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Jewel  作者: 下川田 梨奈
風から出るサファイア
2/26

二人の青年

砂の大陸“ヤルドナ”には、荒くれ者がよく集う


砂に囲まれた小さなオアシス“アンシャル”は、歓楽街を中心とした典型的な町だ


月は沈み、世界が闇に支配されても尚明かりを灯し続ける眠らない町


粘土細工の様に白んだ土壁の四角い建物が建ち並び、小さな窓からなかの明かりが洩れる


フルーツドロップの様なランプの明かりが地面に映り、万華鏡を連想させた


しかし、この町では誰もその美しさを知るものはいない


まともな神経の者ならば、町に近寄ることはないのだから





酒の匂いとタバコの煙が充満する店の中は人でごったがえしており、満足な会話は望めない


小競り合いと決闘が日常茶飯事で行われるこの町では、自分の足元に死体が転がっていようと気にも留めない


肩が触れただけで武器を向けられるこの時代、自分の事だけで精一杯だ


他人の生死など、構っていられないのだ




人々の罵声と笑い声が入り交じる中、不意に音楽が流れ始めた


耳慣れない不思議な音色は美しい旋律となって人々の耳に届いた


小競り合いをしていた酔客も、店の片隅で鼻を突き合わせて話し込んでいた怪しげな男達も、ゴシップ記事に黄色い声を上げていた娼婦達も、人買いも、皆がその音色に耳を澄ませた


いつしかシンと静まり返った酒場の中に、場違いに美しい音色が流れ続けた



音の出所は店の隅に設えられたステージからだった


床よりも一段高くしただけの粗末なステージの上で、二人の若者が音楽を奏でている


まだ年若い彼等は、少年の名残を残す首筋と、成熟した鋭角的な肩の線を併せ持ち、それでもまだ伸びようとする肌の躍動感を感じさせる


人々の目は彼等から離される事はなかった


人の目を惹き付けているのはその美しい音色ばかりではない


二人の若者の、整った容姿の為でもあった


その気になれば町中の女を抱く事ができるだろう


現に、女達が彼等を見つめる目には熱がこもり、頬を上気させている



紅い髪の青年は女達の熱い視線に愛想よく応え、手にした8本の弦を持つ革張りの楽器を爪弾く


難しいフレーズも難なく弾きこなし、高音低音を自在に操って美しいメロディを奏でる


もう一人の青年はまるで愛想がなく、ただ淡々と演奏をこなしているようにみえる


しかし、獅子の頭飾りを持ち磨きあげられた木の胴に張られた4本の弦を細い弓で引くその姿は、気品すら漂わせる程に超然としており、女達の視線を逃がさない


遠い異国の見知らぬ楽器でありながら、誰しもが耳懐かしさを感じる心地好い音色は、見事な調和をみせて一つの音楽を作り上げる


非の打ち所のない演奏に、喧嘩は収まり荒れた空気が静まった


先程の喧騒が嘘のように穏やかな空気が場に満ちている


まるでベルベットのカーテンの垂れた大劇場にでもいるかのような感覚


音が余韻を残して鳴り止むと同時に、客達は割れんばかりの拍手と共に立ち上がった






「っか~~~~~~~っ!!一仕事終えた後のビールってのは何でこんなに美味いのかねぇ」


演奏を終えた二人は何時ものようにテーブルに着くと、冷えたビールを乾いた喉に流し込んだ


「ねぇガルダァ。今夜の約束、ちゃんと覚えてるぅ?」


胸元の大きく開いたドレスをまとったウェイトレスが、料理を運びがてら紅毛の青年の耳に口を寄せる


ガルダと呼ばれた青年は口元に笑みを浮かべると、女の腰を引き寄せて白い首筋に軽く口付けた


「もちろん、忘れるわけないじゃん♪もうあがりだろ?表で待ってて」


女の耳にそっと何かを呟くと、女の頬が赤く染まった


長めの紅毛を無造作に流し、腕や首、耳や指に幾つもの飾りを光らせるガルダは、夜毎女を替えて抱く


少しタレ目なその瞳は朝日が上る直前の空の色


いつでも笑顔を絶さず、口を開けば冗談や口説き文句が飛び出す


軟派で人懐こく、あっという間に人の心を開いてしまう彼は、軽くていい加減に見える


しかし、その瞳の奥に宿る鋭い光は、いつでも周囲を油断なく見回しており、どこかただ者ではない印象を残す



「お疲れさん、今夜も良かったぜ」


両腕にタトゥを施した店主が二人のテーブルにやってきた


食事を終え、酒を呑んで寛いでいた様子の二人は気のない調子で礼を述べ、渡されたギャラを受けとって立ち上がった


二人はしるし合わせたかの様に真逆の方向へと歩いていく


奏でる音楽と違い、バラバラに行動する二人の姿を店主は面白そうに眺めた


通り過ぎる度に声をかけてくる娼婦達に、いちいち愛想を振り撒きながらガルダは女を待たせている店の外へと姿を消した


それとは逆に、二階へと上がる階段に足をかけた金褐色(キャメル)の髪の男を思い出したかの様に呼び止める


「よう、レオ!今度はどのくらいこの町にいられるんだー?」


少し考えるように間を置いてから振り返ったレオに、人の目が一気に集まった


ジェルで立たせた短い髪が、天井の明かりを弾いた


明かりを落とした店内で、瞳を隠すサングラスのさいでその表情は読み取れない


店中の女達の、またはその手の男達からの熱烈な視線を我関せず的な態度ではね除け、人を威圧するような独特な空気をまとう


人相がはっきりとしないでも、内から滲み出る雰囲気は隠せるものではない


隠されているからこそ、その素顔を覗いてみたい衝動が掻き立てられるのだ


「・・・まだ決めてない。予定が入り次第動く」


少し低い、感情のない声は騒がしい店の中でも冷たく響く


「そうか。ま、いる間はうちにいてくれよ。お前さん達がいると店が穏やかでいい。客もどんどん増えるしな!知ってるか?ファンクラブとやらまであるらしいぞ」


レオは興味がなさそうに軽く片手を上げて応えると、二階へと消えた




無愛想なレオグリオンと軟派なガルダ


全く正反対の性質を持つ二人組がこの町を初めて訪れたのは、今から6年程前の事だった



『生意気で向こう見ずなガキ共』


それが、店主が感じた二人の第一印象だった


激しい砂嵐の夜、一夜の宿と食事をギャラに演奏させて欲しいと申し出てきたのは、まだ幼ささえ残す二人の少年だった


流れの吟遊詩人だという少年達は薄汚れた格好をしており、見るからにろくな生活をしていないとうかがい知れた


親に捨てられたのか、自分から出てきたのかは知らないが、大人の保護を受けていないのは明白だ


荒れ果てたこの時代、そういった子どもは少なくない


店主も親はいたが、楽な暮らしをして育ったわけではなかった


一歩間違えれば自分も彼等と同じように家もなく親もなく、放浪生活を送っていたかもしれないのだ


何日もまともな食事をとっていないだろう少年達に少なからず同情を覚えた。


食事と一晩の宿を恵んでやろうとしたが、驚いたことに少年達は頑として施しは拒む


面白半分に演奏させてみて、その腕前に舌を巻いた


その時の全身が総毛立つ感覚は、今でも変わらない


予想だにしなかった彼等の演奏に惚れ込み、相場以上のギャラを支払った


その後数日間店で演奏をさせて泊まってもらったのが、彼等との付き合いの始まりだった


以来、世界中を回っている彼等がこの町に立ち寄る際は必ず店に来るよう頼み込み、今に至る


彼等のおかげで店は名を上げ、いつしか指折りの名店として呼ばれるようにまでなっていた


店主は今夜も満席になった自らの城を見渡し、満足気に微笑んだ





夜の帳が、ゆっくりと幕を下ろす


開け放した窓の外は店から漏れでる喧騒と派手な明かりで騒々しいが、部屋の中はまるで水底のようにぼんやりとした静けさを保っていた


一人部屋で本を読み耽っていたレオは、ふと顔を上げて窓の外に目をやった


眠らない町は夜を拒み、闇に脅えるかのように明かりを灯し続ける


けばけばしい色の光は、目が疲れる


小さなため息と共に視線を下げると、向かいの店の軒下に咲く白い花がぼんやりと闇に浮かんで見えた


色鮮やかなネオンよりも、その儚くも凛とした姿が目を引いた


風にのって、甘い香りが運ばれてきた



「たっだいまぁ♪」


騒音ともいえる賑やかな音をたてて帰ってきた相棒に一瞥をくれると、レオは読みかけの本に目を落とした


乱れた襟元、濡れたままの髪、上気した頬に軽い足取り


夜の町に女と消えた相棒が、今までどこで何をしていたかなど、聞くまでもない


機嫌の良いガルダは、鼻唄混じりにレオの向かいのソファーに腰を下ろす


手にしていた缶ビールのひとつをレオの前に置き、自分の分を一気に半分ほど飲み干す


風にのって一瞬香った甘ったるいトワレの香りに、レオは不快感を露にした


眉根を寄せるレオにはお構い無しに、ガルダはテーブルに出したままのノートパソコンを引き寄せる


起動させると、画面には未開封のメールがいくたも届いている


「ちょっとちょっとぉ~、メールも見てないわけぇ?」


非難を込めて言う言葉を聞き流し、パタンと音をたてて本が閉じられる


「メールチェックはお前の仕事だろ」


突き放されるような冷たい言い方に、ガルダはがっくりと肩を落として見せた


まるで自分には一切非がないと言わんばかりの態度


バスルームに消える背中を見送り、ガルダは大きな溜め息をひとつこぼした


相棒のそんな冷たい態度も一方的な言い分も、振り回されるのにももう慣れた


ただ時々、そんな自分が不憫に思えることがあるのだった


ガルダはもう一度大きく溜め息をつくと、気を取り直して画面に目を向けた


パスワードを入力し、幾重にも張ったロックを一つづつ解除していく


少々面倒ではあるが慣れた手順、鼻唄混じりに手を動かす


全てのロックが外れ、画面にはサイト名が大きく映し出される



“Jewel Hunter Company”



宣伝文句は“より良い品を確実にあなたの元へ届けます!”


“ジュエルハンター”それが二人の裏の顔にして本職




世界が崩壊した後、紙幣の価値は一気に暴落し、ただの紙切れと化した


あれ程に人を狂わせ、世界を支配し続けた貨幣が、一夜にして意味をなくしたのだ


しかし、力と財を求める欲がこの世から無くなることなどありはしない


物々交換で品物等を手に入れる中、人々は(きん)に絶対的な価値を置いた


キラキラと輝くそれは、まるで人々の荒れた心を静めるかのようにも見え、その反面欲と見栄の象徴ともなった


たった一粒の金で、なんだって手に入る


物も、家も、食べ物も、人間でさえも・・・



その内に金の量にも限りがあることが感じられ、金に並んで価値を見出だされたのが宝石だった


色とりどりの美しい石達は、この惑星(ほし)の奇跡


希少価値の高いもの程高い価値がつき、表で裏で取引が行われた


大きな利益をもたらす美しい石を求め、山という山が掘り起こされた


ところが、山の中から一粒の石を傷つけることなく見つけ出すことは素人には難しい


宝石を探り当てる職業は、一躍時代の花形となったのである



後に国家資格を有するプロフェッショナルが認定さら、彼等は“ジュエルハンター”と呼ばれることとなった


合格率が1パーセントにも満たないという難関試験を突破し、資格を手に入れるだけで一生食べるのに困らないという


再び貨幣が甦り、世界中で流通した今でも、金や宝石の価値は高いままであり、貨幣の代わりに取引される


レオとガルダは吟遊詩人とは仮の姿で、れっきとした資格を有する“ジュエルハンター”なのだ


巡業と称して世界中を回り、その土地で宝石を仕入れては売りさばく


その市場こそが、“Jewel Hunter Company”である


無資格のハンターの横行するこの世界では、プロ資格を持っているからといって簡単には信用を得られない


年若い二人であればなおのこと信用を得るのは難しい


そこで目をつけたのがインターネットでのハンターサイトだった


高い費用を支払い、専門のサイトにだけリンクをはる


一切の素性を明かすことなく、質の高い仕事だけを選りすぐって請け負う


少数精鋭で、その早さと確実さが売りだ


コンビを組んですぐに立ち上げたのだから、もう十数年が経った


最初は誰にも相手にされず失敗ばかりだったが、システムも確立した今となっては上客の上質な依頼を受けるだけで食べていけるまでになった


「えーーっとぉ・・・ノストラーダ氏がエメラルド10カラット5個とロマネ王朝クシャトール王が作った翡翠のタイピン、カフスのセットと。イクノ氏が戦国時代のオダ・ノブナガが作った珊瑚の装飾剣・・・ふむふむ、ほんで、ポトクレフ氏が・・・」


依頼内容を確認しながら在庫を調べて売りさばく


地道で地味なこの作業は、昔からガルダの役割だ


レオはハントの腕は天才的だが、呆れるほどに商才がない


と、言うより商売をする気がないとしか思えない


依頼を請けても、少しでもつまらないと思えばすぐに放り出してしまうのだ


今夜のメールも、彼が開けたのであれば半数以上は無視して削除してしまっただろう


一応客商売なのだから、もう少し愛想よくしろと何度も言って聞かせているが聞いてくれた試しがない


おかげでもっぱらガルダが対外用窓口を勤めることになるのだ


「ん~で、あ、こりゃシグルズのとこに回しましょかね・・・いやいや、忙しいね」


鼻歌で古い歌を歌いながら、どんどん仕事を片付けていく


自分のところに在庫がない場合や、入手不可能な場合、知り合いのハンターに仕事を回すこともある



滅多とないことではあるが、横の繋がりを作るには必要手段だ


次々と仕事を消化していく手が、不意に動きを止める


常連の客の一人が、新規の客を紹介してきたのだ


9大陸中最も繁栄を誇る“ウトラ大陸”随一の発展都市“アヴァルギン”の大富豪


世界でも1位2位を争う資産家、“ウラジミール・マルスム”だった


その噂は耳にしたことがある


表向きはリゾート開発から宇宙科学まで幅広く事業を手掛ける大富豪


しかしその裏に武器商人と宝石ブローカーとしての顔を持つ


二十年ほど前、“魔法石(ダイヤモンド)”を後一歩のところで手に入れ損なったと聞く


以来、ありとあらゆる手を使って行方を探しているとのことだった


自分の欲しいものはどんなものでも絶対に手に入れる


それが彼の人生における最大のテーマらしい


ウラジミール・マルスムのことを調べれば調べる程に、ガルダは違和感を覚えた


表でも裏でもその名を轟かす男が、自分達に一体何の用だというのか


ハンターくらい、いくらでも抱えているはずた


業界では一応名の通ったハンターといえど、素性の知れないフリーのハンターに何を依頼するというのか・・・


キナ臭さを覚え、届いたメールの文面に目を光らせる





「おい、レオ!見ろよこれ!久々にどでかい仕事だぜ!!」


シャワーから出て冷蔵庫を開けるレオの目の前に、画面を突き付ける


濡れた髪を拭きながら、その文面に琥珀の目を走らせる


「“魔法石(ダイヤモンド)”だって!良いじゃん、マジで!!」


ガルダの声は弾んでいた


この世にたった一つだけ存在するという奇跡の石


手にした者は、この世の全てを得るという


大昔から人々が欲してやまない“魔法石(ダイヤモンド)


宝石を司るハンターが、長年夢見る宝石の王


探し出してみたいと思わないわけがない


人々の心を惹き付けてやまない、権威と栄誉の象徴だ


見つけ出せば、世界中にその名を知らしめることとなる


にわかに勢いづくガルダを尻目に、レオは興味もなさそうに離れていった


頭を無造作にタオルで拭きながら、冷えたビールを飲む


元々どんな仕事をしようとも、何の感情も表さない


宝石の美しさにもその高い価値にも興味を持たず、冒険のスリルに心を踊らせもしない


かの有名な“魔法石(ダイヤモンド)”であってしても、彼の心を動かすことは叶わなかった


そんなレオが、何故あれ程の難関を乗り越えてハンターになったのか・・・


十数年来の付き合いにも関わらず、どれ程訊ねても決して語ってはくれない事だった



それでも、レオのハンターとしての腕前は本物だ


何時だって一番最高の石を見つけ出し、完璧な状態で掘り起こしてくる


時に、石が彼を呼んでいるのではないかと感じるときがある


ハントするとき、僅かな迷いも見せないのだ



レオグリオン・ウォルカーシャ


彼の謎は長くいても深まるばかりだ


「受けるっしょ?金に糸目は付けんっていうし、破格のギャラ!超おいしーし♪」


返事を待つことなく受諾のメールを返信する


レオが何も言わないのはわかりきっている


何も言わないのは了解の証


ガルダは残りの仕事に取り掛かる


依頼を請けるか請けないかはガルダに一任されているのだ



忙しく手を動かしていたガルダが、ふと思い出したようにレオを振り返った


寛いだ様子で本の続きに目を落としているが、気配に気付いて顔を上げた


「“魔法石(ダイヤモンド)”とマルスムで思い出したんだけどさぁ、“宝石人(ジュエル)”って知ってる?」


「・・・体内に宝石を宿して生まれ、それを放出出来る人種のことだろ?噂だがな」


昔どこかで聞いた噂話を思い出した


新聞の三面記事のように他愛のない噂話


レオは興味がないらしく、また本に目を戻す


「そ。その“宝石人(ジュエル)”。最近仕入れた情報に“宝石人(ジュエル)”実在説ってのがあったわ」


「へぇ・・・本当ならハンターが黙っちゃいないだろうな」


「そーなのよ。今巷じゃ“宝石人(ジュエル)”探しが大流行!なんでも“魔法石(ダイヤモンド)”の鍵を握ってんのが“宝石人(ジュエル)”なんだってさ」


「伝説じゃ、とうに滅んだはずだが?」


体内に宝石を宿して生まれ、それを自在に放出出来る奇跡の人種


流した涙か青い石、その血が赤い石になる


数十年前に宝石を求めるハンターによって隠れ里が暴かれ、この世から滅び去った悲劇の人種


追い詰められた王の言葉が人々を“魔法石(ダイヤモンド)”探しに駆り立てる




『この世の果てに隠した宝は、いつか必ず我等が手に戻るーーーー』




世の果てが何処なのか、誰も知ることなどできない


存在すら曖昧で、“宝石人(ジュエル)”の国が何処にあったのかを知る者もいない



魔法石(ダイヤモンド)”は“宝石人(ジュエル)”と共に闇の中へと消えたと思われた



「でもさ、その話には続きがあったのよ」


ガルダは得意気な笑みを浮かべると、タバコに火を着けた


「なんでも、国が滅びるギリギリ前に、まだ幼かった皇女が一人、奇跡的に生き残ったんだと。ってこたぁよ?例の“魔法石(ダイヤモンド)”の鍵っつーか、そのものをそのお姫さんが持ってる可能性が高いってことじゃん」


「つまり、“宝石人(ジュエル)”を見付けることが“魔法石(ダイヤモンド)”に繋がると?」


「だよ。ってか、“宝石人(ジュエル)”一人いりゃあ、一生安泰ってわけ!」


意気込むガルダに、レオは小さく笑うだけだ



グラスに飴色の強い酒を注ぎ、揺れるそれを眺めている


その表情からは、何も読み取ることは出来ない


一人熱くなっているガルダは、決まりの悪さを覚え、口をつぐんだ


一緒になって熱くなることは端から期待していないが、こうも素っ気ないと息苦しくなる


溜め息と共に吐き出した煙が、ゆっくりと天井に散って消えた


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