにひどく弱い僕をきっとズタズタに切り裂いてしまうだろう。ましてそれが、多少なりとも言葉を交わした身近な存在であれば尚更だ。

僕は、誰からも嫌われたくない。到底それは無理な話で無茶な欲求だと理解してる。人は生きているだけで誰かから好意を寄せられ、知らないうちに悪意を抱かれる生き物だと知っている。けれど僕はそれでも尚それを求めざるを得ない。なぜそうなのか、それは僕自身にだって分からない。でも僕にとって人に嫌われることはひどい恐怖であり、何気ない一言でも僕は僕の生を考えなおす程には衝撃を受けてしまう。でもまあ、流石にここまで生きてきている以上多少なりとも耐性はついてはいるけれども。

でも、どれだけ待ってもユズホさんは僕に何も言わないし、どんな感情もぶつけてこない。時折空を見上げるだけだ。

それは彼女の為人を如実に表していると思う。そしてそんな彼女だから僕は、何とかしてあげたいと思う。所詮僕は僕でしか無くて、僕にできる事以上の事なんて何一つできない。そしてその僕の行為の裏側にあるのは彼女に嫌われたくないというとても強い感情であり、ここでフォローをしておけば少なくとも嫌われないだろうというひどく打算に満ちた浅ましい考えが根底にはあって、そんな僕がひどく嫌いだ。吐きそうで、死にたくなる。

けれど、僕は信じたい。できる事があれば、余計なお世話と言われようとも背中を押すくらいはしてあげたいと思うこの気持ちは確かに僕の中にあるということを。


「ねえ、四之宮さん」

「ん? 何?」

「まだ……スバルの事は好き?」


 僕の問いかけにユズホさんは振り向いて少し考えて、そして「うん」と小さく頷いた。


「ならこれからもスバルの所においでよ」

「え?」

「まだスバルの事、そんなに知らないでしょ? だからまずは友達から、スバルの事知ることから始めたらどうかな? 振られた人と一緒に居るのがイヤじゃなければ、だけど」

「ううん、私はイヤじゃないけれど、でも小鳥くんが……」

「友達としてならスバルは嫌がらないと思うよ。アイツ、そこら辺の線引は結構サバサバしてるし。それに、誤解してると思うけど別にアイツは男が好きってわけじゃないからね」

「……? でも紫藤くんの事が好きなんでしょ?」

「まあ、それはそうなんだけどね。でもアイツ、小学校高学年の時は普通に女の子と付き合ってたし。ただその、今は僕が好き過ぎてるだけで」

「そうなんだ」

「うん。だからまだ諦めてしまうのは早いよ。そのうち僕に構うのを飽きるかもしれないしね」


 しかし、本当にいつからスバルはこんなに僕なんかを好きになってしまったんだろうな。昔は普通で気弱だったのに、いつの間にかあんなにぶっ飛んだ性格になってしまったんだろうか。


「他の、ユキヒロとかタマキも別に気にしないだろうしね。むしろタマキは毎日鼻血出しながら四之宮さんに言い寄ってきそうだけど」

「それはちょっと遠慮したいな……でも、そうね。まずはそこから始めてみよっかな? うん、頑張ってみる。あと一つ訂正」

「ん?」

「私は最初っからまだ諦めてないから。そこんとこヨロシクね」

「そういえばスバルを前にしても同じこと言ってたね」

「そ。私はしつこいからね。でも、ま、少しの間、恋愛はお休みかな」

「なら四之宮さん」

「ユズホ」

「ん?」

「ユズホでいいから。名字で呼ばれるの他人行儀で嫌いなの」

「分かった。なら僕もヒカリで良いから。それじゃこれから僕の対スバル防波堤として宜しく」

「はい。不肖、四之宮ユズホ! その任務謹んでお受け致します!」


 ピシッと擬音が聞こえてきそうなくらいに綺麗な敬礼をして、そして僕らは二人顔を見合わせて笑った。

僕らのグループにこうしてまた一人、仲間が増えた。



お読み頂きましてありがとうございました。

お気づきの点がありましたらご連絡をお願い致します。

2014/08/15 改訂

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