ひまわり
ある方から「『ひまわり』って言葉が出てきて、千字くらいで、エログロ無しでなんか書いて!」と頼まれたので、一日クオリティーで書いてみたものです。
ひまわりが放射能物質を吸収する、という話から物語を膨らましてみました。
詩的な文章を書いたことが無かったので挑戦してみましたが、結果はびみょいです。
ヒマワリの花言葉って知ってる?
僕がそう聞いても、彼女は何も答えてくれなかった。
ちなみに僕は、花言葉なんて、一つも知らない。
彼女が返事をしないことは、想定の範囲内だった。
何故ならここ一ヶ月、彼女は一言の言葉も発していない。
それどころか、表情一つ変えず、人形のようになってしまった。
心因的なもの、だな。
医者は簡単に、そう言った。
最近多いんだよ、ほら、ここ最近は、色々と、ね・・・
彼が言いたいことは、よくわかった。
僕たちは今、町はずれの丘の上に来ている。
別にここが、彼女の思い出の場所、といったわけではない。
ここに来れば彼女が喋るようになるかもしれない、とそんなことを思ったわけでもない。
ただなんとなく、僕はこの場所が好きだった。
誰かが植えた数十個のヒマワリが、無秩序に、気ままに咲いている。
僕達のほかに、人の姿は見えない。
空は、作り物じみた青空で、雲一つない。
彼女が、ゆっくりと右手を上げ、空を指さした。
それにつられて、顔を上げる。
空に、対角線が引かれていた。
お弁当にくっついてくる、あの醤油が入っている容器、あれの正式な名前、知ってる?
そう聞いてみたけど、やっぱり彼女は答えてくれない。
僕は一つため息を付き、その醤油を入れる容器に似た光沢のある固まりが、空をゆっくりと切り取っていく様子を見つめた。
対角線は、僕たちの町の方へゆっくりと、近づいてくる。
僕たちがいる丘とは反対側の町のはずれで、巨大な入道雲が上がった。
僕は、また一つため息を付く。
意外と、早かったな・・・
ほとんど声に出さずにそうつぶやいた。
僕の心は、不思議なくらい動かない。
ここ一ヶ月、どんな言葉をかけても反応しない彼女に付き合ってきた。
その間に、僕の心もゆっくりと、固まってしまったのかもしれない。
そんなことを考えていたら、驚いたことに、彼女は泣いていた。
まるで整備不良の機械から油が垂れるように、無機質に泣いていた。
彼女の身体は、まるで小動物の脈拍のように細かく震えている。
大丈夫? と僕が問うと、彼女は震えながらうなずき、強く僕に抱き付いてきた。
どうやら、大丈夫ではないらしい。
僕が黙っていると、彼女がそっと僕の耳元でささやいた。
「大丈夫、一緒にひまわりになれるから」
僕は、ゆっくりと目を閉じた。