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LINK17 災難続きの橙瞳教師×不可視犯罪の真実=最悪OF最悪の悲劇

漸く最新話を更新致しました!!


···が、新しい(?)執筆法により異常なくらい長~い文章となってしまいました(^_^;)


今回もまた「とあるキャラクター」が復活致します。


一悶着有りながらも本日は最高最善の休日で終わりを迎える筈だった闇影。しかし、彼に待ち受けているのは最低最悪の終わりからの始まりだった···。


あの後、闇影本人の通報により殺人現場に駆け付けた間導署の警官達は、第一発見者であり状況的に疑わしい部分もある事から、彼から事情聴取する為に被疑者重要参考人として連行した。




ー間導署内・取調室



「······。」


「ふぅ···まさか貴方が第一発見者で、最も被疑者に近い立場になるなんてね···。」


そして現在、闇影を取り調べるべく彼と向き合う形でデスクに座するオールバック状に束ねた黒髪にベージュのスーツを着込んだ妙齢の女性刑事・間導署警部補の大澤隅子(おおさわ・すみこ)は、以前食い逃げ犯の逮捕に協力しその感謝状の授与の際に面識があった闇影が殺人現場の第一発見者と言う、彼に無縁そうな現状と化した事に溜め息を一つ···。


「···それでは煌闇影さん、現場で何が起きたのか、その時の状況を詳しく話して下さい。」


「···皇魔ヶ黒市で開催されたプリンフェスからの帰りの途中の事でした···。」


しかしそれはそれ、これはこれ···あくまで刑事としての職務を全うすべく私情を挟まぬ様軽く息を吐いて気を落ち着かせた隅子は、闇影から現場での状況説明を聞き出す···。




「さ、早く帰ろう。明日からまた学校だからな。」


「はい。今夜は明け方にかけて性奴隷メイドとなった私が兄さんに奉仕をすると言う予定があり···」


「んな予定(モン)あるかっっ!!///人の話聞いてた!!?」


プリンフェスからの帰宅途中に「性奴隷メイドプレイ」による「深夜の保健体育の授業」と言うぶっ飛びモノトーンな予定があると真顔でほざく諸葉に、闇影が顔を真っ赤にして激しく突っ込んで却下しながら歩いている時に、「それ」は唐突に起きた···。


「ん?今なんか強い風が···!?」


「ギィヤアアアアァァァァッッッッ!!!?」


「···って、えっ···なっ···!!!?」


「兄さんどうかし···ま···!!?」


闇影と諸葉が歩いている丁度向かい側を歩いている中年男性とすれ違った瞬間、彼等の間に謎の強い風が吹き荒んだと感じた直後に、突然その男性が「何か」で斬り裂かれた様な傷を負い、そこから大量の血を噴き出すと言う不可思議な惨状が起き、ふと闇影が右腕に目をやると何時の間にかその男の血で真っ赤に染まっていたと言うこれまた不可思議な事が起きた。


「何···で···うわああああぁぁぁぁっっっっ!!!!!?」


「きゃああああぁぁぁぁっっっっ!!!?」


あまりの唐突且つ凄惨な光景に闇影と諸葉は悲痛な叫びの声を上げるしか無かった···。




「では、貴方がすれ違った時に被害者が突然傷を負って血を流して死亡した···と言う事かしら?」


「はい···。」


闇影から事の経緯を聞き終えた隅子は、眉を顰め眼を細める等して気難しく思考する。「すれ違ったら相手が突然何かに斬られて血を流して死んだ」だなんて、端から聞けば殺人容疑から逃れる為に「下手過ぎる嘘」を吐いていると考えるのが妥当だ。しかし、闇影の様な正義感の強い人間がそんな適当な嘘を吐いてるとは思えず、それが余計に彼女の頭を悩ませている。


「···最近今回に似た事件が起きているのは知ってるかしら?」


「えぇ。確か人気の居ない場所で夜な夜な人が鎌の様な物で斬り殺された事件が十八件起きてる『不可視の斬魔事件』···ですよね。刑事さん、まさか私を疑って···!?」


「いいえ。あくまで可能性の話に過ぎないわ···。」


何故か躊躇いがちになっている隅子は今回同様、毎夜人が大きく斬り裂かれて死亡する猟奇的な殺人事件が過去十八件も多発しており、犯行現場が人気の全く無い場所で起き続けている事から「不可視(ファントム)斬魔(ジャック)事件」と名称され、今回の事件も含めると十九件目となる事を話し出す。それを受けた闇影は、暗に自分がその「不可視の斬魔」だと疑われたのだと思い込む。無論隅子も個人的にはそうは思っていないが状況的に怪しく、また刑事である以上疑いが強い部分を言及せざるを得ないのだ。


「失礼します。ガイシャの身元が解りました。糖恫甘痔、四十五歳。間導市地獄ヶ原町にある鎌由手(かまゆで)商社の会社員です。」


そんな中、取調室のドアをノックして入室した紺色のスーツの黒い短髪の二十代後半の男性刑事・間導署巡査長である緋山惇(ひやま・まこと)は、殺害された被害者の身元が糖恫甘痔(とうどう・かんじ)だと判明した事を取り調べ中の隅子に報告し、顔写真を手渡す。


「ありがとう緋山君。この被害者の···糖恫さんとは面識は?」


惇から顔写真を受け取った隅子は、質問の話題を今回発生した事件に戻すべく今しがた手渡された、被害者の···糖恫の顔写真(それ)を取り出して闇影に提示しながら、面識があるかどうかの確認をする。


「この人は確か···あ、確か去年のプリンフェスで···!!」


「···その時に何かトラブルでも起きたの?」


「え···ええ。実は···」


糖恫の顔写真を見て、彼とは去年のプリンフェスで面識があった事を思い出す闇影だが、隅子からその際に何らかのトラブルが起きたのかを言及されると、あまり言いたくないのか困り顔で語る。


実は去年も今回の様にラー油プリンの出店へと赴いたのだが、それらしき物は存在しなかった事に落胆し、口に出してぼやいている所を偶然近くにいた糖恫が「んなふざけたモンあるかよ。」と小声で小馬鹿にした様な発言をし、それを聞き激怒して掴み掛かって争いに発展し、今回同様に皇魔ヶ黒署へ連行、厳重注意を受けたと言う事があったのだと···


「ラ、ラ、ラー油···プリン···だって···?え?え?何···それ?」


「余計な事は考えないで頂戴。つまりその当時、貴方は糖恫さんとそうした些細な事でトラブルがあったのは間違いないのね?」


「ラー油プリンを侮辱されてキレた」のが原因だと言う闇影の証言に、頭の中で想像し「それはデザートなのか?○か?Xか?」と困惑しながらも必死に考えを巡らせる惇に冷静な突っ込みを入れつつ、隅子は今の闇影の話から糖恫とはトラブルがあったと言う事実を確認した。


「でも、あの後その人にはちゃんと謝ったしもう彼を恨んだりしてませんよ。」


糖恫とのトラブルがあった事を認める闇影は、当時こそ争いはしたが厳重注意の後頭が冷え、彼にきちんと謝罪をして和解し、現在は全く恨んでいないと語る。


「恨んでないのなら···『これ』はどう説明するんですか?」


しかし惇はやや険しい表情をしながらある物···現場近くで回収された、犯行に使用したと思われる血に塗れたサバイバルナイフが入ったビニール袋を闇影に提示して、今の彼の発言に対して強い疑いを持って問い掛ける。


「実は内心恨んでいて、今回も去年同様にプリンフェスタに来る事を知っていた貴方は、糖恫さんの動きを密かに確認して隙を見付け、このナイフで殺害した!!違いm···「違いますよ。」」


「······っっ!!?」


「そんなナイフに見覚えはありません。私はやってません。」


現場近くで発見された凶器、被害者とは過去にトラブル有り、そして第一発見者···これらの要素から惇は、口では恨みは無いと言いながらも内心腹に据えかねていて、糖恫がプリンフェスに赴く事を予想し彼を殺害した···と捲し立てる様に問い掛けるが、それとは対照的に取り乱す事なく冷静に否定する闇影の態度に隅子は目を鋭く細める。


「正直に答えて下さい!!あの現場付近には貴方しか居なくて、凶器もはっきり見つかってるんですよ!?」


状況的にも物的にも最も怪しく、被害者との過去のトラブルを起こしている事を理由に闇影が犯人だと確信している惇は、再び彼に叫ぶ様に問い掛けていると···


「失礼します。鑑識がお二人に至急お話したい事があるとの事です。」


「話したい事···?」


そこへドアをノックして男性刑事が入室し、隅子と惇に鑑識から何らかの話がある為至急鑑識課に来る様にと報告が入った。何か新しい手掛かりが発見されたのだと思い、二人は一旦闇影の取り調べを中断する。




ー鑑識課



「犯行が···不可能···ですって!?」


「それ、本当ですかタカさん!?」


「おう。煌闇影には糖恫を殺す事は出来ねぇよ。」


鑑識課に向かった二人は、呼び出された鑑識員から話を聞いて愕然とした表情を浮かべた。「タカさん」と呼ばれた白髪混じりのくしゃついた髪をした浅黒い肌をした強面の中年男性鑑識員・頭野能廣(とうの・たかひろ)から聞かされた事実···それは、闇影には犯行が不可能だと言う衝撃的な内容だった。


「どうしてですか!?現場には彼しか居なかったし凶器だって見つかって···!!」


「落ち着きなさい緋山君。それでタカさん、その根拠は何かしら?」


「あぁ、こいつを見てくれ。仏さんの胸にでっかい傷口があんだろ?こいつが妙なんだよ。」


「と言いますと?」


「死体の傷が胸通り越して中までザックリいっちまっててよぉ。普通···ってのは変な話だが、ここまで切りつけるんなら仰向けに倒してから両手で力一杯やんねぇと出来ねぇモンなんだ。」


現場での状況から闇影が怪しいと踏み、その彼が犯行不可能である事に困惑し、大声で詰め寄る惇を宥めた隅子は冷静にその根拠を尋ねる。それに対し能廣は、糖恫の遺体の身体特徴部位が図示された物を提示し、死因となった胸部を覆う程の横一文字の傷は内部にまで及ぶ程深く、真正面に押し倒して両手でナイフを持って力を籠めなければそこまでの傷は付けられないと語り···


「んでもってこれが現場近くの防犯カメラに写ってた死亡時刻の映像写真だ。この時の煌は右手はがら空きだが、左手で隣の嬢ちゃんと仲良さそうに手ぇ繋いでている。こんな状態であそこまでの深い傷を擦れ違い様に付けんのは無理って事よ。」


更に現場近くに設置された防犯カメラでその時間帯に撮影された映像写真を更に拡大、解析したそれを提示する。この時の闇影は左手で諸葉と手を繋いでいて片手が塞がった状態になっており、片手のみで擦れ違った糖恫の胸部に深い傷を付けられる筈は無く、犯行は不可能だと自らの見解を語る。


「···確かに片手持ちのナイフで人間の身体を内部まで裂くのは不可能ね···。」


「それなんだがな···。」


片手だけで握った刃物で擦れ違う人間の身体の内部を今回の様に深々と切り付けるのは現実的には不可能な話であり、そもそも確実に殺すなら急所を刺した方が遥かに早い···そう思考し見解に納得する隅子だが、能廣は更なる意見を話し出す。


「鑑識としての見解っつうより、単なる俺の個人的な考えだけどよ···そもそも本当にあのナイフで殺されたのか?」


「何言ってるんですかタカさん···現場に血塗れのナイフが落ちてたじゃないですか!!あれじゃなかったら何だと言うんです!?」


能廣の更なる意見···と言うより鑑識としてでは無く個人的に感じた事であり、状況から闇影がナイフ片手で切り殺す事は不可能。だが果たして、その現場に落ちていたナイフが本当に「凶器」だったのか?と言う疑問だった。殺人現場に血塗れのナイフと言う疑う余地の無い物的証拠がありながらも鑑識にあるまじき否定的な言葉に、思わず大声で怒鳴る様に反論する惇だが···


「『現場に血塗れの刃物があればそれが凶器』まぁ、確かにそう考えるのが自然だわな。けどよ···『そう』思わせんのが狙いだとしたらどうよ?」


「···え?」


「本命の凶器で殺って、別の凶器を血塗れにしてわざと現場に落とす。それを凶器と疑われても後で不可能だと判明して釈放···って流れよ。」


「殺人現場に落ちた血塗れの刃物=犯行に使われた凶器」と言う先入観を利用して、実際に使われた凶器とは別の凶器を血塗れにして故意に落とし、敢えて疑いを強めて後に不可能と解れば容疑から外れる···と、能廣は自分なりの推測を立てる。


「おぉ···いけるじゃないッスかタカさん!!これなら···!!」


「はぁ···だったらその凶器は何処にあるの?煌闇影は刃物なんて持ってなかったでしょ。」


「「あ。」」


それなりに筋が通った能廣の推理に目を輝かせて掌を返す様に賛同、感心する惇だが、隅子から闇影が刃物の類いを所持していない事を溜め息混じりにつつかれて二人共々呆気に取られる結果となる。




「···これで良いんですかね?」


「状況証拠しか無い以上、致し方が無いわ。」


能廣との話を終えた後、結局物理的に犯行不可能であり状況証拠しか無い事から闇影は釈放された。帰宅する彼を見据えながら色々腑に落ちない点に疑問を持つ隅子と惇だが、明確な証拠が無い現段階ではこうするしかないのだ。


「だけどなぁ···煌闇影に犯行不可能なら誰がどうやって糖恫を殺害したんでしょうね?」


闇影犯行不可能説に未消化感を持ちながらも、ならば何者かが如何にしてあのような物理的不可能犯罪により糖恫を殺害したのかを隅子に意見を尋ねる惇だが···


「···落ち着き過ぎよね···。」


「へ?」


「もし取り調べを受けてる時、警察が現場で発見された見覚えの無い凶器を証拠として提示されたら、緋山君ならどんな反応をする?」


「え···まぁ、そりゃ目を見開いて『そんな物は知らない!!』って言うと思いますけど···。」


先程から抱いていた何らかの違和感から何かを考え込んでいる彼女から、自分に見覚えの無い凶器を証拠物品として突き付けらればどのような反応をするのかを逆に尋ねられた惇は、困惑しながらも「俺は知らない、そんな物は見てない!」と動揺した態度を取り反論するだろうと返す。


「それが自然な反応よね。でも、さっきの彼は貴方に凶器を見せつけられても目すら動かさずに冷静なままだった。」


大抵の人間は惇の返答通りの反応を取るのだが、先程の取り調べにて血塗れの刃物(しょうこひん)を提示されても声を荒げる所か、目を見開く動作すらせず冷静な姿勢を崩さなかった闇影の態度が、隅子の中で違和感として引っ掛かっている。


「勿論だからと言ってそれが=犯人だとは考えないけど···。」


無論それだけで直接的な証拠に繋がると考える程隅子は愚かではないが、どうにも違和感が拭えない。考えに耽れば耽る程、隅子の頭は悩みに悩む一方だ···。




「······。」


糖恫殺害から数日後、闇影は平日にも関わらず自宅にて両手で顔を覆いながら深刻な表情で座り込んでいた。事件の翌日に津凪高校より何処から嗅ぎ付けたのか、警察沙汰な事件に大きく関わっていた事を知り、それを理由に二週間の謹慎を言い渡されてしまったからだ。


如何に物理的に犯行不可とは言え現場の状況や被害者との明確なトラブルがあった事から、世間的には闇影を疑うのも無理はない。だが、闇影が深刻な表情をしているのは謹慎(それ)が理由ではない···。


「私に何かやって欲しい事がありましたら何でもやりますよ。兄さ···いえ、御主人様♪」


「はぁ···。」


頭部に銀色の蠍を模したカチューシャ、首元に金色の鍵付きのチョーカーが結ばれたくすんだ橙色の首輪、可愛いらしいフリル付きの白と紫を基調としたメイド服と言ういかがわしい展開しか想像出来ない組み合わせの姿をした諸葉(おさななじみ)が、真正面で正座しながら闇影(ごしゅじんさま)からの命令を今か今かと待ち望んでいる姿勢に溜め息をまた一つ。


こんな頭のおかし過ぎる状況になったのは、当初は闇影が謹慎処分を受けた事に憤慨した諸葉だったが、裏を返せば当分外出禁止である事を逆手に取り、謹慎中に奉仕しまくり身も心も完全に自分のモノにすると言う恐ろしい野望を企てたからだ。学校?兄さんの居ない場所に行く必然性がありませんね、との事。


「疲れが溜まっている様ですね。それじゃあマッサージで溜まったモノを出さないと♪」


「ちょっ···ちょっと待て待てマテ茶鶏!!?いきなりそれかいィィッッ!!!!何を出すつもりなの!!?///」


闇影が溜め息を吐いた事で疲れが溜まっていると勝手に判断した諸葉は、マッサージが必要だと言ってズボンを下着ごと脱がそうとする。マッサージはマッサージでも疲れ以外の「溜まった」モノまで出そうな危険な「それ」な為、親父ギャグを交えながらも闇影は全力でズボンを押さえて阻止しそれにも構わず凶行に走る諸葉と戦いを繰り広げている時···


「ごめんくださ~い!!」


「(しめた···!!)はぁぁぁぁいっっ!!!!少々お待ちくださぁぁぁぁいっっ!!!!」


「チッ···!!」


神の気紛れなのか、来客がインターフォンを鳴らして挨拶をする声が聞こえたのを良い事に、闇影は態々大声で返事をする事で来客を招かざるを得ない状況を作り出し、この危機をどうにか乗り切る事に成功した。一方で諸葉は、折角のお楽しみを中断せざるを得なくなった切欠を作った来客に対し顔を歪ませた様な憎々しい表情で舌打ちをする。




「すいません。こんな時にお邪魔しちゃいまして。」


「いやいや、構わないよ。寧ろ折角来てくれたのに碌なもてなしが出来なくて悪かった。でも、まさかお前達がウチに来るとは思わなかったよ。水始、海噛。」


来客である流(と同行した深波)は、殺人事件に巻き込まれた事により謹慎を喰らっている状況下で来訪した事を申し訳無く思って詫びるが、当の闇影は生徒が態々自宅まで足を運んでくれたのにその対応が不十分である事を逆に詫びる。


「···どうぞ···!!」


「何よあんた···それが流と一緒じゃなかったら来たくもない男の家に態々足を運んでやったお客様に対する態度なわけ!!?てか何その格好?そこの変態先公の趣味?」


「···貴女には関係ありませんよ···!!」


「···ホントいっぺんシメないと分からないみたいねぇ···!!」


「落ち着けって深波···!!」


「諸葉も何やってるんだ!?海噛に謝って!!」


「···どうもすいませんでしたっっ···!!」


「ちっ···!!」


そこへ三人分のお茶を乗せた盆を運んで現れた諸葉は、来客が流と深波である事で更に顔に不快感を滲ませながらテーブルに叩き付ける様に置いた。元より此処へは来たくもなく渋々流に付いてきた事と今の態度が相俟って腹立った深波は、諸葉のメイド姿から闇影の趣味だと彼への侮辱も交えて文句をぶつけるが、謝るどころか更に喧嘩を売る彼女の発言に今度こそシメようと怒りを顕にするが、流に止められ闇影から謝罪する様に促されて明らかにまだ怒りを含んだ謝罪をした事でどうにか収まった。


「···二人が俺の所に来たのって、やっぱりあの事件についてか?」


「あっ···いや、その···!!」


「兄さんを疑ってるんですか···!!?」 


「やめっちゅうに···別に隠さなくても良いよ。生徒からの質問や悩み、相談事があるなら何時でも答えるって言ったのは俺の方だからね。」


話を戻し、自分の下へ訪れたのは糖恫殺害事件についてだと闇影に看破されてしどろもどろになる流。しかし闇影は、自分を疑う態度を取られて憤る諸葉を抑えつつ「如何なる質問や相談を受け付ける」と言う自分の信条に従い、彼の質問に答える姿勢を取る。


「では、御言葉に甘えて···事件当日に何か変わった事はありませんでしたか?」


「そうだな···警察にも言ったけど俺と糖恫さんが擦れ違った時、その間に強い風が吹き出したんだよ。その日は特に強い風が吹くような天気じゃなかったし、それに···」


「それに?」


「その風なんだけど、どちらかと言うと何かが通り過ぎた様な物だったんだよ

···!!」


「何か通り過ぎた···!?」


流からの質問に、やはり自分と糖恫が擦れ違った際に起きた強い風が怪しいと答える闇影。事件当時は特に強い風が吹くような天気では無く、それは「何かが通り過ぎた」様な物であり自然に起きた物だとは考えにくい。つまり···


「(なぁ深波···もしかして···!?)」


「(もしかしなくても何時もの『あれ』よ···!!)」


今回の事件は、闇影に何らかの恨みを持つ者、または単なる巻き沿いなのかは不明だがリンキュバスの仕業の可能性がある···そう推測した流と深波は、アイコンタクトで意志疎通を取る。


「今度はこっちが聞くけど、今の話を聞いてお前達はどうするつもりだ?まさか二人で犯人を捕まえる、なんて言うんじゃ無いだろうな?」


「はっ、取っ捕まえるなんて温い···見つけたら私達の手で殺···「ッケ!!今日の晩飯は手作りコロッケなんだよな!?」


「いきなり何よ流···!!···ああ、分かったわよ。」


逆に自分から事件の話を聞き出した二人の行動から、よもや真犯人を捕獲するつもりなのかと勘繰る闇影に対し、捕獲ではなく始末するつもりだと挑発的にぶっちゃけようとする深波だが、その直前に唐突に本日の晩御飯のメニューを話し出して誤魔化す流が「あっさり言う馬鹿があるか」と渋い顔で合図したのを見て中断した。


「···下手したら怪我なんかじゃ済まないから絶対首を突っ込むんじゃないぞ。犯人はまだ捕まってないんだから、首を突っ込む真似だけはするなよ。」


「うるっさいわね···あんたなんかに指図される謂れは無いわよ···!!流、用は済んだしさっさと帰るわよ!『お楽しみ』の最中みたいだし。」


あからさまな誤魔化しは通用しなかったのか、犯人が野放し状態であり別の誰かが被害に遭う可能性の高い危険な事件に深入りしようとする二人に対して闇影は釘を刺すも、流以外の人物に指図される事を嫌う深波が反発の声を上げて立ち上がり、彼への用事が済み諸葉との「お楽しみ」の邪魔しちゃ悪いと皮肉りながら帰宅するべく部屋を後にする。


「え···?あ、ちょ、ちょっと待てって深波!!失礼しました。」


こちらの意見を聞かず勝手に出ていく深波の行動に戸惑いながらも、流は闇影に別れの挨拶をしつつ彼女の後に続く形で部屋を後にする。


「彼奴等···ちゃんと真っ直ぐ帰るんだろうか···なっ!!?」


「ハァ···ハァ···ハァ···ハァ···ハァ···♪///」 


「ちょっ···ちょと待て諸葉さん、何で興奮しながら不気味なスマイルを作ってるんですか···ヒィィィィッッッッッ!!!!?や···止めろォォォォッッッッ!!!?///水始ォォォォッッッッ!!!!海噛ィィィィッッッッ!!!!戻って来てくれカァァァァムバァァァァッッッックッッッッ!!!!」


流と深波が自分の忠告通りに事件に首を突っ込まず真っ直ぐ帰宅する事を心配しながらふと後ろに首を回した闇影は、邪魔者が消え失せて今度こそ奉仕するべく瞳にハートマークを宿した目が笑っておらず、涎をダラダラ垂らしながら三日月の様に避けた笑みを浮かべ、顔を紅潮させながら興奮状態の諸葉と目を合わせたが為にそのまま襲い掛かられてしまい、帰宅した二人に助けを求める声を叫ぶ程危機的状態と化してしまう。




「なぁ深波、一体何処行くつもりなんだ?家はこっちじゃないぞ。」


「そりゃそうよ。だって今からあの現場に向かってるんだから。」


「え!?だってさっき先生から首を突っ込むなって···!!」


「聞いたわよ。でも『はい、分かりました。』なんて答えた覚えは無いから別に問題ないでしょ。」


「あのなぁ···。」


闇影宅を後にした深波は、流が指摘する様に芥磨荘とは違う方角···糖恫が殺害された現場へと向かっている。闇影からの忠告は聞きはした物の、それに「了解の返事をしていない」から事件に関わっても良いと言う自己都合過ぎる深波の解釈に流は呆れる。




「······。」


辿り着いた殺害現場付近には糖恫の死を悼み、供え物として様々な種類の食品や飲料や大量の献花等が添えられていた。全く面識が無いのだがこれも何かの縁として、流もその死を悼むべく目を閉じながら両手を合わせる。


「さ~てと。どっかに何か手懸かりになりそうな物は無いかしら。」


「ん~···それならとっくに警察が見つけてる筈だけどな。」


そんな彼とは対照的に当日での自分の「楽しみ」を中断させた真犯人への制裁のみが目的で糖恫の死に全く無関心な深波は、事件の手懸かりを探すべく周辺を歩き回っている。しかし、流が言う様にそんな物があるなら現場検証の際に警察が発見している筈。素人の自分達が探した所でたかが知れている···。


「ようお二人さん、何を探してんだよ?」


「あ、鏡神。」


「あんたには関係無い事よ。目障りだからさっさと帰れ···!!」


現場近くを歩いていたのか、流達が何かを探しているのを偶然見掛けた竜駕が尋ねるも、彼に関わられるのを極端に嫌う深波は隠す気無しの暴言を吐いて追い払おうとするが···


「あっそ。んじゃあ、事件当日の此処の防犯カメラの動画はいらねぇみたいだな~。壊しちゃおっかな~。」


「「え···!!!?」」


邪険にされた事を態とらしく拗ねる竜駕はなんと、事件当日に撮影された現場近くの防犯カメラの動画が記録されたDVDディスクと言う、重大な証拠を取り出す。余りの唐突且つ不可思議な事実に目を見開いて驚く流と深波を余所に、竜駕は自らディスクを破損させようと悪戯めいた態度を取る。


「···冗談だよ、ほれ。」


「何でお前が···!?」


「『何でお前がそんな物持ってるんだ?』なんて月並みな事を聞くんじゃねぇ。それがそいつをくれてやる条件だ。じゃあな。」


「あっ···おい!鏡神!!」


だがそれは冗談らしく、そのままあっさりと流に手渡す。確かに大きな手掛かりになるやもしれない物だが、公共の防犯カメラの動画等一般人が入手不可能なそれを何故持っていたのかを当然尋ねる流だが、竜駕は入手経路の詮索をしないと言う条件を一方的に突き付けながらその場を立ち去ろうとするが···


「もしかしたらよぉ···今噂になってる不可視の斬魔の仕業なのかもな。」


「え···!!?」


「ま、精々頑張って捕まえてみな。名探偵カップルさんよ。」


一端立ち止まって振り向かないまま不可視の斬魔の犯行である事を示唆し、自分が提供した情報で真犯人を捕獲出来る事を「名探偵カップル」と二人を皮肉りながら片手をひらひら振って今度こそその場から立ち去る。


「彼奴···何で···!?」


「良いじゃん。折角手掛かりが手に入ったんだし。早くこいつを見てましょ。」


「いや···でもなぁ···って痛たたたた!!!?きゅ···急に腕を引っ張るなって!!わ、分かった!!分かったから腕を引っ張らないでくれ!!」


竜駕から突然手渡された事件の手掛かりについて気になる流とは対称的に、目的の物を入手出来たと言う事実の方が大事な考えの深波は、動画の内容を知るべく無理矢理彼の腕を引っ張って進み出す。




「···で、何で俺ん家なんだ···!?」


「むぅ~···!!」


「ごめんな二人共···。」


証拠のDVDを視聴するべく深波(と流)が向かった先は弾麻家だった。もうすぐ夕飯時になる頃に何の連絡も無く勝手に上がり込んで自分のDVDプレイヤーを無断で使う彼女に詞音は御立腹であり、奏も大好きな彼氏(しおん)とのイチャラブ空間からのガッタイムムード直前にズカズカ踏み込まれた事に対し頬を膨らませて不機嫌丸出しモードとなり、流は無礼極まりない深波の振る舞いについて代わりに謝罪する。


「男がグチグチ言ってんじゃ無いわよ。用済んでからヤりまくったら良いでしょ。」


···だと言うのに、謝罪どころか詞音や奏に申し訳無く思う気持ちを微塵も持ち合わせていない自己中女(みなみ)は更なる悪態を吐きながら竜駕から渡された犯行現場の監視カメラの映像を再生した。


「ん~···特に変わった様子は無いわね···あ、斬られた。」


「ゲッ···飯前にエグいモン見せないでくれよ···!!」


「あぁ?勝手に覗いたあんたが悪いんでしょ。てか何私の真横に近寄ってんのよアホなの死ぬの?」


薄暗く映る犯行現場の映像···時刻はPM21:27、諸葉と手を繋ぎなから歩く闇影が擦れ違った瞬間···糖恫が大量の血を噴き出してその生涯を閉ざされる場面を見て冷淡な一言を漏らす深波は、なんやかんやで気になって真横で視聴していた夕飯前にリアルな「人の死の瞬間」を見てしまい文句を垂れる詞音に対し、感謝や謝罪どころか自分に寄り添って勝手に視聴した事に罵詈雑言をぶつける。


「···ん?深波、今の所巻き戻してスローにしてくれ。」


「え?う、うん。」


喧しい馬鹿共(みなみやしおん)とは違い、冷静に動画を視聴する中で何らかの異変を発見した流は、深波に先程の場面···即ち、闇影が糖恫と擦れ違う瞬間まで巻き戻してスロー再生する様促す。


「そこで止めてくれ。」


「うん。え···!?」


「何だこの黒い影は···!?」


そして、擦れ違いの瞬間を停止させると意外な物が映っていた為、一同は目を見開いて驚く。擦れ違う闇影と糖恫の間に謎の黒い影らしき物が通り過ぎているのだ。


「詳しくは解らないけど、煌先生が言ってた強い風の正体は、この黒い影が普通の人間には目にも留まらないスピードで通り過ぎた時に起きた物だと思う。」


「人間には見えないスピードって···それじゃあやっぱり···!?」


「ああ、君の思った通りだよ深波···これはリンキュバスの仕業だ。」


動画に映る謎の黒い影、そして闇影から擦れ違いの際に発生した強い風の話を合わせると、謎の黒い影は人間が視認しきれぬ程の速度で走り去って糖恫を殺害し、強い風もその際に発生した物だと推測する流は、これらの事から真犯人···不可視の斬魔の正体はリンキュバスかその力を悪用した魔契者だと結論付けた。


「だが···これじゃあ姿がはっきり解らないし、不可視の斬魔は夜にしか現れないらしい。どうやって探せば···!!」


しかし、黒い影である以外正体が不明な上に不可視の斬魔は夜中にしか出没しない為、探索するのは困難だと悩む流だが···


「なら毎晩探し回ったら良いんじゃない?」


「そうだな、夜中にパトロールすれば···って、ゑ!?」


不可視の斬魔が夜中にしか現れないのなら夜中にパトロールすれば良い···と、さらっととんでもない事を口にする深波の提案に思わず賛同するが直ぐに居直り目を見開いて「お前は何を言ってるんだ?」と言わんばかりに驚く。


「そうと解れば善は急げ。今日から『真夜中に外でイチャラブしなければ生きていられないカップル』に昇華して不可視の斬魔とやらを取っ捕まえてブッ殺すわよ流♪」


「いや何その長ったらしいカップル名&内容は!!?それに今から···って、痛い痛い痛い!!?だから腕!!腕引っ張んなって!!?」


「真夜中にイチャラブしなければ生きていられないカップル」なる意味不明な関係へと昇華して不可視の斬魔抹殺を目標とした毎晩のパトロールと言う突飛な妙案に頭が置いてきぼり状態の流は、今夜から施行せんとする妙案者(みなみ)によりまたしても腕を無理矢理引っ張られて、否が応にもこの案に従わざるを得ない状態に陥った。


「夜中に二人で···ねぇ詞音、奏達も···」


「やらねぇからな。」


そんな二人を見て感化された奏が彼女達と同じ事をやろうと求める意見を即答で却下する詞音の言葉を受け、泣き喚きながら彼を数時間犯しまくるのはそれから十秒にも満たない後の事だった。


そんなこんなで事件当日から二週間の夜となった···。




「······。」


AM0:42···目深くに被ったフード付きの黒いローブを羽織った怪しい何者かが人気を避ける様に周囲に目を配らせながら道を歩いており···


「よし···!!」


時間帯的に人の出入りが少ないのを見計らうと何らかの目的があるのか、ローブの人物···闇影は颯爽と闇夜の道へと走り出す···。




「ん~···ここ数日毎晩回って見たけど全然怪しい奴は見かけなかったわねぇ···。」


「おい···!!」


「ん?どうしたの流?」


その同時刻、毎晩犯行現場の周辺をパトロールし続けていた物の、不可視の斬魔どころか怪しげな人物すら見かけない現状にぼやく深波。しかし、何故か不機嫌な表情で怒りを堪えている流は···


「どうしたじゃねぇだろ···何で毎晩毎晩こんな物陰に隠れて人気が無くなってから引っ付いてんだよっっ!!?パトロール何処行ったぁぁっっ!!?」


パトロールする筈なのにも関わらず全く周囲を見回らずに、電柱付近に隠れて張り込み···とかでは無く、人が通らなくなるや否やべったり(無論やっぱり性的に)密着し続けるだけの物だった為、遂に怒りを爆発させる。


「あ~それなんだけどさ、よくよく考えたらあの先公が怪しまれてる現状からして、下手に動かないで暫くは姿を見せないだろうから見回ってもあんま意味が無い事に気付いたのよ···ンッ!?フガァァァァッッッッ!!!?」


「気付いてたんならさっさと言えェェェェッッッッ!!!!」


良く良く考えたら、確たる証拠が無いとは言え現在の状況から闇影が最も疑わしい立場に居る為、態々新たな殺人を犯すリスクを負わず身を隠した方が無難であり不可視の斬魔が再度現れる理由は無い。それに気付きながら流と屋外で密着したいが為にひた隠したばかりか悪びれも無くニコニコ笑みを浮かべながらパトロールから張り込み(笑)に無断で変更した理由を明かした深波は、怒り狂う彼により鼻の穴に二本の指を勢い良く突っ込んだ所謂「鼻フック」状態で持ち上げられると言う、女として屈辱的な制裁を受ける羽目になる。


「フガガガァァッッ!!?ご···ごういうプレイがずぎなの!!?あんまずぎじゃないげど流がいいなら···フガガァァァァッッッッ!!!?」


「ま・だ・言・う・かッッ!!」


鼻フックされその激痛に苦しみながらも、顔が醜くなる都合上深波自身はこうした嗜好はあまり好ましくないのだが、彼が望むならそれも愛情として歪んだ形で受け止めると、この後に及んで彼の性癖を大いに誤解する口の減らない馬鹿女にイラッとした流は、持ち上げる力を更に強める。最初の時点で怪しまなかった流も流だが。


「そちらのお若いお二人さん。こんな真夜中に騒ぐとお休み中の人間達の御迷惑になりますよ?」


そんな何時ものアホみたいなやり取りをしている中、鍔が反り返ったモスグリーンカラーのシルクハットを目深く被り、口許まで隠れた同じくモスグリーンカラーのロングコートを羽織った長身の男性と、目深くフードを被った黒いローブを羽織った者が怪しげな雰囲気を纏わせながら現われ、真夜中に騒いでいる二人の行動について注意をした。


「あぁ?何私達の事ガン見してんのよ?マジキモいんだけ···!!流···?」


「今あんた『人間』って口にしたな···!?まさかあんた···!?」


鼻フックから開放された深波は、痛む鼻を押さえながら自分達の行動を咎めた事に腹を立てロングコートの男性に突っ掛かろうとするが、彼の「人間」と口にした言葉を聞き怪しんだ流は、険しい表情で彼女を片手で制しながらその「正体」を伺った。


「ヒュッヒュッヒュッ···!!」


自身の正体に察した流の反応を見た男は、嘲笑うかの様に不気味且つ独特の笑い声を上げながら着込んでいるロングコートを突き破るかの様にその正体···黒い全身に緑色の「M」を禍々しくした模様が刻まれ、か細い両腕にギザギザした鋭い鎌の様な刃、腰から下が極端に細い鎌の刃を連想させる反り返った両脚とは裏腹に、両肩にギザギザした刃の突起が生えた肥大化した三日月を連想させかの様な胸部、同じく三日月を連想させた嗤った様に裂けた口、緑色の瞳をした爬虫類の様に鋭い肥大化した両眼をギョロギョロ蠢かせている等、蟷螂をモチーフとしたリンキュバス「サイティズ・キルフォレス」としての姿を露にした。


「やっぱり···!!なら貴様が不可視の斬魔の正体か!?」


『ヒュッヒュッヒュッ···百聞は一見にしかず···!!』


「闇絆の証···死神模倣の蟷螂···!!」


不可視の斬魔の正体について強く言及する流に対し、サイティズはそれに答えるかの様に魔契者であるフードの人物に顎で動かして自身を闇絆の証に変化させる様指示を出すと、全身が緑色の光に包まれると同時にその姿は、片側に緑色の蟷螂の紋章が刻まれているギザギザした三日月の様な刃の中心に蟷螂の頭部を模した装飾、その根元に両側に蟷螂の両脚を模した装飾が施された長い柄が特徴の黒い武具型···大鎌(サイズ)の闇絆の証「死神(マンティス)模倣()蟷螂(ファントム)」に変化した。


『知りたがっていた答えを知る事が出来て満足致しましたか?ならば次いでに···このまま死の世界へ送って差し上げましょう!!』


闇絆の証に変化し自分達が不可視の斬魔である事を雄弁に物語ったサイティズは、慇懃無礼な口調で二人が聞きたがっていたであろう解答(しんじつ)を知れた事を確認し口封じや用済みとして始末する意を示すと、自身を構えた魔契者もそれに同意する形で斬り掛かる。


「はっ!逆にあんた達を地獄へ送ってやるわよ···!!流!!」


「ああ!!闇絆の証!!女帝鮫の帰還!!」


当然むざむざ殺されるつもりは無い深波は逆に挑発の言葉を投げ掛けながら身体を青く光らせて女帝鮫の帰還へと変化し、流はそれを装備するや否や自分達に襲い掛かるサイティズの魔契者目掛けて投擲する。


「ふっ···!!」


『ぅぐっ···生意気にも私を弾き飛ばしやがって···何~てね♪いくら弾こうとも逃げようとも追い続けるわ···あんたを斬り殺すまで何度でもね!!』


自分に向けて投擲される女帝鮫の帰還をサイティズの魔契者は死神模倣の蟷螂で宙に弾き飛ばした。弾き飛ばされた事に一度は腹立つシャクリアだが、直ぐ様嘲笑いながら一度定めた標的を斬り裂くまで幾度も追尾する女帝鮫の帰還の特性により、再度回転しながら襲撃するが···


「ふふっ···♪」


「···ッッ!!」


『シャアアァァァァッッッッ!!!!』


「何···消え···うわああぁぁっっ!!?」


サイティズの魔契者は逆に嘲笑うかの様に隠れた口元を綻ばせると一瞬だけ姿を消失させたと思いきや直ぐ様眼前に現れ、それに驚く流を余所にサイティズの狂喜の叫び声と共に彼の腹部を死神模倣の蟷螂で勢い良く斬り付けた。


『なっ···流ッッ!!?』


斬り付けられ血を流しながら倒れる流の身を案ずるべく女帝鮫の帰還から元のリンキュバス態に戻り、悲痛な声を上げながら彼の元へ駆け付けてその身を支えるシャクリア。


『流、大丈夫!!?しっかりし···!!?』


「だ···大丈夫だ···!!何とか致命傷は防いだ···痛つつつ···!!」


『バブルリア···そっか、それで···!!』


必死に呼び掛けながら身を揺らすシャクリアの声に弱々しくも返事をする流。サイティズの魔契者の姿が一瞬だけ消えた際に念の為に警戒して、咄嗟に水の防御魔撃・バブルリアによる水泡で創られたバリアを腹部に発動したお陰で出血はあったものの軽い斬り傷で済んだのだと、ダメージの痛みに顔を歪ませながらも立ち上がる。


『危機を咄嗟に判断してダメージを軽減しましたか···これまで斬ってきた連中の中では貴方が初めてですよ。褒めて差し上げましょう。』


「んな事はどうでも良い···何時までも顔を隠してねぇで、いい加減正体を現わせわがれ!!」


『良いでしょう、我々の一撃に耐えた褒美です。素顔をお見せなさい。』


サイティズからの皮肉めいた賞賛等聞く耳を持たない流は、未だに素性を現さない魔契者に対しその素顔を明かす様怒鳴り出す。それを受け、自分達の最初の一撃を初めて耐え抜いた流への「褒美」とまたも勘に障る物言いで素顔を明かす様促し、それに答える様に魔契者はフードを脱ぐ。


『女···!?』


「あんたは確か···そうだ、あの時···!?」


フードを脱いだサイティズの魔契者の正体···髪は解かれ鋭い目付き等雰囲気は異なるが、「あの時」···プリンフェスにて闇影が喧嘩騒動を起こした際、その相手である陽色の傍にいた仮蟷裂希であった。これまで不可視の斬魔と言うフレーズからを男性だと思い込んでいたらしいシャクリアと流は、その意外な正体に呆気に取られた様に驚く。


「今までの馬鹿達はさっきの一撃であっさりくたばったのに無駄に耐えやがって···ホンっとムカつく!!」


「何だと···!?」


先程の様に最初の一撃で糖恫を含めた十九人もの命を奪って来たのだが、それに耐え抜かれた事に腹立つばかりか被害者を愚弄する発言を吐き捨てる等これ迄とは異なる···否、裂希本来の悪辣な態度に流は眉を顰めて怒りの表情で睨み付ける。


「···一度だけ会話してやる···何で煌先生に罪を着せる様な真似をした···!?」


「···あたしのプライドを汚い足で踏みにじったからよ···。」


沸き立つ怒りを堪えつつ何故闇影に自分の殺人の罪を擦り付けなのかを「一度きりの会話」として尋ねる流の質問に、裂希は悪びれた様子を全く見せず闇影が自分のプライドを傷付けたからだと動機を語り出す···。




「さ~て、今回はどの男を『食べよう』かな~?」


今から数ヶ月前、繁華街にて派手な服装姿の裂希は如何なる男性を「食らおう」かと、何やら怪しげな言葉を口にしながら練り歩いている。


「ん、居た居た。如何にも真面目そうで女慣れしていなさそうな金と性欲をたんまり溜め込んでる童貞クンが♪」


但し裂希の場合は「性的に」ではなく「金」を食らう為であり、真面目な雰囲気を持ち、尚且つ女慣れをしていない様な童貞(おとこ)程金や性欲を貯蓄していると、独善且つ異性を侮辱する様な最低な見解を持つ彼女はその相手···スマホで何者かと通話中の煌闇影を今回の標的(エサ)と定めた。


「ね、そこの貴方♪時間があったらあたしとイイ事しな~い?」


裂希は闇影に接近するや否や、猫なで声で彼にすり寄り「ヤりたい、ブチ込みたい」と言う男なら誰しも抱いているスケベな本能を揺さぶりその気にさせ、自分に(あまいエサ)を与える為の奴隷にしようと目論む。その男が普通のそれはとは違う事に気付かず。


「何ィッッ!!?『スイーツ☆ヒーローズ』の劇場版で今なら入場者全員に『ラプたん』の限定ストラップがゲット出来るだとぉぉっっ!!?」


「···って、は?」


「ああ、ああ···解った、ありがとう。こうしちゃおれん!!あの親父より先に今からフルスロットルで映画館へひとっ走りじゃああああぁぁぁぁっっっっ!!!!」


「きゃっ!?」


通話の相手である親父、真輝人から「和洋折衷の甘味が擬人化した戦士達が頂点を巡るバトル」がコンセプトの人気アニメ「スイーツ☆ヒーローズ」なる劇場版にて、入場者全員に配布されるラー油プリンをモチーフにしたマスコットキャラ「ラプたん」の限定ストラップを真輝人より先に入手したい闇影は、裂希からの誘惑に全く気付かないまま砂煙を巻き起こしつつ彼女を突き飛ばし、映画館へ向かって爆走独走激走暴走する。


「ケホッ···ケホッ···彼奴ッッ···!!」


砂煙が顔を覆い噎せる裂希は、客観的に見て悪意が全くないにも関わらず、誘惑に靡かないばかりか自分を突き飛ばした上に砂を浴びせると言う振る舞いに屈辱を感じ、姿が見えなくなった後も闇影の走った方角へ睨み続ける···。




「ただの一度も男に馬鹿にされた事のないあたしに恥をかかせたあのクソ野郎を絶対に許せなかった···!!今まで勝手に貢いで来た癖に別れ話を持ち掛けた途端『金返せ』とか抜かす馬鹿共とは違って生き地獄に叩き込んでやろうと思ってやったのよ!!」


『チッ···とんだクズ女ね···!!』


若干訳の分からない背景や過失的な部分はあれど、話を聞く限りでは闇影には何の落ち度も無いにも関わらず、金蔓相手として見定めた標的(おとこ)から相手にされなかった事を「プライドを傷付けられた」と逆恨み、これまで切り捨てて来た用済みの男達の様に人知れずリンキュバスの力で殺害するのでは無く、無関係な人間を殺しその罪を彼に被せて社会的に抹殺してやる為だと息巻く裂希の身勝手な言い分に、シャクリアは舌打ちながらクズと唾棄する。


『ヒュッヒュッヒュッ···クズですか。しかし私はそうした醜くドス黒い感情を持つ彼女を非常に気に入ってるんですよ?何故なら···彼女と居れば命を斬り裂く快楽に困る事はありませんからねぇ!!ヒュッヒュッヒュッ···ヒュッハッハッハッハッ!!!!』


シャクリアが唾棄した悪しき感情を持つ裂希を気に入っていると彼女を擁護するサイティズだが、元より他者の命を斬り殺す事に愉悦を感じる異常な性癖を持っており、裂希にとっての「邪魔者」が尽きない限り自分の(かいらく)を満たし続けられる為だと死神模倣の蟷螂の蟷螂の複眼を点滅させ、狂気を孕んだ様に高笑う。


「てめぇ等···いい加減にしやがれぇぇぇぇっっっっ!!!!」


他者から見れば下らないプライドとやらの為だけに無関係な人間を平然と巻き込み、闇影に謂れの無い罪を着せようとする裂希の陰湿な悪意と己の快楽の為だけに殺戮を繰り返すサイティズの狂気に対して、これまで懸命に堪えてきた怒りを爆発させた流はシャクリアを再度女帝鮫の帰還に変化させ、勢い良く投擲しようとするが···


「おっと!そんなワンパターンな攻撃、何度も通用する訳無いでしょっ!!」


「くっ···またこれか···!!」


流の攻撃をワンパターンだと嘲笑いながら裂希が再び一瞬だけその姿を消失したと思いきや、眼前にまで迫り死神模倣の蟷螂を振るおうとする姿が現れた為即座に女帝鮫の帰還を盾代わりにして防御した。


『ヒュッヒュッヒュッ···姿が見えなくなればその武器を投げ付ける事は出来ないでしょう···!!』


「その隙を付いて超スピードで接近すればあんた達は手も足も出ないって訳!!」


『チッ···ムカつくけど彼奴等の言う通り、これじゃ何時まで経ってもこっちから反撃出来ないわ···!!』


「くそっ···せめてあの超スピードの謎さえ分かれば···!!」


標的が視認出来なくなれば一定の距離からの攻撃が主体の女帝鮫の帰還での攻撃は困難である上に投擲しようものなら隙を付かれて瞬時に接近して先に攻撃を仕掛けられてしまう為、迂闊に攻め込む事が出来ずにシャクリアは舌打ちし、流は裂希の瞬間移動じみた超スピードの謎について打開策が無いかを模索し始めると···


「(ん···?奴の足下の地面···一直線に何かを引き摺った跡が残っている···!?)」


先程裂希が居た場所から今立っている地点までに何やら白く濁った色をした何かを引き摺ったかの様な一直線の跡が残っている事に気付く。


「(それに···あんなに速く移動出来るなら後ろに回った方がより攻撃が仕掛易い筈···もしかしたら···!!)深波!もう一回···行ってくれ!!」


『えっ···ちょっと流···れぇぇぇぇっっっっ!!!?』


更には瞬時に接近可能ならば背後に回れば死角を狙い易いのにも関わらず真正面にしか接近しない事に疑問を抱き何やらある仮定が頭に浮かんだ流は、後ろへバック宙をして距離を取ると、何と再び女帝鮫の帰還を裂希に向かって投擲し出した。


「あっははは!!馬鹿じゃないの!!また同じポカミスを繰り返すなんてねぇっ!!」


先程自分達の弱点を分析したにも関わらずまたしても女帝鮫の帰還を投擲してみすみす隙を作る流の行動(ミス)を嘲笑う裂希は、当然とばかりにその隙を付くべく女帝鮫の帰還を弾き飛ばし、一瞬姿が消失する程の超スピードで接近して死神模倣の蟷螂で今度こそ仕留めようとするが···


「ふっ···ドリルスプラッシュ!!」


「なっ···!?」


「今だ、深波!!」


『えぇっっ!!今度こそ喰らいやがれっっ!!』


『ギィアアァァァァッッッッ!!!?』


刃が触れる直前、何と流は何時の間にか詠唱を完了させたドリルスプラッシュを地面に目掛けて放つ事で水流の勢いにより空中へ飛び上がって回避しながらシャクリアに指示を出すと、裂希達目掛けて追尾し死神模倣の蟷螂への直撃に成功した。因みに空中へ跳び上がった流はリンキュバス態となったシャクリアが王子様だっこして抱き留めた。


「相手の目に留まらない程の超スピードで加速するお前の闇絆の証の能力は確かに厄介だが、一直線(まっすぐ)にしか移動出来ない···だから上に跳び上がられてしまえば、折角のスピードも逆に隙だらけになるんだ!」


文字通り一瞬で鎌を振り上げて捕食する蟷螂の如く「目では捉えきれない程の超スピードで加速する」のが死神模倣の蟷螂の能力だが、一直線にしか加速出来ない為真横や今の様に上空へ跳び上がられて回避され易いのが最大の欠点である。それに気付いた流は敢えて隙を作る様な攻撃を仕掛けたのだが、逆に裂希の隙を突く為の罠だったのだ。


「このガキ···細切れにしてやるっっ!!」


一杯食わされた事に激怒した裂希は能力では分が悪いと判断したのか、今度は死神模倣の蟷螂を幾度も振り上げて魔力を込めた緑色の風の刃を流目掛けて放つが···


「遠距離に切り替えたか···行くよ深波!!そぅぅらぁぁぁぁっっっっ!!!!」


「そ、そんな···きゃああぁぁっっ!!?」


しかし、やはり怒りにより考えが回らなかったのか敵の土俵に踏み(えんきょりにもち)込んでしまった事に気付かず、流の魔力を注がれて全体に水流の刃が覆われ、投擲された女帝鮫の帰還により風の刃を全て打ち消されてしまい、咄嗟に死神模倣の蟷螂で防ぐ裂希だがその勢いに負けて吹き飛び、地面に倒れてしまう。


『何あいつ。折角それなりに強い闇絆の証持ってる癖に随分歯応えが無いわね。』


「他人を平気で貶め、下らないプライドを守る事しか考えてないお前じゃ、強い絆を持つ俺達には勝てない···!!大人しく降参して罪を認めて自首しろ!!」


シャクリアの言う様に死神模倣の蟷螂の力は決して弱くはないのだが、自分本位な性格でありサイティズとの絆を結ぶ為の研鑽を怠り邪魔者を消す為の便利な凶器(どうぐ)としか思ってない裂希と、変態的ながらもシャクリアと絆を深く結んだ流とでは(きずな)の差は歴然···。流はそれを突き付けつつ自首する様促す。


「ガキが大人にナマぬかしてんじゃないわよ···!!ちょっと弱点見つけてあたしを転ばせたくらいで···良い気になってんじゃないわよ!!」


同じくリンキュバスの力を持ちながらも戦闘で押し負けた挙げ句、自分より年下の子供に降伏を促された事に更なるプライドを傷つけられて憤慨する裂希は、再び立ち上がり死神模倣の蟷螂を構えて流達と戦おうとするが···


「止めるんだっっ!!」


「···っっ!!あんたは···!!?」


「煌先生!!?」


後ろからローブを羽織った人物···闇影が死神模倣の蟷螂を持つ裂希の手を掴み、もう片方の腕で羽交い締めして更なる愚行を犯す彼女を必死で止めようとしている。


「何で先生が此処に!?」


「お前達の動きが気になったのもあるけど···俺も犯人を暴こうと思ったんだよ!!」


思わぬ乱入に困惑しながらも何故この場に現れたのかを尋ねる流からの質問に闇影は、彼等が事件についての話を尋ねてきた時から恐らく此方の忠告等無視するのではと予想して、日付が変更し謹慎期間が過ぎたのを見計らって犯行現場付近へ向かったのもあるが、やはり自分に罪を着せた真犯人が気になるのも最大の理由だ。


「このっ···キモいから離れなさいよっ!!」


「貴女がこんな馬鹿な真似をしないと誓うなら離すさ···!!」


「馬鹿な真似!?はっ!元はと言えばあんたがあたしを虚仮にしなければこんな事にはならなかったのよ!!大人しく今までの(かねづる)共みたくなってたら良かったんだよっ!!」


「この女···!!」


自分にしがみつきこれ以上の愚行を止めるよう促す闇影に対し、そもそも自分を振る様なそれこそ「愚行」を犯した彼が悪い、何も知らず金蔓になっていればいいと逆切れして反論する等この期に及んで全く反省の色を見せない態度に、流は憤慨する。


「何だか解らないけど、俺が憎いなら俺が殺せばいい!!だがな···何の関係も無い人間を巻き込んだり、勇騎君を悲しませる真似だけはするな!!」


裂希からの身勝手な言い分を聞き終えた闇影は自分が何故恨まれているのか理由は解らない物の、恨みがあるなら直接自分に手を下せばと語りつつその為に無関係な人間を巻き込む、恋人である陽色を裏切る等、自分以外の者を傷付けた事を咎める。


『あの馬鹿先公···早く離れなさいよ!!』


如何にリンキュバスと渡り合える身体能力があるとは言え、闇絆の証と言う武器(きょうき)を持つ裂希に何時までも拘束した上で挑発する様な発言をする闇影の行動が危険だと感じたシャクリアは、いい加減離れる様注意を促すが···


「いい加減···ウザいの···よっ!!」


「うわっ!!?」


尚も離れようとしない闇影に業を煮やした裂希は、力を籠めて風の魔力を身体から発生させて強引に引き剥がし···


「あんたが悪いのよ···あんたがあたしを虚仮にしなかったら···!!」


引き剥がした後も自分に非は無いと見苦しく自己弁護を繰り返しながら死神模倣の蟷螂の柄を力強く握り締めて正に死神の如くじりじりと闇影に迫り···




「死ねェェェェェェェェッッッッ!!!!!!!!」


「ぐああああぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!?」


縦一文字にその凶刃を勢い良く振り下ろし彼の身を斬り裂いた···。


『なっ···!!?』


「先生ぇぇぇぇっっっっ!!!?」


「ガッ···カッ···カハッッ···!!?」


斬り裂かれた傷口から大量の血を噴き出しダラダラと流れ、口から吐血する等してその身を赤く染め上げて激痛に苛まれる闇影。無実の罪を着せられかけた挙げ句、その真犯人の手にかけられてしまう···。こんな理不尽な事が合って良いのか?目の当たりにした残酷な事実に流はそんな思いを抱いて、ただ悲痛な叫びを上げる。


「は···はは···ざまぁ無いわね···!!」


『これで丁度二十人目···おめでとうございます···ヒュヒュヒュ···ヒューハッハッハッハッ!!!!』


「てめぇ等ァァァァッッッッ!!!!」


若干予定が狂いながらも自分を「虚仮にした」馬鹿な(みかげ)の死に体を目の当たりにして乾いた様に笑って罵倒する裂希と、ジャスト二十人目の犠牲となった事に祝福(ひにく)の言葉を投げ掛けて狂った様に高笑いするサイティズの態度に怒りの咆哮を上げる流。


「はは···は···!?」


「カッ···ぐっ···!!」


しかし、俯きながら弱々しく此方へ近付く闇影に裂希は笑うのを止め、血に染まった両手で自分の両肩に手を置いた彼と目を合わせると···


「う···うああああァァァァッッッッ!!!!!!!?」


「『!!!?』」


先程までの態度とは打って変わり、絶望に満ちた表情で激しく怯え出し、半狂乱となり闇影を勢い良く突き飛ばした。標的である闇影を瀕死に追い込んだにも関わらず突然余裕無く動揺する裂希の不可解ぶりに疑問を抱く流とシャクリアだが、そんな考察をさせなくなる程の次なる事態が起きる···。


『まさか···!!裂希さん!!奴の息の根を止めなさい!!』


「『なっ···!!?』」


「アアアアァァァァッッッッ!!!!シネ!!シネシネシネシネッッッッ!!!!死にやがれェェェェッッッッ!!!!」


「グッ···グガァァァァッッッッ!!!?」


同じく半狂乱をせずとも「何か」を察して初めて動揺するサイティズは何と、今の状態でも死ぬ可能性が高いにも関わらず、闇影を完全に殺す様裂希に命じ始める。それを聞くぐらいの精神があるのか元々そうするつもりなのか、裂希はそれに従う様に死神模倣の蟷螂で死に体の彼の身体を幾度も斬り付けると言う更なる暴挙を起こした。


「ァッ···グッ···!!?」


最早掠れた声すら碌に出せず目から輝きを失う程の重傷を負っても尚、裂希に手を延ばそうとする闇影だが遂に力尽き、崩れ去るかの様にその血に染まる身体を地に伏せて倒れる。


「せ···先生···?」


衝撃的な場面を目にし思考停止状態の流はどうにかして倒れた闇影に向かって声を掛けるが、それに応える声は返って来ない。何時もの様に明るく力強い言葉も、何もなく···


「嘘だ···先生···煌先生ェェェェッッッッ!!!!」


理不尽···怒り···悲しみ···そうした負の感情が入り混ざった流の悲痛な叫びがただこの血塗られた戦場で木霊するのみだった···。






























普段なら一~二話完結が基本でしたが、今回は初の中編を挟むと言う形で解決編は次回に持ち越しになりました。今後もこうした形でダラダラとまた更に長くなる時がありますので御許しください(^_^;)


闇影初登場の際に名前だけ出てた間導署での場面が今回初めて表面化されました。警察内部(取り調べ)のシーンとかも初めての描写になり色々拙い部分がありますので、「これ違うくね?」と思った所がありましたら容赦無く御指摘を御願いします(^_^;)


その間導署のメンバーである隅子・惇・能廣は名前から分かる様に初駄作「光導者」より「もう一人の目覚める魂の世界」の住人です。向こうでは殆ど面識がなかったけど、今回はガッツリ絡みまくりました。容疑者と警察官としてですが(ToT)


今回やたらと深波が流以外に対してかーなーり悪態を吐きまくってますが、最近大人しい(←何処が!?)感じだった事に気付き、本来の彼女の人物像をより強く出そうと思った結果、ああなりました(^_^;)(←オイオイ)


明らかになった真犯人···それは陽色の恋人である仮蟷裂希。本来の性格は金に汚く男は皆、金蔓としか思ってなく、更には闇絆の証で今まで切り捨てた男を人気の現れない場所で斬り殺す「不可視(ファントム)斬魔(ジャック)」事件の犯人でもあると言う、これまでの悪の魔契者とは比べ物にならないクズです。


更にそんな彼女と魔契約したリンキュバス、サイティズ・キルフォレス。命を斬り裂く事に快感を覚える最低最悪の悪魔です。因みにサイティズのモチーフは嘗て泣く泣く断念した「さるお方」とのコラボのキャラクターであり、今回それを採用致しました。


大鎌(サイズ)の闇絆の証「死神(マンティス)模倣()蟷螂(ファントム)」の「一直線限定ながらも超スピードで加速する」能力は組み合わせ次第ではかなりの強さを誇ると思いますが、絆を結ばないこいつ等にとっては宝の持ち腐れなんですよね(^_^;)



大澤隅子(おおさわ・すみこ)···ICV:小山茉美

前述通り間導署で警部補の女刑事です。外見的には平行世界の「古代の超戦士」や「目覚める魂」の世界の「あねさん」です。厳しくも優しい女性として某ロボットアニメの女艦長でもある小山さんを起用しました。


緋山惇(ひやま・まこと)···ICV:関智一

同じく間導署巡査長の刑事です。向こうでは装着タイプの戦士であり、死んでも戦い続けるパワードスーツの戦士でもあります。正義感は強いけど些か熱くなり易い男として、昨今意思を持った紫のキャミソール(違)等冷酷そうなキャラを演じてますが、熱血な男性キャラも演じられる関さんが合っていると思いました。


頭野能廣(とおの・たかひろ)···ICV:長嶝高士

同じく間導署の鑑識員で、通称「タカさん」。階級は書き忘れてましたが巡査部長です。(←おい)今作登場のオリキャラですが、本来なら彼も「もう一人の目覚める魂の世界」の住人なのですが、当時はあまり意識してなかったので未登場でした(^_^;)故に今作を機に、隅子や惇達の良き仲間として登場させました。


無実である事は判明したのも束の間、裂希により重傷を負わされてしまった闇影の運命は···!?

そして、裂希とサイティズは何を恐れ出したのか···!?次回、その真相が明らかとなります!!

そして、更に···!!


次回もお楽しみに、ではではm(_ _)m







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