1-21 Interlude-1
扉が閉じる。
ヒカリたちが退出し、外のBGMが完全に遮断された事を確認すると、スバルは肩の力を抜くのに合わせて大きく息を吐き出した。
「そんなにヒカリと一緒に居るのが疲れるのかしらね」
「そういうワケじゃないよ。どっちかっていうとイチハのせいで走らされた事のほうが疲れたし」イチハの問い掛けにスバルは苦笑をにじませ、皮肉を軽く上乗せして軽口を返す。「少しだけどヒカリにべったりできたからむしろ逆に疲労は回復したよ。知らなかった? 普通は糖分とかが栄養源だけど、ボクの栄養源はヒカリ分なんだよ?」
「はいはい、分かったわよ。それでも気疲れしてるように見えるんだけど、それも気のせい? ユキちゃんもだいぶカリカリしてるみたいだし」
「お前と一緒に居るからにゃ。わちきも本当は頼りたくないけど、残念ながらイチハの力は認めざるを得ないからにゃ。別に好きで一緒の空気を吸ってるわけじゃニャい」
「もう、ユキちゃんったらホントにツンデレ! だから余計に好きになっちゃうじゃない」
言いながらイチハはユキに手を伸ばす。が、黒い尻尾がしなやかにその手を打ち付けて拒んだ。
「触るのを許可した覚えはないにゃ」
「うーん、ダメか。ま、今日のところはいいわ。いつか絶対にユキちゃんを振り向かせてやるから。
で、スバルの悩み事は何かしら? 『アイドル・イチハの何でも相談室』ならどんな些細なお悩み事も聞いてあげるわ。基本聞くだけだけどね」
「別に相談所に来たつもりは無いんだけどさ。まあ、ヒカリには聞かれたくない事が多過ぎるから、バレないようにするのに気疲れはするけどね」
「相変わらず二人ともヒカリに対しては過保護よね」
「イチハには言われたくないよ。というか、英雄たち全員ヒカリには過保護のくせに」
「ミサト姉なんて特にね。私はミサト姉に言われてヒカリを見てるだけだもの。私なんて可愛いもんよ。それで、その過保護のスバルとユキちゃんは何を聞きたいのかしら?」
「そうだね……」
冷めたココアでスバルは口を湿らせて、少し考えこむようにこめかみを掻いた。
そして名前を口にする。
「君代・ヤヨイについて」
それと同時にイチハの眼が細まり、「へぇ……」と声を上げながら楽しそうに口端を歪ませた。
「どうしてその子の事を聞きたいの?」
「知っての通り、ボクには立場上いろんな人の情報が入ってくる。ミサト姉はもちろん、ミサト姉と関係がある多くの人からね。ヒカリと繋がりがある人間の家族構成やその背後関係、思想や政治信条、ありとあらゆる事を聞かされる。学校のクラスメートはもちろん、その教師まで。ヒカリを利用する人間がいないか監視しないといけない。それはイチハも知ってるよね?」
「ええ、知ってるわよ。前にミサト姉に手伝ってくれって言われたけど、面倒だったから断っちゃったもの。それで?」
「ミサト姉が準備してくれた人ってみんな優秀だからさ、ボクの知りたい事を不足なく教えてくれるんだ。町中ですれ違うだけでも、ホンの少しでも怪しい素振りをしたら徹底的に調べあげてくれる。今まで一人の例外もなくね」
まあ、大概は本当に無関係なんだけど。
そう言って苦笑を数瞬だけ浮かべ、すぐにスバルは表情を引き締める。
「なのに」
「君代ヤヨイの情報は一切無い」
スバルの言葉に被せるようにイチハが言葉を続けた。そのことに若干スバルは口を尖らせるものの、うっすらと笑みを浮かべるイチハに対して特にそれ以上の感情を見せることはない。
「イチハの言う通り、入学した時からのクラスメートである君代さんの情報は一切無いんだ。この一年間、人物関係に家族関係、普段の学校外での行動は何一つ入ってこない。何をして過ごしているのか、何処に住んでるのか。どういう趣味趣向をしてるのか。尾行しようとしたこともあるみたいだけど、全部途中で姿を見失ってるし、学校に登録されてる住所もデタラメだ。もっとも、今までは特にヒカリにも僕らにも関わって来ようとしなかったから放っておいたけどね」
「でもここ最近になって急に彼女が接近してきた、ということね?」
「全部知ってるくせに一々確認してこなくていいにゃ」
ユキが前足で顔を掻きながら悪態を吐く。そんなユキを宥めるようにスバルは苦笑を浮かべ、優しく抱き上げて膝の上に置いて頭を撫でてやり、思わずユキの口から声が漏れてしまう。
「いーなー。スバルばっかずるいじゃない。私にも触らせてよ」
「イヤにゃ」
「話を続けていいかな?」
幼子のように駄々をこねて不満を口にしながら再度ユキに頼むが、すげなく断られてイチハは大きく肩を落とした。その様子を見ながらスバルは、今度は大きくため息を吐き、「それで」と語気を強めて強引に話を元に戻す。
「君代さんの事を知ってるなら何でも良いから早く教えて欲しいんだ。ボクも暇じゃないからさ」
「そんなに怒らないでよ。ちょっとしたユキちゃんとのじゃれ合いじゃない。あーもう、分かったわよ、だからそんなに睨まなくていいから」
「睨みもするよ。せっかくヒカリと一緒にいる時間を割いてまでしてるのに話が進まないんだから。イチハの悪いとこだよ。すぐに話を脱線させるの」
「ハイハイ、ごめんなさい。悪かったわね。とは言うもののねぇ……」
スバルのダメ出しを受けて謝りながらイチハはソファに座り直し、だがどこかバツが悪そうに金色に染めたツインテールの髪を指先で弄ぶ。
「彼女の事はほとんど分かんないのよね」
「なんだって?」
スバルは耳を疑った。
情報の魔法使い紅葉・イチハ。「世界」にアクセスし、世界が蓄えた情報を引き出す事ができる彼女に知らない、知ることができない情報は存在しない。どれだけ隠したくてもその痕跡を世界は記録する。そこに誰一人として例外は無く、誰一人として逃れられない。加えて卓越した精神魔法を行使すれば、その気になれば本人が知らない記憶や感情、想いを引き出し、意思を操作する事さえも容易く、人の尊厳をイチハの意思一つで簡単に踏みにじれる。なのでユキはイチハの能力を嫌悪するのだが、むしろだからこそ客観的事実だけでなく主観的事実まで含めて知ることができるイチハは「全知」に近しい存在だ。少なくともそういう認識を持っていたスバルは、目の前に胡座のまま座る少女の言葉が信じられなかった。
「私も最初は信じられなかったわよ。今まで誰一人だって例外なく知ることができたのに彼女だけ何一つ読み取れないんだもの。もしかして自分の力が失われちゃったんじゃないかって思って、思わず自殺してしまいそうになってしまったじゃない」
軽い調子で冗談でも言うかのような口調で急に「自殺」という言葉が出てきて、一瞬スバルは虚を突かれた。反応できずに言葉に詰まり、かといって笑い流すことも出来なくて、それを悟ったイチハが「冗談よ」と何でもない事の様に流そうとして、そこでようやくスバルも表面上を取り繕う事ができた。しかし、それは表情を装うだけで、心中でスバルは魔法使いの持つ「業」を改めて思い起こさせられていた。
イチハの何気なく放った自殺という言葉は決して単なる冗談の類では無い。事実、スバルの知りうるだけでイチハは過去に三度も自殺未遂を起こしている。未遂、とまでは行かなくとも行動に起こしかけたものも含めれば両手の指で数えられるかどうかスバルは自信が無い。
一命を取り留め、意識を取り戻した彼女にスバルはかつて尋ねた。なぜ、死のうとしたのか、と。そしてイチハは一言、呟いた。寂しかったから、と。
その時にスバルは悟った。「魔法使い」の不安定な精神状態を。そしてそれは「魔法使い」である以上避けられない事だと。
英雄、魔法使い。繰り返しスバルは頭の中でその二つの単語を反芻する。世間では称賛と憧れの代名詞とも言えるそれらだが、実体は世界からの拒絶と孤独を意味している。
何にも属せず、誰にも理解されない、そんな存在。
例えばスバル自身を振り返れば、自分の性癖はマイノリティではあるがヒカリもタマキもユキヒロもそんな自分を理解してくれている。魔術の威力は乏しいが、その技術自体は常識的に優れていて、周囲はやっかみもあるものの少なからず認めている。
また所属に眼を向ければ日本という国に属していて、神奈川県に属していて、小鳥家という血族を有し、魔技高専特任コース二年一組というコミュニティに属している。何より、今立っているこの世界に「属している」。
だが魔法使いたちは違う。誰一人として彼らの使う魔法について理解できず行使もできない。彼らの功績を知り、実績を学び、人となりを知っても「理解できない」。どれだけ近寄ろうとも親しくなれない。誰もが無意識の内に「自分とは違う」とだけ理解し、一方的に劣等感に押し潰され、異なる「世界」に生きる存在だと線引し、理解を放棄する。
そして魔法使いである彼ら自身もこの世界に生きていると理解できない。
人が生きていけるのは、自分自身が「一人ではない」と無意識で理解しているからだ、とスバルは考えている。どれだけ一人で過ごそうとも、どれだけ周りと関係を絶とうとも絶つことのできない繋がりがあるから生を放棄しない。
例えば家族。例えば友人。例えば恋人。例えば所属している学校。例えば働いている会社。
誰もが何かしらに属しており、そこではどれだけ希薄であっても誰かがいる。生きている以上は決して絶てない繋がりがそこにはある。その繋がりが絶たれた、もしくは感じられなくなった時に人は自ら死を選ぶ。そしてその根幹にして最たるものが「世界」だ。人との繋がりが絶たれようとも、生きている限り世界は自分を手放さない。世捨て人であろうと、世界は時に厳しく、時に優しく人に触れ続けてくれる。
だがしかし、魔法使いはその繋がりを持てない。何故ならば「世界」そのものから拒絶されているから。
どれだけ足元を踏みしめようとも、どれだけ世界に手を伸ばそうとも、どれだけ世界に触れようとも世界が魔法使いに手を差し出してくれることは無い。
それは深い孤独だ。外から覗きこんでも底の見えない、光の差し込まない深淵の中に彼らは囚われている。つまりは根幹が崩れ、ゆえに常に常人には理解できない「深い孤独」に苛まれ続ける。それは彼らが魔法を行使する度に耐え難いほどの苦痛を与え、強力な魔法を使うほど強烈になっていく。だからこそイチハはタマキの要望に応えず、スバルもまたそれを特には咎めなかった。幾度と無く孤独に苦しみ狂う魔法使いの姿を、最も魔法使いに親しい友人として眼にしてきたから。
(ヒヤッとするからあまりそういう言葉は使わないで欲しいけど、ムリだよね)
ソッとため息をスバルは吐く。スバル自身、魔法使いたちを完全に理解できてはいないが、それでも長い付き合いだ。彼らがどれだけもがいているか、息苦しい、生き苦しい生を必死で生きているか知っている。だから、魔法使いを除いて最も彼ら自身を理解している人間としてただ一つの事を願うばかりだ。
(みんな報われて欲しい)
いつの日か、また昔みたいに皆が揃って笑い合える日が来て欲しい。楽しく無邪気に遊んでいた幼いあの日を。期待するには可能性は低くて、けれども願ってやまないそんな日。スバルはそんな想いに呪いの様に縛られている自分に気づいていなかった。
「でも別に魔法が使えなくなったワケじゃないんだよね? じゃないと今こうして話なんてしてないだろうし」
「まね。他の人に試してみたけど全然普通に使えたし。ついでにちょっち実験もしてみたのよ」
「どんな?」
「気になる事があって、ミサト姉に私が意識を読み取ろうとした時にちょっち抵抗してもらったの。でそしたら案の定」
イチハの言葉をユキが引き継ぐ。
「読み取れなかったってわけにゃ」
「そゆこと。ミサト姉一人じゃ信頼性として欠けるからコウジにもちょっち協力してもらって確かめてみたけど、結果は同じ。やっぱり本気で抵抗されたら何も読み取れない。ちなみに一般人相手だとそんな事は無かったから」
「っていうことは……いや、でもまさかそんな……」
有り得ない。スバルは頭の中に浮かんだ推測を即座に否定した。
だがイチハの力を本人と同じくらい理解しているのはスバル自身だ。魔法使いの魔法が及ばないなどということは普通では有り得なくて、しかしイチハ自身がミサトたちを対象にして実験を試みて結論を出してしまっている。
スバルは否定して欲しいと願いながら頭を抱えてイチハを仰ぎ見て、イチハは軽くため息を吐くことで応えた。
「気持ちは分かるけどね、十中八九正しいと思うわ。
――君代・ヤヨイは魔法使いよ。私の魔法に対抗できる程の抗魔力を有するなんてそれくらいしか考えられないわ」
「だけど!」
スバルは声を荒げて立ち上がった。だが落ちそうになったユキが膝の上で太ももに向かって爪を立て、その痛みにスバルはすぐに冷静さを取り戻すことができた。小さく「ゴメン」と謝って座り、しかしグルグルと頭の中では、有り得ない、と何度も繰り返してイチハの考えを否定し続けた。
「だけどさ、ボクが駆けつけたあの日――十年前のあの時、あの場所に君代さんは居なかった」
「それは肯定するわ。私たち五人の他には誰にも居なかったはずよ。けれどそれだって古い記憶だし、私たちが気づいて無かっただけで彼女が居た可能性もゼロでは無いわ」
「……世界にアクセスして調べられない?」
口にしてスバルは後悔した。イチハにとって世界へのアクセスは最上級の魔法に位置し、行使すれば、今この場で発狂しかねない程の負荷を掛けてしまう。
つい先程魔法使いに掛かる負担に想いを馳せたばかりなのに、どの口がそんな事を吐き出したのか。嫌悪と苛立ちにスバルは下唇を噛み締め、しかしイチハは気にした様子も無く応えを口にした。
「ムリね。スバルもまだ認識が不足してるみたいだけど、世界へのアクセスも万能じゃないの。私たちが記憶を忘れていってしまうように世界の記憶も積み重なっていくそれに摩耗するわ。よしんばアクセスが出来たとしても、そこから何年も前の情報を探し当てるためには深くダイブしないといけないし、ヘタすれば私自身が戻ってこれなくなるわ」
「……ゴメン、無茶を言ったね。忘れてよ」
「気にしてないわよ。
それに可能性だけを論ずるなら他にも可能性はあるもの。例えば、私が知り得ない特殊な魔技製品を誰かが開発した。生まれつき抗魔法能力が強い、とかね。もっとも、その可能性は限りなく低いでしょうけど」
テーブルの上に肘を突き、掌を合わせてスバルは俯いた。
スバルの至上命題は、ヒカリを利用しようとする組織や国からヒカリを守ることだ。ヒカリと最も親しく、付き合いの長い友人としてミサトからその任を託され、ヒカリを守れなかったその罪悪感と、ヒカリから受けた恩を返したい想いから任を受け取った。
もちろんスバルは高校生でしかなく、だからこそ本当に重要な事や日々の雑事はミサトを始めとする大人たちが担っていて、スバル自身が担っているのはヒカリの傍に居ることだけだ。そしてヒカリに直接振りかかる火の粉を払うべく、全力を尽くす事。ただそれだけ。
だがそれは魔術師とはいえ、まだヒカリと同じ年の十七歳の少年でしか無いスバルにとっては非常な重荷だ。知識も経験も足りない。魔術の才能が無い中で技術だけは何とか努力で習得してきて武器と成り得たが、「必殺の」武器とはとても呼べない。それでも、これまでは何とかヒカリを守り果せてきた。
しかし今回はまさかの魔法使いの出現だ。
魔法使いの前ではどんな優れた魔術師でも敵とは成り得ず、どんな戦略も戦術も彼らの前では灰塵と帰してしまう。例え、世界で最高の魔術師であっても、敵う希望は持つことさえ難しい。
――もし、君代・ヤヨイがヒカリに仇なす敵だったなら。そんな考えが思考を占めて絶望に似た衝動がスバルに諦めを強要する。
考えろ。思考を止めるな。思考を止めることは即ち「小鳥・スバル」の敗北を意味する。逆に言えば思考を止めない限り、魔術師スバルは最強の盾に成り得る。
だから考えろ。思考を、思索を、歩みを決して止めるな。
呪いにも似た強迫的な思考を自らに課して黙考を続けるスバル。だが、頭上からのイチハの声でそれも中断させられる。
「彼女が敵だった場合を想定して頭を悩ませてるんでしょうけど、あまり気にしなくて良いと思うわよ」
「……そういうわけにはいかないよ。ここに来て急に絡みが増えたって事は彼女が動くべき時が来たって事だし、目的が見えない以上は対策は講じておかないと」
「そうじゃなくてさ」ため息混じりにイチハはスバルに告げる。「君代・ヤヨイはどうも私たちに近い考えを持ってるみたいよ」
胡座をかいた膝の上に肘をついて、頬杖の姿勢でそう告げるイチハに、スバルは怪訝な表情を浮かべた。何を根拠に、と詰め寄ろうとするがその前にイチハが話を続けた。
「まったく相手の事が分かんないのも癪だからさ、何とか情報を得られないかなって思って何回かチャレンジしてみたのよ。ま、結局ほとんど何も分かんなかったけどね。でも、おかげで少しだけ、ホントに薄ぼんやりとだけど彼女の思考が読めたの」
得意気に口端を釣り上げるイチハ。それを見てスバルは幾度かまばたきをし、目の前の少女に目を見張った。
「それで、彼女は何て……?」
「ヒカリを守る」
短く端的な言葉。たった一言イチハは伝え、けれどもその口調は強く、実際にイチハ自身がヤヨイから読み取った思念もそれだけ強い想いなのだとスバルは理解した。
「そっか……」
だからスバルもそれ以上はイチハに追求しなかった。他に言葉を続けない事から、彼女が読み取れた思念はそれだけだったのだと察し、何よりスバルにとってもその言葉が聞ければ十分だった。
ヤヨイが本当に魔法使いだとすれば、当然イチハが想いを正確に読み取れていない可能性もある。もしかすれば仮初めの思いや嘘の思念を読み取らせるような細工をしている可能性もある。でもイチハの知能はスバルよりも遥かに高いはずで、だからその懸念は彼女も考えているに違いない。
だけれども敢えてイチハはそれを口にせず、君代・ヤヨイが信用に足る人物だと判断した。ならばスバルとしても信用しても良いと思えたし、彼女の想いを信じたいとも思った。
「スバルの話は終わったかにゃ?」
頃合いを見計らっていたのだろうユキがスバルのひざ上で伸びをしながら、細い瞳を頭上のスバルに向けてくる。その視線を受けてスバルが「うん」と頷くと、ユキは膝の上に姿勢を変えて座りなおして、睨むような目線をイチハに向けた。
「わちきも聞きたいことがあるにゃ」
「いいわよー。この際だから何でも聞いてちょうだい。ユキちゃんなら何でも応えてあげちゃう!」
重い雰囲気を一変させて満面の笑みを浮かべてユキを覗きこむイチハ。それまでの頬杖を外して両手をワキワキさせて近づけるが、ユキは素早く爪で引っ掻いてその手を威嚇した。
鈍重で粘り気のあった空気が一変し、「なんだかなぁ……」とスバルがボヤくが、しかしユキが発した質問に弛緩した空気が凍りついた。
「イチハは、犯人を知ってるにゃね」
お読み頂きましてありがとうございました。
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