浮気じゃないよ!
今は、ひとりひとりに名前があって、言葉を交わして、性格が少しずつ生まれて、笑ったり、すねたり、むかっとしたり、あたりまえだろうこと、ひとつひとつに、感動する。
「よかったなあ、皆」
喧嘩したり、笑いあったりしてる皆を見ているだけで、涙がこぼれる。
だからこそ、皆を信頼する気もちが、固く固く結ばれてゆくのかもしれない。
「ト、トゥヤ!?」
『おはよう』言いかけた唇をびっくりに変えて、ユィルが駆け寄ってくれる。
「ど、どうしたんだ、トゥヤ、どこか痛い?」
「た、たいへん! とーや、回復──!」
もぞもぞ起きたロロァが、ぽてぽて走って緑の光をかかげてくれる。
「と、トゥヤ!? だ、だいじょぶなの!?」
目を擦っていたキァナも飛んできてくれた。
涙の膜でにじむ皆に、透夜は微笑む。
「皆がいて、家があって、笑ってくれる。
至上のしあわせを、かみしめてた」
あまい、あまい蜜のように、笑う。
目を見開いた皆の顔が、真っ赤になった。
「と、とーや、うわき、だめ──!」
ぎゅう
抱きついてくれるロロァは天使だが、なぜこれが浮気!?
「キァナ、よく眠れたか?」
くしゃりとキァナの水の長い髪をなでる透夜に、キァナはくすぐったそうに首をすくめてうなずいた。
「うん、平気」
あちこち隙間風の入る、廃屋みたいな農家の小屋を見つめたキァナが、ちいさく笑う。
「こーゆーのも、楽しいね」
「お、キァナは強い子だな。えらいぞ!」
わしゃわしゃ頭をなでたら、真っ赤になったキァナが、ふいと顔をそらす。
「……こ、子ども扱い」
ふくれるキァナが、きゅ、と透夜の衣のすそをにぎる。
「皆、まだ子どもだからいーの!」
笑う透夜にキァナが真っ赤になって
「うわあん! とーや、またぅわきしてる──!」
ぽふりとロロァに腰に抱きつかれた。
「わがきみ、今のはふつーの会話です」
反論してみた。
「ち、ちがうもん──! うわきなんだもん!」
真っ赤な頬で、うるうるの上目遣いで、ぎゅうっと抱きつくロロァが、天使だ。
孤児院の頃に比べたら、めちゃくちゃめちゃくちゃ豪華なあったかい朝ご飯を終えたら、報告だ。
透夜はかなしく口を開く。
「……隣国エゥゲ王国の王太子の護衛をしないとだめらしい」
「エゥゲ王家か」
ユィルが眉をしかめる。
「何か問題が?」
心配そうに聞くキァナに、ユィルはうなずいた。
「エゥゲ王家は伝統的に、最も優秀な者が王太子として指名される。だがそれは暫定なんだ。より優秀であることを示せば、王太子に成り代われる。──手っ取り早いのは、暗殺だ」
キァナもロロァも息を呑む。
「エゥゲ王家では、いかに強力な暗殺部隊を持ち、強固な護衛を持つかが、王となる第一歩となる。殺しあいで王を決める、血なまぐさい国だ。だからこそ強い。バギォ帝国がいかめしいのは国名だけだからな。にらまれたらひとたまりもない。エゥゲが来ると言えば、諾と言うしかないんだよ」
ぼうぜんとキァナはユィルを見つめた。
「……勉強していたつもりでしたが……そのようなこと、初めて聞きました……」
「帝家には、他国の王家の裏事情も流れてくるからな。大したことではない」
微笑むユィルが大人だ!




