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Jewel  作者: 下川田 梨奈
砂が知るラピスラズリ
15/26

砂漠の狼

先に動いたのは、アレガテ王だった


戦意を無くしたように両手をあげ、くるりと背を向けてソファーに戻った


眉を寄せるルーに、アレガテ王は笑みを向けた


「何か、思い違いをされているようだ。言ったでしょう、私は戦を好まぬと。あなたに殺されるのならば本望ですが、これでも一国を治める身。私的な感情で命を失うことは許されぬのです。そんな物騒なものはおしまいください。これではゆっくりお話も出来ません。さ、こちらで少し甘いものでも召し上がってはいかがですか?お好みの物を集めたつもりです」


王は争う意志はないと言うが、ルーは動かなかった


「でわ、私の民に手を出すつもりはない、そう仰るのですか」


「ええ。神に誓いましょう。現に私はあなたの隠れ里に目星はついていた。それにも関わらず、何一つ手出しをしなかったでしょう?」


確かに、この国の兵力を持ってすれば隠れ里の一つや二つ暴くのは容易い


何年も前に手がかりをつかんでおきながら、一度も侵略してこなかった


王の言い分は信用できるだろう


しかし、警戒を解くことはできない


目的があるはずだ


「何を望むのです。私の正体をわざわざ暴くからには、それ相応の目的がおありでしょう・・・“魔法石(ダイヤモンド)”の在処ですか」


「“宝石人(ジュエル)”の姫よ、あなたの名は?」


「何故私の名を知る必要があるのです」


名はルー自身を示すもの


親兄弟でもないのに、知る必要はない


他人にとっては“蒼玉”王族の姫で十分なはずだ


王の問いに、眉をしかめる


王は呆れたような表情で肩を落とし、小さくため息をついた


「まさか“蒼玉”が名と言うわけではないのでしょう?今名乗っている“ルー”とは愛称か何かではありませんか?私はあなたご自身の名が知りたい」


「・・・ルキナ」


ひどく久し振りに名乗る本名だった


里では姫と呼ばれ、外に出てからは男でも通る愛称(ルー)を名乗っている


“ルキナ”の名は家族や公の場でしかよばれることのないものだった


アレガテ王は満足そうに、何度も頷く


「“光をもたらす女神”の名ですね。思った通り、美しい名だ。ルキナ姫、オレの望むものは国でも、“宝石人(ジュエル)”の民でも、“魔法石(ダイヤモンド)”でもない。オレが心から欲してやまないのは、他でもない、貴女だ」


「私を望むとは、国も民も“魔法石(ダイヤモンド)”を望むということです」


ルーが冷たく言い放つと、アレガテ王は立ち上がった


どこか怒ったような顔で足早に近付いてくる


ルーは思わず鷹針を鞘から抜いた


切っ先を真っ直ぐにアレガテ王に向け、それ以上の接近を許さない


「それ以上近付くことは許しません」


「ルキナ姫。貴女程美しく、強く、賢い姫をオレは他に知らない。しかし、貴女程早合点な姫も他に知らない。少しはオレの話に耳を傾けてもらいたい」


王は突き付けられた刀を握り、大きく足を踏み出した


至近距離に近付かれ、少し見上げる形になる


王の言う意味が理解できず、ただ気圧されないよう鷹針を握っていた


王の目は怒った風なのに、どこか優しい


人の瞳の中に映った自分を睨み付けるのは、妙な気分だった


不意に生暖かいものが手に触れた


伝わって落ちる紅い液体は、アレガテ王の手から流れている血だった


刃を素手で握り締めているのだから傷付かないはずもない


「っ放しなさい!!何をしているのですっ!」


ルーは慌てて王の指を解いた


二人の手を離れた鷹針は、重力に引かれるまま床に落ちる


王の手は血が出ているものの傷自体はそう深くはない


筋も神経も無事だ


手近にあった布を巻き付けて止血をすると、怒りが込み上げてきた


「なんて愚かな・・・あなたは国を統べる王でしょう!その身体は貴方だけのものではないと言ったのはどなたです!舌の根も乾かない内にこのような真似を・・・一体何を考えているのです!!」


ルーは掴み掛からんばかりに捲し立てる


殺す覚悟で突き付けた刃だったが、自分で傷付けるなど予想外だ


それに、目の前で血が流れるのはやはり嫌だ


怒鳴り付けられたアレガテ王は、得意気に満面の笑みを浮かべている


血が上った頭のまま、王の笑みの意味が分からず眉を寄せる


頬に触れられ、間を置こうとした時にはもう遅い


ルーは、王の腕の中に囚われていた


「なっ!?ちょっ、放して下さいっ!!」


突然のことに反応が遅れてしまった自分が口惜しい


王は見た目こそしなやかだが、実際に触れた身体には厚い筋肉が付いていた


武術の心得があるルーとは言えど、こうして抱き込まれてしまうと身動きも取れない


鍛えていようとも所詮は女の細腕、いくら暴れても王はびくともしない


ただ無駄に体力を消耗するだけだ


「やはり、思った通りだ。オレは貴女が欲しい」


アレガテ王の抱き締める腕に力がこもる


頭に押し付けられた唇から熱い息がかかる


苦しい程の抱擁に、赤面どころの騒ぎではない


これ程他人を近くに感じることなど、子どもの頃以来久しい


男の振りをしている為、不用意に触れられないよう細心の注意をはらってきた


皇女に手を触れる者もおらず、両親か兄弟くらいしか触れたことはない


王の手は優しく髪をすき、背中を撫でた


頬に触れる髪はサラサラと柔らかく、押し付けられている身体は自分の知らない匂いがする


自分とは違う、男の匂い


「や、やだっ!放してっ!!」


早鐘のように打つ心臓の音がうるさい


体の熱が上がっていくのがわかる


おれが王にも伝わっていると思うと、恥ずかしくて一刻も早く逃げ出したくなる


「それ程嫌がられるとオレも傷付くのだが。話をちゃんと聞いてくれると言うのなら、放してやらんでもない」


「わ、わかったから放してっ!!」


ルーは現状を打破したいばかりに思わずそう叫んでいた


アレガテ王は名残惜しそうに一度強く抱き締めると、そっと腕を緩めた


それと同時にルーは大きく飛び退いた


王の手が届かないようソファーの後ろに逃げ込むと、頬を赤くしたまま睨み付ける


王は苦く笑って見つめ返す


「そんな今にも噛み付きそうな顔をしないでいただきたい。美しい乙女には明るい笑顔が一番似合う」


「そうさせているのは貴方です!それより、お話とは何です、早くしてください!」


ルーは歯の浮くような甘い科白を臆面もなく言ってのけるアレガテ王に呆れた


雰囲気はレオに似ていると感じていたが、これではまるでガルダだ


「オレは、貴女が欲しい」


王は表情を改めた


胸を張り、真っ直ぐな眼差しを向ける


「オレが望んでいるのは貴女自身、ルキナ姫です。貴女の生み出すと言うその宝石は確かに魅力的だ。噂では“魔法石(ダイヤモンド)”の在処を知るとも聞く。富と名声・・・男であれば手に入れたいものではある」


ゆっくりと近づいてくる王に、ルーはまた身構える


「だがオレは今のままで充分満足している。いや、正直なとこらこんなに小さな国ですら治めるのに精一杯だ。これ以上は、手に負えない。世界の富など、興味もない。オレが、本当に欲しいのは、貴女だ。どうか、我が妃に」


「・・・はぁ?」


ルーは、我ながら間の抜けた声が出たと思った


脳内で王の言葉の意味がなかなか解読できない


「我が妻として、この国の王妃になって欲しい。オレの側で、共にいて欲しい」


王が冗談で言っているのではないようだ


真剣なプロポーズであることは、その目をみればわかる


若い身体から、電流のような強い力がほとばしっているかのようだ


視線は熱く、ピリピリと肌を焦がすかのようだ


年若くして王となり、民の幸せを守る強き王


同じく国を背負う者として、彼がいかに有能であり、難しいことをやってのけているか、よくわかる


王として必要なものを全て備えている


希に見る、正しい王の姿がそこにある


アレガテ王ならば、“宝石人(ジュエル)”をも守ってくれるだろう


この国は“宝石人(ジュエル)”の民全てを住まわせるだけの土地も、養う経済力もある


他国からの侵略にも打ち勝つ武力もある


全てを任せるに足る、大きな力を持った男だ


「貴方が、本心からそう仰って下さるのなら、私はきっと幸せになれるのでしょうね」


「むろん、本心だ!オレは女に嘘はつかない。神に誓おう」


王が、口が上手い割に誠実な男であることは知っている


一夫多妻のお国柄にも関わらず、王は未だに独り身であり、ハーレムも持たないと聞く


彼の一番の従者であるヘロトスが、早く妃を決めて欲しいとぼやいていたのも知っている


誰かに見合いを持って来られる度に強い態度で断るのだと、ガルダ相手に愚痴っていた


その理由は五年前に出会った少女、ルキナ姫


たった一度会っただけの少女に、心底惚れ込んでしまったと言うのである


「必ず貴女わ幸せにしてみせる。貴女の民もオレが・・・」


嬉々としてルーの手をとるアレガテ王に、ルーは静かに首を振った


「私は、貴方の妻にはなれません」


「姫、何故です?オレの言葉が信じられませんか」


「アレガテ王」


静かだが、固い意志の込められた声に、王は思わず言葉を飲み下した


王は、例え猛獣に睨み付けられようとも、決して怯むことはない


いかなる者を前にしても、一歩たりとも引くことを自分に許さない


戦ともなれば、迷いの影も見せずに敵を薙ぎ倒す


音楽好きで女子どもに優しい彼の本質は、“鋼鉄の狼”と異名をとるその姿なのだ


その王が、言葉を発することもできないでいる


目の前に立つのは強く逞しい敵将でも、悪魔のように頭の切れる参謀でもなく、恐ろしい猛獣でもない


華奢でしなやかな身体を持つ、男装の少女だ


握った手は暖かくて柔らかく、強く握れば砕けてしまいそうに頼りない


しかし、その美しい瞳には、誰の言葉も挟ませない強い光を宿している


「貴方の言葉が信じられないのではありません。貴方が嘘や冗談でその様な誓いをたてるような方ではないことは存じ上げております」


「そうだ。オレはこの国の王として偽りは申さぬ」


「お気持ちは、大変嬉しく思います。このような姿になった私に、そのようにお心を砕いていただけるなど・・・」


「ならば・・・」


「ですが、私はとうに女であることは捨てました。姫であることも。自慢の金の髪と共に、深い谷へと切り捨てて参りました。今の私は“ルキナ姫”ではなく、“ルー”です。旅芸人の歌い手である少年、ただの“ルー”なのです」


ルーは片時も王から視線を離さなかった


相手が真剣な気持ちをぶつけてきてくれたのだ、自分も真剣に返す


相手の気持ちに対して、決して誤魔化したりしてはいけない


それは、亡き父の教えだった


王として、人として一番大切な事だと教えられた


姫であることは捨てたが、王族としての誇りは捨てていない


「貴方に守られれば、私も民も日々心穏やかに暮らせるでしょう。もう、人から隠れることもなくなる。自由に、なれるかもしれない・・・私達も皆と同じ普通の人間として生きていけるかもしれない」


迫害され続け、逃げるしかなかった“宝石人(ジュエル)”の民


どれ程普通の暮らしに憧れていることか・・・


それが今、目の前に差し出されている





しかし、ルーはわかっている


それでは何も解決しない


ただ、“宝石人(ジュエル)”の民の滅びが早まるだけ


不思議な力と、宝石を生み出す身体


それは神からの贈り物などではない


この力は人にあってはならないもの


力があるから驕り、妬みをかう


そのせいで民は追われ、迫害されてきたのだ


他の人間と交わって血が薄まるのなら良い


自然と失われるものならば、良い


しかし、もしこの忌まわしい血が受け継がれ広まったら・・・?


悲しい未来を拡げるだけだ


宝石人(ジュエル)”の民は自分達の血を守っていたのではなく、被害を拡散させなかっただけだ


悲しみの連鎖を断ち切る力が欲しい


「私には、最後の王として民を守り抜く義務があるのです。まだ、足を止めるわけには参りません」


アレガテ王は真っ直ぐにルーを見詰めていた


遠い異国の美しい姫君


苛酷な運命に翻弄され、辛い思いをしていると知り、是が非でも助けてやりたいと思った


子どもも頃から帝王学を教え込まれ、女子どもは守るものと叩き込まれた


力のない弱い女は、強い男が守らなければ生きてはいけないのだとーーー


だからこそ、あの美しい少女にもう一度会いたかった


会って、守ってやるから自分のものになって欲しいと言うつもりだった


生まれて初めて、守りたいたった一人の女を見つけた


旅を終えてすぐに迎えに行こうとした矢先、前王であった父が急逝した


王位継承や国治、他国の侵略軍との戦、外交・・・目の回るような忙しい日々に身体が空かず、あっという間に五年の月日が過ぎていた


若い王に対する大臣達の目は冷たく厳しかった


針のむしろのような日々を、画家に描かせた少女の絵に慰められていた


美しい青の瞳と太陽の光を纏う少女


彼女を守れるだけの力が欲しかった


強い王になって、彼女を迎えにいくと決めた


最近になってようやく、王としての実績も認められ他国からの干渉も静かになった


政務の為に控えていた音楽や狩りも再開し、自由な時間もとれるようになったばかりだった


そんな折、街で評判になっている白い肌の楽士達の噂を聞いた


信頼のおける耳を持つヘロトスにその腕を見極めにいかせ、城へ呼び寄せた


やって来たのは見目麗しい三人の青年だった


非の打ちようがない完璧な演奏、武人に囲まれても恐れない度胸、富にも名誉にも興味を持たない自由な心


全てが気に入り、友人として城に留めた


彼等といると、王になる前の自由な頃に戻れた気がして楽しかった


しかし、ふとした時に気付いた


一番若く見える黒髪の少年が澄んだ青い目をしていることにーーー


風で流れた髪の下で輝く青い(サファイア)


他人の空似と言うにはあまりにも似すぎた顔立ち


雰囲気の違いと、然り気無く避けられていたせいでなかなか確信が持てなかったが、あの美しい少女であるに違いなかった


ようやく巡り会えた、求め焦がれる愛しい人


喜びいさんで求婚した




それを、呆気なく断られてしまった


世界が音をたてて崩れていくかのようだった


王として、望むものは全てが手に入って当然だった


それなのに、断られた


まるで自分自身を否定されたかのようにも思え、怒りを覚えるほどのショックを受けた



しかし、何も言えなかった



恋い焦がれた青い瞳の乙女は、男に守られるのを待つような弱い女ではなかった


強く、固い意志を持つ王の風格、民を守る為に自らの身を投げ出す、強く逞しい姫だった


民を思い、国を憂える気持ちは同じ王としてよく理解できる


仮に自分が彼女の立場であったとしたら、きっとここで足を止めたりはしない


彼女と同じように、ただひたすら前に進むことを選ぶだろう



美しく誇り高き王の眼差し


自分が守ってやれば幸せになれるなど、王としての権力に凝り固まった傲慢な思い違いと知った


弱いはずの少女は、守るべき全てをその細い肩に背負い、すでに歩き出している


彼女に必要なのは、守ってやることではない




アレガテ王は、ルーをじっと見詰めていたが、不意に肩の力を抜いた


それから、至極残念そうに大きな溜め息をついた


「貴女の決意はダイヤモンドよりも硬いらしい」


「アレガテ王・・・」


「美しい青の宝石を妻に迎えるのは諦めましょう。今は、な」


王は微笑んでルーの手をとると、白い甲に唇を落とした


「貴女がいつしかその旅を終えた時、もう一度求婚します。その時こそはきっとこの手に。諦めてはおりませんので、そのお心づもりを、姫。・・・だから今は友として、旅の支えになりましょう」


ルーは驚いて顔を上げた


アレガテ王国は貿易中継点であり、どの国にも肩入れしない完全な中立国だ


富が豊かで兵力も大きいこの国には、どの国も比較的友好的な態度をとる


アレガテ王が後ろ楯になってくれれば、この先の旅は随分と楽になるだろう


王の申し出は、今のルーにとってはこの上なくありがたい


「アレガテ王・・・お心遣いに深く感謝いたします」


ルーが心から礼を述べると、王ははにかむように笑った


笑みを浮かべたまま、小さく首を振る


「友だと言っただろう?君の前でくらいオレも王であることを忘れたい。王と呼んでくれるな。そうだな・・・ルグ。そう、呼んで欲しい」


「ルグ?」


「ああ。オレが幼い頃、民の子らに交じって遊んでいた時に使っていた名だ。今ではヘロトスがごく希に呼ぶだけだが、気に入ってるんだ。本名は、ちょっとばかり長すぎるんでね」


そんな経験はルーにもある


大人達の目を盗んでは城を抜け出して街に出た


街の子ども達と泥だらけになって遊んだのは楽しい思い出だ


いくら他国からも一目を置かれ、民からも絶大な信頼を得る国王といっても、王はまだ若い


大人らしく振る舞う一方で、同年代の友との時間を持つことも必要だ


王として、大人としてでなく、一人の青年である“ルグ”としての顔も忘れずにいたいのだ


その気持ちはルーにも理解できる


友達と言う役割くらい、喜んで引き受けよう


自然と笑みが溢れる


「ありがとう、ルグ」





数週間城に滞在した後、三人はまた旅に出ることにした


王直属の情報網を使い、近辺の国までくまなく調べたが、“魔法石(ダイヤモンド)”の手掛かりは一向に掴めなかった


この近くには存在しないと判断し、次の土地に向かうことにしたのだ


アレガテ王ーーールグは、もう少し留まるよう引き留めたが、彼等が同じ場所に長くいる性質ではないことも、他人の意見を聞き入れる程素直ではないことも承知している


ルーの旅の目的を知っていれば尚更、無理は言えない


ルグはルーの秘密を一切漏らさなかった


女であると気付いた素振りも見せず、本当に友人として振る舞った


以前よりもルーに近付いてよく話し掛けるようになってはいたが、傍目からは王が少年を気に入って構っているようにしか映らない


侍女などには『まるで、ご兄弟のようですわね』と暖かい目で言われてしまった


「またこの国の近くに来ることがあれば、必ず訪ねてこい。いいな、必ずだぞ」


「ええ、必ず。このお礼をお返ししないと・・・」


ルーは苦く笑って、後ろを振り返った


三台の新型のエア・バイク、たっぷりの水と食糧、多過ぎる程の金貨


全てルグが三人の為に用意してくれたものだ


本当は最初、金貨の受け取りは拒んだ


エア・バイクと食糧だけで充分過ぎる贈り物だ


城にいる間中世話になったのだから、それで充分だったのだ


恐縮するルーを、王はおおらかに笑った


「それらは友としての餞別だ、旅の支えになると言っただろう?金貨はそなたらの楽士としての報酬だ。あの素晴らしい音色の価値はそんなものではない。城に留まるのならば住居や車でも良いのだが、そなたらにはは必要ないだろうからな。持ち歩くには少々嵩張るだろうから今はそれだけだ。残りは旅先で必要時に連絡を寄越せ、すぐに送り届ける」


「いえ、だから、本当に充分ですので・・・」


ルーが遠慮すると、王は少し寂しそうな顔をする


「旅の途中でそなたらの無事を知りたい。必ず連絡をくれ」


くれると言うのならもらっておけという、二人の仲間の助言もあり、結局大金を手にすることになった


世界を遊び歩いても余ってしまう程の大金だ


旅先で金に困ることはなくなったが、仕事をする必要がなくなるのは困りものだ


全てはルグの好意からくるもの


素直に感謝することにした


ルーが、約束をすると王はほっとしたように微笑んだ


熱い眼差しにどぎまぎするが、そこで全てを明らかにするほど王も馬鹿ではない


「神のご加護があることを・・・」


ルグはそっと、旅立つルーの額に口づけた

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