隠密……?
「と、トゥヤ、あの、皆には透明な壁、見えないから。バチって、ならないから」
あわてたように常葉が透夜の腕を引っ張ってくれる後ろで
「変な人になってる」
藤が突っこんでくれた。
柳が肩を揺らして笑ってる。
「く──!」
スパダリのはずなのに失敗した!
こほんと咳払いした透夜は、魔道具のきらめく魔紋に包まれながら、透明な壁を抜けてみた。
みょ~~~~~~~~~~ん!
変な膜を、通り抜けた感覚があったよ!
「おぉお! 通った! 皆もやってみろ!」
「う、うん」
恥ずかしそうに常葉が魔道具のぽっちを押した。
きらめく魔紋に包まれた常葉が、透明な壁を抜けてゆく。
「おお! べちって、ならないよ!」
「じゃあ俺たちは余裕だね」
藤の言葉にこくこくうなずいた柳は魔道具を起動し、するりと透明な壁を抜けた。
藤も一緒に抜けてくる。
「おお!」
「すごい!」
「出られたね!」
皆で手を取りあって飛び跳ねた。
周りの人たちが、不思議なものを見る目になってる。
…………ものすごく目立ってた。
よい子の『隠密団』じゃなかったみたいだよ。
さくっと国境まで走って到着しました!
ノンストップで走れば余裕だな。
鍛練には、ちょっと足りなかったかも?
まあ、戦闘技術を磨くような厳しい鍛練に比べたら、なにもかもが穏やかだ。
茜に染まる険しい山並みを見あげた透夜は、思わずカラスを探してしまう。
この世界にもいるのかな、カラス。
巣に帰ってゆくのだろう鳥たちに手を振った。
「おー、夕暮れじゃん。半日で走れるなんて上出来、上出来」
拍手する透夜の後ろで、柳と藤と常葉が倒れてる。
「え、柳まで!」
うつろな目で親指を立ててくれた。
藤と常葉が泣いてる。
「……な、なんか、ごめん?」
話せないほど、ぜはぜはらしい。
足とか腕とか、ガクガクらしい。
「……やりすぎ? ……ごめん」
昔の癖で、不休で走っちゃった!
「てへ♡」
『かわいくないから!』
つっこんでくれるはずの藤が、倒れてる。
国境にそびえる険しい山の麓には、さすがにこんなに切り立った山を越えて進軍しないだろうという楽観的観測から要塞や城壁はなく、時折山を踏破してくる猛者や、山の恵みを目当てに山に入る人たちのための小さな村が広がっていた。
ふつう、こんなところに強国の王太子はやって来ない。
ひなびた温泉街、もうちょっとで廃村になりそうな感じを想像してほしい!
そこに、ちゃんちゃら大統領とか首相とか……来る、か……も……現代なら!
『ひなびてるー』『映えー』とか逆に喜ばれるかも!
しかしここは異世界だから!
来ないから!
なので、エゥゲ王国の暗殺部隊も、さすがにこんな場所はノーマークだろうと、わざわざ、見あげると首が痛いほどの山を越えていらっしゃったらしい。
猛者だ。
BLゲームマスターとしてゲームの知識を思い出そうとする前に、静かな村に甲高い声が、こだまする。
「な、なんだ、このくそひなびた、今にも潰れそうな村は! お、俺はエゥゲ王国王太子なんだぞ! 歓迎の式典はないのか! 豪華な食事は! 可愛い男の子たちの舞い踊りは!?」
ちっちゃい男の子が、拳をふりあげて叫んでた。
さらさらの長いぶどう色の髪が、夕日の光にきらきら揺れる。
おっきなぶどうの瞳は、憤激につりあがっていた。
ちっちゃいわりに、愛らしい顔面のわりに、おねだりがゲスい。




