ご指名です
「…………は? 正義の味方じゃねえの?」
あんぐり口を開けるバハに、透夜は笑う。
「正義ってのは、人の数だけあるんだぞ。そんなもん振りかざす方が、あんぽんたんだ」
「ひゃー」
さみしくなってきた頭を掻いたバハが笑う。
「武運を祈ってる」
「ありがとう」
笑った透夜は、羊皮紙の束と映像魔道具とロロァを抱え直して、皆の待つ家に帰ろうとして止まる。
「そうだ、任務失敗したんだ! 金! 借金! どうしよう、バハ!」
あわあわする透夜に、バハが笑う。
「隣国エゥゲ王国の宰相に茶会のことを報告したら、暗殺者を一撃で屠れるほど優秀な冒険者なら、是非護衛をお願いしたいと。報酬は破格だ」
……いやな予感がする。
透夜はそうっと聞いてみた。
「……誰の?」
「隣国の王太子、セオ・ジオ・エゥゲ殿下だ」
──はい、いやな予感、大的中です、ありがとうございます。
隠しキャラ、出てくるの早過ぎなんですけど──!
「断固拒否」
拳をかかげてみた。
「……それがまた、断れない筋からの依頼で──」
いやな予感が加速する。
「……どこ?」
「エゥゲ王家と、バギォ帝家」
圧力が重すぎる──!
「護衛って、帝都で? 俺ら帝都から出れないよ?」
眉をしかめる透夜に、バハがにやりと眉をあげた。
「バギォ帝家にその話をしたらさ、見ろ! 帝都を護る結界を一時的に無効化して出られる魔道具だ!」
「おお!」
魔道具をかっぱらって、皆で逃げればいいんじゃ──!?
透夜の考えていることがわかったように、バハが首をふる。
「それが一人分しか結界に穴を開けられないんだな。で渡された魔道具は4つだけ」
「うへえ。4人でエゥゲ王太子を護衛しろって? めちゃくちゃだろ」
あんぐりする透夜に、バハもうなずいた。
「俺もあんまりだと思ったから聞いてみたら、本国から護衛部隊はちゃんとつくらしい。でも他国だし、土地勘もないだろ、そういうのを補佐してもらう意味でも腕の立つ護衛が欲しいんだってさ。出せる金が4人分しかないと」
「うへえ、王家のくせにケチくせえ」
「色々あるんだってよ」
肩をすくめたバハは、不思議な意匠が施された魔道具を三つ、透夜のほうへと押しだした。
くすんだ魔道具の周りには魔紋がきらめき、ほんのり魔力を感じる。
透夜が見たことのない、読めない絵のような文字が刻まれていた。
「……もしかして、ものすごく古い?」
バハが目を細める。
「何も聞くなって話だけど、まあ古いだろうなあ。千年前の遺跡から発掘された魔道具並みだろ」
「ぎええ」
仰け反る透夜の肩を、バハの武骨な手がつかんだ。
「バギォ帝家も、帝太子の暗殺を止めてくれた透夜ならと、魔道具を貸しだした。これはものすんごく異例のことだ。頼むから、かっぱらって逃げないでくれ」
泣きそうなバハにうなずく。
「皆で出られないなら盗まない」
皆で出られるなら盗むという意だが、バハは、ほっとしたように吐息した。
「任務につく3人は、そちらの人選に任せる」
「3人?」
「ひとりはトゥヤで確定だ。ご指名だ、頼んだぞ」
「うえぇええ」
帝都から出られるというのに、こんなじゃ、ちっとも、うれしくない。




