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自分の配下はウサギのみ・・・。

作者: アスハ

気分転換で久しぶりに書いた感じなので、あまり推敲もしてないです。

設定とかもテキトーにやったので、細かい矛盾点はスルーでお願いします。

暇つぶしにどうぞー。

 小鳥のさえずりや木々の合間を渡る風が立てる音。

 それを耳にしながら、自分の足元にいるもふもふした生き物へと目を向ける。


「……」


 住んでいる村のすぐ脇にある森、その中の開けた場所に自分はいる。

 そして目の前には、この数年貯めに貯めた魔力を振り絞ったすえに召喚した今生で初の配下がいる。


 あぁ、ほんとに、なんというか。


「あれ? おかしいな……オレってこんなに貧弱な魔力しかなかったのか……」


 視界が歪む。

 こんなに自分は弱くなっていたのかと悔しくて悔しくて、止めどなく涙が溢れてくる。


「あはは……召喚して出てくるのが、魔物ですらなく、」


 ただのウサギなのだった。






 自分は前世、魔王だった。

 そう、あの魔王だ。

 魔族の王。人間どもを脅かす王。そして、荒い連中が好き勝手に暴れまくる軍の王だった。


 ぶっちゃけて言おう。

 あいつら、本能に忠実なだけの獣だっ!

 こっちの命令聞かないわ、自己中で人間の勇者どもに玉砕アタックしまっくって、そしてあいつらを鍛えるだけ鍛えてこっちに寄越しやがるっ!

 「勇者=おいしそう」という謎の方程式でもあるのか、知能の低いやつからどんどん襲いかかってくたばりやがって。

 ある程度強くなってくると「ちわきにくおどるたたかいじゃっ」とか宣言し猛烈アタックして勇者の剣の錆になってるし。

 たまたまそういった脳筋ばかりしかいない時代だったのか、強くなった勇者どもに幹部クラスまでが脳筋アタックして、こっちの進行計画ガン無視、上級魔族自分オンリーという状況に。


 ぽかーんと口を開けて勇者どもを迎える自分。

 あれだな。

 いくら身分の良いところに生まれたからと言って、言うことを聞かない種族(魔族とか言うけど大雑把なくくりだったな)の面倒なんて見きれるわけない。

 開戦のきっかけもたしか低脳連中が「勇者おいしそう」って勇者の村襲ったことで、なし崩し的に人間と対立することになって枕を濡らしたっけ。

 魔王となってからの苦労とかそういったものを思い出しながら、自らの剣に舌を這わせながら歩み寄ってくる血濡れの勇者を冥土の土産として目に焼き付けて死んだっけな……。






 そして、気づけばこの村で生活していたのだ。

 人間の子供として。


 いや、ほんと、なにがどうなってこうなったのかなんてわからないけども、とりあえず魂が輪廻の輪に乗り損ねでもして記憶が残ったまま生まれたのだろうかね?

 まぁとりあえず、あの脳筋連中から開放されて、特に身分のある子供でもないので良かったと今は安堵している。

 前世のようなことはもう勘弁してほしいしね。

 せっかく生まれ変わったのだから、今生くらいは気楽に生きたいもの。


 魔王とか言っても、軍才があった訳でもなくカリスマがあった訳でもなく、血と継承され続けていた固有魔術のせいでその地位にあっただけで、そんな大それたことを為せる存在じゃなかったしね、自分。


 というわけで、村で唯一の子供、フィルとしてこの16年ほど生きてきたのです。

 村はもう爺ちゃん婆ちゃんくらいの年齢層しかおらず、森に捨てられていた赤子の自分しか若いのがいないんだよね……。

 だから可愛がられて村のみんなに育てられてきたんだけども、ほら、賊や脳筋魔族怖いじゃない?

 それに対抗できる村人なんてほとんどいないじゃない?

 かと言って村を捨てるなんて、薄情者にはなれない自分はなんとかしようとしたんですよ。


 それが、魔族時代に継承していた創造魔術、またの名を召喚魔術での使い魔の創造だった。





 ◆






 もしゃもしゃと召喚したウサギがそこらへんに生えている草を食べている。

 うん……ウサギだな。

 

 真っ白な毛並みに真っ赤かなお目々。

 つぶらな瞳でエサを捉える子ウサギだ。


 ……で、どうしろと?


 頭を抱えて蹲っても仕方ないので、森に生えているキノコの収穫や薬草摘みをしながら配下となったウサギを引き連れて森を移動している。

 なんとか村の爺ちゃんや婆ちゃんの助けとなるためのなんかすごいウサギじゃないかと観察しているが、期待するだけ無理そうだと判断して目元を拭う。

 

 この森じゃ真っ白な色は目立って、野生に逃がしてもすぐに肉食動物のご飯になるような気がする。

 あぁ、なんてひ弱な配下なんだ。

 この数年分のなけなしの魔力が、自分の唯一の配下がこんなとか、泣けてくる。

 ただのペットじゃないかという言葉が頭に浮かぶが、一応こっちの言うことを理解してる節があるから脳筋な野生児よりは配下だと思えてしまう。

 

「ほら、アリス。こっちにおいで」


 そう声をかけてやれば、しっかり自分の後を追ってくる。

 うん、前世の配下よりなんて知能がある子なのだろう。

 

「アリス、お手」


 差し出した手に、ちょこんと手を載せるアリス。

 命令をしっかり聞くなんて、なんと優秀な配下なのだろう。


「アリス、待て」


 エサを目の前にして、しっかり自分を律せるアリス……。

 

「……戦力にならなくても、指示に従ってくれるだけ、オレは幸せだよ」


 前世の配下のダメさ加減に嘆きつつ、アリスと名付けた配下を抱きつつ村に戻った。

 うん、もう、爺ちゃん婆ちゃんへの癒し効果で構わない。

 アリス最高。

 アリス万歳。


 

 



 ちなみに村へ帰って最初にかけられた言葉なのだが、「今晩は鍋か?」だった。

 アリスは食い物じゃないっ!

 ったく、こんな優秀な子になんて失礼な爺ちゃんだ。

 な~、アリス~。


 こてん、と首を傾げるアリスは可愛かったとだけ言っておく。






 さて、そんな訳でアリスを配下にしてしばらくして。

 ……当初の問題であった賊対策が全くできていないことに気づいた。

 アリス、実は忘却魔術や魅了魔術とか持ってたりしないよな?

 とか思ったり思わなかったりした訳ですが、とりあえずどうしようもないので放置っ!

 召喚魔術くらいしか自分に打つ手はなかったし、もうその時はその時だと諦めることにした。

 というか、爺ちゃん婆ちゃんに「賊が来たときの対策ってどうなってるのさ?」と聞いたら、「こんな寒村に賊が狙ってくるような金目の物や若い娘もいないだろうが」と豪快に笑いながら背中をばんばんと叩かれた。

 え? オレの心配って杞憂だったん? えぇー……。


 と、ちょっと呆然自失する事態に陥った。

 その間、アリスは膝の上で野菜を食べていた。


 ショックの余りすぐに高熱を出して寝込んでしまった。

 その間、アリスは枕元で耳をかいていた。

 

 なんとか回復すると、爺ちゃんに「孫も見せないうちにくたばるんじゃねーぞ」と暖かい言葉(?)をいただいた。

 その間、アリスは主人であるはずの自分の髪をはんでいた……たまに思いっきり引っ張られて地味に痛かった。


 




 ◆






 まぁ、つつがなく平穏無事に生きていけそうなので良かったかなと思ったりしたのだけれど、そうは問屋が卸さない。

 自分の人生、呪われてるんじゃないだろうかと思ってしまう。

 

 はい、村に賊や脳筋魔族なんてたしかにやってきませんでしたとも。

 そもそも、今の時代は平和な方らしく、近場では戦争もなく、魔族も魔物も大人しいらしいし、飢饉も特に起こっていない。

 だからこそ、爺ちゃんや婆ちゃんの話を聞いて安心し始めた自分には不意打ちだったのだ。


「こんにちわ、魔王さん?」


 あ、はい、こんにちわ……逃げても良いですか?


「逃げれるかな?」


 ですよねー……。


 森でいつものようにきのこや薬草などを採取してる時に、どこかで見たことがあるような人物に出会ってしまった……うん、そりゃねー。

 前世で死ぬ間際に見た奴そっくりだものねー。

 忘れられるわけないよねー。


 爺ちゃん婆ちゃんに聞いた話じゃ、あの時代から三百年は経ってるらしいけども、勇者の血族は脈々と現代まで続いているようだ。

 金糸のような髪を後ろで纏め、とっても冷ややかーな青い瞳でいらっしゃる。

 白銀の鎧に背中に見える両刃の大剣。

 今代の勇者様もとてもおうつくしいかれんなおとめデスネー。

 あ、でも、どっちかというとその目はギラギラしてる?

 なんというか今にもこの剣の錆にしてあげるわー的な?


「そうだね、前世の私もそうだったけど、なんだか疼いちゃうんだよね?」


 疼くんですかー……。


「うん、生まれてこの方、キミを斬って斬って斬りたくて、記念すべき16年目にしてやっと巡り会えたよ。

 もう胸のときめきというか、右腕というかね?」


 疼いちゃうんだー……。


「前のときもそうだったけど、なんとなくキミの居場所が感じられるんだよね。

 というわけで、逃げられないから、ね?」


 アリスを抱えながら後ずさる自分。

 なんかとても怖いことを言ってるけど、どうせならもっと普通な子と運命の赤い糸的な関係でいたかった。

 生まれて村人以外に出会ったのが、こんなおっかない女の子なんて勘弁してください。

 

「私のために、また死んで?」


 断固拒否します。


 勇者は背負っていた大剣を片手で軽々と抜き、前世の時と同じく舌を這わせて熱っぽい瞳でこちらを捉えてくる。

 あ、これは終わったかな……。

 一体どんな魔法を使ってるのか、重厚な造りになってるだろう大剣を少女の筋力で片手で持ち上げられるんだよ? ありえないでしょ……。

 って、よく考えてみたら魔術かなにかなんだろうねー。


 現実逃避気味に勇者を見る。

 ふふ、って微笑んでいらっしゃる。

 できれば、もっと普通な子に以下略。


 振りかぶられる大剣。


 村の爺ちゃんや婆ちゃんたちに遺言残し忘れたなーと考えていると、



 胸に軽い衝撃が。

 


 そして、視界に映る白い影。



 はい、アリスさんです。



 って、アリスさん?!!

 あなたこんな状況でなにをなさってるんですか?!!

 オレの唯一の癒し要員なにしてんの?!!



 振り下ろされる大剣。


 空中に飛び出た白いもふもふ。



 そして、蹴り上げられる後ろ足。



「……」



「……」



「……やっぱりお前も脳筋なのか」




 ザシュッ、と音を立て、離れた木の幹に突き刺さる折れた大剣の刃。

 呆然と尻餅をついてウサギを見つめる勇者。

 ぷすん、と鼻息荒く降り立ったアリス。

 配下がこんなんばっかりと嘆く自分。

 

 

 

 


 神様、オレ、そんなに悪いことしたんですか?

 

 

 

 

 

 ◆






 こんにちわ。

 フィルです。

 爺ちゃんたち、婆ちゃんたち、みんなまだ生きてますか?

 村を出てまだ1ヶ月も経ってないけど、自分は元気にやってます。

 アリスも逞しく、それは逞しく成長して、もうちょっとで子ウサギと言えないサイズになりそうです。

 泊まっている宿の近所の子供たちにも愛され、崇拝され、敬われてます。

 この一ヶ月の間で、この近辺の子供たちのウサギへの認識はただの草食動物から百獣の王レベルに上がってしまったようです。

 なので、子供への悪い影響が固まりきる前に別の町へと移ろうかと思います。

 冒険者ギルドは大陸中どこにでもあるようなので、頑張って必死に生きていくので心配しないでください。

 みんなの健康で穏やかな毎日を祈ってます。







「はぁ……」


 あの勇者との遭遇からだいたい一ヶ月が経った。

 こうして宿の中で手紙をしたためている間も外では血に飢えた勇者と、やっぱり脳筋だった配下のアリスが激戦を繰り広げている。

 少し前に冒険者ギルドの依頼で近場の山に住んでいた凶暴な熊に似た魔物を討伐することになった際、たったの一撃で魔物を蹴り殺したアリス。

 そんなアリスの蹴りに怯まずに、勇者は今も予備の剣をいくつも装備しながら戦っている。

 宿の二階、その窓から外を眺めれば最近では当たり前になってしまった光景が目に映る。


 最近では勇者のゲシュタルト崩壊が始まって、困ってます。

 どう見てもあっちが魔王じゃない?

 なに、あの勇者、なに、この元魔王。

 立場変えませんかね? ほんとに。


 あの勇者はとりあえず勇者らしく? 「配下を全て血祭りに上げたら、その時はキミの番だからね?」と宣言し、嬉々としてアリスと殺りあっている。


 そして、うちのアリスは今日もオレの配下として脳筋してます。

 ひ弱な見た目に騙されるな。

 ウサギの凶暴性をしかと見よ!

 と言わんばかりに脳筋してる。


 ねぇ、オレの癒しはどこにいったのさ……。


 というかさ。

 前世含めて、創造した配下で一番強いのがウサギってどうゆうこと?

 魔物でもなく、本当にただのウサギって。

 いや、ただのウサギには失礼だけど……。

 創造適正:ウサギSSSとかそういったものなのだろうか。


 まぁ、何はともあれ。


「自分の配下はウサギのみ……というかウサギのみで充分じゃん」


 今後、魔王軍を作ることになったとしても、ウサギのみで構成しよう。

 うん、そうしよう。

 作る予定ないけどさ。




 

 

とある動物のサバイバル競争を題材にしたゲームをやっていたら、書きたくなっただけのものでした。

本当に、ウサギってなんなんだろうね……。

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