ぺしゃん
「……え?」
きょとんとする透夜に、ザァグが破顔する。
「隣のお兄さんが、大変、感謝していた! いや、最初は号泣していたが、商家の男が捕まったのでな、感謝を、きみに」
号泣するよね!
透夜は心から、そんなことをキァナに強いてしまった己を恥じた。
……でも、恥ずかしそうに、なんならちょっとうれしそうに教えてくれたけど……いやいやいや、それを見知らぬおじちゃんに告げられるとか、絶対だめだ、だめだ、だめだ──!
「帝都警護団、団長のザァグだ。よろしく」
差しだしてくれたのは、鍛錬に明け暮れたゴツゴツの大きな手だった。
「よろしくお願いします、ザァグさん」
ロロァを左手で抱っこして、右手を差しだす。
にぎった手は、でかくて、分厚くて、あったかくて、ごわごわだ。
鍛錬に鍛錬に鍛錬を重ね続けた手だ。
「こーゆー手になりたいです」
まだちっちゃい自分の手を見つめてつぶやいたら、ザァグが笑う。
「そうか! まだ強くなるか!」
わしゃわしゃ頭をなでてくれる。
ちっちゃいロロァやユィルや孤児仲間たちがなでてくれるのじゃなく、でっかい大人に、子どもにするみたいに頭をなでられたのは、今世で初めてだ。
「……あ」
頬が、熱くなる。
「あ、す、すまない、いやだったか?」
驚いたように赤くなったザァグの手が離れてく。
「いえ、あの……うれしくて」
ちいさく笑ったら、腕のなかのロロァがもぞもぞする。
「……むにゅ……とーや……うわきゅ……らめ……」
人聞きがわるい!
「いやー、なんか目の前で、いちゃいちゃされると、どーしていーか、わからんな!」
めちゃくちゃ楽しそうだぞ、バハ!
「ああ、うん、そういう訳で、例の任務は失敗した」
さくっと報告した。
「そ、そうか──!」
絶望するバハに、透夜は眉をつりあげる。
「……まさか、バハの依頼じゃないよな?」
地を這う透夜の声に、バハがぴょこんと跳びあがる。
「め、めめめめめ滅相もない!!!」
冷や汗ダラダラしてるとか、あやしいしかない。
「ちちちちち違うんだ、報告結果を聞けるとか役得だなーって、にやにや、にやにやしてただけだ!」
拳をにぎって叫ぶバハのチョビひげが、ぷるぷるしてる。
「よからぬことはするなよ」
ザァグの目が剣呑に細められて、バハはこくこく、こくこくうなずいた。
「しかしきみが強いのはわかったが、眠る幼子を夜中に連れ回すのはどうなのかな」
心配そうに腕のなかのロロァをのぞきこむザァグに、透夜はうなだれる。
「……浮気が心配だそうで」
真実を告げてしまった、ふたたび……!
あんぐり口を開けたザァグが、なぜか真っ赤になった。
「な、なるほど、それでさっき──す、すまない、べ、別に俺に、やましい気もちは──!」
初対面だよ、もちろんだよ。
「微塵もないと、しっかり理解しています、ザァグさん」
笑顔でうなずいた。
「…………そ、そうか」
ザァグのいかつい肩が、さみしげに落ちる。
なぜそこで、しょんぼりする?
大型犬の耳としっぽが、ぺしゃんと、しおれたのが見えた気がした!
「うぷぷぷぷ!」
バハだけが、めちゃくちゃ楽しそうだ。




