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LINK18 新たなる真相×喧嘩する蒼き絆=魔の理想追いし素顔

お待たせ致しました。


今回は個人的に重要な回だと思いまして非っ常~にクソ長くなってしまいましたので休みながら御覧になって下さいませ(^_^;)


尚、衝撃のラストが待ち受けていますのでお読みの際は、心して掛かって下さい。(←大袈裟)

「はぁ···はぁ···はぁ···!!」


自分を「振った」ばかりか邪魔をする闇影を幾度も斬り付けて重傷を負わせ、血溜まりの中で死んだ様に突っ伏した彼の姿を見て何故か冷や汗を垂らしながら荒い呼吸をする裂希。身勝手が頭に付くが漸く憎き相手に復讐し終えたのにも関わらず、先程感じた空恐ろしい「何か」に怯え出し···


「···たまる···か···!!思い通りになって···たまるかっ!!」


『あっ···何を!!?』


『あの女···闇絆の証を放って逃げやがった!?』


何者かの思惑(シナリオ)通りに動かされるのは真っ平だと、突然意味の解らない事を叫び出しながらなんと戦いの途中で背を向けて死神模倣の蟷螂を放棄···魔契約したサイティズを捨てて背を向けて走り出すと言う、前代未聞な敵前逃亡を行った。


『チッ···こうなった以上、私の手で直接貴方達とあの女を始末するまで!!』


魔契者(さき)の逃亡と言う予想外の展開(アクシデント)が起き舌打ちしながらリンキュバス態に戻ったサイティズは自分の手で流とシャクリアは勿論、自らを放棄し逃げ出した裂希をも抹殺すると意気込み、両腕の鋭い鎌から無数の風の刃を二人に向けて放つが···


『馬鹿な奴、混乱してさっき通用しなかった技使っちゃってるわ。流、さっさとケリを着けましょ!』


想定外の出来事に弱いのか先程破られた戦法を取ると言うミスを犯したサイティズの動きから、突如魔契者が戦闘中に勝手に離脱した事で体勢が乱れ、冷静な判断が間に合わなくったのだと看破、小馬鹿にするシャクリアは、この隙を突いて止めを刺す様流を促すが···


「······!!」


『···流!!』


「あ···ああ···!!アクアチャージ!!」


彼は目の前で闇影が斬り付けられて血に沈むと言う衝撃的な場面を目撃し呆然としていた為、シャクリアは大声で呼び掛けて意識を戦いに向かせた。漸く我に返った流は、思う事が幾つもありながらも今はこの戦いに集中すべく、水の魔力を籠めた手を介して女帝鮫の帰還に接触し、アクアチャージを行った。


『ヒュッヒュッヒュッ···!!人間の力に頼らずとも、貴方達程度、私の実力だけで充分血祭りに···!!』


「『ストリームサークル!!』」


『···して差し上げ···ばっ···馬鹿な···この私が···ギィヤアァァァァッッッッ!!!?』


魔契者の手が無くとも自分の実力ならば流達程度なら倒すのは造作も無い事だと無駄口を叩きながら笑うサイティズだが、己を過信した戯言を遮るかの様に流が投擲した周囲に鮫の歯牙を模した魔力が覆われたストリームサークルにて風の刃は瞬く間にかき消された挙げ句、最後には自身の胴体を真っ二つにされ爆発して死亡した。


「人間の手を借りなくても私等程度なら殺せるって?はっ!私達の絆、嘗めてんじゃないわよ負け蟷螂野郎!!」


人間態に戻った深波は、リンキュバスとしての定義を否定するサイティズの死に際の戯言に対して、自分達の絆の深さを侮ったのが敗因だと罵りながら指摘した。絆を軽んじる者が絆を重んじる者に勝つ事等到底不可能だと···。


「先生!!煌先生!!」


一方流は戦いが終わるや否や、血に塗れて重傷を負った状態の闇影に駆け寄り、服が血に付く事等気にも留めず必死に呼び掛ける。


「···ぅぅっ···ぁぁ···!!」


「良かった。まだ意識はある!早く救急車を呼ばないと···すいません先生、ちょっとお借りします···!!」


これ程の傷を受けているにも関わらず、虫の息状態ながらも掠れた声を出した為辛うじて意識がある事に一先ず安心した流は、早急な治療を施すべく生活面の厳しさから携帯電話の類いを所持していない為、闇影の懐からライトオレンジカラーのスマホを拝借し119番通報をした。


「······。」


その様子を見ていた深波は、闇影に無実の罪を着せた元凶の一人であるサイティズを葬ったにも関わらず、何故か被害者である筈の闇影に向けて険しい表情で睨み続けている。先日のプリンフェスの時同様に「敵」を睨み付ける視線で···。




「はぁ···はぁ···くそっ!!何で『彼奴』があたしに···!?あ~っっ!!もう!!訳分かんない!!」


今回の不可視の斬魔事件の真犯人でありサイティズの魔契者だった裂希は、その相方(サイティズ)を見捨てた後当ても無く逃走しながら、「とある存在」に対して困惑しつつ喚く様に怒りを顕にしていた。今回の事件の全貌は彼女が計画したのではなく、「とある存在」からの入れ知恵による物であり、その正体に感付いた為裂希は困惑したのだ。


「ならあたしは最初から···!?」


その「とある存在」の真意に漸く気付き始めた裂希は途端に戦慄し、表情を暗くする。利用していたつもりがその実、逆に利用されていたと言う事実に···。


「ん?あっ···!!」


『······。』


そこへ自分の前に立ち塞がるかの様に何者かが現れ、その存在を目の当たりにした裂希は驚きつつ言葉を失う···。




ー魔神大付属病院



「······。」


メインストレッチャーに乗せられ酸素マスクを着用し、応急措置を終えたとは言え息絶え絶えの状態で横たわる闇影を複数の看護士や医師達が緊急手術の為に早急に運び、手術室へと搬入した。


「煌先生···くそっ···!!」


付き添いで病院に付いてきた流は手術室の扉の前に立ち、両手で拳を強く握り締めながら悔しげな表情で項垂れる。自分達がサイティズをもっと早く討伐していれば···と、己の力不足に不甲斐なさを感じながら。


「全く···奴がトラブルを呼び寄せるのは毎度の事だろうが、今度のは相当な物だな。鎌で斬られる等、一体どういう巻き込まれ方をしたんだ?」


「あ···!!」


そこへ、高校時代から何かしらのトラブルを呼び寄せる闇影の非日常的な「重傷(トラブル)」について呆れつつ軽く貶しながら水色の手術着姿で手術室前に現れた陽色の姿を見た流は、顔を青ざめる。休日に裂希と共に居た事から恋人同士である事を悟り、その裂希(こいびと)が闇影をこんな目に遇わせた真犯人である事を知ればどう思うのかと···。


「あ、あの···実は···!!」


「仮蟷が犯人なんだろ?ま、大方金蔓を拒否されたから煌を殺そうとしたって所が妥当だろう。」


とは言え、この事実は何れ公になる以上下手に隠すより今打ち明けるべきと陽色に真相を話そうとする流。だが彼は、裂希が犯人である事を既に知っていた様だ。


「知ってたんですか!?」


「あの不可視の斬魔事件が発生した日に限って病院に居なかったと言うのもあるが、院長夫人の座でも狙っている感じが見え見えの態度で僕に迫っていたと言うのもあったからな。」


「は···はぁ···。」


正確には誰かに聞いたりして知ったのでは無く不可視の斬魔事件が度々発生した日には裂希が非番休暇である事、何より院長である自分と結ばれてその財産と院長夫人の座を狙うべく執拗なアプローチを掛けていた事から彼女を怪しんでいただけだった。尤も、自分に近付く女は皆「財産と院長夫人の地位」目当てと決め付けている陽色の一方的な悪感情による偏見から来た物だが。


「はぁ···はぁ···兄さん!!」


「神斬さん···!!」


「ちっ···またややこしいのが沸いてでやがって···!!」


「神斬···?」


そこへ病院からの連絡を受けて血相を変えて駆け込んで来た諸葉が息を切らしながら現れた為、以前の諍いから彼女を快く思わない深波は舌打ちして悪態を吐く。一方で諸葉の苗字が「神斬」である事を知った陽色は、何故かその名前に反応を示す。


「院長先生!!兄さんは···闇影兄さんは無事なんですか!?」


「無事になる様に今から執刀する所だ。」


「お願いします···お金ならいくらでも払いますから···兄さんを助けて下さい!!お願いします!!お願···いっっ···!!」


諸葉は執刀姿の陽色を見るや否や、すがる様に彼の袖に勢い良く掴みながら手術費諸々の金額を度外視してでも闇影を救う様泣き崩れつつ懇願する。


「(!!そうか···!!)心配するな、僕に治療出来ない傷等ナッシング。あのラー油プリン中毒の馬鹿を助ければこっちにとっても都合が良いからな。」


「院長、そろそろ執刀を。」


「ああ、分かった。」


「神斬」の素性を思い出した陽色は「治療出来ぬ物は無い」と自らの座右の銘を豪語し、闇影に対して優位な立場になれば自分のみならずこの病院に大きな利になるとやや不謹慎な言葉を口にしながら、崩れた諸葉を素通る様に執刀を促された看護士と共に手術室に入る。諸葉が扉の向こうにいる陽色に向けて深々と頭を下げると同時に「手術中」のランプが赤く光る。


「神斬さ···「何をしていたんですか···?」え···?」


「兄さんに罪を着せようとした挙げ句命を奪おうとした真犯人を見つけた癖に、貴方達は一体何をしていたんですか!!?」


「!!!!」


そんな諸葉に声を掛けようとした流だが、頭を下げるのを止めた彼女から闇影に重傷を負わせた真犯人と出くわしたのにも関わらずみすみす逃げられた事を目に涙を浮かべつつ、憎々しい表情で糾弾し始める。


「あんたねぇっっ···!!」


「止すんだ深波。」


「だって流···チィッッ···!!」


事情を知らないとは言え此方が失敗(ヘマ)した様な物言いに腹立った深波は諸葉に掴み掛かろうとするが、サイティズを倒したとは言え裂希に逃げられた上に闇影を救い切れなかった事実に負い目を感じる流は、そんな彼女の肩に手を置いて宥める。それでも尚腹の虫が治まらない深波だが、無言で首を振る流の弱々しい目を見て舌打ちしながらどうにか矛を収める。


「お取り込み中、申し訳ありません。間導署の大澤です。」


「同じく緋山です。先程起きた事件について話をお聞きしたいのですが···」


「貴方達警察も何なんですか···私の兄を散々疑って真犯人を野放しにしたせいでこんな事になったと言うのに···今更話す事なんてありません!!」


間の悪い時に間導署から現れた隅子と惇が警察手帳を提示して先程の殺人未遂の事件の犯人の目撃者である流達に聴取しようとするが、闇影を取り調べた刑事(ふたり)の顔を見た諸葉は彼にあらぬ疑いを掛け、真犯人を野放しにしたが為に今回の結果を引き起こした遠因の一つである間導署に対しても激しい怒りをぶつけ、聴取には一切応じないと断じながらその場から立ち去って行く。


「あ、ちょっと···!!」


「良いのよ緋山君···。貴方達二人が目撃者なのよね、詳しい話を聞かせてくれるかしら?」


「分かりました···。」


諸葉を呼び止めようとする惇だが、彼女の尤もな言い分について反論出来ない隅子は諸葉からの聴取は断念し、その場にいた目撃者である流と深波から話を聞くべく彼等と共に間導署へと向かう。




「ふぅ···何とか誤魔化せたな···。」


事情聴取を終えて間導署の出入り口から深波と共に出た流は、「現場近くを歩いていたら大鎌を持ったローブを羽織った裂希を偶然目撃、襲われそうになった所に出会した闇影が止めに入った」とリンキュバスの事を伏せたやや無理のある内容をどうにか聞き入れてくれた事に安堵して溜め息を吐く。


「······。」


「ん?どうしたんだ深波?」


「···な~んか出来過ぎてると思わない?あの先公を憎んでた女が魔契者で、偶然先公とトラブってた人間と偶然擦れ違った時に先公に罪が被る様に殺した···余りに都合良過ぎる感じがするのよね···!!」


そんな流とは対照的に今回の事件について訝しく感じ険しい表情で疑う深波。今回の事件は偶然過去に諍いのあった二人の人間···闇影と糖恫が偶然擦れ違い、そこに憎き闇影に殺人の罪を着せるべく魔契者である裂希が糖恫を殺害した···。偶然と言ってしまえばそれまでだが、彼女が勘繰る様に果たして「偶然」なのだろうか?


「それってどういう···まさか···今回の事件は···!?」


「そ。誰かが仕組んだ茶番の可能性があるって事。ま、あの女が魔契者だったなら黒幕は十中八九、あの鳥野郎でしょうね。」


今回の事件の真犯人である裂希が魔契者である事、更には彼女が憎んでいる闇影と彼と諍いを起こしていた糖恫の意図的なニアミスから総合して、糸を引いているのは鳥野郎···黒凰であると断言する深波。それに気付き驚く流に対して、彼女はとんでもない推測を口にし始める。


「そしてその鳥野郎は···あの先公の可能性が高いわ。」


「···は?今、何て言った···!?」


「だから、あのお節介先公が黒凰の正体だって言ったの。」


「はぁっ!!?何言ってるんだよ!!何で先生が黒凰の正体って話になるんだ!?君の推測が本当なら何で自分に罪を着せる様な真似をさせたんだよ!!第一、何を証拠にそんな事が言えるんだよ!?」


深波が口にした衝撃の推測···それは黒凰の正体が闇影だと言うとんでもない推測だった。しかし流は、これまでの事件の状況からその推理を矢継ぎ早に否定しつつその根拠を問うた。流がそう考えるのも無理はない、もしも闇影が黒凰ならば態々自分に罪が被る様な真似をさせ、あまつさえ瀕死を追い込む等常軌を逸した計画を立てたりする筈は無いのだから。


「···最初に怪しいと感じたのはリンキュバス相手に戦えた事よ。そしてその後のありがた迷惑な特訓でその怪しさは強まったの。」


深波が闇影を怪しむ切欠は彼がリンキュバスの事、自分達の素性を知る事となった(であろう)スパイダント・ランドスリングとの戦い···そのスパイダント相手に生身で互角以上の戦いを繰り広げられる身体能力、その戦いの直後に一方的に持ち込んだリンキュバスの戦いに向けての朝の特訓にてその疑いは更に強まった彼女はその()況証()()を思い返す···。




「ふっ!はっ!!やぁっ!!」


「(くっ···何て速度なの···追い付くのがやっとよ···!!)」


明朝6時にて基礎体力を付けさせるべく流には校庭を15周走らせ、深波には基礎的な戦闘の型を身体で覚えさせるべく、闇影は彼女に突きや蹴りを組み合わせた技を繰り出す。しかし、その攻撃が速過ぎるあまり深波は防御するのが精一杯と言う、人間とリンキュバスとの手合わせでは考えられない状況だった。


「せいっ!!」


「うっ···きゃっ!?」


軈て防御のタイミングが間に合わなくなった深波は腹部を掌でガードするも、闇影の掌底による強さを受け切れず後ろに倒れてしまう。


「どうした、もうバテたのか?これが敵のリンキュバスとやらなら止め刺し放題だぞ。」


「あぁ···!?」


意外に厳しい態度で接する闇影だが、これも今後も起きるであろうリンキュバスの戦いで二人の命を失わせないが為の愛の鞭である。しかし、元よりやる気が無く条件付きでこの特訓に参加している深波からして見れば、鬱陶しく腹立たしい事この上無い物だ。


「(···いっそこのまま「うっかり」殺しちゃおっかな···!!)」


そして短気にも殺意を抱いた深波は、「うっかり」闇影を殺害しようとこっそり右腕のみをリンキュバス化させて水の魔力を籠め、彼が流の様子を見ようと後ろを振り向いた時···


「(キリキリバイバイ♪クソ人間···!!)」


そのまま何の躊躇いも無く、闇影の首元目掛けて右の手刀を横一文字に振りかぶって水の刃を飛ばした。しかし···!!


「······ッッ!!」


「え···!?」


気付いていないのか闇影は背後を振り向く所か全く動かず棒立ち状態のままでありそのまま目標通り首元に命中した···したのだが、魔力を籠めた水の刃を直撃したにも関わらず、首が飛ばない所か全く傷一つ付かないと言う不可思議な状態に深波は目を見開いて驚く。


「ん?何で濡れてるんだ···?あっ!!!海噛···!!」


「(チッ···!!)」


衣服が濡れている事に漸く気付いた闇影が右肩に手をやると大声で反応をしながら自分の方に顔を向けた為、深波は自分の殺人未遂(あくぎょう)を勘付かれ舌打ちをするが···


「ありがとう、もうちょっとで刺される所だったよ。サンキューサンキュー、十三三つで三十九♪あっはははは!!」


闇影から出たのはまさかの感謝の言葉だった。何故なら彼の右肩には今の水の刃により粉々になった雀蜂の死骸が落ちていた事から、危うく刺されそうになった所を深波が目撃し、咄嗟に今の行動を取ったのだと思ったからである。殺されそうになっている事に気付かないまま闇影は親父ギャグを加えて笑い飛ばす。


「なっ···何なのあの先公···まさか、彼奴が···!?」


そんな闇影を余所に深波、如何にリンキュバスと渡り合えるとは言え、また自分が無意識に手を抜いたせいなのかもしれないが、魔力攻撃を直撃したにも関わらずそれを物ともしない彼の尋常ならぬ耐久力に唖然としており、同時にその理由について察する···。




「あれを見て確信したの。奴があの鳥野郎の正体だって事に···。」


朝の特訓での闇影の謎めいた部分を目撃した深波は自分が目にした経験···黒凰との初めての戦いの中で、魔撃を直撃した筈の彼(?)が全くダメージが無いかの様な振る舞いに既視感を覚え、それが煌闇影=黒凰だと確信し得る証拠だと語る。


「···言われてみれば何処と無く怪しい部分があるのは確かだ。だがもし君の言った通りだとしたら、敵である俺達を助ける様な真似をしたり、自分から俺達を鍛え様と考えたりするんだ?」


深波から闇影を黒凰だと疑う根拠を聞き終えた流は彼が何かしら怪しい一面を持っている事を認めた物の、仮に彼女の指摘した通りだとしても疑う切欠となったスパイダントとの戦いで直々に始末する程目障りだった自分達に助太刀したり、そればかりか戦いに備えての特訓指導役を買って出る理由について逆に指摘した。


「そんなの、ゾディヴィルとやらに進化させる為の仕込みに過ぎないわ。寧ろ、最初からそのつもりで私達に近付いてきたりして。」


「深波!」


「···流、貴方があの先公を信じたい気持ちは分からなくは無いわ。そんな貴方の優しい所に惚れたんだから。でも、こんなに怪しい証拠がある以上疑って掛かるのが自然よ。」


その指摘に最初からゾディヴィルの覚醒を促す為に自分達に親しく接したのだと冷淡に切り捨てる深波は、流が闇影を黒凰(てき)だと思いたくないと言う彼の気持ちを惚気ながら肯定しつつも、あからさまに怪しい部分が目立つ闇影を捨て置けないと返す。


「···分かったよ···そんなに言うなら煌先生について色々話を聞いてみようよ!!君だって先生の事を詳しく知らないんだろ?疑うならそれからにしたら良いだろ!!」


「えっ···ちょ、ちょっと待ってよ流!じゃあ今晩のエッチは···ぶべっ!!?」


「ナシに決まってるだろ!!何寝惚けた事言ってんだ!?」


是が非でも闇影を疑う姿勢を崩さない深波の態度に業を煮やした流は、闇影がどういった人物なのかを改めて知るべく彼の周囲を調べると言い出してその場を足早に歩いていく。追いながら今晩の「営み」を気にするKYな深波に却下の台詞と拳骨を見舞いながら。


「····ふっ··。」


そんな二人の様子を一部始終物陰から見聞きしていた何者かは、小さな笑みを溢しながらその場から立ち去って行く···。




ー生徒会室



「先生について?」


「はい。白石会長なら何か先生の事について御存知だと思いまして。」


翌日、煌闇影の周辺を調べるべく生徒会室に赴き会長席に座って書類に目を通している黒深子の下へ訪ねる流と深波。3年D組の中で誰よりも闇影に近い立ち位置にいる彼女ならば、彼の素顔について詳しく知っていると踏んで。


「そうね。煌先生は他の先生方の中で誰よりも私達生徒の事を一番に考えている立派な人よ。まぁ、多少ドジな面もあるけれど。」


黒深子から語られた闇影の人となりは、そそっかしい部分が目立ちながらも他の教師の中で最も生徒達に気に掛けている教師だと聞かされる。例を挙げるなら、部活で身体を故障しかねない自主練習(トレーニング)を続ける運動部(無関係)の生徒を一目で見抜き、その生徒に合ったメニューや休養法を提示したり、犯罪に巻き込まれそうな生徒を全力で救出したり等々···。


「他に何かありませ···!?」


「そんな先生があんな目に遭うなんて···!!その犯人、絶対に···絶対に···絶対に絶対に許さない···!!もし見つけたら···してやるんだから···!!」


「あ、あの···会長?」


「はっ···!!ああ、ごめんなさい。えっと···他に何かないかって話ね。」


他に詳しい事を尋ねようとする流だが、黒深子が顔を下に向けながら闇影に重傷を負わせた犯人に対して呪詛の如く怨み言をブツブツ呟く姿に軽く引きながらも再度呼び掛け、それに気付いた彼女は謝りながら彼からの質問について答える姿勢を取る。


「後は···ラー油プリンに異常なくらい力を入れ込んでる所かしら。」


「「(いや、ラー油プリンって何!!?)」」


次なる質問に対して、好物であるラー油プリンを販売している店にて売り切れ、または臨時休業と言う終末(はなし)を耳にした際、両足を激しく震わせ、頭を抱えて崩れ落ち、慟哭しながらゴロゴロ廊下まで転がって階段から転落すると言う醜態を見せる程、末期レベルのラー油プリンへの執着を見せまくっている闇影の入れ込み具合について引きながら話す黒深子の返答を聞いた流と深波もまた、意味不明なデザートの名に困惑しながらツッコミを入れる。




ー保健室




「煌先生について知ってる事があれば教えて頂きませんか?」


「その前に、君が天井の方に顔を向けている理由を教えて欲しいんだけど。」


次に向かった保健室にて、生徒から色んな意味で人気のある保険医の巡にも闇影について尋ねようとする流だが、逆に何故天井に顔を向けた状態なのかを尋ね返される。その理由は、白ブラウスに赤いスカートと黒いパンストを履き、頭に翼の付いたヘッドギアを付けた巡の「秘書」のコスプレ姿とそんな彼女を射殺さんとする視線で睨む深波の姿を見れば一目瞭然だ。


「まあ良いわ。そうね···おっぱいの大きい女は嫌い···なのかしらね。」


「···は?」


「赴任して暫くした頃に何でも階段から転んで怪我したみたいで此処に運んで手当てして、マッサージとして背中におっぱいを押し当てようとしたら突き飛ばして怒って出て行った事があったから相当の巨乳嫌いと見た。」


「((いや、あんたが原因だろ···!!))」


まぁそれはさておきと、闇影がこの学校に赴任して数ヵ月の時、階段から転落して大怪我を負った彼を保健室へ運び、手当てだけでなく自身の放漫な胸で「マッサージ」をしようとした事に激怒して以来から此処に訪れる事が一切無くなった事から勝手に巨乳嫌いだと認定する巡の言葉に、「巨乳嫌いではなく彼女を嫌っているだけ」だと内心ツッコむ流と深波であった···。




ー職員室




「青年について?」


「煌先生の担任だった魔霧先生だったら詳しい事を知ってるんじゃないかと思いまして。」


次に二人が赴いたのは職員室。当時闇影の担任だった真輝人ならば在学中の生徒以上に詳しい事を知っているだろうと踏んで、デスクに座して珈琲を飲んでいる彼の下へ訪ねる。


「何でまた急に?てかお前達、最近よく彼奴と絡む時が多いのに直接聞いたりしなかったのか?」


「いや、まぁ···そうなんですけど···。」


藪から棒に闇影について聞き出そうとする流の突然過ぎる態度に真輝人は首を傾げながら、最近何かと彼に接触する機会が多いのにも関わらず本人から聞き出そうとしなかった事を指摘する。その真っ当な指摘に流は耳が痛い思いをする事となる。


「ま、良いけどな。そうだな···先ずラー油プリン第一で···」


「「それはもういいです(わよ)···!!」」


「あらそう?彼奴はとても明るく真面目で友達想いな奴だったな。」


しかし、それを特に咎めるつもりの無い真輝人は闇影の第一印象であるラー油プリン中毒を語ろうとするも既に聞いているので即却下されつつ他の印象を語った。教師や自分のクラスメイトだけでなくそれ以外の生徒に挨拶したり、成績も良く、欠席したクラスメイトの家に赴き授業ノートやプリントを届けたり等々···。


「ん~後は···あっ!!」


「どうかしましたか?」


「後、正義感が強過ぎるって所もあったんだけどな···その辺が妙に行き過ぎた部分があってだな···。別のクラスの奴がカツアゲに遭ってるのを偶々目撃した青年が助けに入ったんだ。」


黒深子と似たり寄ったりの闇影の人となりを話す真輝人だが、心当たりのある部分を思い出す。とある別のクラスメイトが不良グループから金品を巻き上げる···所謂カツアゲの現場を偶然目撃した闇影が被害に遭っている生徒を助けに入ったと言う過去があった。


「そこまでだったら良かったんだがな、彼奴そのカツアゲしていた生徒を···本気で殺そうとしていたんだよ···!!」


「え···!?」


今の話だけならば「弱きを救う良き生徒の美談話」で終わるのだが、問題はその「救い」にある。最初はやはり人数の差から一方的に返り討ちに遭っていた。しかし闇影は、その内の一人の足に肉の一部が千切れる程勢い良く噛み付け、怯んで倒れた生徒にマウントを取りつつ、近くに落ちていた石で幾度も顔面に殴り付けると言う、過激な手法を取ったのだと真輝人は語る。


「現場に駆け込んだ俺が止めてどうにか収めたけど···あん時の青年、返り血を浴びてゴミでも見るかの様な冷たい目をした面をしてて、ちぃとばかりゾッとしたなぁ···まるで悪魔みたいに···な。」


「(悪魔···まさかそんな···!?)」


騒ぎを聞き、駆け付けた真輝人は絶え間無い殺人未遂並の「救い」をする闇影を力づくで制止し、その不良生徒は顔面を変型させて息絶え絶えだったが幸い命に別状はなかった。だが、その時の闇影の表情は怒りで真っ赤にしたそれではなく、返り血を模様の様に浴び、無表情で鋭く睨むそれを目にして「悪魔」だと心中戦いた事を思い返す。そんな闇影の「悪魔」な一面を知った流は、彼に対して疑念を抱き始める···。




ー学生食堂



「あれから色々聞いて回ったけど···どうにも悪人ってイメージから程遠いよなぁ···。」


その後も様々な生徒や教師、清掃員にも聞きに回り現在昼食休憩中且つ情報整理中の流と深波。しかし、理想の教師第一位、お婿さんにしたいランキング一位、オリンピックにて金メダルを獲りそう、バレンタインに三年間で累計百五十個程のチョコを貰う等々···聞けば聞く程先程抱きかけた闇影への疑念が薄まる程彼の好印象な部分がより際立ち、余計に悩む流だが···


「ねぇ。さっき流もやっと疑いかけたんじゃないの?あの先公が黒凰だって事に。私はさっきの魔霧の話から益々彼奴が怪しく思えたわ。」


「···そりゃあ確かに行き過ぎた所があっただろうけど、それだけで疑いを固めるのはどうかと思うぞ。」


深波は先程の真輝人から聞いた闇影の知られざる黒い一面から、流が漸く自分と同じ疑念を抱いた事を看破し、指摘する。しかし闇影に黒い一面がある事をを肯定しつつも流は、それだけで疑いを強めようとする深波に反論する。


「い~や、絶対彼奴が怪しいわ。これだけ真っ黒な証言が取れたんだから間違いないわ!!」


「はぁ···あのな、深波。冷静に考えて見なよ。もし君の言う様に煌先生が黒凰だったとして、何で敢えて死にかける程の重傷を無防備で受けたりしたんだ?あれは演技なんかで到底出来るモンじゃない···!!」


そんな反論を耳にしても尚深波は、これまでの証言や不可解な部分から是が非でも闇影を黒凰だと推し進めようとする。だがそんな深波とは対照的に流は溜め息を一つ吐き、仮に彼女の推測通りだとしても闇絆の証による攻撃を敢えて受ける等、常人なら演技でも決してやらない様な危険な真似をした理由について逆に冷静に尋ねた。


「···知らないわよ、そんな事···!!」


「なら無闇に疑う様な事はするな。」


「じゃあ、流なら分かるの···!?」


「俺だって分からないよ。」


「なら私の考えにケチつけないでよっ!!」


「何でも疑えば良いってもんじゃ無いだろっ!!」


流石に闇影が黙って斬られた理由までは分からない深波に対し無闇に彼に疑いの目を向けぬ様忠告する流。だが、幾度も自分の考えを否定し続ける流に同じ質問をやや苛立ちながら返すも、自分同様に答えが出ないと言う返答にカチンと来た深波は思わず立ち上がって怒鳴り出し、同じく流も立ち上がり険悪なムードになりかける二人だが···


「何々夫婦喧嘩?」


「喧嘩する程何とやらか···クソがっ···!!」


「まさか別れ話か!?なら今度こそあのおっぱいを自由に出来るチャンス到来だな!!」


「「あ······!!」」


そう、此処は昼時の学生食堂···つまり不特定多数の生徒が集結している為今の口論は当然筒抜け状態であり、誰もが奇異の視線を送りながら「夫婦喧嘩」だの「別れ話」だのと好き勝手ほざき出したのを察知した流と深波は、直ぐ様落ち着きを取り戻しつつ席に座って食事を取った。




ー真神大付属病院




その後も決定打となる情報が見つからなかった流と深波は、幼少期から闇影と親交な仲である諸葉からも話を聞くべく、学校を欠席して彼を見舞うべく赴いているであろう真神大付属病院に向かった。闇影が重傷を負う原因の一つだと思い込み心底自分達を恨んでいる諸葉から聞き出すのは不可能に近いがそうは言っていられないと、病室へ向かうも···


「申し訳ありませんが、煌闇影さんとの面会はお断りしています。」


「面会謝絶か···。」


「この私に無駄足を踏ませやがって···死にかけても傍迷惑な野郎ね···!!」


受付で闇影の病室を尋ねる流達だが、受付担当の看護婦から面会謝絶を言い渡されてしまう。それは同時に諸葉も居ない事を意味し、深波は無駄足を踏む事になった闇影に対して悪態を吐く。


「何だ、煌を見舞いに来たのか?」


「院長先生···。」


「残念だが、まだ意識を取り戻してないから奴に会っても無駄だぞ。尤も、親族が反対するだろうがな、特にお前達は。」


そこへ陽色が現れて手術には成功した物の、意識不明の状態であり仮に面会出来たとしても話を聞く事は不可能であり、更には闇影を重傷を負わせる原因の一つである(と思い込んでいる)彼等の面会を親族に近い諸葉が決して許可しないと伝える。


「いえ、違うんです。煌先生の幼馴染みである神斬さんに先生の事について話を聞こうと思って此方に来たんです。」


「煌についてだと?あんな不健康な物を喰らう馬鹿の事を知りたがるとは、随分物好きだな。ま、代わりに僕が教えてやらん事も無いがな。」


闇影の面会ではなく彼の見舞いに来ているであろう諸葉から彼の素性について聞き出すのが目的だと知った陽色は、ラー油プリンをディスりながらその中毒者である闇影についての情報を集めている流達を物好きなと軽く彼等もディスりつつ、元同級生である自分が代わりに情報を上から目線な態度で提供しようとする。


「このクソ眼鏡が···誰に物ぬかして···!!」


「是非、お願いします。」


「···と言っても、お前達が学校でも聞いてる周りの評価と同じって認識しかしてないから正直話せる所は···いや、一つあったな。」


「何でしょう?」


そんな偉そうな態度に腹立ちながら突っ掛かろうとする深波を抑えつつ流は陽色から話を聞く姿勢を取る。とは言え、陽色自身も最近の闇影の事は多少ちらほら知る程度であり、学校の周囲の人間とほぼ同じ評価でしか認識していない為話せる事は無いと言い切るが、ふと一つだけ心当たりを思い出す。


「当時の···今もだが彼奴変わった事に熱中しててな。矢鱈と『異世界』だの『平行世界』のSFめいた物について独自で研究していたんだよ。」


「異世界···平行世界···!?」


「SFだのラー油プリンだのに夢中になる彼奴の頭を手術の時、覗いとけば良かったな···。」


当時の闇影は異世界や平行世界等踏み込む事不可能と思われる世界の研究をしていたと言う、常人では理解し難い物に没頭していた事を明かした陽色は、そんな荒唐無稽な話やラー油プリン等意味不明な物に夢中になる闇影の脳内を手術時に覗きたかったと、黒い冗談を混じえて後悔する。




その深夜にて···


「······。」


集中治療室にて酸素マスクを着用して、腕に点滴を付けながらベッドに横たわる闇影は未だ意識を取り戻さず眠り続け、無機質な心電図の音が規則正しく鳴り響くだけだった。そこへ···


『···見つけた···。』


何処から現れたのか何者かが侵入し、闇影の下へとゆっくり近付く···。


『······!!』


···尚、その人物は背中から大きな翼を広げている···。




「ふぅ···今日は色んな人から話を聞くのにあちこち歩き回って疲れたなぁ···。」


「ねぇ、何で流はあの先公を信じてんの?」


一日の大半を闇影の情報を聞きに回るべくあちこち歩き回るのはかなりの体力を消耗し疲れをぼやく流に深波は、何故怪しい部分があるにも関わらず自分と口論になりかける程彼を信じる姿勢を崩さなかったなのかを尋ねる。


「···君を···リンキュバスの事を受け入れてくれたからだよ。」


「え···?」


「俺達魔契者や君達リンキュバスの事を知っても、まるで居ても当たり前の存在の様に守ろうとしてくれた。その時のあの人の気持ちに嘘はなかった。だから、そんな優しい人が人間を滅ぼそうとする奴の正体だなんて考えられないんだ。」


スパイダントや今回のサイティズとの戦いの中で自分達魔契者や深波達リンキュバス等、得体の知れない存在に畏怖せず生徒として守ろうとした行動に嘘を微塵も感じず、それほど優しい心の持ち主が人間を滅ぼさんとする黒凰だとは考えられない···それが流が闇影を信じ続ける理由だった。


「···とまぁ、確証のない非常に単純な理由···さ···!?」


「そうだったの···私が認められたからだったんだ···。怒鳴ったりしてごめんね流···。」


「あ···いや···///良いんだよ···。///君の言ってる事も一理あるし···!!///」


深波を···ひいてはリンキュバスの存在を当然の様に受け入れたからだと言う理由を単純だと謙遜する流に勢い良く抱き着いた深波は、自分の存在を他者に認められた事が自分の事の様に思っての理由だと知って嬉しく思い、昼間に怒鳴った事を詫びる。流も深波の疑う姿勢も正しいと互いの意見を尊重する素晴らしい雰囲気になるが···


「お詫びに今日は流の好きなプレイでしてアゲるわ♪あ、折角外に居る事だし全裸露出プレイでい···クウガッ!!?」


「せんで良いわっ!!///」


そこで台無しになるのがお約束···詫びの印として本日の「夜のガッタイム」は流の望むプレイで行うと提案すると言う数秒前の雰囲気をブチ壊した挙げ句、言ったそばから「全裸露出プレイ」ならトンデモプレイを勝手に施行するべく衣服を脱ごうとする変態女の脳天に鉄拳が下ると言う、安定のやり取りをしていると···


『随分と下劣な話題で盛り上がっているな···。』


「「!!!!」」


そんなやり取りを貶しつつ、上空から黒い鳳凰の鎧を纏いし人物···件の黒凰が背中に黒い翼をはためかせながら地上に降り立ち二人と対峙する。


「黒凰!!」


「漸く御本人サマの御出座しね···お大方正体をかぎ回る私達を始末しようってとこかしら?」


「(ん···?前に会った時と何か違う気が···一体···何なんだ···!?)」


正体を明かさんとしている黒凰本人が現れた事で深波はその身を青い光が包まれるとシャクリアに変化して身構える。同じく身構えながらも流は、目の前にいる黒凰の灰色だったバイザーが茶色であるのと背中の翼も半透明でなく黒い翼等、以前見た外見と違えている事に違和感を抱く。だが、それ以上に違う「何か」を感じるもそれが何なのかは不明だ。


『ふっ···退院おめでとう、いや···再入院おめでとうって言ってあげた方が良いのかしら?3年D組担任の煌闇影センセイ?』


『······。』


そんな流の心中に気付かないシャクリアは、黒凰に向かってその正体が煌闇影なのかと挑発と皮肉をぶつけつつ尋ねた。しかし、当の黒凰は肯定も否定もせず何も語らない。


『だんまりね···まぁ良いわ。あんたをブチのめしてその仮面や鎧をひっぺ返せば直ぐに分かる事よ!!流!!』


「(深波の言う様に戦えば分かるかもしれない···!!)ああ!闇絆の証!女帝鮫の帰還!!」


ならば力づくで暴くまでと宣言し戦う様促すシャクリアの声を受けた流は、黒凰に対する違和感の答えを知る為にもそれに応じて女帝鮫の帰還に変化した彼女を装備する。


「そぉぉぉぉらぁぁっっ!!」


『······!!』


『きゃあっっ!!?』


戦闘開始から女帝鮫の帰還を勢い良く投擲する流。しかし、黒凰は怯む様子を微塵も見せずそのまま真正面切って走り出し、自分に目掛けて回転する女帝鮫の帰還を左腕で弾きながら襲い掛かる。


「ふっ···アクアロー!!」


女帝鮫の帰還が弾かれる事を想定していた流は、小さく笑いながら投擲直後にアクアローの詠唱を完了させ右掌から無数の水の矢を放つ。更に···


『はっ!幾ら弾こうともあんたを真っ二つにするまで何度でも追い掛けるわ!!』


弾いた筈の女帝鮫の帰還が追尾能力により背後から回転しながら襲い掛かる。正面(ながれ)からはアクアロー、背後(シャクリア)から女帝鮫の帰還と、サンドウィッチ状態になる黒凰だが···


『はっ!!』


「なっ···うわあぁぁぁぁっっっっ!!!?」


『きゃあぁぁぁぁっっっっ!!!?』


何と前後に両掌を翳すとそこから闇の魔力による強力な黒い衝撃波を放ち、アクアローを打ち消しつつ流とシャクリアを勢い良く吹き飛ばした。恐らく黒凰も今の二人の戦法を想定していたのだろう。


「くっ···まだだ···まだ負け···ぐあぁぁぁぁっっっっ!!!?」


『流!!』


痛みに耐えつつ起き上がろうとする流に黒凰は、初の邂逅時にも用いた闇の魔撃・シャドウバインドを使い彼自身の影で締め付ける様に拘束し、彼に激痛による悲鳴をあげさせる。


「ぅっ···くっ···あの時も···この魔撃に苦しめられたなぁっっ···!!だが···あの時と今では違う···リンキュバスと···深波との絆の尊さを知った今とは···うおぉぉぉぉっっっっ!!!!」


『······ッッ!!?』


『それでこそ私が愛した男よ···。』


シャドウバインドの拘束に苦しみながら初の黒凰との戦いを···深波と大喧嘩した時の不甲斐ない自分を思い返す流だが、あの時の彼女との絆を蔑ろにしがちだった自分(かこ)と彼女との絆を重んじる自分(いま)の違いを示す様に叫びながら全身から強大な青い魔力を発し、自ら影の拘束を解いた。


「うおぉぉぉぉっっっっ!!!!」


『ッッ···!!?』


『ナイスよ、流!!』


「行くよ深波!!アクアチャージ!!」


そしてその魔力を込めた右の拳で何と黒凰を殴り付け、咄嗟に両腕でガードした筈の彼(?)が思わず後ずさる程後退させその隙に女帝鮫の帰還を拾い上げて魔力をアクアチャージして必殺技の準備を整える。


『······ッッ!!』


「覚悟しろ黒凰!!ストリームサークルッッ!!」


『!!!!』


アクアチャージし鮫の歯牙を象った水の魔力を覆った女帝鮫の帰還を流が勢い良く投擲したストリームサークルを彼に殴られた一撃が想定以上に効いていたのか、そのダメージに苦しみ隙だらけの黒凰目掛けて直撃、大爆発を起こした。


『さぁ!!さっさとそのダッサい仮面をひっぺ返して正体を明かしなさいよクソ先公!!』


シャクリアは黒凰の周囲を包む爆煙に向かってその正体は闇影だろうと疑いながらが化けの皮を剥がす様煽る。暫くすると爆煙が止む···。


「なっ!!?」


『えっ···何で···!!?』


その奥に居たのは闇影ではなく、左胸に金色の狼の顔が刻まれた盾の紋章が印された黒い燕尾服を着込み、鋭い目付きをしたヘーゼルカラーの瞳にオールバック状にしたパーマがかった明るい茶髪と、端整な顔立ちをした褐色肌の長身の男性と彼の真横にはダメージに応えたのか突っ伏していた状態の鳳凰を模したリンキュバスだった為流は勿論、正体を闇影だと決め付けていたシャクリアも驚愕した。


「我を此処まで追い詰めるとは···一介の魔契者やリンキュバスにしてはそれなりの実力がある様だな···。」


「えっ···今の声って···!?」


「今回は負けを認めてやる。だが、次はこうは行かんぞ···!!」


黒凰の正体である燕尾服の男は、自分を変身解除させる程追い込んだシャクリアと自分の声に聞き覚えのある流の実力を認めつつ倒れた鳳凰のリンキュバスを片腕で担ぎ込み、もう片方の手で空を切って黒い傷の様な物を発生させ、その中に入って姿を消した。


『鳥野郎はあの先公じゃなかった···!?』


「黒凰···あの男がやろうとしている事は一体何なんだ···!?」


結局「黒凰=闇影」だと言い続けていたシャクリアの意見は見込み違いであり闇影の無実が完全に証明された。流が言う様に、黒凰がこれまでリンキュバスの戦いの裏で何を目的としているのか、それは未だ解らない···。




ー???



『黒凰め···何度面倒事を起こせば気が済むのだ···!!』


天井、壁、床に至るまで全てが黒で統一された不気味な空間の中で閻龍は黒凰の行動に憤り愚痴を溢している。彼女の反応からして、彼が面倒事を起こすのは一度や二度では済まない頻度である様だ。


「面倒事とはどういう意味だ···!?」


『むっ···戻って来たと言う事は無事「任務」は終わったのか?』


そのタイミングで丁度虚空に発生した傷の様な空間から燕尾服の男が現れ、閻龍の「面倒事」と言う発言に眉を顰めて怒るも、彼女はそれをスルーしつつ彼が此処に帰還した事から「任務」は終了したのだと察した。だが、黒凰である筈の彼が誰の命を受けての「任務」なのか···?


『むっ···やっと戻って来たか···。』


そんな中、何者かの足音が聞こえ出しその主の姿を目にすると閻龍は仮面の下で若干呆れた視線を送るが、それとは対照的に燕尾服の男は何故か左足を曲げ右の膝に地を付け、真横にした左手を胸元に翳すと言う忠誠心の高い姿勢を取った。


「仰せの通り、恐れながらも貴方様の姿をお借りしてあの者達の目を欺く事に成功致しました···黒凰様。」


何と黒凰の正体だと思われていた燕尾服の男も別人であり、姿を偽って流と深波に自分を「黒凰」だと思わせていた事が判明し、その「任務」を果たした事を此方に近付いてきた人物···本物である黒凰に報告した。


『···ん、ありがとガドルフ。これで当面は俺の正体がバレずに済んだ訳だ。目的を果たすまではまだ気付かれる訳にはいかないからね。』


「はっ···!!」


本物の黒凰はこれまでの様な威厳ある口調とは180度違う気さくなそれで、黒凰だと思われていた燕尾服の男···その身を明るい茶色の光を放ち、黒い全身に金に近い茶色い刃の様な鋭い歯牙の突起を生やし、胸部には狼の頭部を象った門を模した逆三角形の盾の様な装甲を身に付けた明るい茶色の瞳、口許に突起と同じ色をした二本のはみ出した歯牙が特徴の狼を模したゾディヴィル「ガドルフ・ディフェング」に変化した彼へ労いの言葉を掛けた。


『元はと言えば黒凰、お前のお節介が招いた事なのだぞ。』


『そうだな···反省しないとね。』


閻龍から発端はそのお節介な性格が原因だと咎められた黒凰は、彼女に反省の言葉を告げながら闇絆の証を解除する···。












「だからその罰も籠めて、死にかける程の重傷を負わせて頂きました。」


闇絆の証を解除し、黒い鳳凰の羽根を舞散らせながら姿を顕にする。黒凰の正体···炎の様に逆立てた灰色の髪、赤い瞳をした鋭い目付きをし、左手の甲には禍々しい黒い鳳凰の紋章が刻まれ、背中に全て金色の禍々しい形をした鼠、牛、虎、兎、龍、蛇、馬、羊、猿、鳥、犬、猪等干支の動物の絵を円状で囲み、その中心に「DARK-COMPLETE」と印された黒いロングジャケットを素肌に巻いた包帯の下に着込み、黒いジーンズ姿が特徴の煌闇影だった···。


「お前もありがとね、フェーネ。」


『全く···あんまし面倒をかけてんじゃないわよ···!!』


その隣に居るスタイルの良い括れをした黒い全身に鳳凰の翼を模した突起を生やし、背中には橙色と紫色の電子回線の様なラインが印された一回り大きな翼を生やし、鳳凰の頭部を象った胸当てとビキニの様な羽模様の装甲、右が橙、左が紫のオッドアイの瞳が特徴の悪魔の鳳凰・フェネクスを模したゾディヴィル「フェーネ・ライフィニティ」も労う闇影だが、彼の何時もの行動に呆れる彼女から悪態を吐かれる。


『しかし···如何にシャクリア・シィヴァイトからの疑いを反らす為とは言え、同胞や無関係な人間の命を奪う結果になった···!!』


閻龍は、闇影の朝の特訓での行動による深波からの疑いを反らす為に同胞であるサイティズや巻き込まれた糖恫が死に至った結果について苦言を呈する···。




「あんたは···サイティズの同類か何かかしら?だったら話が早いわ。今すぐ私と魔契約して力を貸して頂戴。これで彼奴等に復讐···を···!?」


サイティズを捨てて逃げ出した裂希は突然目の前に現れたフェーネを見てリンキュバスだと察するや否や、自分に力を貸す様に求めると言う、身勝手に身勝手を重ねた言動を取るも、元より手を貸すつもりは無いフェーネは返事代わりに彼女の腹部を手で貫く。


「あっ···かっ···はっ···!!?」


突然の出来事に裂希は苦しみながら、自らが手に掛けてきた被害者男性達の様に何故殺されるのかを理解出来ないまま出血多量で倒れて死亡する。


『望み通り、力を貸してあげるわ···魔鳳凰の創錯物-顕幻偽在(ダブル)-···!!』


死体となった裂希を冷たく見下ろしながら、フェーネは予め闇影から渡された魔術型の闇絆の証「魔鳳凰(アルカディア)創錯物(ウイング)」で生み出したあの半透明の羽根を取り出しそれを彼女に突き刺すと、何とその姿は自分と同じフェーネの姿に変じた。


『本番になってから役立って貰うわよ···「私」。』


そして来るべき本番···流が女帝鮫の帰還による必殺技が炸裂し大爆発が起きた瞬間、フェーネは例の黒い傷の裂け目より「ダメージを受けて瀕死状態の自分」となった裂希を放り出し、同じく半透明の羽根の力で「黒凰」となったガドルフが正体を明かす事により、「煌闇影は黒凰ではない」と言う証明を二人に見せたと言うのが真相だ。




『今回ばかりは流石にやり過ぎでは···何だこれは···!?』


今回の様な目に余る非道な計画を咎める閻龍だが、闇影から無言でオレンジのラインが入った黒い電子タブレットを手渡される。


「それは俺とガドルフが今まで集めたリンキュバスとその魔契者のデータをリストアップした物さ。」


『何時の間にこんな物を···YAGYU···TAKATSUKI···KIRYU···何故彼等まで···?』


闇影の言う様にタブレットには、現存している全てのリンキュバスや魔契者のデータがリストアップされている。中には詞音や奏、流や深波も記載されており更には黒凰として出会った柳生但馬守宗矩/ヴォルケニックス・グランドバアルやその義娘の花梨、我が子同然である文乃や拓海まで記載されていた。


「あの方も彼等にも充分『資格』があるからだよ。」


『資格とはどういう···!?水始流達に「A RIGHT」···「NO RIGHT」と印されているのは···今回の···!?』


流達だけでなく宗矩達まで「資格がある」為にリストアップした闇影にその意味を問い質しながら閻龍は再度リストに目をやると、彼等には「A RIGHT」···資格ありと印されており、対して「NO RIGHT」···資格無しと印されているリンキュバスと魔契者の中には、これまで流達が倒してきたリンキュバスと魔契者の名前の欄に「×」···断罪済みの印があり、サイティズと裂希の名前も上がっていた。


「そいつ等は私利私欲の為だけに使ったり、絆を育もうとしない愚かな輩だ。そういう連中がいると他の連中の邪魔になる···。然りとて、ただ消せば良いってモンじゃない。」


『我々の当初の目的は十二体のゾディヴィル集結にある。黒凰様は御自分の眼鏡にかなった奴等を覚醒させるべく無資格な連中共を始末させられたのだ。』


サイティズと裂希を初めとした身勝手な私利私欲の為だけに力を振る舞ったり、絆を育まない「NO RIGHT」な連中を流達の様な「A RIGHT」な者達をゾディヴィルに覚醒させるべく「戦い」と言う形で「断罪」させる···それこそがリンキュバス事件解決の真相である。


「今回その過程で一人死なせてしまった事は申し訳無く思うが···多少の犠牲は止むを得ないさ。」


『······ッッ!!!!』


裂希が起こした不可視の斬魔事件、その汚名を自分自身に着せる様促した事すらも計画の一部でしかなく、その過程で殺されてしまった糖恫の死について悔いた様な表情をする闇影だが、それを「止むを得ない」の言葉だけで済ませる冷淡な態度に、閻龍は仮面の下で険しい視線で睨む。


「全てはリンキュバスやゾディヴィル、そして全ての魔族やそれと絆を育む者達が平穏に過ごせる新世界···『(デモンズ)理想郷(ユートピア)』を築く為···!!」


黒の理界のリーダー格である黒凰···否、煌闇影の最終目的···それは、この人間界をリンキュバスを初めとした魔族やそれ等と絆を重んじる者達だけが生きる新世界···「(デモンズ)理想郷(ユートピア)」に変える事である···。


「さて···次は彼等かもしれないね···。」


そして閻龍からタブレットを取った闇影は、次にゾディヴィルへの覚醒を促したい「A RIGHT」なペアの欄に手をやる。裂雷哮士と宍尾駈瑠/レオナ・グランヴォルトの欄に···。

如何がでしたか?リンキュバス事件の影で暗躍していた(?)黒凰の正体がまさかまさかの闇影だったんです。判りづらいですが伏線はそこそこお見せしました。ただ、伏線が無くとも「光導者」の元ネタ的に「まぁ、そうだろうな」と言う意見の方が多いと思います。(^_^;)


そんな黒凰の正体が闇影か否かで喧嘩しながら調査をする流と深波ですが、「喧嘩する程仲が良い」を表した物で以前のヤンデレタイムとは全く違う揉め事なので御心配無く(←だから何だ)


そんな闇影に罪を擦り付けるべくサイティズの力を利用し、ヤバくなったら躊躇い無く切り捨る裂希のクズっぷり。結局利用したつもりが利用されていたって訳です。


そして、今回久々の登場である閻龍とは別のゾディヴィルが初登場!!先ず黒凰の正体と言う影武者を演じた狼のゾディヴィル、ガドルフ・ディフェング。闇影に跪く程の忠誠な姿勢は某祝福の鬼を彷彿させる物でございます。(苦笑)


そしてもう一人···闇影が魔契約した鳳凰のゾディヴィルであるフェーネ・ライフィニティ。彼女の人間態の正体はまだ明かせませんが、闇影にとって大事以上に大事な存在(←日本語でおk)である事だけ言っときます。御承知の様にあの鎧の闇絆の証は彼女が変化した物です。


そして、劇中何度も強化や記憶改竄に用いられたあの半透明の羽根は魔術型の闇絆の証「魔鳳凰(アルカディア)創錯物(ウイング)」による物です。能力の詳細は次回説明致します。(←オイ作者)


リンキュバス達魔族や自分の様に魔族と絆を結ぶ者達だけが生きる(デモンズ)理想郷(ユートピア)なる中二病全開の目的···リンキュバス事件を利用して流達をゾディヴィル覚醒へと促すべく、自分の意にそぐわないペアを始末させると言う悪魔の如く狡猾な手口を使う闇影···。皆さんはどう感じましたか?



ガドルフ・ディフェング···ICV:森川智之

祝福の鬼候補(←勝手に決めんな)な狼のゾディヴィル。能力は不明···と思いきや名前にヒントがデカデカと載ってますけどね(苦笑)様々な主人公の父親役だったり、味方側の頼れるキャラ役だったり、嘗てコラボして下さったエンジェビルさんの「魔神再臨」の主人公である宗矩さんを演じられるイメージキャストの森川さんですが、妖怪の集合体である半妖だったり雷人間な神様みたいなクールな悪役も合うと思って採用致しました。


次回は同じく久々の哮士と駈瑠がメイン、そしてリンキュバス事件を闇影がどう利用しているのか、その裏側を説明するお話となります。

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